エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

文字の大きさ
上 下
146 / 375
第7章

第146話

しおりを挟む
「リカルド様! 城内を隈なく探したのですが、サンダリオの姿は見つかりませんでした!」

 リカルドが連れてきたカンタルボスの兵たち約300人は、精鋭とは言っても数的に不利だったにもかかわらず、怪我人は出ても死人を出さないで済ませることができた。
 城内への入り口を全て固め、外からの侵入と城内からの脱出をさせないようにして城内にいる敵兵たちを始末して来た。
 にもかかわらず、最大の標的の1人であるはずの王子サンダリオがどこにも見つからないでいた。

「何だって?」

「っ!?」

 部下の報告を受けたリカルドは、驚きの声をあげる。
 彼らカンタルボスの兵は、しっかりと予定通りの行動した。
 逃げられる要素はなかったように思えた。
 そして、その報告が聞こえていたベルトランも、驚きと不思議に頭が支配された。
 逃げ場もなく、城内で獣人を相手にして、捕まるか殺られていると思っていたのだが、彼らの話からするに、どうやら違うようだ。

「どこから逃げたのでしょう?」

「私どもの調査不足が原因です」

 ケイがリカルドと共に首を傾げていると、ハコボたち諜報部の者たちが来て頭を下げた。

「分かりづらかったのですが、西の塔に脱出通路が隠されておりました」

“ピクッ!” 

 その話を聞いて、ベルトランは密かに反応した。
 王族しか知らない隠し通路が西の塔にはある。
 しかし、旧来から仕えている貴族家たちであれば、もしかしたら知っている者もいるかもしれない。
 王城を襲撃するような大胆なことをする者たちが、諜報員を潜ませていないはずがない。
 その諜報員が調べていれば、知っている貴族からその通路の情報を入手している可能性がある。
 そう思い、サンダリオが言っていた敵が出口で待ち構えているということを信じたのだが、リカルドたちの話を聞いている限り、その通路のことは知られていなかったようだ。

「恐らくそこから逃げ出したのかと思います」

 ベルトランが1人思考の世界に入っていることに気付かず、ハコボはそのまま報告を続けた。

「ハハ……」

「……何がおかしい?」

 報告が終わると、ベルトランはどことなく乾いた笑いをこぼした。
 それを、リカルドは自分の息子が上手く逃げたことに喜んでいるのかと思ったが、なんとなく違うように思える。

「ハハハ……」

「な、何だ? 頭でもおかしくなったのか?」

 ベルトランは声を出して笑っているが、目が笑っていない。
 それを見て、ケイは迫る死に狂ったのではないかと思った。
 しかし、ベルトランのは違うことで笑っていたのだ。
 嘘をつき、隠し通路から逃げようとするベルトランを止めたということは、サンダリオは父である自分を城から出さないようにして、自分1人そこから逃げ出したということになる。
 自分の命が助かるためなら、父すらも簡単に利用する。
 息子がここまで腐っているとは思わず、自分の見る目のなさに全身の力が抜けた。
 それによって、何もかもが馬鹿らしく思え、空っぽになったベルトランからは笑いしか出てこなかったのである。






「おぉ、随分集まって来ているな……」

 建国祭の開会宣言を行う予定のバルコニーに、ベルトランは数時間ぶりに戻って来た形になる。
 そのバルコニーからは城の周りが良く見える。
 目の前に広がるその景色に、ケイは感嘆の声をあげる。
 そこには、城壁を囲むように兵が配置されていたからだ。
 どうやら王都の兵が集結し、今にも城内へ攻め込める状態のようだ。

〚薄汚い獣どもよ! 我が父上を解放しろ! 今なら命までは許してやってもいい!〛

 ベルトランを連れてバルコニーへ姿を現したリカルドやケイたちを見て、集まった兵を引き連れて豪華な衣装を着た者が拡声の魔法を使って話しかけてきた。
 城を包囲しているからか、逃げ場がないケイやリカルドたちに対して上から物を言って来る。

