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第3章

第63話 空振り?

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「あっ! あれがアウーリエという町ですね?」

「そうだ」

 見えてきた町にレラが反応する。
 ラクト帝国を横断するように、限たちは西へと向かって移動してきた。

「俺は多分あそこに研究員たちがいるんじゃないかと思っている」

「どうしてですか?」

 これまでの町とは違い、限はここに標的である研究員に関する重要な情報があると、密かに考えていた。
 そのことを限が告げると、レラはその理由を尋ねてきた。

「ゼータのじいちゃんが示した地域の中心地点だからだ」

「そう言えばそうですね」

 アデマス王国にあった研究所で知り合った小人族のゼータ。
 彼女を故郷に届けた時に、彼女の祖父から研究員の居場所を占ってもらった。
 その時に指示された範囲に入ると、少しずつだが研究員に近付く情報が得られてきたことから、限はゼータの祖父の占いの信用度が高まってきていた。
 そして、このアウーリエの町がゼータの祖父が地図に指し示した範囲の中心地点。
 そういうこともあって、限はこの町に研究員がいると思うようになっていたのだ。
 言われてみればといったように、レラは納得したように頷いた。

「まずは冒険者ギルドへ行って情報収集だ」

「ハイ!」

 情報を得るのなら冒険者ギルドが手っ取り早い。
 町に入る者の列もなく、すぐに町に入ることができた限たちは、すぐさま冒険者ギルドへと向かうことにした。





「研究施設ですか?」

「あぁ、そんな話を聞いたことはないか?」

 ギルドにたどり着いた限は、受け付けの女性へ話しかけ、この町に何かしらの研究施設ができたという情報を入手していないかを尋ねた。

「そんな話は聞いたことはないですね」

「「…………」」

 受付の女性の返答に、限とレラは無言で固まる。
 期待していた分、何も情報がないということになるとは思っていなかったからだ。

「じゃあ、何か変わったことはなかったか?」

「変わったことですか?」

 何の情報もないということに残念な思いをしながら、限は気持ちを切り替えて他に何か研究員に繋がる情報がないか聞くことにした。
 限の質問に対し、受付の女性は思いだすように考え始めた。

「……魔物の姿が減った事ぐらいですかね」

「魔物が減った?」

「はい」

 受付の女性が考えて出した答えに、限は内心引っかかりを覚えた。
 しかし、それを面に出さず、話の続きを聞くことにした。

「というのも、少し前に魔物の大量発生が報告され、冒険者を多く雇って討伐したからです」

「へぇ~……」

 続きを聞いても、特に研究員に関するような話ではなかったため、限はあいまいに返事をすることしかできなかった。
 どうやらこの町に研究員に関する情報は無いようだ。
 
「……ちなみに、その魔物の大量発生は、誰による報告だったんだ?」

「ここの領主様の兵の方です」

「領主……?」

 研究員の情報は基地できないようだが、僅かに引っかかる所があったため、限はその報告者のことを聞くことにした。
 その質問に対し、受付の女性はすんなり返してきた。
 この町の領主なんて、限からすると興味がないので知らないため首を傾げる。

「クラレンス・ディ・ジグランデ伯爵様です。大きな領主邸に気付きませんでしたか?」

「あぁ、あの……」

 名前を聞いても分からないが、領主邸に関してはすぐに理解した。
 町に入った時、一際大きな建物が見えた。
 恐らくあれが領主邸なのだろう。

「やたらでかい建物だな……」

「伯爵様は鉱山による収入が豊富なため、あのような大きな邸を建てられるのです」

「……なるほど」

 領主邸を見たが、やたらと大きかった。
 そのことを限が呟くと、受付の女性が領主邸がでかい理由を教えてくれた。
 どうやら金持ち貴族が、金に物を言わせて造り上げたようだ。

「情報提供助かった」

「いいえ」

 聞きたいことも聞けたため、限は受付の女性に礼を言ってその場から去っていった。
 その限に付いて行くように、レラたちも後を追っていった。

「限様……占いが外れたのでしょうか?」

「……いや、まだ分からない」

「えっ?」

 ギルドを出た所で、レラは限へと話しかける。
 この町に何かあると思っていただけに残念な気持ちになっていたのだが、限は違うようだ。
 何か先程の話の中に、何か気になることでもあったのだろうかレラは首を傾げる。

「魔物の討伐をしたという話だが、もしかしたら実験体となる魔物の採取だったんじゃないか?」

「研究員がいるのならばそうですが……」

 たしかにオリアーナたちがおこなっていたのは、人間や魔物を利用した人造生物兵器だったはず。
 そう考えると、検体となる魔物が必要になるのはたしかだ。
 しかし、レラの言うように、それは研究員んたちがいればの話で、いないとなると別段おかしなところはないように思える。

「領兵なんて町中を取り締まることが基本だ。それなのに町の外の魔物の大量発生を発見するなんて若干引っかかる」

「……たまたまでは?」

「確かにな。だが、どうも気になる」

 魔物の大量発生を発見する確率が高いのは、当然魔物を倒して利益を得ている冒険者だ。
 しかし、発見したのが冒険者ではなくこの町の領兵というのが気になる。
 レラの言うように、たまたま町の外に出た時に気付いたという可能性もあるが、かなり確率の低いことだ。
 そのことが引っかかり、限としてはスッキリしない。

「しかし、そうだったとしても、研究所がどこにも見つからないのはどういうことだ?」

 研究所の施設になるような建物はこの町に存在していない。
 そのことから、やはりこの町ではないのかもしれない。
 そんな迷いを持ちながら、限はこの町の地図を見て思考を巡らせる。
 
「もしかして、この周辺に他に町や村があるのでしょうか?」

「いや、それは考えづらいな……」

 レラは、この周辺に町や村があるのではないかと考えた。
 しかし、地図を見る限りそんな場所は存在していない。
 ギルドで買った新しい地図だ。
 記入漏れなどあるとは思えないため、他に町や村があるとは思えない。

「ワウッ?」

「んっ? どうしたアルバ……」

 町中を散策しながら色々と考え込んでいた限の隣を歩いていた従魔で白狼のアルバが、何かを感じたのか不意に足を止めた。
 その反応に、限も足を止めて話しかける。

「……ワウッ!」

「領主邸がどうかしたか?」

 どうやら、その自慢の鼻が何かを感じ取ったらしい。
 その視線は、領主邸を見つめていた。

「ワウッ!」

「……地下?」

 アルバは前脚を使って下を指す。
 どうやら地下のことを言っているようだ。

「…………そうか! 地下か!」

「どうしたのですか?」

 アルバが言いたいことの意味が分かり、限は思わず声を上げる。
 そんな限に、レラは不思議に思って問いかける。

「奴らの居場所が分かった。恐らく領主邸の地下に施設があるんだ」

「えぇ!?」

 研究にはある程度の大きさがなくてはならない。
 しかし、町中にそんな建物存在していない。
 地上に存在していなくても、地下だとしたらどうだろうか。
 その可能性のある建物が、町の中心にドカッと存在しているではないか。
 そのことに気付いて、限は笑みを浮かべたのだった。

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