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第3章
第51話
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「えっ!? 豆乳からチーズが作れるのか?」
「えぇ、できると思いますよ」
秋の終わり、収穫も全て済んで冬支度を始めたころ、ルイスと話しているとチーズの作り方を知っているという話になった。
ケイは牛乳がないのでチーズなどの乳製品は作れないものだと思っていた。
しかし、牛乳の代わりに豆乳でも作れるそうだ。
前の村で牧場で働いていた時、ルイスは乳製品の製造も手伝ったりもしていたらしく、牛乳じゃなくても作れると聞いていたそうだ。
「……そうか。動物性と植物性の違いがあるけど、代用できるのか……」
ここに住み着いて20年以上経って、ケイはようやくこのことに気が付いた。
よく考えればもしかしたらもっと早く思い出していたかもしれないだけに、何だか損したような気分がする。
「まぁ、でもチーズの作り方は知らないから意味ないか……」
確かに考えれば代用できると思いつくかもしれないが、作り方を知らなければ結局のところ意味がない。
そう思うと、さっきのこともどうでもよくなった。
「豆乳と何が必要なの?」
さっさと気持ちを切り替えて、ルイスに豆乳チーズの作り方を教わることにした。
「レモンかお酢があれば作れますよ」
「…………えっ? それだけ?」
「はい」
「え~……」
もっと何か必要なのかと思っていた。
これなら魚醤なんかより簡単だったかもしれない。
あまりの材料の少なさに、ケイはちょっと茫然としてしまった。
「あっ! レモンもお酢もないや……」
材料は少ないが、よく考えたらこの島でレモンなんて見たことがない。
獣人の国とかだと結構簡単に手に入るらしいが、まさか船で行く訳にもいかない。
お酢も作り方が分からず放置してきた。
「ん~、この赤い実でいいかな?」
ケイがこの島に来た初期の頃、酸味がある赤い実を見つけた。
お酢を造ることができないので、この実を潰して出た汁を代わりに使って来た。
畑の一部でわざわざ育てているほど重宝している。
レモンにもお酢にも近い感じがするので、これでも出来るのではないかとケイは考えた。
「……この実は何ですか?」
「……さあ?」
「「………………」」
ルイスに言われ、今更ながらこの実が何なのか考えたが、ケイにも答えようがなかった。
この世界の鑑定では名前が分かるということはないのだから、仕方がない。
その鑑定で見たところ、ちゃんと食用ではある。
ルイスも何の実だか分からないため、ケイの言葉を聞いて無言になってしまった。
よく分からない実を使ってできるのか疑問に思い、2人とも無言になるという変な間ができてしまった。
「……とりあえず作ってみますか?」
「だな!」
考えても仕方がない。
代わりになりそうな材料がこれしかないのだから、これで試してみるしかない。
ケイたちはとりあえず、豆乳作りから始めた。
使うのは、これまた昔にケイが見つけたインゲン豆のような実の豆の部分だ。
味噌を作るのに使うので、畑で育てている。
味自体はまあまあといった感じで、手入れしてもあまり味は向上していない。
今でも塩を作る時があるので、その時ついでにできたにがりで豆腐を作ったりもしている。
翌日、豆乳が必要なので豆を水に1日つけ吸水させた。
昔はそれを人力で潰していたが、今は違う。
魔法でミキサーのようにしてあっという間に豆を潰して火にかけ、搾って豆乳を作り上げる。
「では、できた豆乳をいれた鍋を火にかけてください」
「あいよ!」
ルイスに指示され、ケイは返事と共に竈に豆乳をいれた鍋を置いた。
「火力は?」
「中火くらいで軽く混ぜてください」
「あいよ!」
竈だと火が安定しないのが不安だが、沸騰しないようにすればいいとのことなので、それほど難しくない。
「火を消してレモン代わりの汁を入れてください」
「あいよ!」
ここまでは特に何も変化がない。
「軽く混ぜてあとは少し待ちます」
「ん? もしかしてこれで水斬ったのがチーズなのか?」
レモンやお酢の代わりに、赤い実を絞った汁を入れると少しずつ変化が訪れてきた。
ここまで来ると、テレビで見たような記憶がある。
搾ってできたのがチーズで、出た水がホエーとかいう物だった気がする。
「そうです」
「こんな簡単だったのか……」
聞いてみたらやはりそうだった。
まさかこんな簡単にできるとは思っていなかった。
ここまで簡単なら覚えておきたかった。
「これで出来たのがカッテージチーズになります」
「へ~……、あっ! 本当にチーズだ! スゲエ!」
できたのを味見してみたら、確かにチーズの味だった。
これなら色々な料理に使えそうだ。
そう考えると、ケイのテンションは上がる一方だ。
「豆乳で他にも何か作れるのか?」
「試してみないと分からないですが、いくつかありますね」
どうやら乳製品に関してはケイよりもルイスの方が詳しそうだ。
牛乳ではなく豆乳になるが、他にも作れそうなら試して見る価値はある。
「じゃあ、ルイスには豆乳で色々作ってもおうかな? もちろん時間がある時で構わないけど……」
「分かりました」
これから冬になると、みんなやることがなくなる。
カルロスと、念のためセレナはまだ許可できないが、それ以外の者はダンジョンには数人で交代交代で行くように決めてある。
何日も行ったままなのは不安になるので、最高3日までしか潜ってはいけないというのも決まりにした。
そうなると、どうしても暇な時間はできる。
その時にやることができたので、ルイスとしても好都合だ。
