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第3章

第74話 再出現

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「ムッ!?」「何だ!?」

 五十嵐家たち援軍のお陰もあってか、敷島の者たちはラクト帝国側の生物兵器の数を減らすことに成功している。
 兵器の数がどれほどなのか分からないが、このまま戦っていれば何とかなるはずだ。
 そう思っていた敷島の者たちを指揮する五十嵐家の光蔵と菱山家の源斎は、ラクト帝国側に動きがあるのを察知した。

「グルルル……」

 何かと思ったら、ラクト帝国側から大型犬ほどのワニが数匹現れたのだ。
 現れたワニたちは、こちらを睨みつけながら迫り来る。

「何ですかな? あの魔物は……」

「わかりませぬ。前回は出てこなかった」

 ゆっくりと迫り来るが、ワニたちは大きさからいって全く脅威に感じない。
 何故あんなたいしたことない魔物を帝国側が送り出してきたのか、敷島の者たちには理解できない。
 敵の狙いはよく分からないが、何の考えもなく出してきたとは思えないため、光蔵はあの魔物の特性が気になり源斎に問いかける。
 しかし、源斎自体も見たことも無いような魔物だったために、首を傾げるしかなかった。

「ガウッ!!」

 出てきたワニたちは、敷島の者たちに仕留められた生物兵器の死体に群がる。
 そして、その死体の肉を貪り始めた。

「……食ってる?」

「……仲間じゃないのか?」

 背物兵器とワニは一応仲間のはずだ。
 なのに、死体とは言え貪りついているのは理解しがたい。

「死体処理に出したのかも……」

「まだ戦時中だというのにですかな?」

 戦場に死体が山積みになっていると邪魔になる。
 それを処理するために出してきたのかと、源斎は予想した。
 しかし、戦争が中断した時などに死体処理のために出してきたのなら理解できるのだが、光蔵がツッコミを入れたようにまだ戦時中だ。
 今出してくる意味がない。

「グルルル……」

「っ!?」「なっ!?」

 骨すらも残さずに死体を食い尽くすと、ワニたちに異変が起きる。
 一回り肉体が大きく成長したのだ。
 それを見た光蔵と源斎は、目を見開いて驚く。

「まさか、死体を食べるごとに大きくなるのか……」

「そんな魔物が存在しているのですか?」

 大きくなったワニたちは、他の死体にも群がっていく。
 その中には、生物兵器との戦闘で殺られた敷島の者の死体もある。
 その様子を見て、源斎はワニの特性を予想して呟く。
 だが、そんな特性を持つ魔物なんて聞いたことが無いため、光蔵はすぐさま源斎へ問いかける。

「もしかしたら、あれもオリアーナたちが造った魔物なのでは?」

「何だと……」

 死体を貪り、肉体を大きくしていくワニたち。
 どうやら源斎の予想は間違いではないたようだ。

「……まずい! 肉体と共に魔力まで膨れている」

「えぇ、このまま放置しておくわけにはいかない」

 肉体が膨れ上がれば、それだけで魔物は危険になる。
 どんどん大きくなるワニはそれだけでなく、体を大きくするたびに魔力も増えていっている。
 魔力が大きくなれば、攻撃や防御の威力が更に上がる。
 このまま放置しておくと、たいしたことないはずのワニが危険な存在へと変化してしまう。
 そう考えた光蔵と源斎は、敷島の数組の隊をワニの始末に動かすことにした。

「ガアァーー!!」

「「「「「っっっ!!」」」」」

 死体から死体へ動き回るワニのうち、はぐれた一体に目を付けた敷島の隊が迫る。
 自分を標的にしていると察したのか、ワニは彼らに向けて口を開く。
 何をするのかと思っていると、ワニの開いた口から強力な火炎が放射された。
 接近を試みていた敷島の者たちは、慌ててその場から跳び退く。
 全員が全員その攻撃を躱せたわけではなく、1人が直撃受けてしまった。

「一瞬で灰に……」

 直撃をくらった者が姿を現すと、全身が焼かれ、ボロボロと崩れていった。
 ワニの吐いた火炎放射の火力が相当なものだったのだろう。
 一瞬にして灰になった仲間を見て、敷島の者たちはワニへの接近を躊躇った。
 近付けば火炎放射の餌食になる。
 そうなれば、先程の仲間のように一瞬にして灰と化す姿が浮かんだからだ。

「囲んで攻めかかるぞ!」

「おうっ!」

 近付くと火炎放射が危険なら、距離を取って遠距離攻撃をすれば良い。
 しかし、ワニの表皮を見ると、硬い鱗に覆われていて生半可な攻撃は意味を成さないのは目に見えている。
 ワニに傷を負わせるには、近付いて刀で斬るしかない。
 そう判断した敷島の者たちは、1人に攻撃が集中しないように囲んで隙を窺うことにした。

「ぐわっ!!」

「なっ!?」

 ワニを囲み攻撃を仕掛けようとしていた所、どこからか水の刃が飛んできた。
 その攻撃を受けた1人の敷島の者が、体を斜めに斬り裂かれて即死した。
 水の刃が飛んできた方向を見ると、他のワニたちがこちらへ視線を向けていた。
 仲間がピンチだと悟り、援護してきたようだ。

「くっ!! お前たちは他のワニの攻撃に注視、他の者はこのワニを始末するぞ!!」
 
「「「「「お、おうっ!!」」」」」

 1体を倒すにしても、他のワニに注意を向けないとならないと悟ったため、光蔵と源斎からワニ退治を任された隊長の男は、部下たちへと指示を出す。
 他のワニからの攻撃を防ぐ者と目の前のワニに攻撃を加える者に分け、戦闘が繰り広げられていった。





「あのワニは……」

「あぁ、あの時のワニのようだな」

 離れた場所で戦場を眺める減とレラ。
 戦場に現れて大きくなっていくワニを見て、2人はニールと出会った時のことを思いだしていた。
 普段は変身魔法によって子亀の姿をしているが、本性は巨大亀のニール。
 初めて会った時、ニールは怪我を負っていた。
 その怪我を治したことによって減の従魔になったのだが、怪我を負わせたのが巨大ワニの番だった。
 その時のワニと、戦場に現れたワニの姿は酷似している。

「あの時のワニもオリアーナの奴らの仕業だったようだな……」

 あまり見たことも無いようなワニが、帝国側から何体も出てきた。
 それはつまり、あのワニもオリアーナたちが造りだした生物兵器なのだろう。
 今では自分の従魔であるニールを怪我させたのがオリアーナたちのせいだと分かり、限は更に彼女たちに対して怒りが沸き上がってきた。

「あのワニは何気に強い。敷島の者たちでもかなりの苦労を要することだろう」

 戦場の死体を食い続ければ、ワニは限たちが戦った時の大きさへと至るだろう。
 そうなれば、敷島の者たちでも手こずるはずだ。

「そろそろ動くぞ」

「はい!」「ワウッ!」「キュー!」

 放って置いても敷島の人間を減らせる状況になった。
 限としては、そろそろ動くのにちょうどいい状況だ。
 見ているだけに限界が来た限は、レラと従魔たちと共に行動に移ることを決意したのだった。

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