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第3章
第68話 開戦
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「よしっ! 次は北だな」
「はい」
放火犯は現場に戻ると言うが、その通りに現場に来た限とレラ。
全焼した領主邸を確認すると、その場から移動を開始する。
そして現場から離れたな所に着くと、次の話へと移る。
「本番はそっちだからな」
「そうですね」
次に限たちが向かうのは、アデマス王国とラクト帝国の軍が睨み合う国境沿い。
そこに行けば、敷島の人間と共に、今回領主邸にいなかった研究員たちがいるはずだ。
国同士の戦争に参加するような者たちとなると、敷島でもかなりの実力者ばかり。
それと同じ理由で、ラクト帝国に寝返ったオリアーナたちが集まっているはずだ。
戦場に紛れ込んで、どちらも始末してしまうつもりだ。
「今回を逃すと、仕留める機会がいつになるか分からないからな」
「……何だか嬉しそうですね?」
標的が一堂に会する機会なんて次があるかも分からない。
この機を逃すわけにはいかないと、限は口の端を釣り上げた。
一堂に会するのはいいが、それはつまり倒すべき敵が多いということ。
いくら限が強いと言っても、数を相手にたただでは済まない可能性がある。
しかし、限はそんな心配を全くしていない様子。
むしろ危険に身を晒すことを楽しみにしているようにすら見える。
限に付いて行くと決めた以上死ぬ可能性すら覚悟しているが、そんな気がなさそうな限を不思議に思い問いかけた。
「あぁ、今回のことで気付いたことがあったんでな」
「……何でしょうか?」
今回のことは、人数からいって限の復讐には消化不足のような気がしたのだが、そうでもなかったらしく、何か得るものがあったようだ。
それが何なのか気になり、レラは尋ねる。
「復讐は何も生まないとか言うが、俺の気分がスッキリすることが分かった」
「……そうですか」
たしかに復讐は何も生まないとよく聞く。
今回のことでその理由を知ることができるかもしれなかったが、研究員たちを殺して回っているうちにある感情が限の中に生まれていた。
人間を殺すという悪でしかないはずの行為が、何となく自分にとってしっくり来ていた。
それが人としてどうなのかと自分でも思うが、あの感覚を味わってしまってからは、復讐をやめるという選択肢は消えてなくなった。
それに気付き、何のためらいもなくこのまま進むことを決意したために、スッキリした気分になることができた。
レラからすると限の中でそんな悩みのような物があるとは思ってもいなかったが、何かが吹っ切れたようなので笑顔で返事をした。
「じゃあ、行くか」
「はい!」「ワウッ!」「キュウ!」
火事現場から宿屋に戻った限とレラは、荷物を整え、待っていた従魔のアルバとニールを連れて部屋を引き払う。
そして、一行は北へと向けて出発することにした。
◆◆◆◆◆
「そろそろですね……」
「オリアーナ殿……」
限たちによって自領であるアウーリエの町の領主邸が消失していることなど知らず、クラレンス伯爵は話しかけたオリアーナへ顔を向ける。
アデマス王国が国境沿いの軍を強化し始めたのを感じ取り、ラクト帝国側も防備のために多くの兵を配備した。
思っていた通り、侵略のために軍を動かしてくるようだ。
つい先日、アデマス王からの宣戦布告もあり、敵軍の動きからしてそろそろ開戦となる雰囲気だ。
「アデマス側の様子からいって、恐らく敷島の連中も来ていることでしょう」
「大丈夫だろうか?」
これまでアデマス王国は、南に接するラクト帝国とミゲカリ王国へ進軍をおこなってきた。
それにより、少しずつではあるが領土の拡大を図ってきた。
毎回ラクト帝国が押し込まれる原因は、何といっても敷島の連中によるところが大きい。
今回もまた彼らを中心とした戦いをおこなってくるつもりなのだろう。
まさに一騎当千の強さを持つ彼らは、敵からしたら恐ろしいことこの上ない。
クラレンスの顔色が良くないのも仕方がないことだ。
「お任せください。そのために閣下にご助力頂いたのですから……」