その日、ケイはできたばかりのチーズを使って、米粉の生地のピザをみんなに振舞ったのだった。
「えぇ、できると思いますよ」
秋の終わり、収穫も全て済んで冬支度を始めたころ、ルイスと話しているとチーズの作り方を知っているという話になった。
ケイは牛乳がないのでチーズなどの乳製品は作れないものだと思っていた。
しかし、牛乳の代わりに豆乳でも作れるそうだ。
前の村で牧場で働いていた時、ルイスは乳製品の製造も手伝ったりもしていたらしく、牛乳じゃなくても作れると聞いていたそうだ。
「……そうか。動物性と植物性の違いがあるけど、代用できるのか……」
ここに住み着いて20年以上経って、ケイはようやくこのことに気が付いた。
よく考えればもしかしたらもっと早く思い出していたかもしれないだけに、何だか損したような気分がする。
「まぁ、でもチーズの作り方は知らないから意味ないか……」
確かに考えれば代用できると思いつくかもしれないが、作り方を知らなければ結局のところ意味がない。
そう思うと、さっきのこともどうでもよくなった。
「豆乳と何が必要なの?」
さっさと気持ちを切り替えて、ルイスに豆乳チーズの作り方を教わることにした。
「レモンかお酢があれば作れますよ」
「…………えっ? それだけ?」
「はい」
「え~……」
もっと何か必要なのかと思っていた。
これなら魚醤なんかより簡単だったかもしれない。
あまりの材料の少なさに、ケイはちょっと茫然としてしまった。
「あっ! レモンもお酢もないや……」
材料は少ないが、よく考えたらこの島でレモンなんて見たことがない。
獣人の国とかだと結構簡単に手に入るらしいが、まさか船で行く訳にもいかない。
お酢も作り方が分からず放置してきた。
「ん~、この赤い実でいいかな?」
ケイがこの島に来た初期の頃、酸味がある赤い実を見つけた。
お酢を造ることができないので、この実を潰して出た汁を代わりに使って来た。
畑の一部でわざわざ育てているほど重宝している。
レモンにもお酢にも近い感じがするので、これでも出来るのではないかとケイは考えた。
「……この実は何ですか?」
「……さあ?」
「「………………」」
ルイスに言われ、今更ながらこの実が何なのか考えたが、ケイにも答えようがなかった。
この世界の鑑定では名前が分かるということはないのだから、仕方がない。
その鑑定で見たところ、ちゃんと食用ではある。
ルイスも何の実だか分からないため、ケイの言葉を聞いて無言になってしまった。
よく分からない実を使ってできるのか疑問に思い、2人とも無言になるという変な間ができてしまった。
「……とりあえず作ってみますか?」
「だな!」
考えても仕方がない。
代わりになりそうな材料がこれしかないのだから、これで試してみるしかない。
ケイたちはとりあえず、豆乳作りから始めた。
使うのは、これまた昔にケイが見つけたインゲン豆のような実の豆の部分だ。
味噌を作るのに使うので、畑で育てている。
味自体はまあまあといった感じで、手入れしてもあまり味は向上していない。
今でも塩を作る時があるので、その時ついでにできたにがりで豆腐を作ったりもしている。
翌日、豆乳が必要なので豆を水に1日つけ吸水させた。
昔はそれを人力で潰していたが、今は違う。
魔法でミキサーのようにしてあっという間に豆を潰して火にかけ、搾って豆乳を作り上げる。
「では、できた豆乳をいれた鍋を火にかけてください」
「あいよ!」
ルイスに指示され、ケイは返事と共に竈に豆乳をいれた鍋を置いた。
「火力は?」
「中火くらいで軽く混ぜてください」
「あいよ!」
竈だと火が安定しないのが不安だが、沸騰しないようにすればいいとのことなので、それほど難しくない。
「火を消してレモン代わりの汁を入れてください」
「あいよ!」
ここまでは特に何も変化がない。
「軽く混ぜてあとは少し待ちます」
「ん? もしかしてこれで水斬ったのがチーズなのか?」
レモンやお酢の代わりに、赤い実を絞った汁を入れると少しずつ変化が訪れてきた。
ここまで来ると、テレビで見たような記憶がある。
搾ってできたのがチーズで、出た水がホエーとかいう物だった気がする。
「そうです」
「こんな簡単だったのか……」
聞いてみたらやはりそうだった。
まさかこんな簡単にできるとは思っていなかった。
ここまで簡単なら覚えておきたかった。
「これで出来たのがカッテージチーズになります」
「へ~……、あっ! 本当にチーズだ! スゲエ!」
できたのを味見してみたら、確かにチーズの味だった。
これなら色々な料理に使えそうだ。
そう考えると、ケイのテンションは上がる一方だ。
「豆乳で他にも何か作れるのか?」
「試してみないと分からないですが、いくつかありますね」
どうやら乳製品に関してはケイよりもルイスの方が詳しそうだ。
牛乳ではなく豆乳になるが、他にも作れそうなら試して見る価値はある。
「じゃあ、ルイスには豆乳で色々作ってもおうかな? もちろん時間がある時で構わないけど……」
「分かりました」
これから冬になると、みんなやることがなくなる。
カルロスと、念のためセレナはまだ許可できないが、それ以外の者はダンジョンには数人で交代交代で行くように決めてある。
何日も行ったままなのは不安になるので、最高3日までしか潜ってはいけないというのも決まりにした。
そうなると、どうしても暇な時間はできる。
その時にやることができたので、ルイスとしても好都合だ。
その日、ケイはできたばかりのチーズを使って、米粉の生地のピザをみんなに振舞ったのだった。
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