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第6章
第108話
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「ぐわっ!?」
「なっ!? 鶏が……」
侵攻部隊の内の1つが、森を抜け膝の上程に背の高い草が生い茂る草原地帯に出た。
たまたまこの部隊は、たいした魔物にも遭遇せずここまで来た。
そのせいか、最初の怒りそのままに突き進んでいたからか、警戒心が薄かった。
その草原地帯を抜けようと足早に進んで行っていると、突如1人の兵が吹き飛んで行った。
倒れたその兵は、顔がぐしゃぐしゃの状態で血をダラダラと流して動かなくなった。
何が起きたのかと思い、他の兵たちがそちらに目を向けると、空中に1匹の鶏が浮かんでいた。
羽の部分が分厚い筋肉に発達していて、その部分で殴られて吹き飛んで行ったようだ。
「腕鶏だ!! 草原に隠れて腕鶏が潜んでいるぞ!!」
重力によって落下し、鶏はそのまま草原に隠れて見えなくなってしまった。
一瞬見たその姿で、隊長の男はその鶏が何か分かった。
腕のように発達した羽で、縄張りに入って来た敵を攻撃する、攻撃力が高いことで有名な魔物の一種だ。
その腕鶏が、兵たちに縄張りを荒らされたと思ったらしく、襲いかかって来たのだ。
生い茂っている草によってちょうどよく姿が隠され、どこから攻めかかってくるのか分からない状況に陥った。
「どこから……グエッ!?」
先程の兵を倒した腕鶏を探すが、草で隠れて見つからない。
草原内を移動しているからなのだと予想できるが、草が動くような音が全然しない。
人族大陸で見る腕鶏とは違い、隠密的な移動術をおこなっているようだ。
その動きは、明らかに自分たちの知っている腕鶏と違う。
連携を取りさえすれば対応できるだろうが、姿を確認できないこのエリアではそれも難しい。
どの兵も周囲を見渡し姿を見つけようとしているが見付けられず、突如背後から現れた腕鶏にまた1人吹き飛んで行った。
「全員この草原から撤退しろ!!」
敵の姿が見つけられないと判断した隊長の男は、このままでは全滅の危機も合うと思い、兵たちへ撤退の指示を送った。
「分かりま……グアッ!?」
「クッ!?」
各々指示通り撤退を開始し始めたが、背を見せたとたん獲物と判断したのか、多くの腕鶏が逃げる兵たちに向かって襲い掛かっていった。
隊長の指示に返事をした男も、腕鶏に居場所を教えるような形になり、無防備に腹を殴られ、内臓をぶちまけていた。
それ程離れていない距離の仲間がやられ、隊長の男も慌てて草原から抜けだそうと走り出した。
「いつになったら獣人の討伐が完了するんだ!?」
最初の隊が上陸して、すでに30分は立っている気がする。
しかし、いまだに獣人を仕留めたという報告をしてくる者がいない。
指揮を任されているセントニオは、西の海岸近くに陣取ってイラ立ちを隠せないでいた。
「悲鳴が聞こえるんだが?」
「こちらの兵がやられているのか……」
ライムンドが言うように、時折悲鳴のようなものがここにまで届いてくる。
敵でないなら、こちらの兵がやられているということになる。
怒りに任せて碌な支持を出さなかったことが、この結果を招いているのは明白だ。
「……うちの奴らも出した方が良いか?」
「……すまん。そうしてくれ」
この侵略作戦には、セレドニオの海軍だけでなくライムンドの陸軍も参戦している。
上陸するまでの海上での戦闘が重要なので、海軍兵の方がかなり多い。
先行したのは全部が海軍の兵たちだ。
別に陸軍の方が戦闘力が高いという訳ではないが、仲間がやられて腹を立てたまま突っ込んで行ったのが間違いだ。