「あいつがサンダリオか? 上手く逃げやがったな……」

 先程「父上」といったところから、どうやら奴がサンダリオのようだ。
 たいして魔力を使わないため、ケイが望遠の魔法でサンダリオの顔を見ると、ハコボの情報を聞いていたからか、真剣な顔をしているように見えて、なんとなくにやけているように見える。

〚これより獣人王国カンダルボスが同盟国、エルフの国アンヘル王国への侵略行為をおこなったリシケサ王国のトップであるベルトラン・デ・リシケサの処刑をおこなう!!〛

「エルフの国……?」

 サンダリオが発した言葉を無視するように、リカルドはケイに拡声の魔法をかけてもらって話し始める。
 そして、その言葉の内容に、城を囲んでいる大勢の兵たちが疑問の声を呟く。
 エルフの国などという物が、いつの間に出来上がっていたのだと思ったからだ。

〚そんなことをしてみろ! この包囲された状況で逃げ切れると思うなよ!〛

 リカルドの言葉に、サンダリオは怒りの声をあげる。
 たしかに、エルフの捕獲に大量の兵を送ったが、こちらはこちらで大量の兵を失った。
 しかも、そのうえ王城の強襲。
 この上、王の殺害までされたとなっては、周辺国からしたらいい笑い話だ。

「ではケイ殿、遠慮なく殺っちゃってください!」

「わかりました……」

 リカルドは完全にサンダリオの言葉を無視する。
 サンダリオが言うように、普通なら逃げ道はないように思えるだろう。
 しかし、ケイたちにはこの状態からでも逃げる手段はある。
 というより、今、レイナルドとカルロスが出した転移魔法によって、獣人たちは移動を開始し始めている。
 リカルドは簡単に殺せと言うが、無抵抗な状態の人間を始末しなければならないというのはケイからしたら初めてで、なんとなく気が引ける。

〚我はエルフの国、アンヘル王国国王ケイ・デ・アンヘルだ! この場にてリシケサ国王ベルトランを処刑を執行する!〛

 事前に打ち合わせしていた台詞を叫び、腰に付けたホルスターから、ケイは銃を抜き高らかに掲げる。
 そして、その銃口を、抜け殻のようになっているベルトランのこめかみへと押し付ける。

“パンッ!!”

「っ!?」「陛下!!」

 気が引けたが、所詮こいつは自分たちを殺せと指示を出した張本人だ。
 またいつ兵を仕向けてくるか分からない。
 そう思うとすんなり引き金が引け、ベルトランの処刑を執行できた。
 頭を撃ち抜かれ、崩れるように倒れたベルトランを見て、城を包囲している者たちは慌て驚いた。
 包囲状態に加え、生き物を殺害できないはずのエルフが執行人。
 多くの者たちがハッタリだと思っていたのだが、まさか本当におこなったためである。

「おのれ生き人形に獣どもめ……、父上の弔い合戦だ!! 奴らを一人残らず殺せ!!」

「「「「「オォォーー!!」」」」」

 父の死を見て、サンダリオが怒りの声をあげる。
 それによって兵たちの士気も上がった。
 そして、出撃の指示を受けた兵たちは、大声を上げて城内へ侵入しようと走り出したのだった。

「さぁ、逃げましょう」

「えぇ」

 処刑が終わればもう用はない。
 これでエルフは昔のように無抵抗な種族ではなく、獣人の国と同盟を結んだ危険な国だと認識されるかもしれない。
 サンダリオも仕留め、王族の壊滅までできればもっと良かったが、作戦に失敗はつきものだ。
 敵兵が城内に入ってくる前にトンズラさせてもらおう。
 リカルドと短く話し合うと、ケイはすぐに転移の扉を開きカンタルボス兵たちを転移させていく。
 数がまあまあ多いので、全員が扉を抜けるのは少し時間がかかったが、獣人兵たちが速やかに行動してくれたことにより、敵に転移魔法を見られる前に間に合った。
 そして、最後にケイが扉を通り抜けると、城からエルフと獣人の者たちは跡形もなく消え去ったのだった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...