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第4章

第112話 幼馴染

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「しつこいわね!」

「ガウッ!!」

 襲い掛かるアルバに対し、奈美子は煩わしそうに回避する。
 限があれだけ多くいた五十嵐家に与する敷島の者たちを殺しまくり、奏太一人にまで追いつめるその少し前、レラ・アルバ・ニールの1人と2匹のトリオが奈美子と戦っていた。

『あの女思った以上に厄介ね……』

 アルバを相手にしながら、美奈子はレラのこと睨みつける。
 薬によるパワーアップによって、奈美子にとってレラは戦闘面では相手にならなくなった。
 しかし、攻撃魔法が得意な女としか認識していなかったレラが、回復魔法までも使ったことには驚いた。
 あれほどの回復魔法の使い手といったら、教会が囲んでいてもおかしくないはず。

『距離があるから助かっているけど……』

 奈美子との戦闘で深い傷を負ったアルバ。
 その傷が祟って、変身による強化をしても奈美子に攻撃が当てられないでいた。
 そんなアルバの傷も、ジワジワと回復していっている。
 レラが、離れた位置からアルバに回復魔法を放っているからだ。
 回復魔法は対象者に触れていた方が治りやすい。
 距離があるのに回復魔法を放つなんて無意味だと思いっていたが、そうではないようだ。

『成功して良かった』

 奈美子は知らないが、回復魔法使いなら誰もがレラのようにできるという訳ではない。
 レラ自身も、このような方法を試してみることなんて初めてだ。
 ニールと共にアルバを助け、何とか少しの時間だけでも奈美子から距離を取りたかった。
 しかし、奈美子もアルバを回復されては面倒になると分かっているからか、レラたちをアルバに近付かせないように動き回るため、隙が見当たらなかった。
 なので、アルバを回復することができない。
 このままでは、アルバが出血多量で死んでしまう。
 そう追い詰められたレラが思いついたのが、この遠距離回復魔法だった。
 レラとしても初の試みのため成功するか分からなかったが、どうやら成功したようだ。
 距離があるために回復速度は遅いが、少しずつアルバの体の傷が塞がっている。

『これも限様のお陰です……』

 この結果に、レラは密かに限へ感謝していた。
 離れた位置からの回復魔法なんて、教会でも聞いたことが無い。
 それなのにこの発想が出たのは、限に攻撃魔法を教わったからだ。
 攻撃魔法は離れた位置にいる標的を攻撃するもの。
 ならば、回復魔法も同じように出来るはずだ。
 攻撃魔法を教わったからこそこの方法がとれたのだから、限のお陰だとレラは考えた。

「あんたから殺した方が良いようね!!」

「っ!!」

 アルバとの戦闘をしていた奈美子が、レラに向かっていきなり方向転換してきた。
 完全にアルバが回復してしまえば、薬によるパワーアップをしていても苦戦を強いられるはず。
 そうならないためにもレラを先に始末して、アルバの回復を止めようと考えたようだ。

「キュッ!!」

「くっ! この亀っ!!」

 レラへ接近する奈美子を妨害するように、何重もの防壁魔法が展開される。
 ニールによるものだ。
 今の奈美子を、魔法による防壁一枚では止められないことは分かっている。
 それでも、勢いを抑えることはできる。
 ならば、防壁の数を増やせば抑え込めるはず。
 思った通り、ニールの張った防壁により、奈美子の接近を阻止することに成功した。

「ガウッ!」

「くっ!! この死に損ないが!」

 勢いを止められた奈美子に、アルバが襲い掛かる。
 しかし、それも奈美子がバックステップすることで躱されてしまう。
 邪魔をして来たアルバに対し、奈美子は反撃をしようと刀を構えた。
 そんな時、

「っっっ!! そんな……おじ様が……」

 奈美子の目には、限と戦う光蔵と奏太たち親子の姿が目に入った。
 奏太が突き出した刀が、限と光蔵を刺し貫いた。
 しかし、光蔵のみが倒れ、限は全く何の攻撃を受けた様子もなく立っている。
 そして、奏太が光蔵の死を確認すると、残った仲間と共に限へと戦い始めたが、戦闘開始時の時よりも限の強さが跳ねあがっている。
 あっという間に敷島の兵たちが殺され、とうとう奏太一人になってしまった。

「奏太!!」

 現在戦闘中のアルバたちのことなんてお構いなし。
 奈美子は奏太をピンチから救うため、限へと向かって走り出した。

「おお、いいぞ! 他の奴らよりやるじゃないか?」

「死ね!! 魔無しが!!」

 爆発的な速度で接近した奈美子は、限の死角から斬りかかる。
 怒りで我を忘れていようとも、声も出さずに殺しにかかるのは見事だ。
 それでも、奈美子の接近に気付いていた限は、攻撃を難なく刀で受け止める。
 その受け止めた衝撃から、限は奈美子の攻撃を褒めた。
 褒められた奈美子からすれば、おちょくっているようにしか聞こえないだろうが。

