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第6章

第124話

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「んっ? 諦めたのか?」

「これだけ撃っても当たらないのだからそれも仕方ないだろう」

 2丁拳銃での攻撃を止めたケイに、ライムンドも足を止める。
 セレドニオも同じように思ったのか、納得したように話をする。
 たしかに銃による攻撃は、2人にはもう通用しないように思える。
 このまま続けても、他の兵が集まって来て捕まるのがオチだ。
 早々に諦めておとなしくしているのが利口な判断だ。

“フッ!!”

「っ!?」

 しかし、ケイが諦めてと思ったとしたらそれは2人の早合点だ。
 ケイは消えたように移動して、ライムンドの懐へと入っていた。
 油断をしたつもりはないのに懐に入られたライムンドは、慌てて槍を動かそうとした。

“ドカッ!!”

「うぐっ!!」

「ライムンド!!」

 ライムンドの槍がケイに向かって突き出される前に、ケイの肘打ちがライムンドの腹に入る。
 それを見たセレドニオは、ライムンドを助けに向かおうとした。

「っ!?」

“パンッ!!”

 そのセレドニオを見ることなく、ケイは左手の拳銃をセレドニオに向けて発射した。
 助けに向かおうとしたセレドニオだったが、その攻撃で近付く事を阻止された。

「てめっ!!」

 肘打ちを受けたライムンドは、すぐに体勢を立て直し、ケイへと攻撃をしようとした。

「っ!?」

 その時には目の前に銃口が向いていた。
 それが銃口だと気付くまで、ライムンドはまるで一瞬時間が止まったような感覚を覚えた。

「おわっ!?」

“パンッ!!”

 弾が発射される直前、ライムンドはギリギリで躱すことに成功する。
 いや、完全には躱せてはいなかった。
 咄嗟に避けはしたが、左の耳の先が吹き飛んでいた。

「こっ……」

“バキッ!!”

 耳を怪我し、ケイを睨みつけようとしたライムンドだったが、ケイは銃撃を避けられると思っていたのか、ライムンドが避けた方向に右ハイキックを放っていた。
 それが見事にライムンドの顔面にヒットし、そのままライムンドは吹き飛んで行った。

「貴様!!」

 ライムンドの相手をすれば、セレドニオが空いてしまう。
 攻撃中には銃撃はできないだろうと、セレドニオはケイとの距離を一気につめる。
 そしてそのまま片手剣でケイに斬りかかる。

“ガキンッ!!”

「なっ!?」

 しかし、セレドニオの剣を、ケイは2丁の拳銃をクロスさせて受け止めた。
 これほどの武器をそんな雑な扱いすると思ていなかったのか、セレドニオは驚きの声をあげる。

「うっ!?」

 武器を止められたセレドニオは、一瞬隙だらけになる。
 そこを逃さず、ケイは鳩尾目掛けて蹴りを放つ。
 それを受けたセレドニオは、飛ばされはしたがしっかりと着地をして腹を抑えた。

「蹴りが入る直前に後方に飛んだか……」

 思ったよりセレドニオへの攻撃が入った感触を感じなかったのを、ケイは不思議に思ったのだが、思った以上に飛んだセレドニオを見て納得したように呟いた。
 ケイが言ったように、セレドニオは攻撃が入る瞬間、自ら後方に飛ぶことで威力をおさえることができたのだ。

「お、おのれ……」

 しかし、セレドニオは自分が思っていたよりも腹へのダメージが重いことに歯噛みした。
 休憩中に飲んでいた紅茶を、リバースするかと思うような威力だった。

「接近戦が得意のようだな……」

「……だったら?」

 たしかにケイは接近戦を得意だと思っている。
 カンタルボス王国のリカルド王のような人間でない限り、そうそう負けるとは思っていない。
 何か考えがあるようなセレドニオの言葉に、ケイは挑発的に返す。

「俺たちも得意な方でな!!」

 言葉を言い終わると同時に、セレドニオはケイへと接近する。

“パンッ!!”

「なっ!?」

「接近戦得意なだけだ」

 接近戦を挑んで来たのはケイなのにもかかわらず、それに応じたセレドニオなのだが、帰って来たのは近付かせないための弾丸だった。
 ケイからしたら、得意だからって接近戦ばかりする訳ではない。
 敵の心理を読み、遠距離・近距離の攻撃で相手を翻弄する。
 リカルドのように接近戦の化け物のような相手の場合は、離れて戦うのが一番だが、この2人相手なら両方生かして戦う方が、自分ののペースで戦うことができる。
 これでなんとか倒せればいいのだが、

「この野郎!!」

 セレドニオの相手をすればライムンドが空く。
 耳の先を吹き飛ばされ、顔面を蹴られ、耳と口から血を流しながらライムンドはケイへと迫る。
 血を流してはいるが、ダメージはそれ程でもないような足取りだ。

「こっちは防御力が高いのか?」

 顔面を蹴った時、ケイが思った感想は硬いだった。
 まるで石でも蹴ったのかと言うような感触をしていた。
 それによって、ケイはライムンドをリカルドのように頑丈な人間だと認識したのだった。

「チッ!!」

 リカルドの顔がチラついたからか、ライムンドのことを面倒な相手と思ったケイは、舌打をしつつ2丁の銃を向けて連射した。

「舐めんなよ!!」

「っ!?」

 右手に槍を持ったまま近付いて来ていたライムンドだが、飛んで来る弾丸に対して左手を前に出した。
 そして弾丸が当たる直前に、左手に付けた魔法の指輪から小さい盾を取り出し、ケイの弾丸を防いだのだった。
 ただ、弾は盾にめり込み、ケイの直前に着くころにはその盾は砕け散った。

「くらえ!!」

 自分の間合いまで近付けたライムンドは、槍力を構えて力を溜めた。

「連突撃!!」

 技の名前なのだろうか、それを叫ぶと同時にライムンドは高速の刺突を連撃してきた。

「くっ!?」

 この男は、怒りで我を忘れているようでちゃんと考えているようだ。
 手に持つ短い銃では防ぎづらく、ケイは所々小さな傷を負った。

「っ!?」

 槍が繰り出される僅かな瞬間を狙って、ケイは銃口をライムンドへ向ける。
 それだけでライムンドは攻撃を止め、後方へと退避する。
 防御か回避に意識が向いていたため、攻撃をする余裕がなかったが、どうやら銃の威力を見せておいたのが良かった。
 ただ銃口を向けただけで引いてもらえたのは、ケイにとってラッキーだった。

「どうやら俺たちの攻撃も通用するようだな……」

「あぁ……」

 所々怪我を負ったケイを見て、ライムンドたちは僅かに笑う。
 これまで何もさせてもらえなかったが、接近してしまえば通用することが分かったからだ。

「面倒だな……」

 たいした怪我ではないが、相手を調子に乗せてしまったのは事実だ。
 有利に進めて相手の心を折れれば楽だったのだが、やはりそう思い通りには進まないようだ。
 まだそれほど動いていないにもかかわらず、汗を掻きながらケイは一言呟いたのだった。

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