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第3章
第75話 潜入
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「ハハハッ! 奴らあのワニに手こずっているぞ」
ラクト帝国側のクラレンス伯爵は上機嫌だった。
憎き敷島の連中が、オリアーナたちが造りだした魔物によって、ジワジワとは言え数を減らしていっている。
開発費に大金をかかったが、そんなこと吹き飛んで行くほど気分が高揚していた。
「このままいけば我々の勝利だ。そうなれば私は陞爵に領地拡大も夢ではない。帝国内での地位は盤石のものになるはずだ!」
建国の時代からラクト帝国南の領地を預かり、領地運営をおこなってきたクラレンス家。
領地が大きいのはいいが、何の特産もなく、祖父や父が当主をしていた時には赤字続きだった。
以前起こったアデマス王国との戦争で、2人とも戦死し、成人して間もない自分がその後を受け継ぐことになった。
祖父と父を殺したのは敷島の者たちだと知り復讐を誓うが、領地のことを考えるとそれどころではなかった。
しかし、領地内に運よく鉱山が発見され、それによるバブルで一気に領地経営が豊かになった。
そうなると、次は祖父と父の復讐に意識を向ける。
国内だけでなく近隣国の情報を得て、オリアーナたちを引き入れることに成功し、この戦争で敷島の連中への復讐を果たせ、このままアデマス王国に勝利することができれば、国内での評価はうなぎ上りだ。
そう考えると、気分が上がるのも当然だろう。
「あのワニは、以前逃げ出したのと同じ種類だったかな?」
「えぇ、幼体でしたので、成長する前に他の魔物に殺されたようですが」
上機嫌のクラレンスは、上機嫌のままオリアーナに問いかける。
その問いに、オリアーナも笑みを受けべて返答する。
現在敷島の者たちを苦しめているワニの魔物は、6本腕の魔物の前に作り出したものだ。
クラレンスが言うように、数体が逃げ出したことがあり、オリアーナたち研究員たちを慌てさせた出来事だった。
オリアーナたちが造り出したワニたちは、貪欲に食欲を見たし、体を巨大化させていく。
それが従属化する前に逃げ出してしまったのだから、慌てるのも無理はない。
もしも逃げ出したワニたちが成長したら、ラクト帝国に大きな被害を与える可能性があったからだ。
しかし、結果特に大きな問題が起こらず、他の魔物に殺されたのだと判断し、オリアーナたちは安堵したものだ。
実際は、逃げ出したワニは川から海へと逃れ、そこからジワジワと成長して、限たちに殺されるようになったのだが、他国のことなど興味のない彼女たちは知る由もなかった。
「あのワニたちは食欲が旺盛過ぎて、餌を与えると限界を超えるまで食べ続けるという欠点がありますが、そうなる前に死体はなくなるでしょう」
オリアーナたちが造りだしたワニたちは、彼女たちが止めなければ貪欲に食欲を満たし、成長を続ける。
止めなければ、限界値を越えるまでだ。
折角の生物兵器も、それでは意味がないため、オリアーナたちは限界値の検証をした。
その検証も済んでいるため、今回戦場に送り込んだという訳だ。
「敷島の連中がいつまで持つのか楽しみです」
「そうだな。我々は高みの見物とさせてもらおう」
2種類の生物兵器は予想通りの効果を発揮している。
このままいけば敷島の者たちは大量に死に、アデマス王国が降伏するのを待つばかりだ。
それまでの間、クラレンスとオリアーナは、砦最上階のこの部屋から戦場を眺めて楽しむことにした。
「……なんか、俺たちの出番はないんじゃないか?」
「良いじゃないか。余計な怪我を負わなくていいんだから」
クラレンスとオリアーナがのんびりしているように、ラクト帝国の兵たちはただ定位置に立って戦場を眺めていた。
生物兵器により、自軍が有利に戦いを進めているため、やることが無い状況だ。
あまりに暇なため、ある兵は隣にいる仲間に話しかけた。
声をかけられた兵は、自分たちが出なくて良いこの状況を受け入れているような態度だ。
彼からすると、怪我も覚悟して戦場に来たのにこのまま勝てそうなのだから、むしろ良いことだと考えている様子だ。
「確かに怪我はしたくないが、出世のチャンスがないって言うのもな……」
「そういやそうか……」
平民の自分たちが兵に志願したのは、戦場で功績を上げ、あわよくば爵位を得ることが目的だからだ。
それなのに、参戦しても何も無しでは爵位を得るような功績なんて得られるはずがない。
怪我をしないというのは良いことだが、そういったチャンスもないのは戦場にいる意味もない気がしてしかたがないのだ。
