上 下
127 / 179
第5章

第127話 爆発音

しおりを挟む
「ハァッ!!」

「ギャッ!!」

 魔力が上がったことで、限の動きが変化する。
 これまで通り自分に殺到する敵に対して、反撃を開始したのだ。
 次々迫る敵の攻撃を躱すのは、これまでとそこまで変わりはない。
 しかし、攻撃と攻撃の間に僅かでも隙ができると、その一瞬を利用して刀を振る。
 その反撃は速度を重視しているために、相手に致命傷を与えるまでには至っていないが、それでも傷ついた敵が増えていく。

「シッ!!」

「ぐあっ!!」「がっ!!」

 傷ついた人間が増えれば、攻撃の手も僅かに鈍る。
 攻撃の手が鈍れば、当然限が反撃をする機会が増える。
 時が経つにつれて、限の反撃で傷を負う人間がさらに増えていった。

「クッ!! おのれ!!」

「怪我をした者はさっさと回復しろ!!」

「回復したらすぐに奴に攻めかかれ!!」

 これまで限は反撃をする事すらできなかった。
 完全に有利な状況だったはずなのに、少しずつだがこちらが不利になり始めた。
 限の反撃が開始されたためだ。
 三島・山科・南川の当主たちは、この状況に歯噛みする。
 そして、怪我を負った者たちに対して指示を飛ばしていた。
 数は圧倒的な差があるのため、こちらには限の反撃を受けても回復する間がある。
 怪我を負った者が回復している間に他の者が斬りかかれば、これまでとさほど変わらない状態と言って良い。
 三家の当主たちはそう考えていたようだが、限がこちら側に怪我を負わせる方が速い。

「貴様ら!! それでも敷島の者か!?」

「たった1人にけがを負わせることもできないのか!?」

「無駄な攻撃ばかりしてないで、何とか1撃入れろ!!」

 このままでは、立場が逆転される可能性が見えてきた。
 今は怪我人を増やすことだけを意識した反撃にとどまっているが、攻撃の手が減れば、限は致命傷を負わせることに意識を変えてくるのは間違いない。
 そうなれば、こちらはあっという間に限に全滅させられてしまう。
 せめて1撃入れさえすれば、限は反撃どころか攻撃を躱すことすらできなくなる。
 そのため、当主たちは部下たちを必死に叱咤した。

「そうだぞ! 薬を使用していない五十嵐家の方が手強かったように思えるぞ!」

 当主たちの言葉に、何故か敵である限の方が反応する。
 実際は、強化薬を使用していない五十嵐家の者たちの攻撃より、強化薬を使用したこの三家の者たちが危険だ。
 しかし、五十嵐家の者たちの攻撃の方が、限にとっては脅威だったように思えた。

「クッ!!」

「魔無しのくせに!!」

「舐めやがって!!」

 攻撃を躱し迫り来る敵に反撃をすることを繰り返しつつ、自分たちの指示に入ることができるほど余裕がある。
 つまり、限に舐められている。
 そう取った当主たちは、更に怒りで顔を赤くした。

「……あぁ、そうか。五十嵐は仲間の命を奪ってでもという決死の思いがあったからか……」

 攻防を繰り返しながらも、限は彼らと五十嵐家の差を考える。
 そして、その答えに行きついた。
 五十嵐家は自分が殺されようとも、仲間が勝利すれば良いという考えのもと、限へと向かってきた。
 場合によっては、自分もろとも、とまでも覚悟していた。
 その覚悟が、この三家の者たちには存在していないように思える。
 それも、強化薬という容易に力を手に入れられるようになったことが原因なのかもしれない。
 敷島で培った技術に、強化薬によって手に入れた肉体による万能感によって、心技体のうちの心が低く、バランスが崩れている状態なのだろう。

「ギャァ!!」「ぐあっ!!」「グフッ!!」

「そろそろ終わりだな……」

 限の攻撃によって怪我を負う敵が増えた。
 回復魔法や薬を使用しても、攻撃に間に合わなくなりつつあるからだ。
 限による虐殺の時間が、もうすぐそこまで迫っているということだ。

「おのれ!!」

「我々が魔無しになど!!」

「負けてなるものか!!」

 いつ立場が逆転してもおかしくない。
 ならば、自分たちもこのままでいるわけにはいかない。
 そう考えた当主たちは、懐から錠剤を取り出して呑み込んだ。
 呑み込んだ錠剤はもちろん強化薬。
 薬の効能によって3人の筋肉が肥大し、魔力も上昇した。

「「「ハァッ!!」」」

「っ!!」

 肉体の強化が済んだ3人の当主は、刀を鞘から抜くと、すぐさま限へと襲い掛かっていった。

「おわっ!!」

 三島・山科・南川の3人は、代わる代わる限へと斬りかかる。
 突然のことに、限は慌てたように攻撃を躱した。

「さすが、当主たち、だな」

 これまでとは違い、限は完全に攻撃を躱しているとはいいがたい。
 兵よりも一段上の攻撃と言っていい攻撃にさらされ、限の服が僅かに斬られ始めたのだ。
 攻撃を躱す限はこれまで通り話しながらも、余裕がないのか途切れ途切れになっている。
 やはり、なんだかんだ言っても敷島の人間。
 一族を仕切る者は口だけではないようだ。

「……7割近く出してもいいかもな」

「何っ!?」

「ハッタリだ!!」

「本当は今が全力なんだろ!?」

 まるでまだ全力を出していないかのような限の呟きに、3人がそれぞれ反応する。
 魔無しとは言いつつも、完全に魔力がなかった頃とは比べ物にならないほどの実力を有していることはたしかだ。
 何によって力を得たのかは分からないが、所詮は元魔無し。
 強化薬を使った自分たち3人を相手に、全力を出さないわけがない。
 そのため、限は全力で自分たちの攻撃を躱していると判断し、先程の呟きをハッタリだと結論付けた。

「フッ!」

 3人の言葉に、限は思わず鼻で笑った。
 実におめでたい連中だ。
 強者である自分たちが強化薬を使えば、負けることはないと本気で思っているような発言だ。
 この大陸の長い歴史の中で、自分たち敷島に挑んでくるようなものは存在しなかった。
 そのため、自分たちとかけ離れた実力の人間の存在が受け入れられないでいるのかもしれない。

「そろそろか……」

「んっ? 何だ?」

 自分たちが思った通り、限は自分たちの攻撃を躱すことに必死で反撃をする事ができないでいる。
 やはりさっきの発言はハッタリだったのだと、攻撃をする当主の3人が思っていたところで、限が何かを呟いた。

“ズドンッ!!”

「「「っっっ!?」」」

 自分の呟きを疑問に思っている3人。
 そんな3人を、限は内心で嘲笑う。
 すると、耳をつんざくような爆発音が砦内に鳴り響いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...