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第7章

第150話

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「どこでもスタンピードって所かな?」

「おぉ、お前上手いこと言うな」

 レイナルドがシャレにならないようなことを言うが、ケイはまさにその通りだと思い褒めていた。
 現在、ケイとレイナルドは王都内で姿をローブで隠しつつ、町の時計台から王城を見下ろしている状況だ。
 ケイたちによって封印されていた何かが解放されてから、町は少しづつ騒がしくなってきている。
 どうやら、その何かが魔物を召喚して暴れているとのことだ。
 普通の人間は必要としないので、望遠の魔法は使えない。
 なので、市民は噂が広がって知る所になっているのだろうが、ケイたちは遠くから王城をのんびり眺めながら、その出現した何かに目を向けている。

「虫系の魔物使いかな?」

「あぁ、そうだな……」

 城からは多くの魔物が出てきている。
 その多くは蟻。
 その蟻相手に兵たちが奮闘しているのが見える。

「あっ! サンダリオの奴逃げてやがるな……」

 よく見てみると、王になったサンダリオは兵に誘導されながら城から避難している。
 サンダリオが殺されるところを見て、島に帰りたいところだが、これでは無理そうだ。

「…………出てきた」

「あれだな……」

 城からワラワラと出てくる虫たち。
 その中にボロボロの服を着た1人の男が、一際大きな蟻に乗って現れた。

「女王蟻か?」

 多くの魔物を使役するには、かなりの魔力を必要とする。
 しかし、数多くの魔物を使役するには他の方法もある。
 それは蟻や蜂の女王を従える方法だ。
 女王の指示に従って行動する兵隊を間接的に使えば、魔力を省エネできる上に数の確保ができる。
 数を必要とするにはうってつけのなのが、蟻や蜂の魔物なのだ。
 その蟻を使役しているのが、女王蟻に乗ったあの男なのだろう。

「確かに魔力が多いみたいだね……」

 出てきた男は蟻だけでなく、他にも虫の魔物を召喚して周囲を破壊して行っている。
 立派な城も、魔物によって穴が幾つも開けられている。
 リシケサの兵たちも懸命に魔物の相手をしているが、倒しても増えてくる魔物の相手でいっぱいいっぱいになっている。
 とても城の破壊を止められる状況ではない。

「……なんかおかしいな」

「何が?」

 このままなら城の崩壊も遠くないだろう。
 しかし、ケイはそんなことはどうでもよく、封印から解かれた男のことをじっと見ている。
 そして、その男の違和感に首を傾げた。
 レイナルドは、何がおかしいのかケイに問いかける。

「あの魔物使いの魔力の流れが普通の人と違うような……」

「えっ?」

 望遠の魔法で見ながら、ケイは魔物使いの男のことを鑑定してみる。
 もしも戦うことになった場合、男が脅威になるかを判断するためだ。
 鑑定してみると、男の体に流れる魔力に違和感を感じる。
 これまで見てきた人間とは微妙に違うように感じる。

「……確かに」

 ケイの言葉を聞いたレイナルドも、男を見てみる。
 そして、同じく違和感を感じた。

「あれだけの魔物を操られたら封印したくなるのも分かるな……」

 違和感の正体は分からないが、封印から解かれた男はドンドン魔物を召喚していく。
 城はもう原形を留めていないほどに破壊されている。
 ワラワラと蠢く多くの虫の魔物に、レイナルドは若干引き気味に呟く。

「パッと見た感想だと、あいつ自体はそんなに強くない気がする」

「そう?」

 たしかに多くの魔物は厄介だが、それを抜きにすれば、たいした脅威には思えない。
 封印が解かれたばかりで、弱っているのかもしれないが、それでもケイは戦って勝てる気がする。
 魔物のことが頭から拭えないレイナルドは、そうは思えないのか、ケイの評価に首を傾げている。

「お前でも倒せるんじゃないか? 魔物がいなければだけど」

「それ無理って事じゃん」 

 あの男相手に戦うとなると、魔物の相手が不可欠になる。
 魔物がいなければ勝てるということは、そんな状況に持ち込まなければ勝てないということだ。
 スタンピードを一人で止めなければならないなんて、無茶が過ぎる。
 ケイの言葉に、レインルドはツッコミを入れた。

「父さんやリカルド殿なら倒せるのか?」

「……たぶんな」

 ケイなら膨大な魔力を利用し、魔法で魔物を削ってから戦うことになるだろう。
 魔物の数がどれほど出るのか分からないが、なんとなく勝てる気がする。
 カンタルボス王国の王であるリカルドも、あの肉体から繰り出す圧倒的パワーで魔物を倒してしまうだろう。
 封印が解かれた男の怖いところは、奴自身の戦闘力などではなく、大量の魔物を使役する力だ。
 それがなければたいした相手ではない。
 なので、リカルドも恐らくは勝てるだろう

「あっ! 崩れた……」

 虫たちの破壊によって、とうとう城が崩れ出した。
 それを見て、リシケサの兵たちは唖然としている。
 国の象徴でもある城が、無残にも瓦礫の山へと変わってしまったからだ。
 城が破壊され、魔物の集団に囲われたままの男は、今度は町の破壊に進みだした。
 サンダリオの指示を受けたのか、多くの兵が連携を取って魔物へと向かって行っているが、数は魔物の方が上のようで、ジワジワと町が魔物に破壊されて行っている。
 ケイたちとリカルドの襲撃で、評判の落ちたリシケサは隣国の侵攻に注意をしている。
 そのため、兵を呼び戻したくても呼び戻せないのだろう。
 王都の兵は増えてはいないようだ。
 このままでは王都の壊滅がされてしまうかもしれない 

「そろそろ、放っておいて帰ろうか?」

「そうだな。市民の避難が開始されたみたいだし……」

 時計台から見下ろすと、王都の兵たちが不利だということを聞いた市民たちが、慌てて町から逃れようとし始めていた。
 人族の全滅などとまでは思っていないので、ケイは市民のことは見逃すことにした。
 これ以上ここにいてもやることもないので、レイナルドに転移の扉を開いてもらい、ケイはアンヘル島へと帰っていったのだった。

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