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第5章

第167話 魔物化②

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「ハハッ! まさか糞親父までとはな……」

「……何を言っているんだ?」

 ボロボロになりながらも笑みを浮かべている限。
 何かを企んでいるようには見えないため、天祐は手で合図を送り重蔵の動きを止める。
 そして、何を言うのかと聞いていれば、意味が全く分からない。

「俺も同じなんだよ」

「……何がだ?」

 怪我によりフラフラしている。
 あと数発でも重蔵に殴られれば、いくら限でも命を落とすことだろう。
 それなのに、半開きの目には光が灯っているように見える。
 その視線を不気味に思いながら、天祐は質問の答えを求めた。

「俺も化け物だってことだ!!」

「「っっっ!?」」

 言い終わりと共に限の肉体が変化を起こす。
 口は裂け、肌が赤く変色し、頭から角が生え始めた。
 その変化を目の当たりにし、天祐だけでなく重蔵も目を見開いた。

「ハーーーッ!!」

 見た目の変化が終了すると、限は大きく息を吐く。
 先程までの人としての姿から、見る影もない姿へと変貌した。

「……鬼…だと?」

 限が変化した姿は鬼。
 オーガのように見えなくはないが、大きさは変化していないのでオーガとも言い難い。

「目には目を、化け物には化け物をってな……」

 変化し終えた自分の肉体を確認するように動かし、限はこの姿に変化した理由を述べる。
 重蔵が薬で魔物化することで強力な力を得たように、限も魔物のような姿になることで力を開放したのだ。

「な、なんで薬もなく……」

 重蔵のように薬を飲んで魔物化するというのならわかる。
 しかし、限は自分の意志で肉体を変化させているような態度だ。
 確かに見た目だけでなく能力までも化け物といってもいいが、薬を飲むことなくそんなことができるなんて、まともな人間のできることではない。
 そのため、天祐は信じられないというかのような表情で、限へと話しかける。

「人体実験によって、俺は姿が醜く変化した。だけど、人体実験によって肉体を変化させる能力も得ていた。その能力を訓練して、人間にも化け物にも変化できるようになったんだよ」

「……クッ!!」

 研究所地下の廃棄場に捨てられ、醜い姿のままでは動くこともままならない状況だった。
 そのため、限は自身の肉体を変化させるよう破壊と再生を繰り返した。
 そうして得た能力によって、普通の人間や化け物の姿に変化できるようになったのだ。

「所詮は化け物の姿に変化しただけだろ? この最強兵器に勝てるわけがない!」

 信じられないことだが、限が薬の力を得なくても化け物の姿に変化できることは分かった。
 だからと言って、今の重蔵に勝てるような生物がこの世界に存在するとは思い難い。
 そのため、天祐は限を倒すために、重蔵に攻撃を再開するよう合図した。

「グルアッ!!」

「ぐうっ!!」

 天祐から合図を受けた重蔵は、限に向かって攻撃を再開する。
 これまでのように打撃による攻撃ではなく、刀による斬りつけだ。
 接近と共に振りかぶり、袈裟斬りにしようとしてくる重蔵の攻撃に対し、限は刀による防御を図る。
 鬼の姿に変化する前ならば、受け止めた瞬間に吹き飛ばされていただろう。
 いや、その前に受け止めることすらできず、斬り伏せられていたかもしれない。
 しかし、今回はそのようにならず、受け止めることに成功した。

「なっ!? ど、どうして……」

 これまでと違い、限が反応できたことに天祐は驚きの声を上げる。
 攻撃を受け止められたということは、先程までとは違い、目で追えているということだからだ。
 しかも、吹き飛ばされないということは、目で追えているだけでなくパワーまでもが上がっているということになる。
 オリアーナが作り出した究極ともいえる魔物兵器薬を飲んだ重蔵と同等のパワーだなんて、ただ姿が変わっただけではないことが証明されてしまった。
 そのため、またも疑問の声を上げるしかなかった。

「グルル……」

「理由が知りたいって面だな?」

 互角の鍔迫り合いの状態の限と重蔵。
 天祐だけでなく、重蔵も先ほどまでとは違う限に戸惑っているような声を上げている。
 そう感じた限は、重蔵から距離を取ると種明かしをすることにした。

「俺の全力は、人間の姿では耐えられない。だから耐えられる姿に肉体を変化したんだ」

 人間の姿では、魔力による身体強化には限界が来る。
 動き回るだけで、肉体が耐えられずに崩壊してしまうのだ。
 しかし、限はにくたいを変化させる能力を所持している。
 そのため、全力の状態に耐えられる肉体に、自分を変化させた。

「人間に近く、強力な耐久力を持っている生物。それがこの鬼の姿だ」

 人とかけ離れた姿だと、変化した時に動きに違和感が出てしまう。
 そうならないために選んだのが、この鬼の姿。
 変化によって強化され、全力の身体強化に耐えられるこの姿こそ、限にとっての全力の状態だ。

「しかし、リザードマンもいいかもしれないな。尻尾の分だけお得そうだ」

 全力に耐えられ、変化した時に違和感がなければそれで良かったため、この姿を採用したのだが、重蔵のリザードマンの姿も悪くない。
 人間の姿から変化しても違和感がなさそうだし、尻尾というオプションが付いてくる。
 そのことを、限は笑みを浮かべ、冗談めかして言ったのだった。

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