エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

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第6章

第97話

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 人族の船を沈めた翌日、ケイはカンタルボス王国の駐留兵たちと共に、海岸に流れ着く瓦礫を集めた。

「しけてんな……」

 流れ着く瓦礫は、ほとんどが木材ばかり。
 何か魔道具や貴金属・卑金属でも手に入ったらラッキーだと思っていたのだが、こうも木ばかりだと悪態もつきたくなる。

「そっちはモイセスたちに期待するかな」

 島の住人の半分は、海難事故でこの島に流れ着いた者たちで、船の上であっても海に出たくない。
 なので、使う者がいなかったが、一応この島にも船はある。
 ケイが大工道具を使って作った船だ。
 貴金属などは、船と一緒に沈んでしまっている可能性がある。
 モイセスたち駐留兵が、潜ってそれらを捜索するというので貸し出した。
 少しでも何か手に入れば儲けものだ。
 ルイスと同じ村に昔住んでいた者で、グレゴリオという鍛冶師がこの島に移住してきてくれた。
 それによって、農具などが新調できたのはありがたい。
 とは言っても、わざわざ鉄を掘り出すよりも、元々ある鉄を溶かして使った方が手っ取り早い。
 無駄な手間をかけさせられたのだから、せめて役に立つものでも積んでいて欲しいものだ。

「うっ!?」

 モイセスを中心に沈没船内の捜索をしに行った者は半数。
 島に残った残りの半数は、ケイたちと共に海岸の掃除をおこなっていたのだが、海岸に流れ着くのは船の残骸だけでなく、人の肉片も流れてきている。
 こちらの班は、比較的年齢が若いものが多い。
 そのせいか、死体や肉片を見て気分が悪くなるものが何人かいる。
 別にケイたちも何とも思わない訳ではない。
 やらなければ、自分たちはともかく、子供や孫たちに被害が及ぶのだから、やらない訳にはいかないのだ。
 ケイの場合はアンヘルの記憶があるせいか、父や叔父、更には一族の恨みを晴らすという思いもなくはない。
 滅亡寸前まで追い込まれたのだから、この程度の報復は文句を言われる筋合いはない。

「気分が悪いかもしれないが、我慢してくれ」

 海岸に流れ着いた死体などは、アンデット化されても困るので1か所に集めて火葬した。
 死体を運んだりするのを子供たちに見せるのは気が引けるが、彼ら駐留兵はこういったことも仕事の1つ。
 人族の国の幾つかは、他大陸侵略を考えているという噂がカンタルボスの王都に流れていた。
 ここの兵たちは、ここの守備を任せられた者たちなので、カンタルボスが戦争になった場合に参戦する可能性は低いかもしれない。
 それでもゼロではないのだから、慣れろとは言わないが、我慢できるようになっておいた方が良い。
 なので、ケイは辛そうにする兵士たちを鼓舞した。

「また来るかな?」

「……そうだな。来るだろうな……」

 火葬し終わり、骨壺に入れて埋葬すると、隣に立つレイナルドが問いかけてきた。
 2度あることは3度あるというし、恐らくは来るのではないだろうか。
 リシケサ王国とか名乗っていたが、アンヘルやエルフの一族が住んでいたパテル王国とは同盟関係にあったはずだ。
 それもあって、人族大陸の中でもまあまあの存在であるはずなので、わざわざこの島を攻め込んでくる必要はない気がする。
 そんな国が攻めて来るということは、もしかしたら人族大陸で何か起きているのだろうか。
 問題があるとしたら、大軍で押し寄せてきた場合だ。
 2度の失敗で、今度は本気で攻めて来る可能性がある。
 ケイたちの魔法がすごくても、今回のように何の考えもなく、魔法攻撃への対処をする者を連れてこなければ相手にならないが、連れてきたとしたら数次第ではここが滅びるかもしれない。