「あぁ……」
心配そうにしているクラレンスを安心させるように、オリアーナはある方角に目を向ける。
そこには、オリアーナと共にアウーリエの町から来た研究員たちがある準備をしていた。
それを見て少し安心したのか、クラレンスは表情が和らいだ。
アデマス王国の敷島の者たちに対抗するためにオリアーナたちを引き入れ、多くの資金を提供して研究を継続させてきたのだ。
ここで結果を出してもらわないと、それが無駄になってしまう。
「研究成果の程は?」
「まだ研究の余地はありますが、今の段階でも敷島の連中を抑え込むことはできるはずです」
「それで充分だ」
研究成果を見に何度もアウーリエの町に顔を出していたため、ある程度の進捗報告は受けている。
オリアーナたちがどこまでを理想としているのかは分からないが、クラレンスからすれば厄介者の敷島の連中をどうにかしてもらえるだけで上々だ。
そのため、オリアーナの言葉にクラレンスは深く頷いた。
「閣下! アデマス軍が動き出しました!」
「了解!」
クラレンスの所へ部下が報告に来る。
王国側が動き出したようだ。
「オリアーナ殿!」
「はい! はじめます!」
部下からの報告を受けたクラレンスは、オリアーナに指示を出す。
予定通り、指示を受けたオリアーナは研究員たちのいる所へと向かって行った。
「ギャッ!!」
「フッ! 相変わらず兵が脆い」
刀を一閃してラクト帝国の兵を仕留め、男は笑みを浮かべる。
血をまき散らして崩れ落ちた死体を見ても、特に何かを思うような素振りを見せない。
まるでいつものことだというように興味が無いようだ。
「流石です」
「奏太もなかなかのものだ。五十嵐家は安泰だな。義父の身としての身としても嬉しいことだ」
「いえ、そんな……」
男の側で戦っていた者が声をかける。
限と同じ年の五十嵐家の奏太で、話しかけた相手は菱山家の当主である源斎だ。
その源斎の娘が元減の婚約者だった奈美子で、限との婚約を解消した今は奏太の婚約者だ。
敷島の中でも名門の五十嵐家と菱山家の縁組によって、両家の関係はかなり良好と言って良い。
“ドンッ!!”
「「っ!?」」
話しながらもラクト帝国の兵と戦えるほど余裕の彼らだったが、突如響き渡った爆音に、驚きと共に視線が向く。
「なんだあれは!?」
「魔物か?」
「いや、あんなの見たことないぞ!」
側にいる敷島の者たちも音のした方に目がいっており、何が起きたのか気付く。
巨大な生物がこちらに向かって歩いてきたからだ。
二足歩行と顔を見ると鬼型の魔物の一種なのかとも思えるが、明らかに姿がおかしい。
その鬼は6本の腕を有していたのだ。
「敷島の人間が慌てるな! 所詮腕の増えた鬼と言うだけだろ!」
見たことのない魔物の姿に、敷島の者たちが若干慌てたような声を漏らす。
それに対し、源斎が強い口調で叱責する。
未知の魔物は強さも未知数。
それが現れたのだから慌てるのも仕方ない。
むしろ、少し慌てただけの彼らは充分肝が据わっている方だ。
「私にお任せを!」
源斎の叱責で落ち着いた敷島の者たちの中で、源斎と共に落ち着いていた者がいた。
その者は、源斎に一言入れ、現れた魔物へと向かっていた。
そんな彼を、源斎どころか誰も止めない。
それだけ多くの者に実力が認められているということだ。
「ガウッ!!」
「シッ!!」
現れた魔物に接近すると、そのまま抜刀術で斬りかかった。
「ガアッ!!」
「なっ!?」
敷島の者でもかなりの速度の持ち主である彼と同等の速度で、鬼は手に持っていた棍棒を振り回してきた。
速度自慢の彼は、攻撃を止められると思わなかったのか驚きの声を上げる。
そして、すぐにその場から離脱しようとする。
「ゴフッ!!」
離脱は不可能だった。
相手は6本腕。
残り5本あるのだから、当然逃がすまいと攻撃を繰り出す。
殺気と同じ速度で繰り出された棍棒が胴にクリーンヒットし、速度自慢の彼は吹き飛んで地面をゴロゴロと転がった。
そして、勢いが止まった彼を見ると、内臓が破裂したらしく、息をしていなかった。
「「「「「っっっ!!」」」」」
敷島の中でもなかなかの実力者である彼がやられ、6本腕の鬼の実力がかなり高いことが知れた。
