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第7章

第157話

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「奴だ!」「奴を殺せ!」

 多くの兵が魔物をかき分け突き進んでいく。
 どうやら東に駐留していた軍の兵たちは鍛練を欠かさなかったのか、かなりの実力の持ち主が揃っていた。
 ネズミとカエルの魔物が急に増えジワジワと追い込まれていたが、何がきっかけになったのか分からないが、ネズミとカエルの魔物が仲間だったはずの虫の魔物に急に襲いかかり始めた。
 それをきっかけに流れが変わった。
 虫の魔物の増加は続くが、リシケサの軍の方が魔物を倒す速度の方が上になってきた。
 国王の危機ということから、更には遠い町からも兵が集まり、魔物の集団を挟み打ちできるようになった。
 そうなると、魔物を倒す速度はさらに上がり、とうとう魔物を呼び寄せている魔族の男の姿を目にできる距離にまで迫りつつあった。

「ギャッ!?」「ゲウッ!!」 

「ぐっ!? おのれ……」

 ネズミとカエルの魔族が加わった時には、このまま次の国の制圧まで考えていたのだが、耳の長い人間がちょっかいをかけて来てから不利になり始めた。
 虫が殺される時の音まで聞こえてくるほど多くの敵が迫り始め、虫を操る魔族の男もかなり焦り出した。

「くそっ!!」

「逃がすな!!」

 こうなったら一時退却し、魔族も魔物も補充してくるしかない。
 そう判断した虫の魔族は、逃走を開始しようとした。
 リシケサの兵たちも、魔族が逃げようとしているのが目に入り、必死に魔物を蹴散らして近付く。

“ガンッ!!”

「ガッ!?」 

 魔物を集めるのに魔力を使い過ぎたのか、戦う力がたいして残っていない。
 それが集中力を途切れさせた。
 魔族の男にどこからか攻撃が飛来し、逃走しようとする魔族の男の足を止めた。

「神は我らに味方した!」

 リシケサの兵で先頭を走っていた男は、その隙を見逃さなかった。
 倒した魔物を土台にして一気に跳び上がると、上空から手に持つ剣で魔族に斬りかかった。

「ぐあっ!?」

 虫の魔族の6本ある足の内の左前足が斬り飛ばされる。
 斬られたところからは、緑色をした液体が噴き出る。
 どうやら血液のようだ。

「ハアァー!!」

「ギャッ!?」

 斬られても魔族の男は逃走を続けようとする。
 そうはさせまいと、今度はリシケサの魔導士の1人が電撃の魔法を放ち、魔族の男を痺れさせる。

「これで留め……」「死ねー……」

「おのれ……、オノレ……!!」

 もう自分を守らせる従魔の虫たちはいなくなっていた。
 我先にと、魔族の男に斬りかかるリシケサの兵たちが殺到した。
 もう魔族の男が逃げることはできそうにない。
 それが分かっているのか、魔族の男も死を覚悟したようで、怨嗟の念を口にし出した。

「このまま負けてなるものか!!」

 多くの兵が斬りかかって来るのを見ながら、魔族の男は様子が変わった。
 残り少ない魔力を体内で練り込み始める。

「ガアァァーー!!」

「「「「「っ!?」」」」」

“ドンッ!!”

 体内で練り込んだ魔力が、弾けるように周辺を巻き込んで爆発を起こす。
 ここまで接近したのだから、その兵たちはかなりの実力の者たちだった。
 しかし、魔族に攻撃を加えようとしていた兵たちは、止まることができずにその爆発に巻き込まれる。
 そして、爆発が治まるとそこには魔族も襲いかかろうとしていた兵たちも、跡形もなく吹き飛んでいた。






「サンダリオ様! やりました! 勝利いたしましたぞ!」

 まだ虫の魔物と戦っている者はいるが、何とか勝利を収めることができた。
 駐留軍の基地で、怯えるように謁見室に閉じこもっていたサンダリオの下へ、ここの地域を任せていた貴族の男が勝利の報告をしに駆け込んで来た。

「本当か!? や、やった! やったぞ! 勝利だ!」

 ここの基地の中にはもう兵は誰もいない。
 全員が出動して魔族と魔物の退治に出ているからだ。
 そんな中、サンダリオは報告に来た貴族の男と共に喜びの声をあげる。
 その声は、無人の基地に虚しく響くだけだった。
 しかし、だいぶ押されていたこともあり、負けることも考えていたからか、この勝利が相当嬉しかったのだろう。
 軍の被害状況何かを全く気にした様子がない。

“パチパチパチ……!!”

「んっ?」

「おめでとう! リシケサ王!」

 基地内には誰もいないはずだった。
 しかし、喜んでいたサンダリオの所に深くフードを被ったでかい人間が、拍手をしながら近づいてきた。

「……き、貴様何者だ?」

 知らない人間の接近に、貴族の男が腰に下げていた剣を抜いてサンダリオの前に立ち塞がる。
 しかし、この貴族の男もここにいるということは、戦えるだけの実力も才能も無いような男である。
 腹もだらしなく膨らんでおり、抜いた剣を構える様はとても弱そうに見える。
 
「なかなか面白い戦いを見させてもらった。お前に逃げられた時はムカついたが、この状況になった今はそれもいいスパイスだったぞ」

 話の口ぶりから、このフードの人間はこの戦いを見ていたようだ。

「……な、何者だ!? フードを取れ!!」

「おっと、そうだな……」

 このフードの男の出現によって、サンダリオはようやくこの基地には自分とこの太った名前も忘れた貴族しかいないことを思い出した。
 これまでのように逃げ出したいところだが、唯一の出口がフードの人間に抑えられている。
 どうやって逃げるかを模索しようと、時間を稼ごうとフードを取るように声を荒らげる。
 言われたフードの人間は、素直に顔を隠していたフードを取り出した。

「自分を殺す人間が誰だかは知りたいもんな……」

「き、貴様は……」

 フードを取ったその姿に、サンダリオは後退りながら口を振るわせる。

「さて、そろそろ死んでもらおうか?」

 そういって男は近づき、サンダリオは人知れずこの世から去ったのだった。

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