復讐、報復、意趣返し……とにかくあいつらぶっ殺す!!

ポリ 外丸

文字の大きさ
上 下
123 / 179
第5章

第123話 攻守交替

しおりを挟む
「「「「「ウォーーー!!」」」」」

 敷斎側の兵たちが、アデマス軍の立てこもる砦に向かって攻め込んでくる。
 奴隷化され、強化薬を飲まされた兵たちだ。

「くっ!!」

 砦の防壁を登ってこようとする敵兵を、アデマス軍の兵たちは必死の攻撃で撃ち落としている。
 薬によって強化されているため、敷斎側の兵たちはちょっとやそっとの攻撃では落ちない。
 それに、敷斎側の兵とは言っても、元々はアデマス王国の者たちだ。
 兵たちからしたら同じ国の人間を相手にしているという思いから、撃ち落とすことが心苦しい。
 だからと言って、防壁を乗り越えられてはこの場を守り切れない。
 苦々し気な表情をしつつも、兵たちは攻撃の手を止めるわけにはいかなかった。

「グウッ!」

 敷斎側の兵たちも、城壁の上にいる兵たちと同じ思いをしている。
 防壁を乗り越えようとする彼らも、同じ国の人間を攻めるようなことはしたくないのだ。
 しかし、彼らは奴隷化されている。
 そのため、命令に背くわけにはいかず、逃げることもできないのだから仕方がない。
 弓や石、それに魔法を上から撃たれても、砦攻略のために必死に防壁を乗り越えようとした。

「おい! まだなのか!?」

「あと少しの我慢です!」

 最高司令であるアデマス王国の元公爵ラトバラは、同じく元伯爵のリンドンに向かって問いかける。
 立てこもっり、敵が抑えられなくなればその砦を放棄して次の砦に立てこもる。
 そうして時間を稼いできたが、この砦もそろそろ危ないかもしれない。
 弱気になるラトバラに対し、リンドンは奮起させる言葉をかける。

「我慢です! 敵は必ず下がります!」

 幾つもの砦を利用して耐え忍んでいるのは、時間を稼ぐためだ。
 そして、時間を稼ぐ理由は、強化薬を使用している敵兵が薬の副作用によって潰れるのを待っているからだ。
 敵兵に副作用の症状が出れば、きっと敵は攻めの手を止めることになる。
 自分たちが勝つためには、その機がくるのを待つしかない。

「兵たちの限界も近い。それまでこちらがもつのか?」

「ですが、勝つためです」

 敵が下がれば、強化兵に異変が起きた合図。
 それをじっと待つしかないのは、ラトバラも分かっている。    
しかし、これ以上時間稼ぎをするにしても、こちらの戦力にも限界がある。
 砦に立てこもって時間を稼ぐにしても、全ての兵が無事だったわけではない。
 応戦して、命を落としたり重傷を負ったりする者もいた。
 それもいつまでも出来る訳ではない。
 好機が来る前に、こちらが潰れてしまう可能性も出てきた。

「砦ごと破壊してから、もうすぐ1ヶ月経ちます。近いうちに兵が引くのを信じて耐えるしかありません」

 2度・3度とやろうにも、警戒されては通用しないため、砦ごと爆発させて大量に強化兵を仕留めた攻撃は1度しかおこなっていない。
 というよりも、その1度で大量に強化兵を減らすことが目的だった。
 敵兵が使用している薬は、肉体をかなり強化することができるため、アデマス側は苦戦を強いられている。
 しかし、効能が効能なだけに、使用した人間の肉体は1ヶ月程度の月日しか耐えることができないと、兵によって報告されている。
 それをうまく利用すればこちら側にとって最大の機会を作り出すことができる。
 砦ごと爆発したことによって、敵はその穴埋めに兵を補充した。
 その兵たちにすぐ薬を使用したと考えると、副作用が出るのはもうすぐのはず。
 守るこちらも苦しい状況だが、信じて耐えるしかない。

