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第5章
第79話
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「ここがカンタルボスの港町エンツか……」
「……やっぱり人が多いわね」
船内での暗い表情から久しぶりに大地に降り立ち、いつもの元気な表情に変わったケイは、周囲を見渡して呆けている。
隣で同じく表情が元に戻った美花も、人の多さに感心している。
2人とも久々にこれだけの人数を見たからだろうか、完全にお上りさんのようだ。
「ケイ殿のおかげで、大分短縮されましたね」
キョロキョロしているケイたちに、ファウストが話しかけてきた。
ファウストが言うように、ケイの力によって天候次第では1週間以上かかる船旅が、5日ほどで予定の町へ到着した。
ケイたちの島から西に行くと、かなり強力な海流が流れている。
しかし、その海流と平行に北へ向かうにつれて勢いは弱まっていく。
弱まった所を横切り、あとは南西に向かって船を進めるという道のりだ。
強力な海流を抜けさえすれば危険は去るが、帆船なため風次第で船の速度が変わる。
そこで、ケイは魔法で帆に風を送り、船の速度を上げることを提案した。
「構いませんが、よろしいのですか?」
「疲れることより、速く着くことの方が嬉しいので大丈夫です!」
前世で溺れて死んだ記憶と、アンヘルの記憶が相まってか、海上は全然落ち着かない。
これだけの船を動かすとなると強めに風を操る必要があるが、ケイの魔力なら問題ない。
なので、一定の時間魔法を放ち、少し休んでまた魔法を放つを繰り返した。
天気が荒れることも無かったので、かなり時間が短縮することができたらしい。
「帰りはもう少し魔法を使う時間を増やしても大丈夫そうだな……」
島が見える頃には帆に風をどう送ればいいかも分かって来たし、魔力量的にも余裕がある。
これなら風を送る時間をもっと増やすことで、時間を短縮できるはずだ。
「この町はわが国で一番大きな港町になっています。王都からも近く、海産物が豊富なのでかなり発展しております」
海上にいる時間が更に短縮できると喜んでいるケイに、ファウストはこの町の説明を始めた。
説明の通り、少し離れたな所には多くの漁船がビットにロープを巻いて停泊している。
船を建築・修理するためのドックや、大きな市場もその近くにあり、厳つい顔した男性たちが活気よく動きまわている。
「近くには海鮮料理を出す店が多く並んでいます。少し早いですが、昼食に寄って行かれますか?」
「いいですね。この国の海鮮料理がどういうものか試したいですね」
「私も楽しみ」
前世は日本人のケイと、日本に似た文化の国である日向の両親を持つ美花。
2人とも魚介類が好きで毎日のように食べているが、料理をよくするケイは最近ネタ切れになりつつあるため、もっと色々な料理を覚えたいと思っていた。
ファウストの提案に、2人は嬉しそうに乗ることにした。
「どうでしたか?」
「美味しかったです」
「私も美味しかったです」
ファウストが連れて行ってくれた料理店は、王族が通うくらいなだけに確かに美味しかった。
ケイと美花が言ったように確かにどれも良かったが、白身魚の料理が多かった。
ただ、焼いたり煮たりと色々と調理法を変えてはいるが、基本は塩ベースの味付けで、特別新しい感覚は受けなかった。
タンパクで癖がないからか、この国では白身魚の方が国民には好まれているらしい。
それと、ただ単純に取れる魚が白身魚ばかりなのだそうだ。
ケイたちの住んでいる島の近くも白身の魚が多いが、赤身の魚も釣れる。
と言っても、基本鯵ばかりではあるが。
「それでは、馬車を用意しましたのでお乗りください」
「馬車ですか?」
話によると、この港町から1、2日ほど馬車で北西に向かったところに、カンタルボスの王都であるマノガにたどり着くらしい。
ケイと美花の荷物は、ケイの魔法の指輪に収納しているので、ほぼ手ぶらの状態だ。
