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第7章

第132話

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「やった! 兄さんに勝ったぞ!」

「くそっ!」

 居住区の海岸で、カルロスは喜び、レイが悔しがる。
 何が起きたかというと、カルロスがレイナルドより先に転移魔法を使えるようになったからだ。

「手がまだ直ってないから、操作の感覚が微妙にズレるんだよ!」

 転移の魔法は、距離によって難易度が変わる。
 乗り込んで来た人族との戦いで、レイナルドは片手を失った。
 再生魔法で治療中なのだが、肘から先が無くなっていた腕も、今は後は手首から先だけにまで回復している。
 完治まであと少しといったところだ。

「レイはもうちょい手を治さないとな……」

 ケイも側にいたのだが、レイナルドの言っていることは良い訳ではない。
 たしかに手がなくなり、細かい魔力の制御が微妙にずれている。
 レイナルドは、ケイと美花に英才教育を受けてきたため、ここまでの大怪我をした事がない。
 そのため、微妙にコントロールが上手くいっていない感じだ。

「カルロスにも手伝ってもらおうか?」

 島のみんなに、リカルドから報復の提案を受けたことを伝えたら、みんなあっさり賛成をしていた。
 カンタルボスの軍がほぼ動いて、ケイたち側は3人だけでみんなは普段と変わらず島で過ごすだけなので、参戦する3人のことを心配はしても、自分たちのことは特に気にしていないようだ。
 その報復の下準備を、カンタルボスのリカルドと話し合うのだが、転移もできるようになった事だし、
それにカルロスもかかわらせるかとケイは美花に相談した。

「あの子まだまだだからダメ!」

 ケイの相談に、美花はピシャリと否定すした。
 ちょっとカルロスが可哀想だ。
 しかし、それも仕方がない。
 今回の戦いで、簡単に捕まったのは事実なのだから。

「安全なことでなら使ってもいいけど……」

 下準備には危険な役割もある。
 カルロスにそれを任せるには色々と心許ない。
 しかし、転移が使えるなら何か役があるだろう。
 安全なことだったら、カルロスを使うのもありかもしれない。

 



「まずはリシケサに侵入しないといかんな……」

 ラウルのルシアの結婚の話は一先ず置いて置き、ケイたちの島へ攻め込んで来たリシケサ王国への報復作戦が、カンタルボスの王城で話し合われていた。
 同盟国とはいえ、ケイたちの島が攻め込まれて来た報復を、カンタルボスが手伝う意味はそれ程ない。
 カンタルボス国王のリカルドが、ケイたちの島が気にいっているというのもあるが、そこを乗っ取られて人族側の拠点にされることが面倒だ。
 獣人族大陸へちょこちょこ問題を吹っ掛けてくる人族たちにとって、ケイたちの島はちょうどいい中継地点になる。
 乗っ取られたら人族たちには面倒極まりない。
 そうならないためと言うのと、人族へ報復するちゃんとした理由ができるチャンスを待っていたというのもある。
 数が多いだけに、人族はやたらしつこい。
 だから、一度分からせてやりたいという思いがあった。
 今回は絶好のチャンスだ。 

 報復するにも準備が必要。
 そのためには、ケイたちが重要になって来る。
 そもそも、報復をしようと思ったのも、ケイたちの転移魔法があるから思いついたことでもあるからだ。
 まずは敵国を調べることから始める必要がある。

「じゃあ、俺と美花の2人で行って来ましょう」

 人族大陸の記憶があるのはアンヘルで、ケイの記憶と言うのとはなんか違う気がするが、今回はその記憶が役に立つ。
 と思ったが、

「じゃあ、私が送るわ。王都はないけどリシケサには行ったことがあるから……」

 リシケサへ行くとなると、ケイの転移だと、アンヘルの記憶を利用して、まずパテル王国に行ってから北のリシケサ王国へと入る事になる。
 しかし、それだと入国の審査があった場合、ケイがエルフとバレて捕まる可能性がある。
 ならばと聞いたら、美花はリシケサに行ったことがるらしい。
 どういう国なの詳しく聞きたいところだけど、美花も人族大陸でのいい思い出がないらしく、あまり言いたくないような表情をしていたので、ケイは聞かないことにした。
 どんな国なのかということは、転移してから自分の目で見ればいい。
 なので、美花の転移で向かうことになった。