「……っ?」

「……何だ?」

 何度も防壁を登ってくる敵兵の攻めを、苦しみつつも耐えていたアデマス軍。
 そんな戦場に異変が生じる。
 敷斎側の兵の動きが鈍くなってきた。
 そして、まだ日が暮れていないというのに、敵兵が撤退を開始したのだ。

「ラトバラ様!! 好機です!!」

 これこそが、自分たちが待ちわびていた好機。
 そのことをすぐに察したリンドンは、指揮官であるラトバラにそのことを知らせる。

「あぁ!! 皆の者、敵を追撃せよ!!」

「「「「「おぉーーー!!」」」」」

 リンドンに言われるまでもなく、ラトバラもすぐに好機と理解する。
 そして、撤退を開始する強化兵を追撃し、殲滅することを兵たちに指示した。
 これまで耐え忍んでいた兵たちは、ようやく自分たちが攻める番だと、ラトバラの指示に歓喜にも近い声と共に砦から撃って出た。

「……俺たちも行くぞ」

「はい!」

 砦から飛び出したアデマス側の兵たちは、撤退する敷斎側の強化兵に追いつき仕留めていく。
 薬の副作用により、体中に強烈な痛みが走る。
 その苦痛に顔を歪め、強化兵たちは抵抗することも出来ずに数を減らしていった。
 この機を待っていたのはアデマス軍だけではない。
 敵兵の始末に動くために、限とレラは追撃する兵の中に紛れ込んだ。

「うがっ!!」「グエッ!!」「ギャッ!!」

 強化兵たちは叫喚する。
 薬の副作用によるものなのか、それとも刀で斬られたことによる痛みからなのか。
 どちらにしても、限による攻撃で、バタバタと敵の数は減っていった。

「止まれっ!?」

 ほとんどの強化兵が仕留められたところで、追撃兵たちは敷斎側の砦付近まで攻め込んでいた。
 そして、アデマス側は兵を増やし、敷斎側の砦を取り囲んだ。
 完全に攻守交代といったところだ。
 しかし、砦を取り囲んだところで、リンドンは兵を止める。

「砦にいるのは恐らく敷島の者だろう。奴らの方が数が少ないからと言って、絶対に油断するなよ!」

「「「「「ハッ!!」」」」」

 強化兵をほぼ失い、砦内にいるのは兵を指揮していた敷島の者たちのみだろう。
 アデマス王国の人間なら、彼らの強さは嫌というほど分かっているはずだ。
 敷島の者を倒すには、1人1人を孤立させ、大人数で攻めかかるしかない。
 1対多なんてみっともないなんて言っていられない。
 それが敷島を相手にする時のセオリーだ。
 兵たちもそれが分かっているためか、より一層表情を引き締めた。





◆◆◆◆◆

「っ!! 来るぞ!!」

 砦を囲んで数日経つ。
 アデマス軍にとっては、このまま戦うことなく砦内の敷島の者たちが餓死してくれるのが望ましい。
 しかし、そんな期待が叶う訳もなく、敷島兵たちが防壁の上に姿を現した。
 敷島の人間が籠城戦を選択する訳もない。
 このまま撃って出てくると、迎え撃つアデマス側の兵たちは臨戦態勢に入った。

「三島家・山科家・南川家って所か……」

 防壁の上に現れた敷島兵たちの顔を見て、限は独り言を小さく呟く。
 見覚えのある顔から判断し、彼らが敷島の中でもどの一族なのかを推察した。

「親父に付いたことを後悔しろ……」

 アデマス軍と戦うということは、彼らは自分の父である重蔵に付いたということだろう。
 そんな奴らを、このままのさばらせておくわけにはいかない。
 限は彼らとの戦闘を控え、獰猛な笑みを密かに浮かべていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸
ファンタジー
 普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。  海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。  その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。  もう一度もらった命。  啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。  前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

処理中です...