「レイとカルロスは転移魔法は使えるようになったか?」

「「……まだ」」

 唐突に聞かれ、レイナルドとカルロスは顔を見合わせた後に、声をそろえて返答した。
 ケイ自身も数か月前に使えるようになったばかりだが、ケイの血を引き魔力の多いレイナルドやカルロスなら使えるだろうと思い、魔法を使う時のイメージを伝えた。
 だが、魔法の才に恵まれたエルフの血を引いているとはいえ、元ネタを知っているケイとは違い、彼らはケイから教わった理論の解釈からスタートしなくてはならない。
 練習をしているようだが、まだまだ成功には遠いようだ。

「もしもの時は、お前らが女性や子供を連れてカンタルボスへ避難してもらおうと思ったんだけど……」

 一応ケイは国王的扱いになっている。
 そうなると、カンタルボスの駐留兵には申し訳ないが、もしもの時は島民を優先させてもらうつもりだ。
 大量の人族に攻め込まれたら、助詞や子供以外は戦うかもしれない。
 いや、女性でも戦闘力が高い獣人ばかりなので、女性たちも戦おうとするかもしれない。
 ケイとしては大人の男はともかく、女性たちには避難をしてもらいたい。
 多くの島民を早々に避難させるには、ケイだけでなくレイナルドたちにも使えるようになっていてもらいたい。

「……父さんが連れていけば良いんじゃないか?」

「そうだよ。使えるのは父さんだけだし、魔力も俺たちより大量に持ってるんだから……」

 たしかに、2人の魔力量は膨大だが、ケイの魔力には及ばない。
 寿命のことを考えると、ケイの方が長命かもしれないとすると、2人が魔力量でケイを越えることは不可能かもしれない。
 その分、2人は母の美花から受け継いだ生物を倒した時の成長力(レベルアップ)がある。
 それを生かせば、戦闘力としては同等近くまで行けるのではないだろうか。

「命を懸けるのはお前らより俺の仕事だ」

 国王なら全力で領土を守る。
 それは当然のこと。

「それにお前らは、捕まったエルフの扱いの酷さを全然知らない。死ぬ寸前まで好き放題弄ばれ、わざわざ回復させてからまた死ぬ寸前まで追い込まれることを、何百年も続けさせられる。飽きたと殺してもらえることがありがたいと思えるほどの苦しみを味わい続けるんだ」

「「………………」」

 ケイの言葉には、大袈裟とか誇張をしている訳ではない。
 それが表情から読み取れる。
 そのため、レイナルドとカルロスは、何も言い返せなくなった。



 エルフの仲間が奴隷としてひどい仕打ちを受けているのを、ケイは見たことがある。
 ケイというより、アンヘルが、ではあるが……。
 たいした食事も与えられていないのか、やせ細ったエルフの男性が奴隷の首輪を付けられて貴族の男に引きずるように連れられていた。
 荷物持ちに使われていたようだが、店から出てきた貴族が、エルフ男性はもう手が一杯なのにもかかわらず、さらに荷物を持つように渡した。
 エルフ男性は当然それを落とし、貴族の男性は怒鳴り散らした。
 そして、腹いせのように、そのエルフ男性を公衆の面前で殴り始めた。
 何発も殴られ、当たり所が悪かったのか、エルフ男性は動かなくなった。

「チッ!! 壊れたちまったか?」

 その貴族は「壊れた」と確かに言った。
 完全に物扱いだ。
 それだけでも小さいアンヘルには辛かったのに、

「そこのゴミ箱にでも捨てておけ!」

 更に衝撃を受けた。
 碌に食べさせられていないから、軽かったのだろう。
 従者が1人で、その貴族の指示通り近くのゴミ箱へと放り投げていた。
 あのエルフの男性は苦しみ抜いたにもかかわらず、死んだ後まで酷い扱いをされた。
 何故そこまでされなければならないのか訳が分からない。
 マントで姿を隠し、遠くの路地裏から見ていたアンヘルは、その日は涙が止まらなかった。



「あんな思いはお前らにはさせたくない。この島のみんなにもだ」

「……分かった」

「……とりあえず、転移魔法が使えるように頑張るよ」

 ケイの重い話に自分たちの覚悟が弱かったことを感じたのか、レイナルドとカルロスは神妙な顔をして答えを返したのだった。

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