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第5章
第173話 互角
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「シッ!!」
「くっ!!」
“ガキンッ!!”
間合いを詰めての居合斬り。
重蔵のその攻撃を、限も居合斬りで対抗する。
接近する速度も加わっている分、重蔵の攻撃の方が威力がある。
そのため、刀がぶつかり合った反動で、限だけが後退させられた。
「ハハッ! すげえ威力だな」
後退させられた限は、左手を振って笑顔で声を漏らす。
衝撃が伝わり、軽い痺れが生じたためだ。
全力状態の自分を相手に、重蔵がここまでやるとは思っていなかった。
しかも、戦っているうちに、強さが上昇しているようにも見える。
このままでは自分が負けてしまうかもしれないというのに、限は何故だかそれが楽しくて仕方がない。
弱かった自分が、生物がたどり着く限界点を追い求めているからかもしれない。
強い重蔵を倒せば、自分はそれ以上に強い存在になれる。
それを想像すると、自然と笑みが浮かんでいた。
「ガアァーー!!」
「ぐうぅ……!!」
再度限との距離を詰めた重蔵は、連撃を放つ。
それに対し、限も刀で応戦することで防御し続ける。
しかし、次第に限の方が押されていき、服が僅かに斬り裂かれていく。
「ガアッ!!」
「っと!!」
上段からの斬り降ろし。
若干大振りになったその攻撃を、限はバックステップすることで回避した。
「……なるほど、その肉体に慣れたってことか……」
重蔵が段々と強くなる理由に思い至った限は、確認するように呟く。
限が思った通り、重蔵の動きが良くなっているのは体に慣れてきたからだ。
同じ二足歩行であっても、人とリザードマンでは体のバランスが違う。
そのバランスに慣れたとしても、それを使いこなすには才能が求められる。
それなのにもかかわらず、重蔵は見事に肉体を使いこなしている。
やはり、敷島の中でも最強の剣士なのは伊達ではないようだ。
「技術はあっても、肉体が落ち目だったおっさんが強力な体を得たって感じか?」
年齢的に体力が落ち始めていた重蔵が、強化薬と魔物化薬を使用することで人間の肉体では使いこなせないレベルの技術を使えるようになった。
奇しくも、自分と同じ領域に入ることで、まだ眠っていた才が開いたのかもしれない。
「何にしても、勝つのは俺だ!」
互角だった戦いも、やや重蔵よりになりつつある。
だからと言って自分が負けるわけにはいかない。
重蔵を殺すことを最大の目標として、地獄の人体実験を乗り越えてきたのだから。
その思いを果たすために、限はここからは全身全霊をもって闘うことにした。
「ガアッ!!」
「ぐうっ!!」
お互い距離を詰めての斬りあい。
刀がぶつかり合い、お互い弾かれる。
そこから、部屋の中を縦横無尽に動き回りながら、お互い攻防を繰り広げる。
「ガゥ?」
「ハハッ、自分が押し始めていたのに何でって面だな」
何度斬りあって、お互いの攻撃が当たらなくなった。
そのことが理解できない様子の重蔵に、限は図星を指す。
「さっきまでは、あんたを倒した後のことを考えていたんでな。だが、もうそんなことは考えない。あんたを殺してから考える」
全力は全力でも、思考が邪魔をすることで僅かに動きが鈍っていた気がする。
その僅かな差が重蔵を優位にしていたが、限はその思考を放棄することにした。
目の前の重蔵に勝たなければ、自分が地獄から這い上がってきた意味がなくなる。
そんなことにならないためにも、後のことを考えないことにしたのだ。
「ガアァーー!!」「グルァーー!!」
重蔵だけでなく、限までもが魔物のような声で吠える。
同時に放たれたその声を合図に、またも両者の攻防が開始された。
『化け物共が……』
限と重蔵の目にもとまらぬ攻防。
それを苦々しい表情で眺める天祐は、両者を内心罵っていた。
苦々しい表情の理由。
それは、両者と血がつながっていることが原因だろう。
父の重蔵、弟の限。
その2人が、姿が化け物になろうとも強力な戦闘力をしているからだ。
血のつながった自分も、望めば彼らと同じ力手に入れられるのではないか。
オリアーナの研究の最終地点は、これだったのではないか。
そんなことが、天祐の頭をよぎっていた。
「ハァ、ハァ……」
「フゥ、フゥ……」
何度も攻防を繰り広げた限と重蔵は、息を整えるために一旦距離を取る。
「このままでは決着がつかないな」
互角の状態では、どちらかの魔力か体力が尽きるまで終わらない。
それではどれだけの時間が掛かるか分からない。
先のことは考えないとはいっても、限としては時間が掛かるのは好ましくない。
レラたちのこともあるし、アデマス軍が場内に入り込んでくるかもしれない。
アデマス軍からしたら、城内にいた自分も敵判定される可能性が高い。
そうなったら、重蔵との戦いで疲弊した自分でも、脱出に手間取ることは間違いない。
「グルル……」
重蔵としても、このまま限と戦い続けているわけにはいかない。
外のアデマス軍を一掃しなければならないからだ。
そのためには、一刻も早く決着をつけなければならない。
同じ思いの限に対し、重蔵は刀を鞘に納めてみせた。
「……なるほど」
重蔵の行為から何を言いたいのかを理解し、限も頷きと共に刀を鞘に納める。
「じゃあ、居合斬り勝負といこうか?」
重蔵が示したのは、全速力の居合斬り勝負により短期決着をつけるというものだ。
時間をかけたくない両者としては、希望通りの決着方法だ。
それを見越したからこそ、限は重蔵の示した勝負方法に応じた。
そして、重蔵との決着をつけるために、限は柄に手を添えて前傾姿勢になった。
「くっ!!」
“ガキンッ!!”