地の利のある敵の罠にハマっているのかもしれない。
『落ち着いたのはいいが、表情が険しいぞ、セレドニオ』
海と陸、それぞれの総大将の地位にいるセレドニオとライムンドだが、どちらが上位という違いはない。
しかし、今回指揮を任されているのはセレドニオであり、ライムンドと陸軍兵はフォロー役だ。
数が多いと思って、ライムンドも何も言わなかったのもよくなかったかもしれない。
仲間がやられていると知って、セレドニオはこのままではまずいと冷静になったようだが、表情からすると怒りはさらに増しているようだ。
「お前ら、準備いいか?」
「はい。お任せ下さい」
今回の侵攻に参加した兵は総勢3000近く。
割合で言うと、海軍8に、陸軍は2。
腹を立てていたからと言っても、完全にバラバラという訳でもなく。
海軍の連中は、味方が進んだ道と同じ道を行くようなことはせず東へと向かっているようだ。
「2班に分ける。お前たちは北から、お前たちは南からだ」
「「了解しました!!」」
ライムンドの指示により、フォローがメインの陸軍は、先に進んだ海軍と違う道から進行を開始することになった。
隊長の2名は恭しく頭を下げると、兵を連れて行動を開始した。
「こちらは魔物が弱いようだな?」
感情任せに突っ込んで行った海軍の連中と違い、北向かった陸軍の連中はこういった時の訓練を思い出して、冷静に先へ進んでいた。
魔物も出て来るが、ちゃんと連携を取って先に発見し、きちんと対応している。
慎重だが、怪我を負う者もおらず、まさに順調といったいったところだ。
「こんな事なら最初から俺たちに任せればいいものを……」
「そう言うな。今回はセレドニオ様が王より指名を受けたのだから……」
順調に進んでいて余裕が出てきたのか、兵たちはちょっとした話もできるほどだ。
兵の1人が言うように、同じ国の仲間とは言え、同じ海軍でない彼らは、仲間をやられたからとそこまで感情移入していなかった。
ちょっとは腹が立ったが、視野が狭くなるまでは行っていない。
視野狭窄に陥っている海軍の兵たちを見ていて、内心大丈夫か不安だったのは事実だ。
なので、隊長の男も、兵の愚痴にそれほど強くは注意をいなかった。
「斥候班、周囲に魔物の気配は感じるか?」
「はい。この周辺に魔物の気配はありません」
海軍の者たちも、彼らのように冷静に行動していればもう少し被害は少なかっただろう。
探知の上手い者を先頭にし、魔物の有無をしっかり判断してから先へと進む。
訓練通りで的確な行動だ。
「よし。罠がないかも注意しつつ、前進するぞ」
「「「「「ハイッ!!」」」」」
しっかりと手順通りにやっているからか、手間をかけているからゆっくり進んでいるようでそうではない。
疑心暗鬼がない分、進行速度は早い方だ。
10分程度で先に進んだ海軍兵の半分以上の距離まで進んでいるだろう。
“ドサッ!!”
「……ッ!?」
順調に進んでいた陸軍隊だったが、急に先頭付近にいた1人が足を止め、ふらついた後、崩れるように倒れて行った。
何が起きたのか分からず、誰もが倒れた男を1拍眺めた。
「おい? どうした?」
隊長の男が最初にその間から抜け出した。
そして、倒れた男に向かって近づいて行き、容体を確かめようとした。
“ドサッ!!”
「何だっ!? 何が起きてる!?」
しかし、隊長の男が最初に倒れた兵の容態を見ていると、また兵の1人が崩れ落ちて行った。
明らかな異常事態だ。
隊長だけでなく、他の兵たちも慌て始めた。
「魔物か!?」
「それはありません! 周辺には確かに魔物はいません!」
斥候部隊の探知にミスがあったのかと思ったのだが、1人だけでなく数名の斥候が自信を持って否定した。
この周辺に魔物の気配は確実にしていない。
「じゃあ、何が!?」
“ドサッ!!”
