上 下
146 / 179
第5章

第146話 3対1②

しおりを挟む
「ハッ!!」

「セイッ!!」

「シッ!!」

 強化薬の過剰摂取により、強力な力を手にした谷田・橋本・光宮が、三位一体となって限へと襲い掛かる。

「フッ!!」

「「「っ!!」」」

 敷島の中でも上位に位置する一族家の当主たちが、命をかけて挑んでいるというのに、限には全く通用していない。
 襲い来る攻撃を、限は掠らせることもなくいなし、躱す。
 その流れるような動きに、3人は翻弄されていた。

「この3人を相手に……」

「どうして……」

 限が強いことは認める。
 しかし、いくら何でも全く通用しないことには納得できない。  
 そのため、橋本と光宮は攻撃を続けつつ悔しそうに呟く。

「……っ!? まさか……」

「どうしました? 谷田殿」

「何か気付きましたか?」

 攻撃を続ける3人のうち、谷田が何かに気付く。
 攻撃が通用しない理由を知るため、3人は攻撃を一旦止め、限から距離を取る。
 そして、橋本と光宮は、答えを見つけたであろう谷田へと問いかけた。

「まだ魔力を増やしているのか?」

「そんな!?」「バカな!?」

 攻撃が通用しない理由。
 それは、限が使用する魔力を増やして、身体強化を高めたからではないかと考えた。
 しかし、いくら限が強くなったと言っても、これ以上の魔力で身体強化したら肉体が耐えられるわけがない。
 そう考え、橋本と光宮は谷田の言葉に対して、ほぼ同時に反応した。

「フフッ!」

「「「っっっ?」」」

 3人の会話に対し、限は笑い声を上げる。
 その声に、3人は限へと視線を向ける。

「さすが先生だ」

 橋本や光宮と違い、教師をしていたこともあるからか、またしても谷田が限のしていることを見抜いた。
 谷田が言ったように、限は3人を相手にするために使用している魔力を増やし、身体強化をおこなったのだ。

「そんなことができるわけがないだろ!?」

「できたとして、何故体が壊れないんだ!?」

 先程見せた膨大な魔力量。
 それを圧縮しすることで、身体強化の威力を高めていることは分かった。
 その魔力量をさらに増やすなんて、どう考えてもあり得ない。
 それだけの魔力量をコントロールしつつ戦うなんて、とんでもない緻密な操作能力が必要となる。
 元々魔力を持っていなかった限が、研究所に行ったことをきっかけに手に入れて訓練を重ねたとは言っても、そこまでの魔力操作能力を手に入れられるわけがない。
 百歩譲って、その魔力操作能力を持っているとしても、身体強化に体が耐えられなくなるはずだ。
 そのため、納得できない橋本と光宮は、そのことを限へと問いかけた。

「お前らとは体の出来が違うんだよ」

「ふざけるな!」

「そんな理由で耐えられるわけがない!」

 研究所で地獄のような人体実験を受け、それに耐え抜いた経験から、限は耐久力には自信がある。
 そのため、限は2人の問いに自慢げに答える。
 その態度が自分たちを舐めていると受け取り、橋本と光宮は怒りを露わにした。

「理由なんて知った所でどうでもいいだろ? お前らはもうすぐ死ぬんだから」

「何だとっ!?」

「このガキ!!」

 この身体強化に耐えられる理由。
 本当の所は他にあるのだが、それを教えるつもりはない。
 どうせこの後殺す人間だからだ。
 本心からいう限の言葉に、橋本と光宮は更に腹を立てる。
 限が昔の魔無しなどではなく、強くなったことは認めるが、一族の当主である自分を見下していることが癪に障ったためだ。

「御二人とも冷静に! 奴の術中に嵌ってはなりません!」

「ムッ!」「ウッ!」

 一人冷静な谷田は、橋本と光宮を諫める。
 怒りは時として思ってもいない力を引き出すことがあるが、多くは冷静さを失い、思わぬミスを犯すことになる。
 心は熱く、頭は冷静に。
 敷島の中でよく言われていることだ。
 谷田に言われてそのことを思いだしたのか、橋本と光宮は小さく声を漏らし、冷静さを取り戻した。

「いざっ!」

「「おうっ!」」

 2人が冷静さを取り戻したのを確認した谷田は、短い言葉で再度限へと攻めかかることを伝える。
 それに同意するように2人が声を上げると、3人はまたも限へ向かって斬りかかっていった。

「……やっぱりな」

 谷田・橋本・光宮の順で限へと斬りかかる。
 迫る攻撃を躱し、限は何かを確信したかように呟いた。

「薬の効果のピークが過ぎたようだな?」

「何っ!!」

 少し前から気になっていたが、3人の攻撃のうち、光宮の攻撃が今までのような鋭さがない。
 あくまでも、限のみが気付いたことで、当の本人である光宮も気付いていないような僅かな差だ。

「そんなバカな!!」

 限の言葉を否定するかのように、光宮が斬りかかる。

“キンッ!!”

「ほらな?」

「っ!!」

 言が光宮の攻撃を受け止める。
 両者の刀がぶつかり合い、甲高い音が鳴り響く。
 それと共に、光宮の刀だけに変化が起きた。
 限の刀とぶつかった場所に、僅かだが刃こぼれが起きたのだ。

「どうやら、このままでも勝てそうだな……」

 身体強化によって、3人の攻撃に対処することは問題ない。
 しかし、反撃をするとなると、隙ができて回避しきれなくなる可能性がある。
 どうするべきかを考えていたが、どうやらその必要はないようだ。
 このまま躱すことに専念しているだけで、この3人は自滅することが分かったからだ。

「でも……」

「ガッ!!」

「「っっっ!!」」

 谷田・橋本の攻撃を躱し、続いて迫る光宮の攻撃に対し、限は反撃に出る。
 最短の振りによる斬撃により、光宮の脇腹が斬り裂かれた。

「こいつっ!!」

「っと!!」

 斬ったと言っても、致命傷とまではいかない。
 そのため、光宮はすぐに限に刀を振る。
 しかし、その反撃を予想していた限は、横に跳び退くことで回避した。

「シッ!!」「ハッ!!」

「おわっ!」

 限が更に光宮への攻撃をしようとしたところで、谷田と橋本の邪魔が入る。
 その攻撃を、限はギリギリのところで回避して距離を取る。

「やっぱり、この手で仕留めないとな……」

 刀に付いた光宮の血を振り払い、限は笑みを浮かべる。
 このまま回避に専念していれば、自分が勝てることが分かった。
 しかし、限としては、薬の副作用による死など認めたくない。
 きちんと実力でねじ伏せたうえで仕留めたい。
 光宮を斬った時に刀から伝わった感触からそれを確信した限は、多少の危険を冒しても自分の手で3人を仕留めることに決めた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...