上 下
72 / 375
第4章

第72話

しおりを挟む
「私の主観では、虎人族は攻守、それにパワーとスピードのバランスが良いタイプです」

「へ~」

 試合の開始前、ルイスにファウストのことで何か知らないかと尋ねたら、色々と教えてくれた。
 この島で10年以上過ごしているため、ルイスも彼のことはよく分からないそうだ。
 しかし、彼の父である王のレジェスのことは、少し知っているとのことだった。
 遠くから兵相手の訓練を見ただけらしいが、少しでも情報はあった方が良い。
 親子で同じだとは思えないが、役には立つだろう。

「特に彼は王族なので英才教育を受けているはずです。何の武器で戦って来るかわからないですが、どんな武器でも一流だと思っていた方が良いですね」

「分かった」

 王家の人間は上に立つ者の義務として幼少の頃から戦いの教育を受けているらしい。
 特に獣人は強いことが重要なので、色々な武器を訓練しているそうだ。

「……で? どうすればいい?」

 聞いた感じだけだと、まだファウストの戦い方は分からない。
 だが、相手もケイの戦闘スタイルは分からないはずなのだから、始まって見定めるしかない。
 答えを期待したわけではないが、ルイスが大丈夫だというから何か考えがあるのかと思い、ケイは尋ねた。

「いつも通り魔力でねじ伏せれば大丈夫です!」

「そ、そうか……」

 ルイスは頭を使うタイプだと思っていたのだが、帰って来たのは脳筋な答えだった。
 そんなことで大丈夫なのかと言いたくなるのを抑え、ケイは頷くしかなかった。






「おわっ!?」

 そして始まったファウストとの戦いだったが、開始早々ケイは慌てた。
 同じ獣人のルイスのイメージが強かったからか、出足が遅れた。
 相手に自分のスタイルを掴まれる前に、攻撃を加えようとお互い思っていたようだ。
 だが、ファウストの動きがケイの予想を上回った。
 その速度に僅かに遅れたせいで、ケイは意識を攻撃の回避に変えた。
 ファウストの手には片刃の剣、峰の部分でケイの胴部分を薙いできた。
 それをケイは、ギリギリの所でバックステップして躱す。
 先程までケイがいた場所を、ファウストの剣が風切り音と共に通り抜けた。

「っ!?」

 攻撃を躱されたファウストの方は、驚いたような表情をした。
 その一撃で終わらせるつもりだったのか、少し大振りだったため、ファウストも下がって距離を取る。

「……躱されるとは思いませんでした」

「こっちも驚きましたよ。想像より早くて……」

 ファウストは少し嬉しそうに話しかけてきた。
 ケイもちょっと焦ったのを見られ、照れたように話しかけた。

「久しぶりに楽しめそうで嬉しいですよ」

「そうです……か?」

 話している最中だったが、ケイはいつの間にかファウストの武器が変わっていたことに気付いた。
 さっきは剣だったはずなのに、それがなくなって弓になっていた。
 しかも、ケイの話が終わる前には矢をつがえて引ききっていた。

「……っと!?」

 放たれた矢は、ケイの足目掛けて飛んで来る。
 それをケイは左に飛んで躱す。

「っ!? っと!? っと!?」

 最初の矢を躱したところへ、ファウストは次の矢を放ってくる。
 それが繰り返され、ケイは右へ左へと動かされる。

「わっ!?」

 ケイの意識を下に移させるのが狙いだったらしく、次にファウストは弓から槍に武器を変えてケイの右腕に突きを放ってきた。
 それをケイは体を捻って躱し、ファウストの左へ回る。
 ファウストの槍は、鉛筆のような刺突がメインの攻撃な形態。
 回れば刺されることはない。

「スゴイ! これにも反応しますか……」

 完全に自分の土俵に持って行ったように思えたのだが、ケイに大怪我を負わせないようにしているとは言っても、避けられるような攻撃をしているつもりはない。
 初見の相手は、自分の攻撃のバリエーションに面食らっているうちに勝負に負けるのが常なのだが、ケイにはまだ余裕が感じられる。
 弓から槍に変わったのを見て躱し、この槍の形状から横へ横へと回られれば、致命傷を与えられる刺突ではなく打撃として使うしかなくなる。
 打撃なら、数発食らったくらいでは致命傷にならないと、ちゃんと分かっている動きだ。
 そのことに、ファウストは驚きながらも楽しくなってくる。
 父や兄以外で、ここまでの対応をすんなりこなすケイの実力に、自分以上の強者が持つ様な匂いを感じ取ったからだ。
 獣人とは、強者に挑むことが楽しい人種なのかもしれない。

『サ〇ヤ人か!?』

“ヒュン!!”

「っ!?」

 攻撃を躱されながらも笑みを浮かべるファウストに、ケイは内心ツッコミを入れていた。
 そして、そろそろ攻撃を開始しようと思ったのだが、またもファウストの武器が変わっており中止する。
 今度はまた剣に変わっており、袈裟斬りを放ってきた。
 だが、ケイは慌てることなく躱し、距離を取る。

「面白い戦い方ですね」

「……そうですか?」

 距離を取ったケイが明るく言う。
 武器をコロコロ変える戦闘スタイル。
 それがファウストの戦い方。
 そして、それをどうやっているかも分かった。
 逆にファウストは、この短期間ではまだ自分の戦闘スタイルの全貌を掴まれていないと思っており、ケイの笑みの意味を理解していなかった。

「そろそろ終わらせますね?」

「……できるならどうぞ!」

 そういうと、ケイは戦闘開始時から使っている魔闘術の魔力量を上げた。
 ここまでが全力でなかったというのは自分も同じだが、ケイの周囲の空気が重くなったように感じたファウストは、知らぬ間に流れてきた汗を背中に掻きながら答える。

「では……」

 一言呟くと、ケイは姿を消したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

錆びた剣(鈴木さん)と少年

へたまろ
ファンタジー
鈴木は気が付いたら剣だった。 誰にも気づかれず何十年……いや、何百年土の中に。 そこに、偶然通りかかった不運な少年ニコに拾われて、異世界で諸国漫遊の旅に。 剣になった鈴木が、気弱なニコに憑依してあれこれする話です。 そして、鈴木はなんと! 斬った相手の血からスキルを習得する魔剣だった。 チートキタコレ! いや、錆びた鉄のような剣ですが ちょっとアレな性格で、愉快な鈴木。 不幸な生い立ちで、対人恐怖症発症中のニコ。 凸凹コンビの珍道中。 お楽しみください。

強制無人島生活

デンヒロ
ファンタジー
主人公の名前は高松 真。 修学旅行中に乗っていたクルーズ船が事故に遭い、 救命いかだで脱出するも無人島に漂着してしまう。 更に一緒に流れ着いた者たちに追放された挙げ句に取り残されてしまった。 だが、助けた女の子たちと共に無人島でスローライフな日々を過ごすことに…… 果たして彼は無事に日本へ帰ることができるのか? 注意 この作品は作者のモチベーション維持のために少しずつ投稿します。 1話あたり300~1000文字くらいです。 ご了承のほどよろしくお願いします。

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...