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第4章

第99話 隠れ家

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「あそこだな……」

 帝国内の砦に潜入していた敷島の人間を捕まえた限は、すぐに尋問をおこなった。
 それによって、彼ら五十嵐家の人間が拠点としている隠れ家の場所を吐かせることに成功した。
 アデマス王国とラクト帝国の国境付近にある山。
 そこに向かった限たちは、情報通り拠点を発見した。

「あそこに五十嵐家の奴らが拠点にしている隠れ家があるらしい」

 恐らく土魔法が得意な者たちを使って山の一部をくりぬき、洞窟を作り出したようだ。
 たしかにこんな場所に拠点があるなんて、帝国の人間は夢にも思わないだろう。

「これまで通り、前は俺とアルバ。後はレラとニールの担当で進もう」

「ハイッ!」「アンッ!」「キュッ!」

 洞窟内を進むなら、敷島仕込みの潜伏技術が使える自分を先頭に進むのが適切だろう。
 そう思って出した限の指示に、レラたちは頷いた。

「まずは、見張りだな」 

 洞窟内に入るにしても、まずは入り口付近にいる見張りを始末するのが先だ。
 そのため、限は行動を開始する。

「っ!!」

“ドサッ”!!

「なっ!?」

 見張りに立っていた2人のうち、片方が崩れるように倒れる。
 何が起きたのかと、もう1人の見張りが倒れた仲間に駆け寄った。

「っ!!」

“ドサッ”!!

 もう1人の見張りも、仲間の容態を確認する前に倒れた。

「よし!」

 高速移動により背後に回り、2人の見張りの背中から心臓を一突きしただけだ。
 2人の見張りを倒した限は小さく呟き、レラたちを手招きする。
 それに応じ、レラたちも限の側へと駆け寄った。

「行くぞ!」

“コクッ!”

 洞窟内を指差し、限は小声でレラたちに話しかける。
 それに対し、レラたちは声を出さないように頷きだけで返答した。

「………おかしい」

「そうですね……」

 小声で話し合う限とレラ。
 尋問によって得た情報により、この洞窟は五十嵐家が拠点としている隠れ家という話だった。
 しかし、内部を進むがいつまで経っても人の気配がしない。
 そのことに違和感を覚え、限たちは一旦足を止める。

「まさか……」

 ここにきて、限はある可能性に気付く。
 そして、洞窟の入り口方向に目を向け、そちらへ向かって走り出そうとした。

“ドンッ!!”

「チッ!! やっぱり……」

 限が行動を移すより先に、天井の一部から巨大な壁が下りてくる。
 それにより、限たちは来た道を完全に塞がれてしまい引き返すことができなくなってしまった。
 予想通りの結果になってしまい、限は舌打ちをした。

「限様! これは……?」

「俺たちは奴らにまんまとおびき寄せられたって事だろう」

 砦内に侵入していた敷島の人間を捕まえて尋問し、まだそれほど時間は経過していない。
 このような仕掛けを用意するにしても、仲間が捕まったと気付くのには早過ぎる。
 もしかしたら侵入者を捕まえさせ、ここにおびき寄せるのが目的だったのかもしれない。

「……どうしましょう?」

「仕方がない。このまま進もう」

 落ちて来た壁を破壊して外へ逃れるという方法を試そうかと、限が確認するとどうやらそれも難しいくらい壁が厚い。
 その様子を見たレラが、この状況をどうするのか問いかけると、限は前進を選択した。

「ですが……」

「あぁ、罠なのは分かっている。しかし、仕方がないだろ?」

「分かりました」

 壁を破壊するのが難しいなら前進しか選択肢はないが、それはどう考えても罠でしかない。
 そのため、レラは限へ忠告をしようとした。
 罠なのは当然限も気付いている。
 しかし、この状況では罠と分かっていても進むしか脱出路がない。
 ならば、進むしかない。
 限の考えを聞いたレラは、それに素直に従った。





「ようこそ! 菱山家を潰した帝国の者とはお前たちだな?」

 洞窟内はほぼ一本道。
 道なりに進んでいると、限たちは開けた大きめのフロアのような場所へと辿り着いた。
 フロア内には多くの敷島の者たちが立っていて、五十嵐家当主の光蔵が限たちの前に姿を現して確認をして来た。

「フッ! それは違うな……」

「惚けるか?」

 光蔵の問いに対し、限は笑みを浮かべたあと返答する。
 敷島の人間を捕まえて情報を吐かせないと、この場を見つけることはできないはず。
 そんな事ができる帝国の人間こそが、菱山家を潰した張本人のはずだ。
 それなのに否定するような返答してきたため、光蔵は惚けられていると感じ、眉間に皺を寄せる。

「惚けてなんかいないさ。菱山家を潰したのはたしかだが、帝国の人間ではないってことだ」

「何!?」

 菱山家を潰したのが帝国以外の人間という可能性は、もちろん光蔵も考えていた。
 しかし、他の国の人間にしても、菱山家を潰せるような人間は思い至らない。
 そのため、てっきり帝国の人間だと思っていたが、その考えは違ったようだ。

「よくも!! あんたは絶対に殺す!!」

「……なんだ? 参加していなかったのか? 奈美子……」

 菱山家を潰したという発言を聞いて、光蔵の側に立つ菱山奈美子が一歩前に出る。
 父をはじめとする一族が全員殺されたのだから、怒りが湧くのも当然だ。
 そんな奈美子を見て、限は意外そうに呟く。
 菱山家の一族は皆殺しにしたはずなのに、奈美子が生き残っていたからだ。

「っ!? ……だれだ貴様! 何故奈美子の名を!?」

 奈美子は、五十嵐家へ嫁ぐ身。
 そのため、菱山家当主の源斎は総攻撃に参加させなかった。
 目の前の人間の呟きは、まるで奈美子が菱山家の人間であると知っているかのようだ。
 そもそも、どうして奈美子の名前を知っているのか。
 得体の知れない目の前の男に、奏太は思わず反応した。

「フッ! 奏太。幼馴染を忘れたか?」

「「……っっっ!!」」

 幼馴染。
 その言葉を聞いて、奏太と奈美子は思考が一旦停止する。
 そして、すぐにその言葉に当てはまる人物の顔が浮かんできた。

「げ、限!?」

「し、死んだはずじゃ!?」

 どうやら目の前にいるのが限だと理解した奏太と奈美子は、まるで幽霊でも見るような表情で問いかけてくる。
 2人がそのような反応をするのは当然だ。
 死んだとされているはずの人間が、目の前に現れたのだから。

「この通りピンピンしているよ。菱山家を潰す程にな……」

「「っっっ!!」」

 敷島の内部で自分は死んだとされている。
 そのことは限も理解している。
 しかし、顔を見ても気付かなかった幼馴染2人に、限は手を広げて嫌味を込めた発言をする。
 その発言に、奏太と奈美子は驚きから怒りの表情へと変化する。
 そして、今にも襲い掛かってきそうな目で限を睨みつけて来た。

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