魔物でないなら、何故兵が倒れていっているのだろうか。
隊長の男が考え始めると、また1人が倒れた。
倒れた者たちは、気を失って僅かに痙攣している。
まるで、毒を受けたような状態だ。
「くそっ! 全員! ここから下がれ! 一旦下がって対策を立て直すぞ!」
「「「「「りょ、了解!!」」」」」
こんな時には、一旦後退するのがベストだろう。
そう判断し、隊長の男が指示を出すと、全員狼狽えつつも後退を始めた。
ケイたちは魔物のエリアに兵を送るように誘導することはしているが、この隊に対しては、実は何もしていない。
リシケサ王国は、ほぼ森に囲まれ、隣国とは川や湖によって隔たれた国である。
それがたまたまこの状況を生んだと言ってもいい。
つまり、山がなく、火山付近の危険性を理解していなかった。
火山によって出た硫化水素ガスを嗅ぎ、兵たちが倒れて行ったのだ。
自分たちにとってこんな幸運なことが起きていたとは、ケイたちは知る由もなかったのだった。
「なっ!? 鶏が……」
侵攻部隊の内の1つが、森を抜け膝の上程に背の高い草が生い茂る草原地帯に出た。
たまたまこの部隊は、たいした魔物にも遭遇せずここまで来た。
そのせいか、最初の怒りそのままに突き進んでいたからか、警戒心が薄かった。
その草原地帯を抜けようと足早に進んで行っていると、突如1人の兵が吹き飛んで行った。
倒れたその兵は、顔がぐしゃぐしゃの状態で血をダラダラと流して動かなくなった。
何が起きたのかと思い、他の兵たちがそちらに目を向けると、空中に1匹の鶏が浮かんでいた。
羽の部分が分厚い筋肉に発達していて、その部分で殴られて吹き飛んで行ったようだ。
「腕鶏だ!! 草原に隠れて腕鶏が潜んでいるぞ!!」
重力によって落下し、鶏はそのまま草原に隠れて見えなくなってしまった。
一瞬見たその姿で、隊長の男はその鶏が何か分かった。
腕のように発達した羽で、縄張りに入って来た敵を攻撃する、攻撃力が高いことで有名な魔物の一種だ。
その腕鶏が、兵たちに縄張りを荒らされたと思ったらしく、襲いかかって来たのだ。
生い茂っている草によってちょうどよく姿が隠され、どこから攻めかかってくるのか分からない状況に陥った。
「どこから……グエッ!?」
先程の兵を倒した腕鶏を探すが、草で隠れて見つからない。
草原内を移動しているからなのだと予想できるが、草が動くような音が全然しない。
人族大陸で見る腕鶏とは違い、隠密的な移動術をおこなっているようだ。
その動きは、明らかに自分たちの知っている腕鶏と違う。
連携を取りさえすれば対応できるだろうが、姿を確認できないこのエリアではそれも難しい。
どの兵も周囲を見渡し姿を見つけようとしているが見付けられず、突如背後から現れた腕鶏にまた1人吹き飛んで行った。
「全員この草原から撤退しろ!!」
敵の姿が見つけられないと判断した隊長の男は、このままでは全滅の危機も合うと思い、兵たちへ撤退の指示を送った。
「分かりま……グアッ!?」
「クッ!?」
各々指示通り撤退を開始し始めたが、背を見せたとたん獲物と判断したのか、多くの腕鶏が逃げる兵たちに向かって襲い掛かっていった。
隊長の指示に返事をした男も、腕鶏に居場所を教えるような形になり、無防備に腹を殴られ、内臓をぶちまけていた。
それ程離れていない距離の仲間がやられ、隊長の男も慌てて草原から抜けだそうと走り出した。
「いつになったら獣人の討伐が完了するんだ!?」
最初の隊が上陸して、すでに30分は立っている気がする。
しかし、いまだに獣人を仕留めたという報告をしてくる者がいない。
指揮を任されているセントニオは、西の海岸近くに陣取ってイラ立ちを隠せないでいた。
「悲鳴が聞こえるんだが?」
「こちらの兵がやられているのか……」
ライムンドが言うように、時折悲鳴のようなものがここにまで届いてくる。
敵でないなら、こちらの兵がやられているということになる。
怒りに任せて碌な支持を出さなかったことが、この結果を招いているのは明白だ。
「……うちの奴らも出した方が良いか?」
「……すまん。そうしてくれ」
この侵略作戦には、セレドニオの海軍だけでなくライムンドの陸軍も参戦している。
上陸するまでの海上での戦闘が重要なので、海軍兵の方がかなり多い。
先行したのは全部が海軍の兵たちだ。
別に陸軍の方が戦闘力が高いという訳ではないが、仲間がやられて腹を立てたまま突っ込んで行ったのが間違いだ。
地の利のある敵の罠にハマっているのかもしれない。
『落ち着いたのはいいが、表情が険しいぞ、セレドニオ』
海と陸、それぞれの総大将の地位にいるセレドニオとライムンドだが、どちらが上位という違いはない。
