上 下
59 / 375
第4章

第59話

しおりを挟む
「さてと、始めるか……」

 美花が村に向かったところで、ケイは地震に対しての細工を始めることにした。
 といっても、ケイは噴火のメカニズムなど詳しいことは分からない。
 なので、今からやることは完全に無駄なことかもしれない。

「いくらなんでも噴火を止められるとは思わない。けど、なるべく村に被害が来ないようにするぐらいは……」

 火山の噴火でケイが思い浮かぶのは、溶岩流と火砕流。
 溶岩流は、そのまま溶岩が流れ下ることで、火砕流は、火山灰や岩石が流れ下ることだ。
 前世の時なら避難をするぐらいしか被害を受けなくする方法は無いが、ここは異世界。
 魔法という異能の力が存在している。
 更に言うなら、魔法に愛された一族の生き残りであるケイなら、自然災害の被害を最小限に抑えられるかもしれない。

「運が良いのか、悪いのか、火口らしき場所は北の海側。大体は海に流れるはず……」

 当然火山の噴火なんて困ったことだが、煙が出ている所を見るとあそこが火口なのだろう。
 土砂崩れなどで海沿いの斜面になってくれているため、溶岩流が海へ流れてくれるのはありがたいことだ。
 とは言っても、噴火の威力や規模次第では村の方向にも流れる可能性がある。

「もしもの時のことを考えて魔力を残しておかないと……」

 地面に手をついて、ケイは魔力を地面に流し始める。

「ハァッ!!」

“ボゴゴゴ……!!”

 気合いを込めた言葉と共に、ケイは流した魔力を使って地面の土を隆起させる。
 それによって、強固な高い壁がどんどんと出来上がっていく。

「ハァ、ハァ、これなら村には流れてこないだろう」

 山の形を変えるような膨大な魔力を使い、村方面の部分に厚みのある壁ができた。
 頂上より高い壁ができたことで、恐らく溶岩が村にまで来ることはないだろう。
 息を切らしながらも、ケイは満足そうに笑みを浮かべた。

「……噴火口にも何かした方が良いかな?」

 考えてみたら、噴火した時に気をつけないといけないのは溶岩だけじゃない。
 火山灰や噴石なども恐ろしい。
 幾ら魔法があるからといって、それを全て防ぐというのは範囲的に不可能だ。
 ならば、噴火口の上に厚い壁で蓋をしてしまえば、少しは抑えることができるのではないかと単純に思いついてしまった。

「噴火口を塞いだら、ガスが逃げられなくなって噴火が早まるかもしれないから……」

 簡単な知識としてケイが覚えているのは、ガスや水蒸気が逃げ場を失って爆発を起こすものが、噴火だと思っている。
 なので、噴火口を閉じてしまうのは良くないだろう。

「……てことは、噴火口を広げたら噴火の規模が弱まるのかな?」

 ケイの知識が正しいなら、ガスなどの逃げ場である噴火口を広げれば、大爆発を起こす程溜め込まないのではないだろうか。
 もしかしたら、噴火も起こさない可能性もある。

「……いや、やめとこう」

 試したい気持ちもあるが、少しの間考えたケイは噴火口を広げることはしないことに決めた。
 はっきり言って、ビビったのだ。
 噴火口を広げようとしたところで、もしこんな距離で噴火でもしようものなら、絶対に大怪我する。
 それでも村への被害を抑えられるならと、やろうかとも思った。
 だが、別れ際に美花に無理をするなと、釘を刺されていたことが何度もチラついた。
 そうなると、噴火よりも美花の方が恐ろしい。
 言われた通りにこれ以上の無理は止めることにした。

「そうだ!」

 噴火口に何か細工するより、噴き出した時に火山灰が飛び散らないようにできないか考えた。
 村側に作った壁に半円のドームのような物を天井のように作って、噴火した瞬間天井に噴石などが当たるようにできないかと思いついた。
 これなら噴火口自体には何も手を加えていないため、噴火を早めるようなことにはならないはずだ。

「ハッ!!」

 またも大量の魔力を消費し、ケイは思いついたことを実行に移す。
 何本も太い柱を作り、噴火口の上に天井のような物ができあがる。
 分厚い物を作ろうと思ったのだが、重くなりすぎると天井自体を抑えきれなくなるので、柱で支えきれる程度の厚さに抑えておいた。

「気休めにしかならなさそうだが、無いよりはマシだろう」

 壁に比べたら薄く感じる天井だ。
 これで噴石などを抑えきれるとは到底思えない。
 だが、たった数秒でも抑えられればやった甲斐があるというものだ。

「よし、噴火を起こす前に俺も戻ろう」

 噴火口から出ている煙は、気のせいかもしれないが大きくなっている気がする。
 やることもやったことだし、早々にここから離れた方が良いだろう。

“バッ!!”

 魔力を足に集め、ケイは一気に山から駆け下り始めた。
 途中周囲を探知をするが、やはり魔物の気配は感じられない。
 急いでいるので、ケイとしても魔物に遭遇しないのはありがたい。

「……地震か?」

 村に向かって一直線に突き進むケイだが、その途中で僅かに地面が揺れた気がした。
 ただ、かなり弱い振動だったので、ケイは足を止めることなくそのまま村へと向かった。

「父さん!?」

「おっす、レイ! 帰ったぞ」

 村の見張り場にたどり着くと、息子のレイナルドがいた。
 ケイの姿を見つけ、レイナルドは思わず笑顔になった。
 そんな息子に対し、ケイは軽い口調で返事をしたのだった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。 光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。 目を開いてみればそこは異世界だった! 魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。 あれ?武器作りって楽しいんじゃない? 武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。 なろうでも掲載中です。

処理中です...