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第9章
第187話
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「何だかつけられているな……」
日向へ向けて移動を続けるケイと従魔2匹。
町を出て今日も東へ向けて歩いていたのだが、ケイはずっと後ろからついてくる集団に気が付いた。
向かっている方向が同じなのかと思って、わざと遠回りする道を通ってみたりしたのだが、それでもその気配たちはずっとついてきている。
明らかにケイたちに狙いを付けている。
【やっつけちゃう?】「ワフッ?」
ケイの呟きに、従魔のキュウとクウが反応する。
旅の資金稼ぎに、多くの魔物と戦う機会が増えているせいか、2匹とも強くなり、戦力としてはかなりのものになってきている。
だいたいの魔物はケイが相手しているのだが、数が多い場合は手伝ったりしてもらっていたのが要因だろう。
「キュウだけで大丈夫だろ……」
2匹ともやる気になっているが、付いてきている人間の強さを考えると、どちらかだけで十分だ。
柴犬そっくりの魔物であるクウだと、牙や爪の攻撃で殺傷能力が高い。
ケセランパサランという魔物でソフトボールほどの大きさのキュウは、魔法特化の戦闘なのでダメージ調整できるだろう。
「殺すなよ。何が目的だか聞かないといけないから……」
【うん!】
別に始末してしまっても構わないが、一応つけてきている理由を聞いておきたい。
もしも、ケイがエルフだと知ってのことだとしたら、今ケイが付けている耳パッドの意味がなくなる。
それに、バレているのにパッドを付けていると思うと、かなり恥ずかしい。
キュウに一言注意をして、つけてきている人間の退治を任せることにした。
“フッ!!”
「がっ!?」「ぐおっ!?」「うっ!?」
クウの頭の上に乗っていたキュウが、一瞬にして姿を消す。
そして、次の瞬間には、水の球が尾行者たちへ襲い掛かった。
突如飛んできた水の球に、直撃した男たちは短い声をあげて倒れて行った。
「……反応通り3人か」
ケイの探知に引っかかった反応通りの数だ。
戻ってきたキュウを労うように、頭を撫でてあげる。
3人とも武器などを腰に携帯していることや、防具を装着している所を見ると、どうやら冒険者のようだ。
一応ケイも冒険者登録はしているので、同業者と言えば同業者だ。
「うぅ……」
キュウの魔法を受け、気を失わずに済んだのは3人の内1人だけだった。
持っている武器とかを見るに、魔導士系の奴だろう。
そのため、キュウの魔法への抵抗が強かったのかもしれない。
話を聞くにはちょうどいい。
「おいっ! お前ら何が目的でつけてきたんだ?」
「………………」
その魔導士の男に尾行してきた理由を尋ねるが、その質問に対しそっぽを向いて無視してきた。
最初から素直に答えるとは思っていなかったが、その態度には腹が立つ。
「このまま魔物の餌にしても良いんだぞ?」
「グルル……」
イラっと来たケイは、クウをけしかけてその魔導士に脅しをかける。
クウも偉いもので、ケイの意図を察して顔をしかめ、今にも襲い掛かりそうな演技をする。
「ま、待ってくれ!」
クウのその演技に引っかかったのか、男は助けを求めてきた。
その言葉を聞いて、クウは呻るのを止める。
そして、ケイの手から下ろされたキュウを頭に乗せておとなしくなる。
ケイの質問の答えの邪魔をしないためである。
「じゃあ、さっさと喋れ!」
キュウとクウのお陰で喋ることになり、ケイは地面に座ったままの男の前に立って質問の答えを促す。
これ以上無駄に時間をかけられたら殺ってしまいそうなので、脅しの意味も込めて銃を男の頭に向けておく。
「お、俺たちがあんたを付けていたのは……そいつだ」
「んっ? キュウ?」
【……?】
そう言って男が指さしたのは、クウの頭の上に乗っているキュウだった。
それだけでは理由が分からず、ケイと、指をさされた張本人であるキュウは首を傾げる。
「その毛玉の魔物が気に入ったっていう金持ちがいてな。密かに依頼を受けたんだが、結果はこの様だ……」
この男が言うには、何でもその金持ちというのは商人で、彼らにちょくちょく金額の良い仕事を依頼してくれている人らしい。
いつもの恩があるからか、彼らはその商人の依頼を断ることができなかったそうだ。
彼らは街中でも尾行しており、キュウが一匹になる所を待っていたらしい。
しかし、なかなかそんな機会がなく、町を出ていったケイたちをそのまま追って、今に至るそうだ。
「なんだ……。てっきり俺は……」
尾行されている理由がキュウだと知り、ケイは安堵のため息を吐いた。
自分がエルフだとバレているのかと思って、心配したのが馬鹿みたいだ。
安心したからか、思わずそのことを口に出しそうになった所で止める。
「んっ?」
「……いや、何でもない」
他に何か尾行される理由があるようなケイの発言に、男は僅かに反応する。
思わず余計なことを言ってしまいそうになったケイは、すぐに訂正するような言葉を呟いた。
「今回は勘弁してやるから、これ以上ついてくるなよ。次は命はないからな!」
「あぁ、分かったよ」
理由が分かればもう彼らに用はない。
気を失っている他の2人のことは放置し、ケイたちはまた東へ向けて歩き始めたのだった。
【キュウにんきもの!】
「ハハ……、そうだな」
男たちが遠く離れた所で、キュウが嬉しそうに言ってきた。
たしかにフワフワしてそうで、ペットにしたいと思う者はいるかもしれない。
その気持ちも分からなくはないので、キュウの言ったこともあながち間違いではない。
そのため、ケイは思わず笑ってしまったのだった。
日向へ向けて移動を続けるケイと従魔2匹。
町を出て今日も東へ向けて歩いていたのだが、ケイはずっと後ろからついてくる集団に気が付いた。
向かっている方向が同じなのかと思って、わざと遠回りする道を通ってみたりしたのだが、それでもその気配たちはずっとついてきている。
明らかにケイたちに狙いを付けている。
【やっつけちゃう?】「ワフッ?」
ケイの呟きに、従魔のキュウとクウが反応する。
旅の資金稼ぎに、多くの魔物と戦う機会が増えているせいか、2匹とも強くなり、戦力としてはかなりのものになってきている。
だいたいの魔物はケイが相手しているのだが、数が多い場合は手伝ったりしてもらっていたのが要因だろう。
「キュウだけで大丈夫だろ……」
2匹ともやる気になっているが、付いてきている人間の強さを考えると、どちらかだけで十分だ。
柴犬そっくりの魔物であるクウだと、牙や爪の攻撃で殺傷能力が高い。
ケセランパサランという魔物でソフトボールほどの大きさのキュウは、魔法特化の戦闘なのでダメージ調整できるだろう。
「殺すなよ。何が目的だか聞かないといけないから……」
【うん!】
別に始末してしまっても構わないが、一応つけてきている理由を聞いておきたい。
もしも、ケイがエルフだと知ってのことだとしたら、今ケイが付けている耳パッドの意味がなくなる。
それに、バレているのにパッドを付けていると思うと、かなり恥ずかしい。
キュウに一言注意をして、つけてきている人間の退治を任せることにした。
“フッ!!”
