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第4章

第62話

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「ぐっ!?」

 レイナルドと代わったケイだが、思った以上の落石の威力による衝撃に思わず声を漏らした。
 上空から重力によって加速してきた落石は、生半可な魔力障壁では防ぎきれないだろう。
 しかも、いくつも落ちてくるのだから気が抜けない。
 
「父さん! あれは……」

「なっ!?」

 レイナルドが上空を指さしてケイに叫ぶ。
 その指さす方向を見て、ケイも慌てたような声を漏らす。

「「でかっ!!」」

 ケイたち親子は、思わず声を出してしまう。
 それもそのはず、F〇のメテオでも放ったのかと言いたくなるほど巨大な岩石が、高熱を纏い、赤々とした色をしてこちらに向かって落下してきたからだ。

「クッ!?」

 あんなの防ぐとなると、今の障壁では持ちこたえることなんてできない。
 噴火がまだ治まらない状況で、できれば魔力を消費したくない。

【しゅじん! まかせる!】

「キュウ!?」

 レイナルドは魔力を消費して、しばらく休まないと魔力が枯渇してしまう可能性がある。
 魔力を使い切ってしまうと、気を失ってかなりの時間目を覚まさなくなってしまう。
 貴重な役割を担うレイナルドに抜けられたら、ケイだけでは抑えられずに、洞窟内のみんなにも被害が及ぶ可能性がある。
 こうなったら、美花に助力を頼むしかないかとケイが悩んでいると、キュウの念話が届いてきた。

【あれ! こわす!】

 魔力障壁を張っているケイの頭の上に乗り、キュウは魔力を開いた口の先に集める。
 キュウにはケイが魔法を教えたので、色々な属性の魔法が使える。
 しかし、今は属性を気にする必要はない。

【ハー!!】

 全魔力を使用した魔力弾を、キュウは巨大な岩石目掛けて発射した。

“ボガンッ!!”

「おぉ!」

 キュウの魔力弾によって巨大な岩石が弾け飛んだ。
 それによってバラバラに砕けた巨大岩石は、散らばるようにケイたちの周辺に落下したのだった。

【ごめん! しゅじん! これでぜんぶ……】  

 巨大岩石を破壊するためにほとんどの力を使い切ったのか、キュウはヨロヨロとケイの胸ポケットの中に入って行った。
 ギリギリ気を失わない程度の魔力しか残っていないらしく、手短に念話でしゃべると、ポケット内で動かなくなった。
 もしもの時のために、少しでも魔力を回復しようとしているのかもしれない。

「大丈夫だ。これで落石の防御に集中できる」

 大人しくなったポケット内のキュウに一言告げ、ケイは安心して魔力障壁に専念できるようになった。

「……でも、こんなのいつまでも防げるか……」

 ケイが作った壁のこちら側の噴火は、まだまだ威力が治まらない。
 さっき程の岩石がまた飛んで来るとは考えにくいが、低い可能性としてはある。
 それでなくても、落下によって威力の増した岩石が降り注いできているこの状況を、いつまで続けないか分からない。
 終わりが見えないことを続けるのは、やってる精神にかなりの負担がかかる。
 レイナルドが言うように、我慢もいつまで持つことか。

「ヤバい! 父さん! 溶岩が迫って来てる!」

「くそっ! マジかよ……」

 折角巨大岩石の落下の窮地を、キュウによって逃れたというのにもかかわらず、今度は溶岩が迫って来ていた。
 見張りの壁が、ある程度溶岩の流れを防いでくれるかもしれないが、それもいつまで持つか分からない。
 一難去ってまた一難が迫り来る中、ケイはどうするか考え始めた。

「「「……!!」」」

「んっ!?」

 ケイが苦肉の策として美花を呼ぼうかと考え出した時、洞窟の側にいた大人のケセランパサランたちが走り出した。

「マル! ドン! ガン! どこ行くんだ!? ここから離れるな!!」

 キュウと違い、マルたちはまだ念話ができないので、ケイには彼らが何をするのか判断できない。
 いくらケセランパサランの中でも特殊なほど強くなったといっても、この状況で障壁から出て行くのは危険すぎる。
 そう思って、ケイはマルたちを止めたのだが、チラッとケイに目を向けた後、マルたちは魔力障壁から抜け出して行ってしまった。

「おいっ!!」

【マルたち! かべ! つくるって……】

 マルたちがケイの忠告を聞かずに走り出して行ってしまったのを、レイナルドも止めようとしたのだが間に合わず、マルたちはどんどん西へ走っていった。
 行ってしまったマルたちの考えを、キュウがポケットから顔を覗かして念話を送ってきた。

「壁?」

【あかいドロドロとめるって……】

 キュウが言うには、どうやらマルたちは、溶岩の流れがこちらに来ないようにかべを造りに向かったらしい。

「確かに止めないとすぐにこっちに来てしまうだろうが、危険すぎる」

 山から一番と言って良いほど離れているここでも落石が酷いのに、そんな中壁を造りに行くなんて無茶が過ぎる。

「マル! ドン! ガン! 戻れ! 俺はそんな指示してないぞ!!」

 キュウの言葉を聞いて、ケイは障壁を張りながら大声でマルたちの名を呼ぶが、もうそれが届かないほど離れて行ってしまっていた。

「くっ!? どうして……?」

【マルたち、うれしい】

 いつも素直にケイの言うことを聞くマルたちが、完全に無視するように言ってしまったことに、ケイは訳が分からなかった。
 すると、マルたちの考えを、念話ができるキュウが代わりに説明してきた。

「うれしい……?」

【キュウたち、ケセランパサラン、弱い。でも、しゅじん、みんなをつよくしてくれた】

【いつもおいしいたべものたべさせてくれた】

【だから、やくにたって、おんかえしたい! それがいま!】

「……………………」

 キュウの話を黙って聞いていたケイは、嬉しい気持ちと悲しい気持ちが混ざったような複雑な表情でうつむいてしまった。

「何言ってんだよ! マルもガンもドンも家族だろ? 恩返しなんていいから死んだら駄目だ」

 キュウたちがそんな風に思っているとは、ケイはこれまで思ってもいなかった。
 たった一人で無人島生活をケイが過ごせたのは、キュウがいたからだ。
 寂しくても、キュウのために頑張らなくてはと頑張れた。
 マルたちが増え、美花が流れ着いて子供もでき、獣人たちや魔人のシリアコも増えた。
 みんながいるから、ケイは頑張れるのだ。
 この島で一緒に過ごす家族なのだから。
 それはマルたちケセランパサランも同じ。
 従魔ではあるけれど、一緒に暮らす家族なのだ。
 それでも、マルたちを連れ戻しに行けない状況に、ケイは唇を噛んで耐えるしかできなかった。

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