上 下
69 / 179
第3章

第69話 観戦

しおりを挟む
「フフフッ! もっと驚きなさい敷島の脳筋共」

 敷島の人間の前に出現した魔物。
 それはオリアーナたち研究員が作り上げた人造兵器だ。
 その魔物によって敷島の人間が苦戦している。
 これまでの研究成果が発揮され、オリアーナは上機嫌だった。
 本来はアデマス王国内での地位向上を目指すための研究だったが、今では逆にアデマス王国を潰すために使用されているから因果なものだ。

「チッ!」

 菱山家の当主である源斎は、現れた魔物の強さに舌打をする。
 才能ある若者が殺されてしまったのだから、そうしたくなる気持ちも分かる。

「一人で当たるな! 集団で当たればなんとかなる!」

「「「「「了解!!」」」」」

 殺されてしまったが、彼が残したことを無駄にするわけにはいかない。
 1人で挑んでは、6本ある腕によって攻撃を防がれ、反撃を食らってしまう。
 そうならないためにも、源斎は集団で攻めかかることを指示した。

「ハッ!!」「タァ!!」

「グルァッ!!」

 源斎の指示を受け、敷島の者たちは集団で6本腕の魔物に攻めかかる。
 集団で襲い掛かられた魔物は、6本腕があろうと対処しきれるものではなく、細かい傷を負い段々と弱り始めた。

「やっぱり数は重要よね……」

 人造兵器である魔物がやられそうになっているというのに、オリアーナは冷静な態度で呟く。
 そして、研究員たちに手で合図を送った。
 その合図を受けて、研究員たちが動き出した。

「ハッ!!」

「グァッ!!」

 敷島の者が数人で攻めかかることによって、6本腕の魔物が倒された。

「オリアーナめ! あのような生物を作り上げていたか……」

 敷島の人間が見たこともない魔物。
 そして、相手の国にオリアーナたちが逃れていたことを思いだした。
 アデマス王国内にいた時も色々な生物を使って生物兵器を作ることを、オリアーナたち研究員はおこなっていた。
 その研究によって生み出されたのが、この魔物なのだろうと判断した。
 こんな危険な生物を作り出していたとなると、もっと早く始末しておけば良かった。

「無駄に時間を食ったが、このまま敵陣に攻め入るぞ!」

「「「「「おうっ!」」」」」

 突如現れた魔物に足止めされ、源斎が指揮する班の者たちが足止めを食らった形になった。
 他の班の者たちは、その間に敵兵へと襲い掛かっている。
 このままでは、他の班が先に帝国の本陣へと入ってしまうかもしれない。
 同じ敷島の者でも、戦場では戦果を争うライバルでもある。
 他の班に負けまいと、源斎たちも帝国兵たちへ向かって走り出した。
 しかし、

「「「「「グルル……」」」」」

「なっ!?」

 先程手こずりつつも倒したのと同じ魔物が帝国の陣から何体も出現し、敷島の者たちに向かって攻めかかってきた。
 それを見た敷島の者たちは、一旦距離を取り対応することにした。

「あんな大量に……」

「バカな! どれだけの数の生物兵器を作り上げたというのだ……」

 一旦退いた敷島の者たちに対し、ぞろぞろと6本腕の魔物が姿を現す。
 その数に、敷島の者たちも戸惑いの声を漏らした。

「敷島の人間が戸惑うな! 帝国兵よりも、あの魔物の相手に集中するのだ!」

「わ、分かりました!」

 帝国兵の相手はアデマス王国の兵でも戦える。
 しかし、あの魔物は敷島の人間でないと対応できないだろう。
 そのため、源斎は魔物の方の相手をするように指示を出した。

「ガアァーー!!」

「くっ!!」「このっ!!」

 魔物を相手に、敷島の人間は4人以上で戦う。
 6本腕の魔物を相手にするのには、それだけの人数を要した。
 それだけの数の敷島の人間が組まないと倒せないことから、魔物の強さが理解できる。
 しかし、人数さえ揃えば魔物の攻撃にも対処ができ、怪我を負う者は少ない。
 早くも、この魔物との戦闘方法を理解したようだ。