しかし、今回指揮を任されているのはセレドニオであり、ライムンドと陸軍兵はフォロー役だ。
数が多いと思って、ライムンドも何も言わなかったのもよくなかったかもしれない。
仲間がやられていると知って、セレドニオはこのままではまずいと冷静になったようだが、表情からすると怒りはさらに増しているようだ。
「お前ら、準備いいか?」
「はい。お任せ下さい」
今回の侵攻に参加した兵は総勢3000近く。
割合で言うと、海軍8に、陸軍は2。
腹を立てていたからと言っても、完全にバラバラという訳でもなく。
海軍の連中は、味方が進んだ道と同じ道を行くようなことはせず東へと向かっているようだ。
「2班に分ける。お前たちは北から、お前たちは南からだ」
「「了解しました!!」」
ライムンドの指示により、フォローがメインの陸軍は、先に進んだ海軍と違う道から進行を開始することになった。
隊長の2名は恭しく頭を下げると、兵を連れて行動を開始した。
「こちらは魔物が弱いようだな?」
感情任せに突っ込んで行った海軍の連中と違い、北向かった陸軍の連中はこういった時の訓練を思い出して、冷静に先へ進んでいた。
魔物も出て来るが、ちゃんと連携を取って先に発見し、きちんと対応している。
慎重だが、怪我を負う者もおらず、まさに順調といったいったところだ。
「こんな事なら最初から俺たちに任せればいいものを……」
「そう言うな。今回はセレドニオ様が王より指名を受けたのだから……」
順調に進んでいて余裕が出てきたのか、兵たちはちょっとした話もできるほどだ。
兵の1人が言うように、同じ国の仲間とは言え、同じ海軍でない彼らは、仲間をやられたからとそこまで感情移入していなかった。
ちょっとは腹が立ったが、視野が狭くなるまでは行っていない。
視野狭窄に陥っている海軍の兵たちを見ていて、内心大丈夫か不安だったのは事実だ。
なので、隊長の男も、兵の愚痴にそれほど強くは注意をいなかった。
「斥候班、周囲に魔物の気配は感じるか?」
「はい。この周辺に魔物の気配はありません」
海軍の者たちも、彼らのように冷静に行動していればもう少し被害は少なかっただろう。
探知の上手い者を先頭にし、魔物の有無をしっかり判断してから先へと進む。
訓練通りで的確な行動だ。
「よし。罠がないかも注意しつつ、前進するぞ」
「「「「「ハイッ!!」」」」」
しっかりと手順通りにやっているからか、手間をかけているからゆっくり進んでいるようでそうではない。
疑心暗鬼がない分、進行速度は早い方だ。
10分程度で先に進んだ海軍兵の半分以上の距離まで進んでいるだろう。
“ドサッ!!”
「……ッ!?」
順調に進んでいた陸軍隊だったが、急に先頭付近にいた1人が足を止め、ふらついた後、崩れるように倒れて行った。
何が起きたのか分からず、誰もが倒れた男を1拍眺めた。
「おい? どうした?」
隊長の男が最初にその間から抜け出した。
そして、倒れた男に向かって近づいて行き、容体を確かめようとした。
“ドサッ!!”
「何だっ!? 何が起きてる!?」
しかし、隊長の男が最初に倒れた兵の容態を見ていると、また兵の1人が崩れ落ちて行った。
明らかな異常事態だ。
隊長だけでなく、他の兵たちも慌て始めた。
「魔物か!?」
「それはありません! 周辺には確かに魔物はいません!」
斥候部隊の探知にミスがあったのかと思ったのだが、1人だけでなく数名の斥候が自信を持って否定した。
この周辺に魔物の気配は確実にしていない。
「じゃあ、何が!?」
“ドサッ!!”
魔物でないなら、何故兵が倒れていっているのだろうか。
隊長の男が考え始めると、また1人が倒れた。
倒れた者たちは、気を失って僅かに痙攣している。
まるで、毒を受けたような状態だ。
「くそっ! 全員! ここから下がれ! 一旦下がって対策を立て直すぞ!」
「「「「「りょ、了解!!」」」」」
こんな時には、一旦後退するのがベストだろう。
そう判断し、隊長の男が指示を出すと、全員狼狽えつつも後退を始めた。
ケイたちは魔物のエリアに兵を送るように誘導することはしているが、この隊に対しては、実は何もしていない。
リシケサ王国は、ほぼ森に囲まれ、隣国とは川や湖によって隔たれた国である。
それがたまたまこの状況を生んだと言ってもいい。
つまり、山がなく、火山付近の危険性を理解していなかった。
火山によって出た硫化水素ガスを嗅ぎ、兵たちが倒れて行ったのだ。
自分たちにとってこんな幸運なことが起きていたとは、ケイたちは知る由もなかったのだった。
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