「お願いする。くれぐれも安全に注意を……」

「分かりました」

 美花が転移できる場所は、王都からかなり離れた場所になるらしい。
 そうなると、王都近くまで行くには徒歩になる。
 距離がどれくらいだか分からないので、もしかしたら数日かかるかもしれない。
 その間、ケイがエルフだとバレないように行動しなければならない。
 十分に注意が必要だ。

「ケイ殿! 彼らが一緒に行く諜報部隊の者だ」

 リシケサに行くのはケイと美花だけではない。
 王都内を調べるために、諜報に長けた者も一緒に連れて行くことになっている。
 リカルドはその諜報員を紹介してくれた。
 一緒に行くのは精鋭の5人。
 彼らはみんな黒装束で身を隠しているので、どんな種族なのかも分からない。

「あぁ、あなたはいつもリカルド殿の側にいる人ですね」

「っ!?」

 ケイの何気ない言葉に、指を差された一人は目を見開く。
 目だけは隠しようないのでケイにも見えているので、諜報の者が感情を出すのは良くない。
 すぐにそれを思いだしたのか、指差された彼もすぐに感情を殺した。

「……やはり、ケイ殿は気付いていたか……」

 初めて会った時、玉座の間の中はリカルド家族とケイたちしかいなかった。
 だが、さすがに警戒していたケイの探知に僅かに反応があった。
 彼の隠形はなかなかのもので、ケイも注意しないと見逃すところだった。
 結局、彼は何もして来ないようだったため、王族の護衛をしているだけだったようだ。
 リカルドも、ケイ程の実力ならもしかしたら気付いているのかもしれないと思っていたが、やはりそうだったことに溜息を洩らした。

「しかし、やはり魔力探知に対しての技術がもう少しかも知れないですね……」

「ケイ殿並みに探知が出来るものがそんなにいるか?」

「たぶんいないから大丈夫よ」

 ケイの探知に引っかかるということは、もしかしたらリシケサに侵入した時にバレる可能性がある。
 そんなことになったら、ケイたちもバレるかもしれない。
 しかし、ケイの探知ははっきり言って普通じゃない。
 ケイを基準にしていたら、諜報員なんてこの世に存在していない。
 リカルドのもっともな意見に、美花は呆れたようにツッコんだ。 

「もしもの時は、我々は自害も辞さないつもりで……」

「そんなの駄目だ!」

 彼らが捕まった時には、掴んだ情報を敵に知られないように自害する覚悟もできている。
 それがこの国に忠誠を誓った者の常識だ。
 しかし、あっさりと死を口にしようとした彼に、ケイは少し大きめの声で否定する。

「あなたたちも同じ人間だ。ギリギリまで生きることを諦めてはいけない」

「……分かりました。最後まで足掻くように致します」

 たしかに情報を敵に知られるわけにはいかない。
 だからと言って、自害してしまうのはケイとしては納得いかない。
 死んででも仲間のことを守る。
 それが、アンヘルを生き延びさせてくれた父と叔父のことを思いださせ、胸が苦しくなる。
 彼らが命を落とすとこを、ケイは見たくない。
 そのため、ケイは思わず大きな声を出してしまった。

 彼らも決して無駄に死ぬつもりはない。
 この仕事は命を落とす可能性が高いため、その覚悟が必要というだけだ。
 しかし、ケイが自分たちのことを心配しての言葉だと分かるので、素直に受け入れたのだった。

「条件はリシケサ王都の近郊で一軍が隠せてバレにくいというところの探索。それと王都内の情報収集だ」

「「「「「了解しました」」」」」

 狙いとしては、王都付近で軍を隠し、一気に攻め出て王城を制圧。
 その後、王の首を刈るというのが理想だ。
 そのための拠点と情報収集。それをするために彼らはケイたちと転移することにしたのだった。

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