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第3章

第48話

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「へ~、これが腹痛に効くのか……」

 黄色い花が咲いた植物を前に、ケイは感心したように呟いた。
 ルイスに聞いたところ、リリアナの家は漢方などを扱った薬局のような店をしていたらしい。
 ただ、リリアナ自身は近所の料理店でウエイトレスをしていて、たまに手伝いをするだけで多くは知らないとのことだった。
 それでも、何かしら役に立つ植物がこの島に自生しているかもしれない。
 そう思って、美花とルイスと共にリリアナを連れて西の島に調査をしに来た。
 リリアナが言うにはこの花の根が腹痛に効く植物の一種らしい。

「鑑定では食べられるかどうかだけだからな……」

 鑑定術にはいくつかの種類がある。
 1つ目は食べられるかどうか。
 食べられないのは大体毒なので、これで判定している。
 2つ目は敵の強さの判別。
 これで敵の脅威度がある程度計れる。
 鑑定術では食べられるかどうかというのが分かる程度で、何が薬になるとかよく分からない。
 回復薬の薬草ならアンヘルの知識で分かっていたので手に入れられたが、漢方などの治療薬の材料なんか分かる訳がない。

「これまでどうしていたんですか?」

「俺も美花も腹痛なんて起こしたことなかったから……なっ?」

「うん!」

 リリアナの問いに俊輔と美花は何でもないようにいった。
 これまで食べ物は傷んだ物とかを口にしないように、なるべく新鮮な物を食べてきた。
 痛んでそうなものは、いつの間にかキュウたちケセランパサランたちが食べてしまっていたので、腹を壊したことなど一度もない。
 それだけ食生活は安定しているということだ。

「お二人が育てている野菜は美味しいですし、生で何かを食べるなんてなかったからですかね?」

 ルイスが言うように野菜以外で生で食べるのは控えてきた。
 昔育て始めたころの野菜の味はいまいちで、栄養のある土を混ぜて野菜が美味くなるように工夫してきた。
 これによって、まあまあ美味しい野菜ができるようになったとは思う。
 それに、ケイも美花も生で魚を食べられるのだが、寄生虫とかが怖いので火を通して食べるようにしていたおかげかもしれない。

『んっ? これってもしかして生姜か?』

 リリアナに言われた黄色い花を抜いてみると、ボコボコした根っこが出現した。
 その形は前世でも見たことがある形をしていた。
 しかし、ケイは別に料理が得意ではなかったため確信が持てない。

「これ生姜?」

 ケイが思っている言葉と同じようなことを、美花がタイミングよく口にした。

「日向ではショウガと言うのですか? 我々はヘンヒブレと呼んでいます」

「そうなんだ……」

 呼び方が違うだけでやはりこれは生姜のようだ。
 生姜なら体にいいと言うのは納得できる。
 ケイの中の浅い知識で言うと、風邪ひいた時に生姜湯が良いとか冬によく聞いたイメージだ。

「これを食材に使うのか?」

「はい」

 こんな食材をずっと見逃していたかと思うと、何だか今まで損していた気分だ。
 生姜があるのなら思いつく料理がある。
 時々無性に食べたくなる定番の料理。
 豚肉の生姜焼きだ。

「ちょっとケイ! 大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫……」

 生姜焼きの味を思い出してしまい、1人だけ一瞬時が止まった。
 そのボケッとした表情がおかしかったのか、美花に心配されてしまった。
 それを誤魔化すようにケイはすぐに表情を戻した。

「他には…………あっ!」

「んっ? 見つかったか?」

 リリアナが指さす方向を見ると、そこには紫色した花が咲いた植物があった。
 また根っこに何かあるのかと思ったのだが違った。
 よく見てみると、物凄く小さな茄子が付いていた。

『こんなの注意深く見ないとみつからないよ』

「この植物は体を冷やしてくれるといわれ、夏にいい食材です」

 魔物もいるため、鑑定術で見渡しただけで細かく探したわけではない。
 それでも多くの野菜が見つかったので満足していたのだが、食材は多い方が望ましい。
 茄子なんて似ても焼いてもいいし、漬物にもできる。
 食事の幅が広がる食材だ。
 もっと早く見つけたかった。



「よし! 今日はこれで料理を作ろうか」

 生姜を使った料理はもう決まっている。
 なので、あとは茄子を使った料理だ。
 ケイは別に前世で料理が上手かったわけではないが、自分のために作っているうちに少しずつ上達してきた。
 美花も料理はできるが、はっきり言ってケイの方が上手い。
 前世の知識があるからだろうか。
 美花もそのことを気にする訳でもなく、美味しい物が食べられるのだからとケイに任せることが多い。

「はい! 茄子と鶏肉のトマト煮込み」

「おぉっ!」

 みんな美味しそうな香りに嬉しそうだ。
 女性陣の反応が特にいい。
 野菜多めでながらさっぱりしてそうな見た目が良いのかもしれない。

「次は豚の生姜焼きだ!」

「おぉっ!!」

 こっちは男性陣が喜んだ。
 彼等は野菜だけの料理だとちょっと反応が鈍いので、分かりやすいと言えば分かりやすい。
 これにはケイも分からなくない。
 この香りと見た目を考えればがっつきたくなる。
 他にも料理を出したのだが、この2品の方があっという間になくなった。
 男性だけでなく女性の方も生姜焼きが気にいたらしく、夕食に出してほしいと催促される頻度が高くなった。
 これがあって、ケイたちは生姜の栽培を始めることになった。

 
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