「くっ! 戦闘に関しては頭の回転が速いわね……」

 敷島の者たちの動きに、今度はオリアーナが眉間に皺を寄せることになった。
 戦闘に関しての対応力の高さにより、敷島の者を減らすことができなくなっていたからだ。

「仕方ない……。あっち・・・の方も使いましょう」

 6本腕の魔物だけでもなんとかなると思っていたが、少々それは見積もりが甘かったようだ。
 そのため、オリアーナは次の手を使うことにした。

「ガァッ!!」

「っと!」

 6本腕の魔物の攻撃を、奏太は躱す。
 他の者との連携もあって、もうこの魔物の相手は苦ではなくなっていた。
 少しずつ斬りつけ、魔物の動きも鈍くなり始めた。
 倒せるのも時間の問題だろう。

「んっ?」

 この戦場に場違いな、白衣を着た者が1体の6本腕の魔物に近付く。
 そして、注射器のような物で何かの液体を注入した。
 すると、その魔物の肉体に異変が起き始めた。

「グルアァーー!!」

 何かを注射された6本腕の魔物は、肉体が赤黒く変色し、筋肉を膨張させた。
 そして、注射した研究員の指示を受けると、大きな声を上げて源斎のいる方向に向かって動き出した。

「なんだ!?」

 向かって来る魔物に、源斎は警戒心を上げる。
 明らかにこれまでの魔物とは違う魔力量をしているからだ。

「ガアァーー!!」

「っ!!」

 近場の中で一番強い源斎に向かって、変異種の魔物がとんでもない速度で接近し、3本の右腕に持った剣で源斎へと斬りかかった。
 源斎はその攻撃を刀で受け止めるが、威力を抑えきれず、かなりの距離を吹き飛ばされた。

「なんて力だ……」

 これまでの6本腕の魔物とは動きもパワーも違う。
 攻撃を受け止めたことで、刀を持っていた両手が痺れるほどだ。
 もしも直撃を受けていれば、タダでは済まないことがすぐに理解できた。

「こいつは俺が相手する! お前たちは援護しろ!」

「了解!」

 これほどの相手となると、源斎程の実力者でも相手にするのはきつい。
 そのため、魔物を倒して手の空いた者に援護することを求めた。
 そして、源斎と変異種の魔物の戦いが開始された。





「手こずってんな……」

「そうですね」

 アデマス王国とラクト帝国の戦争。
 その戦場から離れた所で、限とレラは両軍の戦いを眺めていた。
 レラはアルバの背に乗り、限は身体強化による高速移動。
 最短距離を全力で走り抜けたことにより、あっという間に近くの町へと移動してきたため間に合った。

「思っていた通り、両方来ていたな」

「良かったですね」

 戦場では敷島の人間と、オリアーナたち研究員が生み出したと思われる魔物が戦っている。
 その洗浄では、意外にも敷島の連中が手こずっている。
 魔力が無かったころは、敷島の人間の強さの底が分からなかった。
 化け物と思っていた彼らが人造の魔物に苦戦しているなんて、限には新鮮に見えた。

「参戦しますか?」

「……いや、もう少し潰し合うのを見てからにしよう」

「分かりました」

 復讐対象が目の前にいるのだ。
 レラは早速参戦するか問いかける。
 しかし、限は何だか楽しそうに戦場を眺めることを提案した。
 そのため、限たちは、このままもう少し戦場の成り行きを見守ることにした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

元英雄 これからは命大事にでいきます

銀塊 メウ
ファンタジー
異世界グリーンプラネットでの 魔王との激しい死闘を 終え元の世界に帰還した英雄 八雲  多くの死闘で疲弊したことで、 これからは『命大事に』を心に決め、 落ち着いた生活をしようと思う。  こちらの世界にも妖魔と言う 化物が現れなんだかんだで 戦う羽目に………寿命を削り闘う八雲、 とうとう寿命が一桁にどうするのよ〜  八雲は寿命を伸ばすために再び 異世界へ戻る。そして、そこでは 新たな闘いが始まっていた。 八雲は運命の時の流れに翻弄され 苦悩しながらも魔王を超えた 存在と対峙する。 この話は心優しき青年が、神からのギフト 『ライフ』を使ってお助けする話です。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...