間合いを詰めての居合斬り。
重蔵のその攻撃を、限も居合斬りで対抗する。
接近する速度も加わっている分、重蔵の攻撃の方が威力がある。
そのため、刀がぶつかり合った反動で、限だけが後退させられた。
「ハハッ! すげえ威力だな」
後退させられた限は、左手を振って笑顔で声を漏らす。
衝撃が伝わり、軽い痺れが生じたためだ。
全力状態の自分を相手に、重蔵がここまでやるとは思っていなかった。
しかも、戦っているうちに、強さが上昇しているようにも見える。
このままでは自分が負けてしまうかもしれないというのに、限は何故だかそれが楽しくて仕方がない。
弱かった自分が、生物がたどり着く限界点を追い求めているからかもしれない。
強い重蔵を倒せば、自分はそれ以上に強い存在になれる。
それを想像すると、自然と笑みが浮かんでいた。
「ガアァーー!!」
「ぐうぅ……!!」
再度限との距離を詰めた重蔵は、連撃を放つ。
それに対し、限も刀で応戦することで防御し続ける。
しかし、次第に限の方が押されていき、服が僅かに斬り裂かれていく。
「ガアッ!!」
「っと!!」
上段からの斬り降ろし。
若干大振りになったその攻撃を、限はバックステップすることで回避した。
「……なるほど、その肉体に慣れたってことか……」
重蔵が段々と強くなる理由に思い至った限は、確認するように呟く。
限が思った通り、重蔵の動きが良くなっているのは体に慣れてきたからだ。
同じ二足歩行であっても、人とリザードマンでは体のバランスが違う。
そのバランスに慣れたとしても、それを使いこなすには才能が求められる。
それなのにもかかわらず、重蔵は見事に肉体を使いこなしている。
やはり、敷島の中でも最強の剣士なのは伊達ではないようだ。
「技術はあっても、肉体が落ち目だったおっさんが強力な体を得たって感じか?」
年齢的に体力が落ち始めていた重蔵が、強化薬と魔物化薬を使用することで人間の肉体では使いこなせないレベルの技術を使えるようになった。
奇しくも、自分と同じ領域に入ることで、まだ眠っていた才が開いたのかもしれない。
「何にしても、勝つのは俺だ!」
互角だった戦いも、やや重蔵よりになりつつある。
だからと言って自分が負けるわけにはいかない。
重蔵を殺すことを最大の目標として、地獄の人体実験を乗り越えてきたのだから。
その思いを果たすために、限はここからは全身全霊をもって闘うことにした。
「ガアッ!!」
「ぐうっ!!」
お互い距離を詰めての斬りあい。
刀がぶつかり合い、お互い弾かれる。
そこから、部屋の中を縦横無尽に動き回りながら、お互い攻防を繰り広げる。
「ガゥ?」
「ハハッ、自分が押し始めていたのに何でって面だな」
何度斬りあって、お互いの攻撃が当たらなくなった。
そのことが理解できない様子の重蔵に、限は図星を指す。
「さっきまでは、あんたを倒した後のことを考えていたんでな。だが、もうそんなことは考えない。あんたを殺してから考える」
全力は全力でも、思考が邪魔をすることで僅かに動きが鈍っていた気がする。
その僅かな差が重蔵を優位にしていたが、限はその思考を放棄することにした。
目の前の重蔵に勝たなければ、自分が地獄から這い上がってきた意味がなくなる。
そんなことにならないためにも、後のことを考えないことにしたのだ。
「ガアァーー!!」「グルァーー!!」
重蔵だけでなく、限までもが魔物のような声で吠える。
同時に放たれたその声を合図に、またも両者の攻防が開始された。
『化け物共が……』
限と重蔵の目にもとまらぬ攻防。
それを苦々しい表情で眺める天祐は、両者を内心罵っていた。
苦々しい表情の理由。
それは、両者と血がつながっていることが原因だろう。
父の重蔵、弟の限。
その2人が、姿が化け物になろうとも強力な戦闘力をしているからだ。
血のつながった自分も、望めば彼らと同じ力手に入れられるのではないか。
オリアーナの研究の最終地点は、これだったのではないか。
そんなことが、天祐の頭をよぎっていた。
「ハァ、ハァ……」
「フゥ、フゥ……」
何度も攻防を繰り広げた限と重蔵は、息を整えるために一旦距離を取る。
「このままでは決着がつかないな」
互角の状態では、どちらかの魔力か体力が尽きるまで終わらない。
それではどれだけの時間が掛かるか分からない。
先のことは考えないとはいっても、限としては時間が掛かるのは好ましくない。
レラたちのこともあるし、アデマス軍が場内に入り込んでくるかもしれない。
アデマス軍からしたら、城内にいた自分も敵判定される可能性が高い。
そうなったら、重蔵との戦いで疲弊した自分でも、脱出に手間取ることは間違いない。
「グルル……」
重蔵としても、このまま限と戦い続けているわけにはいかない。
外のアデマス軍を一掃しなければならないからだ。
そのためには、一刻も早く決着をつけなければならない。
同じ思いの限に対し、重蔵は刀を鞘に納めてみせた。
「……なるほど」
重蔵の行為から何を言いたいのかを理解し、限も頷きと共に刀を鞘に納める。
「じゃあ、居合斬り勝負といこうか?」
重蔵が示したのは、全速力の居合斬り勝負により短期決着をつけるというものだ。
時間をかけたくない両者としては、希望通りの決着方法だ。
それを見越したからこそ、限は重蔵の示した勝負方法に応じた。
そして、重蔵との決着をつけるために、限は柄に手を添えて前傾姿勢になった。
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