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第2章

第36話

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「「……………………」」

 冬も終わり、今年も僅かに降った雪が解けきり、日中の温度が心地よくなりだした春。
 拠点近くの海岸の砂浜で、対峙するケイと美花。
 美花は腰に差した鞘から抜いた刀を、ケイは左手に銃を持って右手はフリー。
 お互い魔闘術を使用した状態。

「ハッ!!」

 先に動いたのは美花。
 砂を蹴ってケイとの距離を一気につめる。
 足場が悪いにもかかわらず、あっという間に刀が届く距離まで近付いた。
 上段に振り上げた刀を、美花はためらいなく振り下ろす。

“ガンッ!!”

 振り下ろされた刀を、ケイは銃を使って受け止める。
 元々は流れ着いた水死体の持ち物を利用して作った銃だが、その後島やダンジョンで倒した魔物から手に入れた素材を合成し、銃の耐久性は錬金術で強化されている。
 しかも魔闘術で更に強化されているので、刀を受け止めても傷1つ付かない。

「っ!?」

“パンッ!!”

 攻撃を止められた美丘は、そのまま力で押し切るようなことをせず、すぐさま横へ飛び退く。
 その素早い判断のおかげで、ケイの撃った銃弾を躱せた。

「いつも思うけどずるいわよね。その攻撃」

「ははっ、攻防一体でいいだろ?」

 少し距離を取った所で美花はさっきの攻撃について文句を言って来た。
 ケイが美花が流れ着くまでに、1人で魔物と戦い続けながら作り上げた戦闘スタイルなので、そう言われてもどうしようもない。
 父や叔父に教わった格闘術の型に、銃を使った戦法を独学で作り上げたものだ。
 ただ、武術として言えば、美花の剣術の方が洗練されていて無駄がないように思える。

 先程の攻防は、美花の攻撃を受け止めつつ銃口を向け、そのまま引き金を引いて攻撃をしたのだ。
 受け止めてすぐに攻撃するので、常に銃口を目で追っていないと、自分が攻撃した瞬間に銃弾を受けてしまう。
 ケイからしたら、美花は攻撃をした後隙だらけになることが多い。
 そうならないように、攻撃した後も常に攻撃される可能性を意識するよう言っている。
 初ダンジョンから帰ってからこの手合わせを始めたのだが、最初の頃はこのケイの攻撃が良く当たった。
 慣れもあるだろうが、それが今ではしっかり躱せるようになった。
 手合わせなので、当然ケイは威力を抑えた魔力の球だ。
 魔闘術をしている今の美花なら、当たっても赤くなるくらいだろう。

「ハッ!!」

 距離を取った美花が刀を振ると、魔力の斬撃がケイに向かって飛びだした。
 ケイとは違い、美花は全く手加減なしだ。

「とっ!?」

“パンッ!!”

 当たればケイでも怪我を負う威力。
 美花に撃つわけでもないので、ケイは威力を上げて飛んで来る魔力の斬撃へ銃を撃つ。
 それにより、斬撃はケイからそれる。

「っ!?」

 美花の狙いは、ケイの意識を斬撃に向けたかったのだろう。
 その隙に美花は死角からケイに迫っていった。

「ハッ!!」

 思いっきり加速した移動速度も利用し、美花は右手の片手突きを放ってきた。

「………………」

 それに対し、ケイは避ける訳でもなく、自分から刺さりに行くように無言で美花へと一歩近づく。

“フッ!!”

 美花が当たると思ったギリギリで、ケイは横に僅かにズレて攻撃を躱す。
 そして、美花の右手首に手刀を落とす。

「くっ!?」

 ケイの手刀で美花は刀を落としてしまう。
 刀を失ってもそこで諦めるようではいけない。
 父にもケイのもそう言われているので、美花はそのまま格闘に持ち込むつもりでいた。
 だが、ケイの攻撃はまだ終わっていない。
 刀を落とした右腕を、美花が引き戻す前に掴み、そのまま一本背負いで投げ飛ばした。

「がっ!?」

 投げられた美花は、砂浜でそれほど痛くないとはいえ、背中を打って声が漏れる。

「この……」

「……………………」

 投げられ、咄嗟に上半身を起こすが、その時にはもう美花の目の前にはケイの銃が突きつけられていた。

「参った!」

「お疲れさん!」

 美花の降参を聞いて、ケイは銃を腰のホルダーにしまい、座ったままの美花に手を貸して立ち上がらせる。

「斬撃を囮にするのはいい手だったな」

「その後の突きもあっさり躱してたじゃない!」

「いや、俺が教えた技だし、使えるからね」

 ケイが言ったように、美花が使えるようになった斬撃はケイが教えたものだ。
 遠距離攻撃をできるようにしようと、最初は魔法を練習し始めたのだが、なかなか上達しなかった。
 少しイラ立ち始めていた美花に、ケイは魔力をそのまま放出して敵にぶつける方法を提案した。
 美花の場合、刀を使った戦いが得意なのだから、魔闘術で纏った魔力をそのまま斬撃として飛ばせば扱いやすいと思ってのことだったが、それが美花にはぴったり合ったのか、結構すんなりと使えるようになった。
 あとは距離に合わせた魔力の調節をするくらいだろう。
 勿論提案したケイもこの攻撃は使える。
 銃が手から離れてしまった場合、魔法の指輪の中に入れている短剣で戦うことを想定している。
 銃のように速射、連射が効かないが、十分戦えるだけの訓練をしている。
 なので、同じ技を放たれた時の対処法も考えている。
 美花の斬撃が効かなかったのも当然だ。

“ピョン! ピョン!”“ピョン! ピョン!”

「おっ!? キュウ、マル」

 手合わせが終わったのを見て、キュウたち親子がケイの体へ飛び乗って来た。

「そろそろ畑を耕し始めないとな……」

「そうね」

 今年は美花とマルも増えたことだし、少し規模を広げた方が良いだろう。
 春の日差しで気分が良くなった2人は、のんびりおしゃべりをしながら、2匹の毛玉と一緒にいつもの拠点に戻っていった。


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