上 下
124 / 375
第6章

第124話

しおりを挟む
「んっ? 諦めたのか?」

「これだけ撃っても当たらないのだからそれも仕方ないだろう」

 2丁拳銃での攻撃を止めたケイに、ライムンドも足を止める。
 セレドニオも同じように思ったのか、納得したように話をする。
 たしかに銃による攻撃は、2人にはもう通用しないように思える。
 このまま続けても、他の兵が集まって来て捕まるのがオチだ。
 早々に諦めておとなしくしているのが利口な判断だ。

“フッ!!”

「っ!?」

 しかし、ケイが諦めてと思ったとしたらそれは2人の早合点だ。
 ケイは消えたように移動して、ライムンドの懐へと入っていた。
 油断をしたつもりはないのに懐に入られたライムンドは、慌てて槍を動かそうとした。

“ドカッ!!”

「うぐっ!!」

「ライムンド!!」

 ライムンドの槍がケイに向かって突き出される前に、ケイの肘打ちがライムンドの腹に入る。
 それを見たセレドニオは、ライムンドを助けに向かおうとした。

「っ!?」

“パンッ!!”

 そのセレドニオを見ることなく、ケイは左手の拳銃をセレドニオに向けて発射した。
 助けに向かおうとしたセレドニオだったが、その攻撃で近付く事を阻止された。

「てめっ!!」

 肘打ちを受けたライムンドは、すぐに体勢を立て直し、ケイへと攻撃をしようとした。

「っ!?」

 その時には目の前に銃口が向いていた。
 それが銃口だと気付くまで、ライムンドはまるで一瞬時間が止まったような感覚を覚えた。

「おわっ!?」

“パンッ!!”

 弾が発射される直前、ライムンドはギリギリで躱すことに成功する。
 いや、完全には躱せてはいなかった。
 咄嗟に避けはしたが、左の耳の先が吹き飛んでいた。

「こっ……」

“バキッ!!”

 耳を怪我し、ケイを睨みつけようとしたライムンドだったが、ケイは銃撃を避けられると思っていたのか、ライムンドが避けた方向に右ハイキックを放っていた。
 それが見事にライムンドの顔面にヒットし、そのままライムンドは吹き飛んで行った。

「貴様!!」

 ライムンドの相手をすれば、セレドニオが空いてしまう。
 攻撃中には銃撃はできないだろうと、セレドニオはケイとの距離を一気につめる。
 そしてそのまま片手剣でケイに斬りかかる。

“ガキンッ!!”

「なっ!?」

 しかし、セレドニオの剣を、ケイは2丁の拳銃をクロスさせて受け止めた。
 これほどの武器をそんな雑な扱いすると思ていなかったのか、セレドニオは驚きの声をあげる。

「うっ!?」

 武器を止められたセレドニオは、一瞬隙だらけになる。
 そこを逃さず、ケイは鳩尾目掛けて蹴りを放つ。
 それを受けたセレドニオは、飛ばされはしたがしっかりと着地をして腹を抑えた。

「蹴りが入る直前に後方に飛んだか……」

 思ったよりセレドニオへの攻撃が入った感触を感じなかったのを、ケイは不思議に思ったのだが、思った以上に飛んだセレドニオを見て納得したように呟いた。
 ケイが言ったように、セレドニオは攻撃が入る瞬間、自ら後方に飛ぶことで威力をおさえることができたのだ。

「お、おのれ……」

 しかし、セレドニオは自分が思っていたよりも腹へのダメージが重いことに歯噛みした。
 休憩中に飲んでいた紅茶を、リバースするかと思うような威力だった。

「接近戦が得意のようだな……」

「……だったら?」

 たしかにケイは接近戦を得意だと思っている。
 カンタルボス王国のリカルド王のような人間でない限り、そうそう負けるとは思っていない。
 何か考えがあるようなセレドニオの言葉に、ケイは挑発的に返す。

「俺たちも得意な方でな!!」

 言葉を言い終わると同時に、セレドニオはケイへと接近する。

“パンッ!!”