しかし、あまりの出来事に声を出せず、敷島の者たちのほとんどが驚きで目を見開いたのだった。
「はい」
放火犯は現場に戻ると言うが、その通りに現場に来た限とレラ。
全焼した領主邸を確認すると、その場から移動を開始する。
そして現場から離れたな所に着くと、次の話へと移る。
「本番はそっちだからな」
「そうですね」
次に限たちが向かうのは、アデマス王国とラクト帝国の軍が睨み合う国境沿い。
そこに行けば、敷島の人間と共に、今回領主邸にいなかった研究員たちがいるはずだ。
国同士の戦争に参加するような者たちとなると、敷島でもかなりの実力者ばかり。
それと同じ理由で、ラクト帝国に寝返ったオリアーナたちが集まっているはずだ。
戦場に紛れ込んで、どちらも始末してしまうつもりだ。
「今回を逃すと、仕留める機会がいつになるか分からないからな」
「……何だか嬉しそうですね?」
標的が一堂に会する機会なんて次があるかも分からない。
この機を逃すわけにはいかないと、限は口の端を釣り上げた。
一堂に会するのはいいが、それはつまり倒すべき敵が多いということ。
いくら限が強いと言っても、数を相手にたただでは済まない可能性がある。
しかし、限はそんな心配を全くしていない様子。
むしろ危険に身を晒すことを楽しみにしているようにすら見える。
限に付いて行くと決めた以上死ぬ可能性すら覚悟しているが、そんな気がなさそうな限を不思議に思い問いかけた。
「あぁ、今回のことで気付いたことがあったんでな」
「……何でしょうか?」
今回のことは、人数からいって限の復讐には消化不足のような気がしたのだが、そうでもなかったらしく、何か得るものがあったようだ。
それが何なのか気になり、レラは尋ねる。
「復讐は何も生まないとか言うが、俺の気分がスッキリすることが分かった」
「……そうですか」
たしかに復讐は何も生まないとよく聞く。
今回のことでその理由を知ることができるかもしれなかったが、研究員たちを殺して回っているうちにある感情が限の中に生まれていた。
人間を殺すという悪でしかないはずの行為が、何となく自分にとってしっくり来ていた。
それが人としてどうなのかと自分でも思うが、あの感覚を味わってしまってからは、復讐をやめるという選択肢は消えてなくなった。
それに気付き、何のためらいもなくこのまま進むことを決意したために、スッキリした気分になることができた。
レラからすると限の中でそんな悩みのような物があるとは思ってもいなかったが、何かが吹っ切れたようなので笑顔で返事をした。
「じゃあ、行くか」
「はい!」「ワウッ!」「キュウ!」
火事現場から宿屋に戻った限とレラは、荷物を整え、待っていた従魔のアルバとニールを連れて部屋を引き払う。
そして、一行は北へと向けて出発することにした。
◆◆◆◆◆
「そろそろですね……」
「オリアーナ殿……」
限たちによって自領であるアウーリエの町の領主邸が消失していることなど知らず、クラレンス伯爵は話しかけたオリアーナへ顔を向ける。
アデマス王国が国境沿いの軍を強化し始めたのを感じ取り、ラクト帝国側も防備のために多くの兵を配備した。
思っていた通り、侵略のために軍を動かしてくるようだ。
つい先日、アデマス王からの宣戦布告もあり、敵軍の動きからしてそろそろ開戦となる雰囲気だ。
「アデマス側の様子からいって、恐らく敷島の連中も来ていることでしょう」
「大丈夫だろうか?」
これまでアデマス王国は、南に接するラクト帝国とミゲカリ王国へ進軍をおこなってきた。
それにより、少しずつではあるが領土の拡大を図ってきた。
毎回ラクト帝国が押し込まれる原因は、何といっても敷島の連中によるところが大きい。
今回もまた彼らを中心とした戦いをおこなってくるつもりなのだろう。
まさに一騎当千の強さを持つ彼らは、敵からしたら恐ろしいことこの上ない。
クラレンスの顔色が良くないのも仕方がないことだ。
「お任せください。そのために閣下にご助力頂いたのですから……」
「あぁ……」
心配そうにしているクラレンスを安心させるように、オリアーナはある方角に目を向ける。
そこには、オリアーナと共にアウーリエの町から来た研究員たちがある準備をしていた。