「レラたちは休んでいていいぞ」

「……畏まりました」

 もう、この場で生き残っている敵は奏太と奈美子のみ。
 自分が奈美子の相手もすることにした限は、レラたちから引き継ぐ事を伝える。
 奈美子だけは、何としても自分が止めを刺したいと思っていたレラだったが、それはもう難しい。
 少し悔しそうにしながらも、レラは限の言うことに従った。

「さて、最後は幼馴染同士で戦うことになるなんてな……」

「幼馴染? 奏太とはそうでも、私はあんたなんか幼馴染なんて思ったことないわ!!」

 目の前にいる奏太と奈美子に対し、限は憂いを含んだ表情で話しかける。
 そんな現に対し、奈美子は鼻で笑うように返答する。

「……確かにそうかもな」

 幼馴染と言ったが、それも物心ついた頃だけの話。
 同じ年に生まれたというだけで、特に馴染んでいる訳でもない。
 奈美子の返答に、限も納得したように頷く。

「本当はお前たちだけでも見逃そうと思っていたけど、お前のその答えのおかげで何の気兼ねなく殺せるよ」

 口や表情では幼馴染を相手にする事の憂いを見せているが、限は全くそんな感情持ち合わせていない。
 むしろ、あれほど手の届かない存在だった2人を今から殺せると思うと、嬉しくて仕方がない状況だ。

「……立ちなさい奏太! 2人でこいつを殺すのよ!」

「……無理だ。限に俺の攻撃は全く通用しない……」

『くっ! 心が折れている……』

 薬で強化した自分と奏太なら何とかなる。
 そう思って奈美子は声をかけるが、奏太は蹲り、体を震わせているばかりだ。
 あれ程の才のある奏太をこのような状態に追い込むなんて、相当な実力差を見せつけられたようだ。
 五十嵐家に与する数千の敷島兵を集めて罠に嵌めたというのに、その全てが返り討ちにあったのだから、それも分からなくもない。
 薬で強化している奈美子も、間近で今の限を見たら勝てる気がしない。
 しかし、まだ終わったわけではない。

「こうなったら逃げるわよ!!」

 このような奏太を置いて戦える相手ではない。
 そう判断した奈美子は、奏太を無理やり立ち上がらせて抱えるように走り出す。
 戦うよりも、恥を忍んで逃げる選択をしたようだ。

「っっっ!!」

「いい考えだ。だが、逃がすわけがないだろ?」

 奏太を抱えているというのに、薬の強化による奈美子の移動速度はかなりのものだ。
 しかし、限は黙って逃がすはずがない。
 すぐさま追いつき、奈美子たちの前に回り込んだ。

「そのお荷物抱えて戦うか?」

「くそっ! こんなことなら奏太の分も貰っておけば……」

 自分がこれだけ強くなれたのだから、自分よりも上の実力を持つ奏太が薬を飲んでいれば、限なんて恐れるようなことはなかったはず。
 強化する薬は1錠しか持っていなかったことを、奈美子は後悔していた。

「……そうだ。おまえには聞きたいことがあったんだ。お前が飲んだあの薬は誰から手に入れた?」

「誰が……」

「教えるならお前らは見逃してやってもいいぞ」

 奈美子の呟きから、限はあることを思いだす。
 強化薬のことだ。
 出所を確認するため、限は奈美子に問いかける。
 問われて答える訳もなく、奈美子は限の問いを突っぱねようとした。
 だが、その言葉が言い終わる前に、限が言葉を重ねる。
 助命の提案だ。

「…………本当…なの?」

「あぁ」

「あの薬はあんたの兄貴から貰ったのよ。もしもの時には使えって……」

「……そうか。あの女、斎藤家と組んだか……」

 戦っても勝てない。
 2人が助かるために、奈美子は藁をもすがる気持ちで提案を受け入れて返答する。
 その返答を受けて、限は笑みを浮かべた。

「がっ!!」

「っっっ!?」

 笑みを浮かべた限は、無言で近付き、奏太の胸を突き刺す。
 反応できないほどの速さに、奏太は成すすべなく崩れ落ちた。

「奏太! そんな! 約束が違う!」

「あぁすまん、さっきの嘘だわ」

 血を吐き動かなくなった奏太を抱き、奈美子は限を睨みつける。
 そんな視線などお構いなしに、限は平然と奈美子の言葉に返答する。

「奏太!! この鬼!! 悪魔!!」

 大粒の涙を流しながら、奈美子は必死に奏太に呼びかける。
 しかし、奏太が反応することはない。
 約束を反故にされ、愛する奏太を殺された奈美子は、限を罵倒する。

「賛辞の言葉をありがと、よっ!」

「うっ!!」

 泣き叫ぶ奈美子の罵倒などお構いなし。
 むしろ喜ばしいと言うかのように、限は奈美子の胸に刀を突き刺した。

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