そう言われると、もう1人の兵も確かにそうだと思えてきた。
「そんな事気にする必要はないさ」
「「っっっ!!」」
自分たちの会話に入るように、背後から声が聞こえてきた。
その声に反応するように振り返ろうとしたが、2人の兵はその声の主の姿を見ることなく意識を失た。
「お見事です」
一瞬にして兵を無力化した限に、後から来たレラが声をかける。
限の従魔のアルバとニールも一緒だ。
「6本腕の生物兵器はあちらの方から、ワニの方はあちらの方から出現していた。研究員たちも2ヵ所に分かれているのだろう」
「なるほど」
生物兵器の魔物は、右の棟から6本腕、左の棟からワニが出ていた。
恐らく、魔物の管理を2ヵ所に分けたのだろう。
それと共に、研究員たちも左右の棟に分けられているはずだ。
「俺はアルバと共にあちらの棟へ行くから、レラはニールと共にこちらの棟を担当してくれ」
「畏まりました」
1ヵ所ずつ潰していては、騒ぎになって兵が集まってしまう。
場合によっては研究員が逃げてしまう可能性もある。
そうならないためにも、限は右の棟へ、レラは左の棟へ向かい、同時攻撃を開始することに決めた。
「レラも研究員たちには思うこともあるだろ?」
「えぇ……」
限と同様に、レラもアデマス王国の研究所で人体実験を受けた。
その時の痛みや苦しみを、研究員たちにやり返す絶好の機会だ。
限に問われたレラは、昔のことを思いだしたのか眉間に皺を寄せた。
「好きに暴れろ」
「はい」
元々は聖女見習いとして生きていたため、人を殺すことなど考えたこともなかった。
どんな生物でも命は尊いものだと教えられたが、今はそんな風には思っていない。
この世には死んだ方が良い人間は存在していて、そういった者は相応の罰を受けなければならない。
神の代行として、自分が研究員たちを始末する。
そう考え、レラはニールと共に左の棟の内部へと侵入を開始した。
「俺たちも行くぞ! アルバ」
「ワウッ!!」
研究員たちへの憎しみは、限やレラだけでなくアルバも持っている。
地下研究所の時は限がほとんど始末してしまったため、自分はあまり復讐を果たせていなかった。
今回は兵がゴロゴロいるため、囲まれないためにも前回以上に迅速さが求められる。
そうなると自分の役割も重要になるため、アルバは気合いが入っているようだ。
限の言葉に対し、静かだが力強く返事をした。
「さて、皆殺しだ」
アルバの気合いを確認すると、限は小さく呟く。
そして、その場から消えるように行動を開始したのだった。
ラクト帝国側のクラレンス伯爵は上機嫌だった。
憎き敷島の連中が、オリアーナたちが造りだした魔物によって、ジワジワとは言え数を減らしていっている。
開発費に大金をかかったが、そんなこと吹き飛んで行くほど気分が高揚していた。
「このままいけば我々の勝利だ。そうなれば私は陞爵に領地拡大も夢ではない。帝国内での地位は盤石のものになるはずだ!」
建国の時代からラクト帝国南の領地を預かり、領地運営をおこなってきたクラレンス家。
領地が大きいのはいいが、何の特産もなく、祖父や父が当主をしていた時には赤字続きだった。
以前起こったアデマス王国との戦争で、2人とも戦死し、成人して間もない自分がその後を受け継ぐことになった。
祖父と父を殺したのは敷島の者たちだと知り復讐を誓うが、領地のことを考えるとそれどころではなかった。
しかし、領地内に運よく鉱山が発見され、それによるバブルで一気に領地経営が豊かになった。
そうなると、次は祖父と父の復讐に意識を向ける。
国内だけでなく近隣国の情報を得て、オリアーナたちを引き入れることに成功し、この戦争で敷島の連中への復讐を果たせ、このままアデマス王国に勝利することができれば、国内での評価はうなぎ上りだ。
そう考えると、気分が上がるのも当然だろう。
「あのワニは、以前逃げ出したのと同じ種類だったかな?」
「えぇ、幼体でしたので、成長する前に他の魔物に殺されたようですが」
上機嫌のクラレンスは、上機嫌のままオリアーナに問いかける。
その問いに、オリアーナも笑みを受けべて返答する。
現在敷島の者たちを苦しめているワニの魔物は、6本腕の魔物の前に作り出したものだ。
クラレンスが言うように、数体が逃げ出したことがあり、オリアーナたち研究員たちを慌てさせた出来事だった。
オリアーナたちが造り出したワニたちは、貪欲に食欲を見たし、体を巨大化させていく。
それが従属化する前に逃げ出してしまったのだから、慌てるのも無理はない。
もしも逃げ出したワニたちが成長したら、ラクト帝国に大きな被害を与える可能性があったからだ。
しかし、結果特に大きな問題が起こらず、他の魔物に殺されたのだと判断し、オリアーナたちは安堵したものだ。