ならば、馬車で向かうよりも、少しでも早く着くために走っていった方が早いのではないかと思った。
そのことはファウストも分かっているはずなので、ケイは思わず聞き返した。
「お二人はこの国の要人になりますので……」
「あっ、なるほど……」
ケイたちの島を一応国として認めるということは、ケイと美花はその国の代表ということになる。
カンタルボスの国民にも、ファウストの2人への扱いで遠回しに理解させることも狙いである。
なので、ひとっ走りして王都という訳にはいかないようだ。
「お二人は島のことが気になるでしょうから、真っすぐ王都へ向かうのでご容赦ください」
「分かりました」
ファウストも、というかカンタルボス王国も、ケイたちの島が人族に攻め込まれるのは好ましくない。
戦闘力の高いケイが島に戻りたい気持ちは分かる。
丁重にもてなしつつも、時間が短縮できるところは短縮しようと配慮した形だ。
「……ルイスたちのいた村というのは遠いのですか?」
馬車で外の景色を見るのに飽きたケイは、一緒に乗るファウストにふと思ったことを尋ねた。
島に流れ着いたルイスたちは、元はカンタルボスの国の住人だった。
魔物のスタンピードで滅びたと聞いたが、遠いのだろうか。
「エンツから南へ馬で2、3日行ったところですかね。情報が王都へ届くころにはもう間に合わなかったそうです」
事件は20年以上前のこと、ファウストはその時は生まれてもいなかった。
しかし、王国の助けが間に合わなかったことに、申し訳なさそうな表情をしていた。
「……王都に向かう途中に小さな町があるのですが、そちらに村の生存者の方々が住んでいるはずです。……寄っていかれますか?」
「えぇ!」
「お願いします!」
ケイよりも早く美花の方が返事が早かった。
ルイスたちに頼まれたということはないが、2人ともこの国に来るときに気になっていたからだ。
中には、いまだに心に傷を負っている人もいると聞いている。
少しでもその人たちの救いになればと、ルイスたちのことを話そうと思っているのだった。
「……やっぱり人が多いわね」
船内での暗い表情から久しぶりに大地に降り立ち、いつもの元気な表情に変わったケイは、周囲を見渡して呆けている。
隣で同じく表情が元に戻った美花も、人の多さに感心している。
2人とも久々にこれだけの人数を見たからだろうか、完全にお上りさんのようだ。
「ケイ殿のおかげで、大分短縮されましたね」
キョロキョロしているケイたちに、ファウストが話しかけてきた。
ファウストが言うように、ケイの力によって天候次第では1週間以上かかる船旅が、5日ほどで予定の町へ到着した。
ケイたちの島から西に行くと、かなり強力な海流が流れている。
しかし、その海流と平行に北へ向かうにつれて勢いは弱まっていく。
弱まった所を横切り、あとは南西に向かって船を進めるという道のりだ。
強力な海流を抜けさえすれば危険は去るが、帆船なため風次第で船の速度が変わる。
そこで、ケイは魔法で帆に風を送り、船の速度を上げることを提案した。
「構いませんが、よろしいのですか?」
「疲れることより、速く着くことの方が嬉しいので大丈夫です!」
前世で溺れて死んだ記憶と、アンヘルの記憶が相まってか、海上は全然落ち着かない。
これだけの船を動かすとなると強めに風を操る必要があるが、ケイの魔力なら問題ない。
なので、一定の時間魔法を放ち、少し休んでまた魔法を放つを繰り返した。
天気が荒れることも無かったので、かなり時間が短縮することができたらしい。
「帰りはもう少し魔法を使う時間を増やしても大丈夫そうだな……」
島が見える頃には帆に風をどう送ればいいかも分かって来たし、魔力量的にも余裕がある。
これなら風を送る時間をもっと増やすことで、時間を短縮できるはずだ。
「この町はわが国で一番大きな港町になっています。王都からも近く、海産物が豊富なのでかなり発展しております」
