上 下
158 / 179
第5章

第158話 目には目を②

しおりを挟む
「ふんっ!」

「ぐあっ!!」

 近藤家の敷島兵が、アデマス軍の奴隷兵となった敷島人を斬り倒す。
 倒れた敷島人の斬り口を見ても分かるように、全く躊躇いのなく攻撃をしているのが分かる。

「ハハッ! 所詮は戦闘員に慣れなかった出来損ないどもだ!」

「俺たちとは実力が違うんだよ!」

 敷島兵たちは、自分たちが斬り殺した敷島人の死体を見下ろしながら言葉を吐き捨てる。
 突如、仲間であるはずの敷島人たちが襲い掛かってきた時は、敷島兵たちも少しだが焦った。
 しかし、同じ敷島人でも、昔なら島から出る許可も与えられないような
戦闘力の持ち主たちだ。
 つまり、敷島人でも落ちこぼれというべき実力の持ち主たちでは、自分たちエリートを倒すことなど不可能だということだ。
 同じ敷島人で、敵に奴隷化されていようと関係ない。
 むしろ、自害することなく敵に捕まった時点で、このような使われ方をする可能性は分かっていたことだ。
 そのため、奴隷化により命令拒否ができないからと言っても、敵に利用されたのなら敵でしかない。
 そう教えられてきているだけに、敷島兵たちの行動は当然といった所のようだ。

「くっ! ほんの少しの間だけだったか……」

 自身の策が思ったほどの結果を出さず、ラトバラは歯噛みする。
 同じ敷島の人間なら、多少は攻撃を躊躇するではないかと思っていた。
 そして、その僅かな隙を狙って攻撃をすれば、敷島兵たちに多少の傷を付けることも不可能ではないと考えていた。
 しかし、その思惑が成功したのは、最初の僅かな時間だけだったためだ。

「戦闘一族の奴らからすると、敵となれば仲間の命であっても何とも思わないのでしょう……」

 敵と判断した敷島兵たちは、全く躊躇う様子なく奴隷化された敷島人を斬り倒している。
 元々、アデマス王国に属していた時、敷島の者たちは仲が良いと思われる相手でも、指示が出されれば躊躇いなく暗殺してきた。
 戦闘狂の彼らは、敵となれば容赦しないように幼少期から教え込まれている。
 この現状を見たリンドンは、同じ人間としての感情を持っていると考える方が間違いだったと思わざるをえなかった。

「ハッハー!!」

「がっ!!」

 ラトバラたちが敷島兵たちの非情さを認識し直していている間にも、奴隷化した敷島人たちは次々と斬り倒されて行く。
 アデマス軍の兵も、奴隷化した敷島人を犠牲にしつつ攻撃を加えているが、敷島兵たちには大きな傷がつけられないでいる。
 このままでは、奴隷の敷島人たちは全滅してしまい、またアデマス軍の兵たちが大量に命を落とすことになりかねない。

「……用意していた策、第二段を使おう」

 いくら敷島兵でも、数の力でねじ伏せられる。
 そう思っていたが、ただでさえ強力な戦闘力を有している敷島兵が、新しい強化薬によって手が付けられなくなっている。
 同族である敷島人を使用して、少しでも傷を付けることができれば動きを鈍らせることができると思っていたが、それも難しいことだと分かったラトバラは、神妙な面持ちでリンドンに指示を出す。
 
「……ハッ! 畏まりました」

 ラトバラの指示に、リンドンも同じような表情で頷く。
 これから自分たちがやることは、非人道的なことだと理解しているからだ。
 とは言っても、勝利を収めないことには、簒奪された国を取り戻すことなどできないため、ラトバラ同様、リンドンも覚悟を決めて次の策に移ることにした。





「……何だ?」

 自分たちに襲い掛かってくる奴隷化された敷島人たちを返り討ちにしていた敷島兵たちは、違和感に戸惑いの声を上げる。
 というのも、同族が襲い掛かってくるのは変わらないが、周囲を顔んでいるアデマス軍の兵たちが少し後退して距離を取り始めたからだ。