実際は、逃げ出したワニは川から海へと逃れ、そこからジワジワと成長して、限たちに殺されるようになったのだが、他国のことなど興味のない彼女たちは知る由もなかった。
「あのワニたちは食欲が旺盛過ぎて、餌を与えると限界を超えるまで食べ続けるという欠点がありますが、そうなる前に死体はなくなるでしょう」
オリアーナたちが造りだしたワニたちは、彼女たちが止めなければ貪欲に食欲を満たし、成長を続ける。
止めなければ、限界値を越えるまでだ。
折角の生物兵器も、それでは意味がないため、オリアーナたちは限界値の検証をした。
その検証も済んでいるため、今回戦場に送り込んだという訳だ。
「敷島の連中がいつまで持つのか楽しみです」
「そうだな。我々は高みの見物とさせてもらおう」
2種類の生物兵器は予想通りの効果を発揮している。
このままいけば敷島の者たちは大量に死に、アデマス王国が降伏するのを待つばかりだ。
それまでの間、クラレンスとオリアーナは、砦最上階のこの部屋から戦場を眺めて楽しむことにした。
「……なんか、俺たちの出番はないんじゃないか?」
「良いじゃないか。余計な怪我を負わなくていいんだから」
クラレンスとオリアーナがのんびりしているように、ラクト帝国の兵たちはただ定位置に立って戦場を眺めていた。
生物兵器により、自軍が有利に戦いを進めているため、やることが無い状況だ。
あまりに暇なため、ある兵は隣にいる仲間に話しかけた。
声をかけられた兵は、自分たちが出なくて良いこの状況を受け入れているような態度だ。
彼からすると、怪我も覚悟して戦場に来たのにこのまま勝てそうなのだから、むしろ良いことだと考えている様子だ。
「確かに怪我はしたくないが、出世のチャンスがないって言うのもな……」
「そういやそうか……」
平民の自分たちが兵に志願したのは、戦場で功績を上げ、あわよくば爵位を得ることが目的だからだ。
それなのに、参戦しても何も無しでは爵位を得るような功績なんて得られるはずがない。
怪我をしないというのは良いことだが、そういったチャンスもないのは戦場にいる意味もない気がしてしかたがないのだ。
そう言われると、もう1人の兵も確かにそうだと思えてきた。
「そんな事気にする必要はないさ」
「「っっっ!!」」
自分たちの会話に入るように、背後から声が聞こえてきた。
その声に反応するように振り返ろうとしたが、2人の兵はその声の主の姿を見ることなく意識を失た。
「お見事です」
一瞬にして兵を無力化した限に、後から来たレラが声をかける。
限の従魔のアルバとニールも一緒だ。
「6本腕の生物兵器はあちらの方から、ワニの方はあちらの方から出現していた。研究員たちも2ヵ所に分かれているのだろう」
「なるほど」
生物兵器の魔物は、右の棟から6本腕、左の棟からワニが出ていた。
恐らく、魔物の管理を2ヵ所に分けたのだろう。
それと共に、研究員たちも左右の棟に分けられているはずだ。
「俺はアルバと共にあちらの棟へ行くから、レラはニールと共にこちらの棟を担当してくれ」
「畏まりました」
1ヵ所ずつ潰していては、騒ぎになって兵が集まってしまう。
場合によっては研究員が逃げてしまう可能性もある。
そうならないためにも、限は右の棟へ、レラは左の棟へ向かい、同時攻撃を開始することに決めた。
「レラも研究員たちには思うこともあるだろ?」
「えぇ……」
限と同様に、レラもアデマス王国の研究所で人体実験を受けた。
その時の痛みや苦しみを、研究員たちにやり返す絶好の機会だ。
限に問われたレラは、昔のことを思いだしたのか眉間に皺を寄せた。
「好きに暴れろ」
「はい」
元々は聖女見習いとして生きていたため、人を殺すことなど考えたこともなかった。
どんな生物でも命は尊いものだと教えられたが、今はそんな風には思っていない。
この世には死んだ方が良い人間は存在していて、そういった者は相応の罰を受けなければならない。
神の代行として、自分が研究員たちを始末する。
そう考え、レラはニールと共に左の棟の内部へと侵入を開始した。
「俺たちも行くぞ! アルバ」
「ワウッ!!」
研究員たちへの憎しみは、限やレラだけでなくアルバも持っている。
地下研究所の時は限がほとんど始末してしまったため、自分はあまり復讐を果たせていなかった。
今回は兵がゴロゴロいるため、囲まれないためにも前回以上に迅速さが求められる。
そうなると自分の役割も重要になるため、アルバは気合いが入っているようだ。
限の言葉に対し、静かだが力強く返事をした。
「さて、皆殺しだ」
アルバの気合いを確認すると、限は小さく呟く。
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