海上にいる時間が更に短縮できると喜んでいるケイに、ファウストはこの町の説明を始めた。
説明の通り、少し離れたな所には多くの漁船がビットにロープを巻いて停泊している。
船を建築・修理するためのドックや、大きな市場もその近くにあり、厳つい顔した男性たちが活気よく動きまわている。
「近くには海鮮料理を出す店が多く並んでいます。少し早いですが、昼食に寄って行かれますか?」
「いいですね。この国の海鮮料理がどういうものか試したいですね」
「私も楽しみ」
前世は日本人のケイと、日本に似た文化の国である日向の両親を持つ美花。
2人とも魚介類が好きで毎日のように食べているが、料理をよくするケイは最近ネタ切れになりつつあるため、もっと色々な料理を覚えたいと思っていた。
ファウストの提案に、2人は嬉しそうに乗ることにした。
「どうでしたか?」
「美味しかったです」
「私も美味しかったです」
ファウストが連れて行ってくれた料理店は、王族が通うくらいなだけに確かに美味しかった。
ケイと美花が言ったように確かにどれも良かったが、白身魚の料理が多かった。
ただ、焼いたり煮たりと色々と調理法を変えてはいるが、基本は塩ベースの味付けで、特別新しい感覚は受けなかった。
タンパクで癖がないからか、この国では白身魚の方が国民には好まれているらしい。
それと、ただ単純に取れる魚が白身魚ばかりなのだそうだ。
ケイたちの住んでいる島の近くも白身の魚が多いが、赤身の魚も釣れる。
と言っても、基本鯵ばかりではあるが。
「それでは、馬車を用意しましたのでお乗りください」
「馬車ですか?」
話によると、この港町から1、2日ほど馬車で北西に向かったところに、カンタルボスの王都であるマノガにたどり着くらしい。
ケイと美花の荷物は、ケイの魔法の指輪に収納しているので、ほぼ手ぶらの状態だ。
ならば、馬車で向かうよりも、少しでも早く着くために走っていった方が早いのではないかと思った。
そのことはファウストも分かっているはずなので、ケイは思わず聞き返した。
「お二人はこの国の要人になりますので……」
「あっ、なるほど……」
ケイたちの島を一応国として認めるということは、ケイと美花はその国の代表ということになる。
カンタルボスの国民にも、ファウストの2人への扱いで遠回しに理解させることも狙いである。
なので、ひとっ走りして王都という訳にはいかないようだ。
「お二人は島のことが気になるでしょうから、真っすぐ王都へ向かうのでご容赦ください」
「分かりました」
ファウストも、というかカンタルボス王国も、ケイたちの島が人族に攻め込まれるのは好ましくない。
戦闘力の高いケイが島に戻りたい気持ちは分かる。
丁重にもてなしつつも、時間が短縮できるところは短縮しようと配慮した形だ。
「……ルイスたちのいた村というのは遠いのですか?」
馬車で外の景色を見るのに飽きたケイは、一緒に乗るファウストにふと思ったことを尋ねた。
島に流れ着いたルイスたちは、元はカンタルボスの国の住人だった。
魔物のスタンピードで滅びたと聞いたが、遠いのだろうか。
「エンツから南へ馬で2、3日行ったところですかね。情報が王都へ届くころにはもう間に合わなかったそうです」
事件は20年以上前のこと、ファウストはその時は生まれてもいなかった。
しかし、王国の助けが間に合わなかったことに、申し訳なさそうな表情をしていた。
「……王都に向かう途中に小さな町があるのですが、そちらに村の生存者の方々が住んでいるはずです。……寄っていかれますか?」
「えぇ!」
「お願いします!」
ケイよりも早く美花の方が返事が早かった。
ルイスたちに頼まれたということはないが、2人ともこの国に来るときに気になっていたからだ。
中には、いまだに心に傷を負っている人もいると聞いている。
少しでもその人たちの救いになればと、ルイスたちのことを話そうと思っているのだった。
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