「……何かする気か?」

 新強化薬のお陰で、圧倒的な数のがあっても勝機が見えた。
 相手のアデマス軍からすると、自分たちを休ませることなく攻撃を仕掛けることで、細かい傷を増やしていくことが勝利を収める策のはずだ。
 それなのに兵を退かせるなんて、こっちにとって有利になるようなことをしてどうするつもりなのだろうか。

「んっ?」

 王都で捕縛された敷島人。
 それを奴隷化した者たちなのだろう集団が、アデマス軍が左右に分かれることで作り出した道を通るようにこちらに向かって来ていて、その表情には悲壮感が漂っている。
 明かに、アデマス軍の指揮官から何かを命令されたのが分かる。
 そのため、敷島兵たちはその者たちへの警戒を強めた。

「……やれ!」

「「「「「はいっ!」」」」」

 馬に乗ったアデマス軍の隊長格らしき男が、敷島人の集団に指示を出す。
 奴隷化されている抵抗することはできない敷島人たちは、その指示に従い行動を起こした。

「「「「「ぐ、がっ!!」」」」」

「な、何だ?」

 指示を出された敷島人の集団が、何かをんだ。
 そして、そのすぐ後、集団は身を掻きむしる行為と共に苦しみ、倒れた。
 折角奴隷化したというのに、何がしたかったのか分からない。
 そのため、戦いながらもそれを見た敷島兵たちは首を傾げた。

「「「「「ガーーーーーッ!!」」」」」

「なっ!?」

 倒れた敷島人たちに異変が起きる。
 肉体が変異を起こし、醜い姿へと変貌を遂げたのだ。
 見たこともないような変化に、さすがの敷島兵たちも驚きの声を上げた。

「グルァッ!!」

「ぐおっ!?」

 丸太を加工した棍棒のような武器を片手・・に持ち、変貌を遂げた敷島人が戦い続ける敷島兵たちに襲い掛かる。
 あまりの速度と威力に、咄嗟に攻撃を防いだ敷島兵たちは再度驚きの声を上げた。

「ミ、ミノタウロスだと……!?」

 奴隷化された敷島人が変貌した姿。
 それは、敷島兵たちが呟いたようにミノタウロスだ。

「さっきのは魔物化する薬か!?」

 1人の敷島兵が言うように、先程敷島人たちが呑んだのは魔物化する薬だ。
 その薬の効果により、多くのミノタウロスたちが生まれ、敷島兵たちに襲い掛かったのだ。

「ぐっ!? ふざけやがって!!」

 筋骨隆々の、3m近い身長の肉体のミノタウロスたち。
 元々は敷島人ということもあり、一般人よりも強靭な肉体が変態によって更に強化されたのだろう。
 ただでさえ強力である普通のミノタウロスよりも、強力な力と速度を有している。
 そのため、強化薬によってバケモノと化した敷島兵たちであっても、脅威となる攻撃が降り注ぐことになった。
 食らえば大打撃は必至。
 それが分かっている敷島兵たちは、懸命にミノタウロスたちの攻撃を防ぐことに注視しなければならないことになった。

「どうだ? 目には目を、薬には薬だ」

 敷島兵たちが薬を使用するのなら、こちらも薬を使用する。
 あの薬を使った以上、もう人間に戻ることはできない。
 非人道的な指示だが、勝利のためだ。
 その思いからラトバラが出した指示。
 それは、今回の戦いの際に帝国から提供された薬で、敷島兵たちが使用している強化薬を作り上げたオリアーナの置き土産だ。
 自分たちが使っている薬の製作者が、帝国に残していった研究結果によって自分たちが追い込まれる。
 表情が変わった敷島兵たち見ることができたラトバラは、笑みを浮かべて呟いたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

怖いからと婚約破棄されました。後悔してももう遅い!

秋鷺 照
ファンタジー
ローゼは第3王子フレッドの幼馴染で婚約者。しかし、「怖いから」という理由で婚約破棄されてしまう。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

処理中です...