上 下
148 / 375
第7章

第148話

しおりを挟む
「何故だ!?」

 玉座の前をうろつくサンダリオ。
 エルフと獣人による王都襲撃から数日、この出来事は王都内だけでなくリシケサ王国内に広まりつつある。
 同盟関係にある南のパテル王国はともかく、北と東にある国にこの事が広まるのは時間の問題だ。
 しかし、それはどうしようもないことなので気にしてはいないが、それよりもまんまと逃げられたとしたら、その方が問題だ。
 奴らが消えた方法が分からないが、逃げる方法があるというのであれば、また同じように強襲をしかけてくる可能性があるということだ。

「奴らはどうやって消えたというのだ!?」

「申し訳ありません。いまだ解明されておりません」

 目の前で報告をおこなっているセブリアンに対し、サンダリオはどうしても語気が荒くなってしまう。
 事件以降、兵たちは昼夜問わずエルフと獣人の行方と、使った逃走経路を捜索している。
 だが、何の手掛かりも見つけられず、セブリアンは頭を下げることしかできないでいる。

「捜索範囲を、城内から王都中へと移行しております。ですが、いまだ怪しい集団の発見はされておりません」

「クソッ! 何が起きたというんだ!? 全員姿がなくなるなんてありえないだろ!!」

 消えた方法も、あれだけの数の人間がどこに行ったのかということも分からない。
 折角王になったというのに、これでは心配で夜も眠れない。
 サンダリオは玉座に座り、何も分からないことにイラ立つことしかできなかった。






「予定通りに行きましたな?」

「そうですね」

 少し時間は戻り、ベルトランの暗殺に成功したケイとリカルドたちは、リシケサ王国の王都から三日ほどの距離にある森の中に作った地下室で、体を休めつつ話をしていた。
 話の通り、王城を取り囲まれて、どこからも逃げ出せなくなったケイたちが転移魔法で脱出する。
 ケイたちを殲滅しようと城内に入った時には、もうそこはもぬけの殻。
 これで明日、明後日と、人数を分けてアンヘル島に帰れば作戦終了となる。

「できれば、我々がいなくなって慌てふためいているリシケサの奴らの顔を見たかったですな」 

「ハハハ……、それもそうですな」

 ケイの言う通り、離れた場所に転移してしまっては、敵の驚く顔を見ることができない。
 さも、みっともない顔をしている所だろう。
 城に入った者たちのみっともない姿を想像し、リカルドは笑いが込み上げてきた。

「しかし……、サンダリオに逃げられたのは失敗しでしたな……」

 リカルドの言う通り、今回の作戦の1番の目標は、ベルトランとサンダリオの殺害が目当てだ。
 しかし、大がかりな作戦に失敗はつきものとは言っても、そのサンダリオに逃げられたのは残念だった。

「調査の期間が短かったことを考えれば、仕方がないのでは?」

 リカルドの言いたいことも分かるが、ケイが言ったように調査期間が短かった。
 その短い時間で、城の間取りなどの情報を集めた諜報員のハコボたちは、よくやったと思う。

「うむ……、そうですな」

 リカルドも、短い期間ながらにかなりの情報を得てきたハコボたちを認めている。
 しかし、それでも失敗は失敗。
 やっぱり、成功させておきたかったところだ。





「島に戻ってしまえばもう追っ手を気にする必要もない」

 翌日、翌々日に人を分け、ケイたちは島へと戻って来た。
 帰りは休憩日を入れずに戻るので、ケイたち転移魔法を使う者には結構負担がかかり、島に着くとかなりの疲労感が襲ってきた。

「ケイ殿、島の探検でもしにいこうか?」

「……すいませんが、疲労がきついので、今日はお相手するのには無理です」

 久々のアンヘル島に、リカルドは浮かれ気味だ。
 以前あげた釣竿も、こんなこともあろうかと持ってきていたらしい。
 随分用意周到だが、ケイは疲労で動きたくない。
 なので、ケイは丁重に断りの返事をした。

「失礼!」

「おぉ、美花殿」

 ケイとリカルドが話し合っていると、ケイの妻の美花が2人の下へ戻って来たのだった
 今回の作戦に不参加の状態の美花に、何か用事だろうかと考えていた。

「アレシア様から、仕事があるのでリカルド様たちはすぐに戻してほしいと言われております」

「えっ?」

 寝耳に水だ。
 久々にアンヘル島で遊ぶ予定が、一気に崩れ落ちて行ったのだった。 

「申し訳ありませんが、送らさせていただきます」

「そんな……」

「さすが母上……」「準備がいい……」

 どうやらリカルドの行動を読んでいたのかもしれない。
 今回の作戦に関わるのも少し否定的だったアレシアだが、さすがに1日くらいは勘弁してほしかった。
 そのがっかりを感じながらリカルドとエリアスとファウストは王妃アレシアの意見に従い、がっかりしながら帰っていった。







「レイ! ちょっといいか?」

「んっ? 何だい?」

 作戦から数日後、ケイたちはまた平和の生活が戻って来た。
 島に乗り込んで来た敵のせいで、畑は潰されて食料の問題はある。
 しかし、ケイがカンタルボスの国で購入してくるという最終手段があるため、食料問題はどうにでもなる。
 それは一先ず置いておいて、ケイはレイナルドに声をかける。

「これからリシケサに向かおうと思う。転移魔法でちょっと送ってほしいんだ」

「えっ!? 何でまた?」

 王と王城内の兵たちを殺しただけでは、エルフが脅威だと思わせるのは難しいだろう。
 しかし、それはいいとして、ケイは思っていた事がある

「サンダリオを仕留めそこなったのが気に入らなくてな、ちょっとやってみたい事があるんだ」

 それはサンダリオの処刑である。
 かと言ってまたリカルドやカンタルボスの兵を使う訳にはいかない。
 ケイとレイナルドだけでは、どうにもできないのではないだろう。
 しかし、ケイには考えがある。
 その考えを、レイナルドに説明した。

「……なるほど、それならこっちが何もしなくてもリシケサ口内は大混乱だね」

 ケイの考えを聞いたレイナルドは、その作戦に乗っかることに開いたのだった。

「じゃあ、ちょっと行って来るか」

「あぁ……」

 まるで近所に散歩にでも出かけるように、ケイとレイナルドは数日振りにリシケサへと転移していったのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...