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第5章

第116話 偽る者

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「……残り半分だな?」

「くっ! 天祐の奴……」

 天祐が近衛兵と戦う側で、お互い隙を窺う重蔵と良照。
 予想通りの結果を出した息子に、重蔵は笑みを浮かべる。
 自分の部下であった時ならこの意外性は喜ばしいところだが、今は謀反を起こす敵。
 そのため、良照は重蔵に反し、思っていた以上の実力を見せた天祐を苦々しく思う。

「あんたは天祐のことを敷島の人間のくせに口の軽い男、という印象しかないだろ?」

「…………」

 重蔵が問いかけるが、良照は何の返答もしない。
 むしろ、その無言が肯定を示しているようだ。

「あいつはそう思わせるように仕向けていただけだ」

「何だと……」

 斎藤家の長男ということもあり、良照は当然天祐の実力を見計らって来た。
 そのうえで、実力はあるが口の軽い男という印象に定まった。
 しかし、その判断が間違いということは、天祐はずっと演じていたということだ。
 時に、敵国へ侵入するために敷島の者は演技力が必要になるとはいえ、自分を欺いているとは思いもしなかった。

「貴様! どれだけ長い期間今の状況を企んでいた?」

「そんな事を聞いてどうする? まぁ、強いて言うなら天祐の才を確信した時、あいつが5歳の時からだな……」

「……そんな時から幼少の息子に演技を強いるとは、敷島の者でも狂っているな」

 天祐が軽口なのは小さい時からだ。
 ということは、もうその時から演技を開始していたということになる。
 その時から、重蔵は国盗りの計画を企んでいたということだ。
 天祐に長いこと演技をさせていたとなると、人格操作に近い訓練を貸している可能性が高い。
 いくら敷島でも、そこまでのことをする事はないため、良照は重蔵のやり方に不快感を現した。

「フッ! あんな小さな島だけで満足しているジジイには分からないだろうな」

 アデマス王国建国期から、敷島は王国の影として動いてきた。
 それにより、王国は代を重ねるごとに大きくなってきた。
 それに引きかえ、敷島の一族はいつまで経っても変わらず島で暮らしている。
 仕事をこなすたびに、重蔵の中では王からの評価が低いと感じていた。
 そして、それに不満を持たない良照に対しても一物持っていた。
 この思いを払拭する方法を考えた時、重蔵の中である考えが思い浮かんだ。
 それが現在の王族に代わって、自分たち敷島の者がこの国の頭になることだ。

「武に生きる我らが国を取った所で……」

「おっと! いつまでもおしゃべりしていて良いのか?」

「くっ!!」

 歴代の王と歴代の頭領たちの関係があってこそ、ここまでの国に発展してきたのだ。
 その関係を壊すことは、先代たちの功績をないがしろにする行為に等しい。
 あくまでも武で生きる敷島の者が国を奪い取った所で、国民の反発を招くだけ。
 そのことを良照が指摘しようとするが、重蔵は聞く気がないらしく、話を遮るように天祐の方を指差す。
 良照が指差す方へ視線を向けると、天祐と残りの近衛兵の戦闘が開始されていた。
 天祐の実力から、近衛兵では王を守り切れない可能性が高い。
 少しでも早く倒すために、良照は重蔵に攻めかかった。

「このっ!!」「ハッ!!」

「フフッ!」

 数人がかりで攻めかかってくる近衛兵たち。
 そんな彼らの剣を躱し、天祐は戦いを楽しんでいるように笑みを浮かべる。

「………………」

「おっと!」

「っっっ!!」

 4人が天祐との戦闘をしている間に、護衛に付いた残り1人の近衛兵が、王のジョセフを逃がそうと少しずつ出入り口へ誘導する。
 しかし、そんな彼らを逃がす訳もなく、天祐は出入り口に先回りするように移動した。

「諦めた方が良いですよ陛下」

「何っ!?」

「もうこの城は斎藤家の者が占拠してますので」

「な、なんだと……」

 逃げようとするジョセフに対し、天祐は諭すように話しかける。
 当然ジョセフは諦めるわけにはいかない。
 天祐が話している間も、出入り口の方をチラチラと視線を向けていた。
 そんな彼を諦めさせるために、天祐はこの城の状況を説明した。
 斎藤家の者たちが城内に侵入することで国盗りが開始しされ、父と自分がこの部屋に来た時点で、もう城の制圧は完了しているのだ。
 逃げようにも、もうジョセフは籠の鳥ということだ。
 そのことを知ったジョセフは、絶望したように顔を青くした。

「……そ、それはつまり……」

「んっ?」

「……王妃や、息子は……」

 ジョセフが顔を青くしたのは、逃げられないことにだけではない。
 この部屋だけでなく城全体が占拠されているということは、他の部や後宮もということになる。
 そこにいる者たちも廊下の兵たちのような状況になっているとしたら、最悪のイメージが頭に浮かんできたため、顔を青くしたのだ。

「あぁ、もう死んでもらいました」

「……そ、そんな……」

 ジョセフに問われた天祐は、サラッと最悪な答えをジョセフに返した。
 当然それを聞いたジョセフは、崩れ落ちるようにその場に膝をつき、絶望に涙を流し始めた。

「陛下! お気を確かに!」

「まだ逃げる方法はあるはずです!」

 ジョセフは絶望するが、近衛兵達はまだ諦めていない。
 なんとかジョセフを逃がそうと、彼を奮い立たせようとする。

「無駄だって……」

「貴様らを殺せば、まだ道はある!」

 城が占拠されていようが、この部屋にいるのは重蔵と天祐だけだ。
 敷島頭領の良照もいるのだから、2人を倒せば王だけでも逃がすことはできるかもしれない。
 そのことに期待して、近衛兵たちは王を安全な場所へと移動させ、天祐に剣を向けた。

「……それこそ無理だって」

「「「「「っっっ!?」」」」」

 近衛兵たちの言葉を聞いた天祐は、彼らを嘲笑うかのように魔力を膨れ上がらせた。
 これまで以上の身体強化を施した天祐を見て、近衛兵たちは冷や汗が噴き出した。

「どうしたの? かかってきなよ」

「……くっ!」

「来ないのかな?」

 強力な魔力を纏い、天祐は近衛兵たちを手招きする。
 まともに戦っては勝ち目がないと悟り、近衛兵たちは僅かに怯む。
 そんな彼らに対し、天祐は腰を落として刀に手をやる。

「来ないなら……」

 自分たちから手を出して、返り討ちに遭うわけにはいかない。
 そう判断した近衛兵たちは、防御態勢に入ったようだ。
 どうやら、良照が重蔵に勝つまで時間を稼ぐつもりのようだ。
 たしかに近衛兵たちに良照が混ざれば、手こずることは間違いない。

「こちらから行かせてもらう!」

 父がいる限りそんなことになるとは思わないが、念のため近衛兵たちを始末するべく、天祐は自分から攻めることにした。

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