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第6章

第103話

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「順調な航海で喜ばしいですな? 指揮官殿……」

「白々しいなライムンド」

 リシケサ王国の海軍を任されている男、セレドニオが船首から海を眺めていると、背後から話しかけてくる男がいた。
 その者に目を向けると、セレドニオのよく知った顔だった。
 陸軍隊長のライムンドという男で、わざとらしくへりくだった言い方をしてきた。
 セレドニオとは海と陸で違いはあるものの、軍を預かる同等の地位にいる者だ。
 年も同じで仲もいいのに、急にそんな態度を取ってくるから気味が悪い。

「ついてるな。セレドニオ」

「何が? ……って言うのは愚問か……」

 今回の遠征は、漁師がたまたま発見したことによる侵攻だった。
 直線距離は、リシケサ王国と南の隣国パテルは同じくらいだが、海流の関係上、パテルからはかなり遠回りを余儀なくされる。
 そのため、リシケサ王国が請け負うことになったのだが、島の大きさ的に1隻で十分だと思って行かせたのだが、そのまま帰って来なかった。
 天候による転覆も考えられたが、次は念のため数隻で向かうことになった。
 隊長はエルミニオという貴族の男。
 金にがめついことで有名だったそのエルミニオが、金の臭いを感じ取ったのか、王に自分が指揮官として向かうと言い出した。
 海軍指揮官として有能と言われているセレドニオへ、横やりを入れてきたのだ。

「エルミニオ様。前回のこともあり、慎重に接触を図るべきです」

「うるさい! 貴様の指示は聞かん! 臆病者の貴様らはここで待機だ!」

 どこから仕入れたのか分からないが、エルミニオは船と多くの傭兵を連れてきた。
 セレドニオも一応は貴族の出だが、男爵家の次男坊という、辛うじての貴族だ。
 侯爵家の人間に言われれば、文句を言うことなどできはしない。
 しかも、王の承認もあるので、指揮官のエルミニオには従うしかない。
 
「…………かしこまりました」

 しかし、バカの指示に渋々従ったのは正解だった。
 巨大な竜巻により巻き上げられ、水の槍による船底の破損、火による延焼。
 まさに地獄のようなことが、遠くで起こっていた。
 誰が起こしたのかは分からないが、エルミニオからの通信には、獣人とエルフという言葉が聞こえて来たいた。
 そのことで判断するに、恐らくあの攻撃を放ったのは、獣人族の魔道具によるものだと判断できる。
 ドワーフ族という後ろ盾は、とてつもなく厄介だ。
 魔力が少なく、魔法攻撃があまりできないとはいっても、獣人の戦闘力はどの種族もとんでもない。
 そこに、ドワーフによる魔道具が加わると、人族側のアドバンテージは人の数しかない。
 あの島も、どうやら先に獣人たちが上陸したのだろう。
 しかし、そんなことよりも重要な単語が聞こえた。
 エルミニオは確かにエルフと言っていた。
 4、50年前に最後の発見例を聞いたが、それ以降聞くこともなくなり、絶滅したのだと言われていた。
 人ではあっても金銀財宝と同じ存在であるエルフ。
 絶滅したと言われているのに、今でも求める貴族が多くいるらしい。
 同盟国のパテルは、他国へのエルフの売買で巨大な資金を得たという噂だ。
 手に入れ、繁殖にでも成功すればリシケサの財政は相当潤うことになるだろう。
 そうなれば、自分の王に対する心象も上がり、高位の貴族位を賜れるに違いない。
 その機会を得たことが、ライムンドがセレドニオについてると言わせたのだろう。

「しっかり手伝うから、俺に何かあった時の協力も頼むぞ」

「あぁ、もちろん分かってるよ」

 陸軍も海軍も協力関係にあるのが望ましい。
 お互い足を引っ張り合うより、お互いが協力して上へ行く方が建設的だ。
 ほぼ同じような出自の2人は、そういった意味では丁度いい。
 ただ、今回はセレドニオの番だというだけだ。

「まぁ、もうしばらくは着かないだろうし、船内で静かにしているよ」

 大量の船団が出向して、まだ3日。
 天候次第で日数が変わるが、帆へ風魔法で風を送って加速しても2~3週間ほどかかってしまう。
 全勢力という王の指示により、最低限の防衛軍を残しての侵攻。
 国は人も食料なども大量の資金をつぎ込んだ。
 それだけの価値がエルフの生き残りにはある。
 失敗は許されないが、さすがにこの数で負けるはずがない。
 ライムンドが余裕なのも仕方がない。

「あぁ、……飲み過ぎるなよ」

「ここじゃ飲む以外にすることねえだろ?」

 ライムンドが船ですることと言ったら、飲むことしかない。
 長い旅なので、ずっと肩肘張られているのも迷惑だが、深酒してからまれるのも迷惑だ。
 特にライムンドはそういった所があるため、セレドニオは一言釘を刺した。
 だが、帰ってきた答えに反論できず、セレドニオはそのまま見送るしかできなかった。





◆◆◆◆◆

「ケイ殿!!」

「どうした? モイスト。もしかして……」

 大砲の増加・設置をおこない、美花への転移魔法を指導したりしていたケイだったが、どれもある程度の目途が立ち、前のようにゆったりとした日々が戻って来ていた。
 そんな折、モイストが青い顔をしてケイのもとへ走って来た。

「敵船が現れました」

「っ!! 何隻だ!?」

 その表情と慌てようからその可能性を感じていたが、どうやらまた来てしまったようだ。
 あとの問題は数だ。
 ケイはすぐ、モイストに敵船の数を尋ねた。

「20~30ほど……」

「なっ!?」

 とてもこんな少人数の小さな島を攻めるような数ではない。
 あまりの数に、ケイは言葉を失ったのだった。

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