エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

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第6章

第112話

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「「っ!?」」

 突然現れたハーフエルフに、眼鏡の男(エウリコ)と壮年の男(カルリト)も慌てる。
 殺さず捕獲が絶対条件の獲物の、本人が出現したからだ。
 エルフは見た目が良いだけの生きる人形。
 しかも、戦う力もないことで有名だが、ハーフエルフも同じようにエルフの掟に縛られている者ばかりだ。
 その知識があるからか、無抵抗に生きる生命体でしかないハーフエルフが、魔闘部隊の中でも1、2を争う近距離攻撃力の高い男の攻撃をあっさりと止めた。
 明らかにこのハーフエルフも魔闘術を使用している。
 そのことも信じられない。

「おいおい、いきなり飛び出したら危ねえだろ?」

 本気の力で斬りかかった訳ではないが、あっさり止められて大剣の男(パウリノ)は剣を引いた。
 何かの偶然なのか、このハーフエルフが特別なのか分からないが、もしかしたら殺してしまう所だった。

「お前らエルフは俺たちが飼ってやるから、おとなしく捕まれ!」

 魔闘術が使えるのは気になるところだが、とりあえず1匹捕獲ができそうだ。
 パウリノは、ハーフエルフに対して高圧的に命令した。



「モイセスさん!!」

「助かりました!! カルロス殿!!」

 モイセスの助けに来たハーフエルフはカルロスだ。
 魔闘術を使う者たちの目が、カルロスに向かっているのをいいことに、怪我を折ったり疲労しているモイセスたち獣人は、いつの間にか退却を開始していた。
 強力な魔力の持ち主が、二手に分かれた獣人兵たちの所に向かっているのを感じとったカルロスは、モイセスたちの救出をするためにこちらに向かって来た。
 どうやらそれについては上手くいったようだ。
 もう一組同じような魔力をした連中を感じ取ったが、そっちは兄のレイナルドが向かったので大丈夫だろう。

「あっ!?」

「あいつら!!」

 獣人たちが逃げてしまったことに気付いたカルリトとエウリコは、咄嗟に魔法を放とうとした。

「あんなのほっとけよ。それよりこいつを連れて行こう」

「……そうだな」

 獣人の殺害は指令の1つだが、巻き添えでこのハーフエルフが死んでしまってはかなりの損失だ。
 先にこのハーフエルフをセレドニオの所へ連れて行ってからの方が良いだろう。
 2人は魔法を撃つのをやめて、ハーフエルフの方へ近付いて行った。

「てめえ、カルロスとか言うのか?」

「………………」

 エルフに名前なんてあろうがどうでも良いが、パウリノはとりあえず呼ぶために名前を聞いておくことにした。
 しかし、カルロスの方は何の反応もしないで、パウリノ以外の2人が近付いてくるのを待った。

「おいっ! 無視してんじゃねえぞ!!」

「口うるさいチビッ子だな……」

 自身と同じくらいの長さをした大剣を持っているパウリノだが、カルロスが呟いたように背が低い。
 170cm程度のカルロスより、頭一つ分小さいくらいだ。
 パウリノもそうだが、他の2人もハーフエルフのカルロスが抵抗しないと思っているようでかなり無防備だ。
 父のケイから、レイナルドとカルロスは昔のエルフは無抵抗主義を絶対としていたと教わっている。
 それを父は馬鹿な掟だと言い、守らないことに決めたらしい。
 そんな父に育てられたせいか、そんな掟守っていたという先祖たちのことを、カルロスは軽蔑に似た思いをしている。
 しかし、この者たちの口調や態度を見ると、まだ自分たちがこの掟を守っていると思っているようだ。
 これを使わない手はない。
 危険ではあるが、3人が無防備な状態で剣の間合いに入った所で、一刀のもとに斬り殺してやろうと思った。
 だが、カルロスはまだ若く、我慢がちょっと足りなかった。
 高圧的なパウリノの態度が気に入らず、思わずパウリノの逆鱗に触れる言葉を呟いてしまった。
 そのため、密かに考えていた策は中断されることとなった。

「……あっ!?」

「……言ってはならないことを」

 カルロスが呟いた言葉に、カルリトの方は慌てたような反応をし、エウリコは困ったように呟いた。
 あともう少しでカルロスの間合いに入る所だったのだが、2人は近付くのをやめて足を止めてしまった。

