上 下
164 / 179
第5章

第164話 魔物化①

しおりを挟む
「何…だと……?」

 回復薬だと思って飲まされた液体。
 それが魔物化する薬だと聞かされ、重蔵は信じられないというような表情で天祐を見つめる。

「貴…様! どうして……?」

「昔から、俺はあなたの指示通り他の者を偽る人形として生きてきた。ただ……」

 王位を奪い取る。
 そんなことのために、自分を奴隷化する意味が分からない。
 王位を継ぐ者は、天祐以外にいない。
 年月が経てば、黙っていても天祐が次の王になることができるはずだ。
 それなのに、どうしてこんなことをしているのか。
 重蔵のそんな思いのこもった質問に、天祐はにやけ顔で答えていく。
 そして言葉を切った後、

「俺はあなたへも偽っていたんですよ。今度は俺の人形として利用するためにね」

 敷島の中では口の軽い男と偽って生きてきた。
 それが重蔵の命令だったからだ。
 しかし、天祐の本性としては、父であろうと命令されることが気に入らなかった。
 逆に、重蔵を自分の人形にしてやろうという思いが募る一方だった。
 それが今成された。
 そのことが嬉しいのか、天祐は満面の笑みを浮かべたまま自分の思いを全て打ち明けた。

「貴…様……!!」

「もういいでしょ? 魔物化したら意識もなくなる。俺の命令に従順な最強の人形兵器の完成だ」

「うっ……!!」

 いつまでも恨みがましい目を向けてくる重蔵に対し、天祐は問答に飽きたかのように対応する。
 その言葉通り、重蔵の体が変貌を開始した。

「ぐおぉオォ……!!」

「おいおい……」

 体中が変色し、肉体が変化していく。
 声も獣のようなものに変化していっている。
 天祐が言っていたように、重蔵は魔物へと変化していっているようだ。

「これもオリアーナの薬か?」

「その通り。ようやくできた自信作だって言っていたな」

 魔物へと変化する薬。
 そんな物を作り上げる人間なんて、限が知っているのは1人だけだ。
 その人物の名を呟いた限に、天祐は褒めるように拍手をした。

「ウゥ……!!」

「おぉ、俺の依頼通りだ!」

 呻き声が治まっていくと共に、重蔵の変化も治まっていく。
 そして、変化が治まりきった重蔵の姿を見て、天祐は恍惚の笑みを浮かべた。

「……何故リザードマンなんだ?」

 重蔵の変化した姿。
 それは限が呟いた通りリザードマンだ。
 これまでオリアーナが作り上げた魔物化の薬だと、巨大化するのが通例だった。
 しかし、重蔵の身長はそのまま。
 170cm代中盤といったくらいのままといったところで、普通のリザードマンならもう少し身長があってもいいところだ。
 それよりも、なぜ魔物化させるにしてもリザードマンなのかが気になる。
 リザードマンなら、水陸の戦闘において人間よりも有利になるとは思えるが、それ以外のメリットが窺えないためだ。

それ・・をただのリザードマンだと思うなよ」

 魔物と化した重蔵を、天祐はもう父だと思っていないようだ。

「そいつを殺れ!」

 重蔵をそれ・・呼ばわりした天祐は、限を指さして命令をした。

「グルル……!!」

「チッ!!」

 魔物化する前に従属の魔法をかけられているためか、リザードマンと化した重蔵は天祐の命令に素直に従う。
 愛刀を手にしたリザードマンは、限に向かって構えを取った。
 魔物に変化することで傷がなくなってしまっており、魔力も膨れ上がっているため、ただのリザードマンではないことは何となくわかる。
 人間の時よりかは厄介な存在になったとは思うが、自我のなくなっている重蔵を相手にしなければならないのかと思うと、限はいまいちやる気が起きない。
 しかし、始末することを変えるつもりはないため、限は仕方ないといった様子で舌打ちをしつつ、刀を構えたのだった。

「ガァッ!!」

「っっっ!?」

 刀を向けあった状態で少しの間が開いた後、重蔵が先に動く。
 床を蹴って限との距離を一気に詰めると、振りかぶった刀で斬りつけてきた。
 予想以上の移動速度に、限は見開き防御の体勢に入る。

“ガキンッ!!”

「なっ!?」

 重蔵の攻撃に対し、限は刀で受け止め防御する。
 そのまま反撃をするつもりでいた限だったが、それをおこなうことはできなかった。
 何故なら、刀で攻撃を防いだ限を、重蔵が力任せに吹き飛ばしたからだ。

「ぐっ!」

 吹き飛ばされた限は、壁に背中を打ち付けてようやく止まる。
 背中を打ち付けたことで一瞬息が詰まるが、人体実験で痛みに鈍感になっているため、限は気にすることなく重蔵の追撃に警戒した。

「グルァッ!!」

「舐めん……」

「ガァッ!」

「なっ!?」

 限の予想通り、重蔵は追撃をおこなう。
 先程と同様に、接近しての上段斬り。
 同じ手が通用するはずがないと、限は回避しての反撃を狙う。
 しかし、その行動を読んでいたのか、重蔵は魔物化することで得た武器の1つで攻撃をしてきた。

「くそっ! 尻尾か!?」

 新たに得た武器。
 それは限が言うように尻尾だ。
 尻尾を鞭のように上手く使って肩を打ち付け、重蔵はまたも限を吹き飛ばしたのだ。

「グルル……」

「この野郎……」

 空中で体勢を整えて着地した限に対し、重蔵はゆっくりと刀を構える。
 それが、まるで余裕を示しているようで気に入らない限は、こめかみに血管を浮き上がらせて重蔵を睨みつけた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

怖いからと婚約破棄されました。後悔してももう遅い!

秋鷺 照
ファンタジー
ローゼは第3王子フレッドの幼馴染で婚約者。しかし、「怖いから」という理由で婚約破棄されてしまう。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

勇者パーティを追放されそうになった俺は、泣いて縋って何とか残り『元のDQNに戻る事にした』どうせ俺が生きている間には滅びんだろう!

石のやっさん
ファンタジー
今度の主人公はマジで腐っている。基本悪党、だけど自分のルールあり! パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のリヒトは、とうとう勇者でありパーティリーダーのドルマンにクビを宣告されてしまう。幼馴染も全員ドルマンの物で、全員から下に見られているのが解った。 だが、意外にも主人公は馬鹿にされながらも残る道を選んだ。 『もう友達じゃ無いんだな』そう心に誓った彼は…勇者達を骨の髄までしゃぶり尽くす事を決意した。 此処迄するのか…そう思う『ざまぁ』を貴方に 前世のDQNに戻る事を決意した、暗黒面に落ちた外道魔法戦士…このざまぁは知らないうちに世界を壊す。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

処理中です...