「なっ!?」

「接近戦得意なだけだ」

 接近戦を挑んで来たのはケイなのにもかかわらず、それに応じたセレドニオなのだが、帰って来たのは近付かせないための弾丸だった。
 ケイからしたら、得意だからって接近戦ばかりする訳ではない。
 敵の心理を読み、遠距離・近距離の攻撃で相手を翻弄する。
 リカルドのように接近戦の化け物のような相手の場合は、離れて戦うのが一番だが、この2人相手なら両方生かして戦う方が、自分ののペースで戦うことができる。
 これでなんとか倒せればいいのだが、

「この野郎!!」

 セレドニオの相手をすればライムンドが空く。
 耳の先を吹き飛ばされ、顔面を蹴られ、耳と口から血を流しながらライムンドはケイへと迫る。
 血を流してはいるが、ダメージはそれ程でもないような足取りだ。

「こっちは防御力が高いのか?」

 顔面を蹴った時、ケイが思った感想は硬いだった。
 まるで石でも蹴ったのかと言うような感触をしていた。
 それによって、ケイはライムンドをリカルドのように頑丈な人間だと認識したのだった。

「チッ!!」

 リカルドの顔がチラついたからか、ライムンドのことを面倒な相手と思ったケイは、舌打をしつつ2丁の銃を向けて連射した。

「舐めんなよ!!」

「っ!?」

 右手に槍を持ったまま近付いて来ていたライムンドだが、飛んで来る弾丸に対して左手を前に出した。
 そして弾丸が当たる直前に、左手に付けた魔法の指輪から小さい盾を取り出し、ケイの弾丸を防いだのだった。
 ただ、弾は盾にめり込み、ケイの直前に着くころにはその盾は砕け散った。

「くらえ!!」

 自分の間合いまで近付けたライムンドは、槍力を構えて力を溜めた。

「連突撃!!」

 技の名前なのだろうか、それを叫ぶと同時にライムンドは高速の刺突を連撃してきた。

「くっ!?」

 この男は、怒りで我を忘れているようでちゃんと考えているようだ。
 手に持つ短い銃では防ぎづらく、ケイは所々小さな傷を負った。

「っ!?」

 槍が繰り出される僅かな瞬間を狙って、ケイは銃口をライムンドへ向ける。
 それだけでライムンドは攻撃を止め、後方へと退避する。
 防御か回避に意識が向いていたため、攻撃をする余裕がなかったが、どうやら銃の威力を見せておいたのが良かった。
 ただ銃口を向けただけで引いてもらえたのは、ケイにとってラッキーだった。

「どうやら俺たちの攻撃も通用するようだな……」

「あぁ……」

 所々怪我を負ったケイを見て、ライムンドたちは僅かに笑う。
 これまで何もさせてもらえなかったが、接近してしまえば通用することが分かったからだ。

「面倒だな……」

 たいした怪我ではないが、相手を調子に乗せてしまったのは事実だ。
 有利に進めて相手の心を折れれば楽だったのだが、やはりそう思い通りには進まないようだ。
 まだそれほど動いていないにもかかわらず、汗を掻きながらケイは一言呟いたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強制無人島生活

デンヒロ
ファンタジー
主人公の名前は高松 真。 修学旅行中に乗っていたクルーズ船が事故に遭い、 救命いかだで脱出するも無人島に漂着してしまう。 更に一緒に流れ着いた者たちに追放された挙げ句に取り残されてしまった。 だが、助けた女の子たちと共に無人島でスローライフな日々を過ごすことに…… 果たして彼は無事に日本へ帰ることができるのか? 注意 この作品は作者のモチベーション維持のために少しずつ投稿します。 1話あたり300~1000文字くらいです。 ご了承のほどよろしくお願いします。

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

RISE!~男装少女の異世界成り上がり譚~

た~にゃん
ファンタジー
「俺にしろよ。俺ならアンタに……特大の幸せと金持ちの老後をやるからよ…!」 私――いや俺は、こうして辺境のド田舎貧乏代官の息子サイラスになった。 性別を偽り、代官の息子となった少女。『魔の森』の秘密を胸に周囲の目を欺き、王国の搾取、戦争、さまざまな危機を知恵と機転で乗り越えながら、辺境のウィリス村を一国へとのしあげてゆくが……え?ここはゲームの世界で自分はラスボス?突然降りかかる破滅フラグ。運命にも逆境にもめげず、ペンが剣より強い国をつくることはできるのか?! 武闘派ヒーロー、巨乳ライバル令嬢、愉快なキノコ、スペック高すぎる村人他、ぶっ飛びヒロイン(※悪役)やお馬鹿な王子様など定番キャラも登場! ◇毎日一話ずつ更新します! ◇ヒーロー登場は、第27話(少年期編)からです。 ◇登場する詩篇は、すべて作者の翻訳・解釈によるものです。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

料理を作って異世界改革

高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」 目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。 「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」 記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。 いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか? まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。 そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。 善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。 神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。 しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。 現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...