「……?」

「……………今なんつった?」

 何のことを言っているのか分からずカルロスが首を傾げていると、目の前の男はプルプルと震えていた。
 どうやらまずいことを言ってしまったらしい。

「俺をチビだとぬかしやがったな!?」

 顔を上げ、カルロスを睨みつけるように見つめたパウリノは、手に持っていた大剣を思いっきり握りしめ、カルロスに向けて振りかぶった。
 この男にとって、身長の話はタブー。
 それがあってここまで強くなったという面もあるが、怒りで我を忘れるという短所でもある。

「死ね!!」

 振りかぶった剣を、パウリノはそのままカルロスに振り下ろそうとした。
 言葉の通り殺す気満々だ。

「よせっ! パウリノ! セレドニオ様は捕まえろって言っただろ!!」

「うるせえ!! 知るかよ!!」

 エウリコが言ったセレドニオの名前を聞いてパウリノは一瞬躊躇するが、怒りで聞く耳を持たなかった。
 パウリノはそのまま大剣をカルロスに振り下ろした。

“ズバッ!!”

「ぐあっ!?」

「「っ!?」」

 大剣が振り下ろされたが、斬られたのはパウリノの方だった。
 怒りに任せた単純な剣筋に、カルロスが斬られるはずがない。
 わざとギリギリまで引き付けて、大剣を躱すと同時に、カルロスは腰の刀を抜刀してパウリノの右腕を斬り飛ばしたのだった。 
 大剣を持ったままの右腕の肘から先が無くなり、パウリノは痛みで悲鳴を上げて蹲る。
 他の2人もこのような結果になるとは思わず、目を見開いて固まる。

「ば、馬鹿な……」

 右腕から大量の血を噴き出しながら、パウリノは信じられない者を見るようにカルロスを見上げた。
 ハーフとはいえ、エルフに人の腕を斬り飛ばすような剣の技術と力があるとは想像もしていなかった。
 その結果、今自分は大怪我を負うハメになっている。
 完全に油断したとパウリノは歯噛みした。

「………………」

 跪いたままのパウリノは自慢の大剣もなく無防備。
 カルロスはそのまま無言で止めを刺そうとした。

「クッ!!」

「っ!?」

 3人の中で、エウリコがこういったトラブルに対する反応が早いようだ。
 強くはないが、当たると痛い程度の魔力球を、止めを刺そうとしているカルロスに向けて咄嗟に放った。 
 横から飛んできたその魔法を、カルロスはバックステップをして躱した。

「……間違いない。こいつは普通のエルフじゃない!!」

「そのようだな……」

 距離を取ったカルロスを睨み、カルリトはパウリノの治療に入り、エウリコは左手に付けていた指輪から片手剣を取り出した。
 どうやら魔法の指輪を装着していたらしい。

「エウリコ! 少しの間奴の相手してくれ。俺はこいつの傷だけでも塞ぐ」

「……分かった」

 この世界では手や足を欠損しても、再生する魔法が存在している。
 実にありがたいことだ。
 とは言っても、一瞬という訳にはいかない。
 ジワジワと再生して行くことで、最終的には元に戻すことができるというレベルだ。
 パウリノの腕を再生することはできないが、斬られた腕は残っている、
 今、この場合、治すことは可能だ。
 斬られた部分をくっ付けて、回復魔法をかければ治せるからだ。
 カルリトは大剣についたままのパウリノの手を持ってきて、回復魔法をかけ始めた。

「行くぞっ!!」

「……っ」

 エウリコは魔法の指輪から取り出した片手剣を手に、カルロスに襲い掛かった。
 その剣筋は素人ではない。
 ローブに眼鏡だからてっきり魔法重視の戦闘タイプだと思っていたがそうでもないらしい。

「いい剣筋だ……」

「何を上からっ!?」

 剣を振り回しカルロスに攻撃をするエウリコだが、殺してはならないという指示が頭にあるせいか、いまいち精彩を欠きカルロスには通用しない。
 とは言え、なかなかの剣筋に、カルロスは感心したように呟いた。
 その物言いが気に入らず、エウリコには苛立たし気に声をあげた。
 その一瞬できた隙を見逃さず、カルロスはエウリコの剣をかちあげる。

“ドムッ!!”

「ウッ!?」

 剣をかち上げられて無防備になったエウリコの腹へ、カルロスは左拳を打ち込む。
 エウリコも、自分から後方に飛ぶことでその攻撃によるダメージを軽減させようとしたが、僅かに遅く結構深く攻撃を受けた。
 表情には出さないようにしたが、額に嫌な汗が流れてきたのだった。

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