それを見て少し安心したのか、クラレンスは表情が和らいだ。
アデマス王国の敷島の者たちに対抗するためにオリアーナたちを引き入れ、多くの資金を提供して研究を継続させてきたのだ。
ここで結果を出してもらわないと、それが無駄になってしまう。
「研究成果の程は?」
「まだ研究の余地はありますが、今の段階でも敷島の連中を抑え込むことはできるはずです」
「それで充分だ」
研究成果を見に何度もアウーリエの町に顔を出していたため、ある程度の進捗報告は受けている。
オリアーナたちがどこまでを理想としているのかは分からないが、クラレンスからすれば厄介者の敷島の連中をどうにかしてもらえるだけで上々だ。
そのため、オリアーナの言葉にクラレンスは深く頷いた。
「閣下! アデマス軍が動き出しました!」
「了解!」
クラレンスの所へ部下が報告に来る。
王国側が動き出したようだ。
「オリアーナ殿!」
「はい! はじめます!」
部下からの報告を受けたクラレンスは、オリアーナに指示を出す。
予定通り、指示を受けたオリアーナは研究員たちのいる所へと向かって行った。
「ギャッ!!」
「フッ! 相変わらず兵が脆い」
刀を一閃してラクト帝国の兵を仕留め、男は笑みを浮かべる。
血をまき散らして崩れ落ちた死体を見ても、特に何かを思うような素振りを見せない。
まるでいつものことだというように興味が無いようだ。
「流石です」
「奏太もなかなかのものだ。五十嵐家は安泰だな。義父の身としての身としても嬉しいことだ」
「いえ、そんな……」
男の側で戦っていた者が声をかける。
限と同じ年の五十嵐家の奏太で、話しかけた相手は菱山家の当主である源斎だ。
その源斎の娘が元減の婚約者だった奈美子で、限との婚約を解消した今は奏太の婚約者だ。
敷島の中でも名門の五十嵐家と菱山家の縁組によって、両家の関係はかなり良好と言って良い。
“ドンッ!!”
「「っ!?」」
話しながらもラクト帝国の兵と戦えるほど余裕の彼らだったが、突如響き渡った爆音に、驚きと共に視線が向く。
「なんだあれは!?」
「魔物か?」
「いや、あんなの見たことないぞ!」
側にいる敷島の者たちも音のした方に目がいっており、何が起きたのか気付く。
巨大な生物がこちらに向かって歩いてきたからだ。
二足歩行と顔を見ると鬼型の魔物の一種なのかとも思えるが、明らかに姿がおかしい。
その鬼は6本の腕を有していたのだ。
「敷島の人間が慌てるな! 所詮腕の増えた鬼と言うだけだろ!」
見たことのない魔物の姿に、敷島の者たちが若干慌てたような声を漏らす。
それに対し、源斎が強い口調で叱責する。
未知の魔物は強さも未知数。
それが現れたのだから慌てるのも仕方ない。
むしろ、少し慌てただけの彼らは充分肝が据わっている方だ。
「私にお任せを!」
源斎の叱責で落ち着いた敷島の者たちの中で、源斎と共に落ち着いていた者がいた。
その者は、源斎に一言入れ、現れた魔物へと向かっていた。
そんな彼を、源斎どころか誰も止めない。
それだけ多くの者に実力が認められているということだ。
「ガウッ!!」
「シッ!!」
現れた魔物に接近すると、そのまま抜刀術で斬りかかった。
「ガアッ!!」
「なっ!?」
敷島の者でもかなりの速度の持ち主である彼と同等の速度で、鬼は手に持っていた棍棒を振り回してきた。
速度自慢の彼は、攻撃を止められると思わなかったのか驚きの声を上げる。
そして、すぐにその場から離脱しようとする。
「ゴフッ!!」
離脱は不可能だった。
相手は6本腕。
残り5本あるのだから、当然逃がすまいと攻撃を繰り出す。
殺気と同じ速度で繰り出された棍棒が胴にクリーンヒットし、速度自慢の彼は吹き飛んで地面をゴロゴロと転がった。
そして、勢いが止まった彼を見ると、内臓が破裂したらしく、息をしていなかった。
「「「「「っっっ!!」」」」」
敷島の中でもなかなかの実力者である彼がやられ、6本腕の鬼の実力がかなり高いことが知れた。
しかし、あまりの出来事に声を出せず、敷島の者たちのほとんどが驚きで目を見開いたのだった。
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