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第9章

第189話

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「おいっ! その従魔を……」

“バキッ!!”

 町から町へと向かう途中、街道を歩くケイの前に、またも冒険者たちが立ち塞がる。
 回数を重ね、もう話を聞く気までおきない。 
 話している途中だが、態度と従魔という言葉を聞いた瞬間に、ケイは一気に叩きのめした。
 今回は5人だったが、いつもは数がまちまちだ。

「んっ?」

 殴り倒した冒険者たちの近くに、紙が一枚落ちる。

「……こいつらもか?」

 その紙に近付き拾い上げると、そこに描かれているものを見てケイは顔をしかめる。
 襲って来る冒険者たちの中には、この紙と同じものを持っている者が何人かいた。

【……ぼくたちのかおだ!】「ワンッ!」

 その紙を見たケイの従魔のキュウとクウは、何だか複雑な表情をしている。
 描かれているのは、ケイとキュウ、そして小さくクウが描かれている。
 捕獲対象としてキュウ、始末対象にケイとクウとも書かれている。
 手配書のようだ。
 キュウは自分が標的になっているということで申し訳なく思っており、クウの方は適当な感じで描かれているため、何だか残念な気がしているというのが本音だろう。

「何でだ?」

 以前大量の冒険者に囲まれた時、誰も生きて返さないよう全員仕留めたはずだ。
 なのに、完全にケイたちは顔バレしている。
 どうしてこのような手配書が回っているのだろうか。
 訳も分からず、ケイは少し悩み込む。

「もしかしたら、結構な相手を敵に回したみたいだな……」

 この手配書は、冒険者組合であるグレミオから出されたものではない。
 グレミオ発行なら、ケイたちには何かしらの話があって然るべきなのだが、そういったことは今のところ来ていない。
 そうなると考えられるのは、前に仕留めた3人組が言っていた依頼者が関わっているのだろう。
 キュウのことを気に入ったとか言っていたが、ここまで来ると執念深い。
 ケセランパサランは、魔物の餌と呼ばれるほど弱い魔物。
 それを見つけることも捕まえることも、確かに難しい。
 見た目はフワフワした毛玉でしかないこの魔物を捕まえようなんて、金と労力の無駄でしかないため、ペットにするには割に合わない。
 なんでここまでして手に入れようとしているのか、ケイにとっては不思議でしかない。
 ケイはキュウがたまたまこの世に生まれた瞬間に従魔にしたから何とも思っていないようだが、普通はそんなこと起こることはあり得ない。
 とんでもなく弱く、あまりにも実態を見ることができないからこそ、今の人族大陸では希少な魔物という評価に変わっていたのだ。
 はっきり言って、今ではエルフ並に珍しい魔物になっている。
 それにしても、ここまで冒険者たちを動かせるということは、相当な力の持ち主なのかもしれない。

「このままじゃ町に入る事も難しくなるかもしれないな」

 リシケサ王国の一部を奪い、パテル王国の統治下になった町であるキャタルピル。
 この町を出てからというもの、ずっとこの調子で狙われ続けている。
 さすがにこうも続くと、町中でのんびりすることも出来なくなってくる。
 ケイたちだけならともかく、赤の他人を巻き添えにされたらと考えると気が引ける。
 なので、次の町へと向かう途中で野営をしている時に、あることを思いついた。

「……顔を変えないとだめかな?」

「ワウッ?」

【しゅじん、かおかえるの?】

 手配書の顔を見て冒険者たちが狙って来るのなら、手配書とは違う顔になればいい。
 そうすれば、この手配書もただの紙。
 ケイたちも安心して行動できるようになる。
 そう思ってケイが小さく呟くと、クウとキュウは強めに反応した。
 従魔の2匹からしても、エルフであるケイの顔は整っていると思っている。
 その顔がどのように変わるのかという好奇心と共に、もしも変な顔になってしまったらと思うと、不安にもなって来る。

「変えると言っても、この耳と同じような物だぞ」

「ワフ~……」【よかった! あんしんした!】

 ケイは、魔物の素材を使って錬金術で作り上げた耳パッドを指さし答える。
 その言葉に2匹は安堵する。
 顔を変えると聞いて、2匹は恐らく骨格から変えるのかという恐ろしいことを考えていたようだ。
 いくらケイでも、そんなことをするつもりはない。
 つまりは、着けるだけのマスクを作ると言った感じだ。

「たしか猿の魔物の皮が……、あった!」

 マスクの制作をすることにしたケイは、魔法の指輪から魔物の素材を探し始める。
 猿の魔物とは、つい先日集団で襲ってきた魔物だ。
 ある村の農作物が荒らされ、それをケイたちが始末した。
 やはり猿だけあってなかなか知能が高く、集団で連携を取って攻撃してきたのだが、ケイたちにかかれば相手にならない。
 あっという間に集団ごと潰した。
 その時、何かの役に立つかと思い、解体して手に入れた皮を入れていたはず。
 そして、ケイはそれを取り出し、マスクの制作に入った。

「髭や髪型を変えるのはバレるかもしれないからな……」

 この猿の毛を使って、着け髭を作るという安易な考えが思いつくが、それは流石に却下だ。
 手配書の依頼者がその点を考えないとも思えない。
 そんなちょっとした変化よりも、やはり別人に見えた方が安心できるだろう。

「イメージはル〇ンだな」

 マスクを作る時のイメージは、有名な某アニメだ。
 しかし、何枚も作る訳にもいかないので、取り外しができて、多少動いても取れないものが理想だ。

「これでどうだ?」

 色々考え、ケイは錬金術でマスクを作り出す。
 何とかイメージ通りのものが出来、それを早速装着してみることにした。

「どうだ? 違う人間に見えるか?」

【しゅじん、すごい!】「ワンッ!」

 思いついたのは、耳パッドに付けることで一体化するようなマスクだ。
 耳パッドが結構しっかりとしているので、動いただけではなかなか外れない。
 そうしてできたのは、やや丸顔の普通の人間といった感じで、手配書の顔とは同じには見えない。
 キュウとクウも、顔の変わったケイにビックリしている。
 取り外しもできているので、いつでも綺麗な顔のケイにも戻れる。
 そのことが嬉しいようだ。

【……キュウとクウのは?】

「……あっ!?」

 ケイは別人に見えるようになったが、一番の狙いはキュウだ。
 このままのキュウを連れている時点で、手配書の主人の顔が変わるだけだ。
 そのことを失念していたケイは、キュウとクウの変装手段も考え始めたのだった。
 
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