「がっ!?」「ぐおっ!?」「うっ!?」
クウの頭の上に乗っていたキュウが、一瞬にして姿を消す。
そして、次の瞬間には、水の球が尾行者たちへ襲い掛かった。
突如飛んできた水の球に、直撃した男たちは短い声をあげて倒れて行った。
「……反応通り3人か」
ケイの探知に引っかかった反応通りの数だ。
戻ってきたキュウを労うように、頭を撫でてあげる。
3人とも武器などを腰に携帯していることや、防具を装着している所を見ると、どうやら冒険者のようだ。
一応ケイも冒険者登録はしているので、同業者と言えば同業者だ。
「うぅ……」
キュウの魔法を受け、気を失わずに済んだのは3人の内1人だけだった。
持っている武器とかを見るに、魔導士系の奴だろう。
そのため、キュウの魔法への抵抗が強かったのかもしれない。
話を聞くにはちょうどいい。
「おいっ! お前ら何が目的でつけてきたんだ?」
「………………」
その魔導士の男に尾行してきた理由を尋ねるが、その質問に対しそっぽを向いて無視してきた。
最初から素直に答えるとは思っていなかったが、その態度には腹が立つ。
「このまま魔物の餌にしても良いんだぞ?」
「グルル……」
イラっと来たケイは、クウをけしかけてその魔導士に脅しをかける。
クウも偉いもので、ケイの意図を察して顔をしかめ、今にも襲い掛かりそうな演技をする。
「ま、待ってくれ!」
クウのその演技に引っかかったのか、男は助けを求めてきた。
その言葉を聞いて、クウは呻るのを止める。
そして、ケイの手から下ろされたキュウを頭に乗せておとなしくなる。
ケイの質問の答えの邪魔をしないためである。
「じゃあ、さっさと喋れ!」
キュウとクウのお陰で喋ることになり、ケイは地面に座ったままの男の前に立って質問の答えを促す。
これ以上無駄に時間をかけられたら殺ってしまいそうなので、脅しの意味も込めて銃を男の頭に向けておく。
「お、俺たちがあんたを付けていたのは……そいつだ」
「んっ? キュウ?」
【……?】
そう言って男が指さしたのは、クウの頭の上に乗っているキュウだった。
それだけでは理由が分からず、ケイと、指をさされた張本人であるキュウは首を傾げる。
「その毛玉の魔物が気に入ったっていう金持ちがいてな。密かに依頼を受けたんだが、結果はこの様だ……」
この男が言うには、何でもその金持ちというのは商人で、彼らにちょくちょく金額の良い仕事を依頼してくれている人らしい。
いつもの恩があるからか、彼らはその商人の依頼を断ることができなかったそうだ。
彼らは街中でも尾行しており、キュウが一匹になる所を待っていたらしい。
しかし、なかなかそんな機会がなく、町を出ていったケイたちをそのまま追って、今に至るそうだ。
「なんだ……。てっきり俺は……」
尾行されている理由がキュウだと知り、ケイは安堵のため息を吐いた。
自分がエルフだとバレているのかと思って、心配したのが馬鹿みたいだ。
安心したからか、思わずそのことを口に出しそうになった所で止める。
「んっ?」
「……いや、何でもない」
他に何か尾行される理由があるようなケイの発言に、男は僅かに反応する。
思わず余計なことを言ってしまいそうになったケイは、すぐに訂正するような言葉を呟いた。
「今回は勘弁してやるから、これ以上ついてくるなよ。次は命はないからな!」
「あぁ、分かったよ」
理由が分かればもう彼らに用はない。
気を失っている他の2人のことは放置し、ケイたちはまた東へ向けて歩き始めたのだった。
【キュウにんきもの!】
「ハハ……、そうだな」
男たちが遠く離れた所で、キュウが嬉しそうに言ってきた。
たしかにフワフワしてそうで、ペットにしたいと思う者はいるかもしれない。
その気持ちも分からなくはないので、キュウの言ったこともあながち間違いではない。
そのため、ケイは思わず笑ってしまったのだった。
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