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第8章

第170話

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「えっ? 港へ入港できない?」

 もうすぐ港に入り、ドワーフ王国へと入国する予定だったケイたち一行。
 しかし、港は見えているのに停泊できる場所がなく、少し離れた海の上で留まっているしかない状況になっている。
 入港できないという情報を聞いて、ケイたちは呆気にとられた。

「どういう訳だか多くの船が停泊していて、この船を泊める場所が見つからない状況です」

 普段なら、漁船や小型の客船などが停泊しているとは言ってもいくつか停泊できる場所があるものなのだが、今日に限って何故だか泊める場所が見つからない。
 他にも停泊場所を探している船があるが、この船同様場所がなく漂っているしかできない状況になっている。

「……なんかあったのかな?」

 着岸できないのであれば仕方がない。
 なので、船は少し離れた沖で留まることになった。
 錨を下ろして、船をとりあえず泊めた状態で岸を眺めていると、何だか町が騒がしくなっているように思える。
 多くの人が慌てるように船に荷物を積んでいて、発車がいつでもできる状態になっている。
 その様子を見ていると、何かに追われているようにも見える。

「近付けなければ何が起きているのか分からないな……」

 リカルドも何が起きているのかは分からないが、何かが起きているということを察知した。
 しかし、望遠の魔道具を使用して見渡しても、遠い海の上からでは判断が付かない。

「ケイ! 見てくれば?」

 何が起きているのか分からないなら、船から岸まで飛んで確認だけでもしてくればいい。
 そうすれば、港に入れないでいる理由が分かるかもしれない。
 そのため、美花は軽い感じでケイに確認に行かせようとしてきた。
 ただ、この船の場所から岸にまでは結構な距離がある。

「いや、俺一人行っても……」

 別に岸まで飛ぶことができない訳ではないが、入国には色々と手続きが必要になる。
 初入国であるケイが審査もなしに入国すれば、不法入国を疑われるかもしれない。
 そんなことになったらエルフの印象が悪くなってしまう。
 なので、美花の提案にケイはためらってしまう。

「なら、私も行こう!」

「えっ?」

 ケイが様子を見に行くのをためらっていると、リカルドが一緒に行くと手を上げた。
 一国の王なのだから、何か起きているかもしれない所に乗り込んで行くのはいかがなものかと思う。

「ケイ殿のことも説明できるし、あそこまで飛べるとなると私くらいだろう?」

 たしかに、何度か入国経験のあるリカルドも一緒なら、ケイが密入国ではないということを証明してもらえるかもしれない。
 それに、この船から岸まで飛ぶにしても、かなりの実力がないと届かないだろう。
 となると、リカルドと一緒に確認に行ってくるしか選択肢がなくなってきた。

「護衛の人たちは?」

「美花殿の護衛に付いていてもらう」

 元々、リカルドは護衛なんて必要ない程の実力の持ち主だが、置いて行くのはどうなのだろう。
 ケイか美花の転移魔法でなら全員一緒に岸へと移動できるかもしれないが、あまり転移魔法が使えるということは知られない方が良いと言われている状況では、ここでそれを使う訳にはいかない。
 しかし、何かあったとしても美花を守ってもらえるなら、どうなろうが心配はなくなった。

「……じゃあ、様子を見に行ってきますか?」

「えぇ!」

 とりあえず、ドワーフ王に会うにしても、船のことをどうにかしなくてはならない。
 ケイはリカルドと共に、船から岸へと飛んだのだった。






「ぐっ!? いったいどうなってるんだ?」

 ケイたちが海岸へと降り立ったころ、魔物の大群と戦っていたドワーフたちは、町の城壁付近まで下がって来ていた。
 そして、味方が怪我をして離脱して減っていくのを見て、隊長格の男は悔し気に声をあげる。
 味方は怪我をしてジワジワと減っていくのに、魔物の群れは一定数からずっと変わらない。
 倒しても、その分補充されているかのように魔物が増えている。

「隊長! このままでは全滅してしまいます!」

 仲間の数が減っている上に、この魔物の数ではとてもではないが勝てる見込みがない。
 怪我人が運ばれて行っている様子で、恐らく町中の住人たちも慌てている状況だろう。
 このままでは町中への侵入も阻止できないかもしれない。
 部下の男は、隊長の男に対して一度退き、形勢を立て直すことを求めた。

「くっ!!」

 これ以上退くとなると、城壁を利用した戦いになる。
 これほどの魔物の数を相手に、籠城戦が通用するかは疑わしい。
 ならば、この場で玉砕覚悟で攻め込むという選択も浮かぶ。
 そのため、隊長の男は退くという選択をためらう。

「隊長!!」

 隊長の男が考えていることを察したのか、先程の部下の男はまたも隊長に退くことを求める。
 魔物がどうして減らないのか原因が分からない状況で、玉砕覚悟を選択するのはリスキーだ。

「撤退だ!! 総員城壁内へと避難を開始しろ!!」

「「「「「おうっ!!」」」」」 

 部下の考えは正しい。
 自分一人で突っ込むのなら自己責任で済ませることができるが、部下の命を請け負う立場ではそんなことを選択する訳にはいかない。
 反撃の機会をしっかりと見つければ、勝てないとは思えない。
 その機会を作るためには、敵のことをよく見て解析するしかない。
 隊長の男は、自分が殿の立場に立ち、部下たちが城内へ退くことを指示したのだった。

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