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第4章

第94話 確認

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「貴様生きていたのか!?」

「……バレちまったか」

 菱山家の源斎は、奈美子の父だ。
 頭領の指示によって限は美奈子と結婚する予定だった。
 つまり、もしかしたら義理の父になったかもしれない相手だ。
 いくら望まない婚約だったとは言っても、相手の限のことを知らないわけがない。
 しかし、研究所送りになったことで縁が切れたため、限としては覚えていたことが意外だ。

「研究所のオリアーナとか言う女によって、殺されたはずだと聞いていたが……」

 アデマス王国の戦力を上昇させるために作られた、生物兵器開発の研究所。
 そこに送られた生物は、実験体にされた後始末されるということは知られていた。
 斎藤家当主の重蔵は、一族の汚点とも言うべき限をどうにか始末したいと思っていた。
 その時に研究所の話を聞いたため、これ幸いにと限のことを送り込んだのだ。
 重蔵のその判断は、源斎としても助かった。
 魔無しを婿にしなくて済んだためだ。
 情報では、限は死んだと聞いていたため、目の前にいることが信じられない。

「確かに人体実験を受けまくって死にかけたが、この通り生きてるよ」

 やはり、敷島には死んだという情報が流れていたようだ。
 オリアーナが人体実験をおこなっていることは、父たちは分かっていて自分を研究所に送ったのだ。
 死んだと聞いたらすんなり受け入れたはずだ。
 しかし、死体を見ていないため、完全に信じていなかったようだ。
 自分のことを覚えていた源斎のことを感心しつつ、限は笑みと共に答えた。

「生きていようがどうでもいい。我々の邪魔をした貴様はこの場で殺す!」

 多くの敷島兵が殺され、このままでは帝国を倒すにもかなりの時間が必要になる。
 計画が完全に潰された源斎は、怒りと共に限に刀を向けた。

「やってみろよ。どうせここにいる敷島の者は皆殺しにするつもりでいたんだ。あんたも含めてな」

 敷島の人間は皆殺しにする。
 そのためにあの地獄のような地下廃棄場から這い上がってきたのだ。
 思わぬ方法とはいえ、自分が実験に耐えたことにより力を手に入れた。
 この力さえあれば、源斎すら倒せるはず。
 父を殺すための実験台として、限は源斎に向けて刀を構えた。

「調子に乗るなよ!! 魔無し風情が!!」

「もう魔無しじゃねえっての。まともな人間でもないけどもな」

 魔力を手に入れたと言っても限に負けるとは思っていない源斎は、挑発と分かっていながらそれに乗る。
 地を蹴った源斎は、一直線に限へと向かって襲い掛かった。
 いつまでも魔無し呼ばわりされるいわれはないため、限は迫りつつ発した源斎の言葉にツッコミを入れる。
 
「ハッ!! セイッ!! タァー!!」

「フッ!」

 面、胴、突きと連続で放つ源斎の攻撃を、限は両手の刀を使って防ぐ。
 その表情は、どことなく余裕を感じさせた。

「貴様! 本当にあの魔無しか?」

「だから言っているだろ! 無しだってな」

 防がれても、お構いなしと言わんばかりに高速の攻撃を続ける源斎。
 その攻撃に対し、限は防御に徹する。
 そして、攻防を続けながら2人は言い争う。

「ハッ!!」

「うぐっ!!」

 攻撃を防いだ限は、蹴りを腹に打ち込む。
 その蹴りがクリーンヒットした源斎は、腹を抑えて後退する。

「フフッ! どうした? 菱山家の当主とはその程度か?」

「ぐっ、力を手に入れたからといって調子に乗りやがって……」

 源斎に一撃を加えた限は、笑みと共に話しかける。
 その表情に、源斎は顔を顰める。

「諦めろ。帝国相手にこの状況では、菱山家は終わりだ」

 帝国に攻め込んで来ておいて、返り討ちにあったなったなんてことになれば、完全に敷島の名に傷がつく。
 敷島のなかでも有力な三家のうちの1つである菱山家でも、頭領が許すわけがない。
 生きて帰ったら、菱山家の一族は今後何代か先まで敷島の外に出る許可が下りなくなるだろう。
 ならば、このままどこかへ逃亡しようと考えるだろうが、一生敷島の暗殺部隊に追いかけられることになるため、勧められない。

「調子に乗るなよ! ここにいる帝国など、残った者だけでも勝利してみせる!」

 まだ菱山家は終わっていない。
 限によって大量の敷島兵が殺されてしまったため、生き残った人数で帝国を倒すのは難しい。
 しかし、難しいと言っても倒せない訳ではない。
 トップである自分が動けば良いだけだ。

「あっそ。まぁ俺が皆殺しにするから、そんなこと考えるだけ無駄だな」

「このガキが!!」

 恨みもあるが、敷島の人間はこの東大陸に住む他の国にとって害でしかない。
 この世界から排除されるべきだ。
 それをおこなうのは自分の役割だ。
 当然この場にいる者たちも、1人として逃がすつもりはない。
 自信ありげに発した限の言葉に、怒りが沸き上がった源斎は刀を構えて地を蹴った。

「ハッ!」

「っと!」

 限を引き連れて動き回り、樹の背後に姿を消した源斎は、限の背後へと回り斬りかかる。
 得意の気配を消しての攻撃の追うようなのだろうが、限には通用しない。
 背後に現れたと共に、限はその場から横へ跳び退いた。

「チッ!」

 限への攻撃は無駄になり、先程利用した木を斬った。
 完全にこの攻撃が通用しないことに、源斎は思わず舌打ちをした。
 斬った樹が倒れるのを無視し、源斎は横に跳んだ限の姿を目で追った。

「っ!?」

 源斎は驚きで目を見開く。
 何故なら、そこに居るはずの限の姿がなかったからだ。

「どこを見ている?」

「っっっ!!」

 姿を消した限の言葉に、源斎は更に驚く。
 声が聞こえてきたのが、倒れる樹の背後からだった。
 応用の攻撃すらも、真似されたということだ。
 姿を現した限の攻撃を、源斎はギリギリのところで刀で防いだ。

「オラッ!!」

「うぐっ!!」

 完全に出し抜いたと思ったというのに、攻撃を防いだことは流石だ。
 しかし、攻撃を防いだことで隙ができる。
 その出来た隙をついて、限はまたも源斎の腹に蹴りを入れた。

「う……うげぇ……」

「刀攻撃のように、腹もちゃんと守った方が良いぞ」

 2度目の蹴りが直撃し、源斎は耐えきれずに胃の中の物を吐き出す。
 それを見て、限は上から目線で忠告する。

「甚振って殺すのもありだが、他にも相手しなければならないからな」

 敷島兵と戦っているのは限だけではない。
 大丈夫だとは思うが、レラたちのことも気になるため、源斎にばかり時間をかけている訳にはいかない。
 でも敷島のトップ陣に通用することが確認できたため、もう源斎に用はない。
 限は腹を抑える源斎を始末するために、ゆっくりと歩み寄った。

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