上 下
58 / 179
第3章

第58話 ダンジョン内

しおりを挟む
「混んでんな」

「えぇ……」

 シムトゥーロの町に到着した翌日、限たちは町の近くにあるダンジョンへと足を運んだ。
 限たちは少し速めに出てきたつもりだったのだが、ダンジョンの入り口へ辿り着くともう冒険者たちの列ができていた。
 これだけの数が毎日入っているのかと思うと、相当上層は混みあっているだろう。
 それを考えると、限たちは入る前から気が重くなる。
 しかし、限たちの目的はレラの戦闘訓練のため、我慢して列に並ぶことにした。

『10分ごとに1パーティーが入って行く形か……』

 先に並んでいたパーティーたちがダンジョン内に入って行く様子を眺めて、限はどういう仕組みになっているのかを考えていた。
 どうやらこのダンジョンは冒険者ギルドが管理しているらしく、派遣された職員がダンジョン入出する冒険者たちを確認しているようだ。
 パーティー名やメンバーの名前などを確認すると、職員はダンジョンへ入ることを促す。
 次のパーティーは数が少ないせいかかなり速く確認が終わる。
 それなのに中に入って行かないことを見ていると、職員が時計を見ていることに気付いた。
 どうやら10分くらいの間隔をあけることで、入り口付近での混雑を防ごうとしているようだ。

『ランクの低いパーティーだと、10分でもすぐに追いつかれそうだがな……』

 たしかに少しの間隔を開けた方が混雑しなさそうだが、当然パーティーのランクによって進捗状況が変わってくる。
 低ランクの冒険者なら、ダンジョン上層でコツコツ実力の強化を図るのが無難だ。
 しかし、他の高ランクパーティーからするとただの邪魔になってしまう。
 ダンジョンに到着した順だと、そういったことは回避できないように思えた。

『俺たちが気にする必要ないか……』

 前に並んでいた者たちは、限の見立てでは中級の冒険者パーティーのように見えた。
 なので、上層で鉢合わせになるようなことはないだろう。
 そのため、限は余計な心配をする事をやめた。

「入ったらすぐに下の階へと向かうぞ」

「ハイ!」

 しばらく待っていると、限たちの入る順番になった。
 職員に名前を告げ、そのまま職員からの許可が出るのを待つ。
 その間に、限はレラへと告げる。
 目的はレラの強化。
 そのため、上層でダラダラしているつもりはない。
 レラもそれが分かっているため、すぐに返事をした。

「アルバ。下層への道を探してくれ」

「ワウッ!」

 魔力を使ってダンジョン内を探知すれば、限ならすぐに下層への道は見つけられる。
 しかし、それはアルバの鼻でも出来る。
 同じことができるなら、わざわざ魔力を使わないで済むアルバに任せることにした。
 指示を受けたアルバは、限に期待された嬉しいらしく、尻尾を振って返事をした。

「どうぞ!」

 時間が来たのか、職員から合図が出される。
 その合図と共に、限たちはダンジョン内へと入って行った。

「基本的にはレラが戦うのを俺たちが援助する。危険だと判断したら、俺が代わりに戦う」

 生物を殺すことで、人間は僅かながら能力が成長すると言われている。
 その相手が強ければ強い程その成長は顕著だという話だ。
 そのために、このダンジョン下層でのレラ強化だ。
 限たちが戦えば、下層どころか攻略まで問題もないだろうが、今回それは二の次。
 限の従魔であるアルバを先頭にし、限とレラは早歩き程度の速度で付いて行く。
 その背には、同じく限の従魔のニールが乗っている。
 現在ニールは小さくなっているが、本性は防御が得意な巨大亀だ。
 特に心配していないが、もしもアルバが気付かない罠があったとしても、ニールが何とかしてくれるだろう。

「今回は下層の魔物の種類と強さを確認する。あと、レラの魔力が少なくなったら、地上に戻るからな」

「ハイ!」

 ダンジョン内に入る確認をしていた職員には、明日には戻ると告げてある。
 それを過ぎた場合、死亡として登録を抹消されるそうだ。
 今日はダンジョンの下層の下見が目的だ。
 そして、明後日には長期間下層に潜って、本格的なレラの強化に入るつもりだ。
 その確認をして、限たちはドンドン下層へと向かっていったのだった。





◆◆◆◆◆

「レラの実力からすると50層付近からだな」

「……ハイ」

 このダンジョンも、他と同様に10層ごとにボスが出現するタイプらしい。
 本当はボスもレラに任せようかと思っていたのだが、それだと余計な時間がかかると判断し、アルバとニールが代わりに戦った。
 そして、ほとんど足を止めることなく下層へと進んで行くと、レラが手こずる魔物が出始めた。
 それが50層付近だった。
 このあたりから魔物を倒す訓練をした方が良いと考えた限は、ここを目安にして地上へ戻ることにした。

「どうした? 少し元気がないな」

「もっと行けると思っていたのですが……」

 先程のレラの返事がなんとなく弱かった気がし、限は何かあったのか問いかける。
 その問いに、レラは悔し気に返答した。

「普通の冒険者に比べれば、結構下層まで来たと思うがな」

「しかし、限様に指導してもらっていたのにこの程度なんて……」

 40層を越えた所で、限たちは冒険者に会うことはなかった。
 先に入った冒険者パーティーたちは、そこら辺で足止めを食らっているらしい。
 限の言うように、彼らに比べれば確かにすごいかもしれないが、ここまでの旅で毎日のように限に武術や魔法の訓練を受けていたため、レラの中ではもっと行けると思っていたようだ。
 それだけ自分の中で成長しているという自信があったのかもしれない。

「これから強くなればいい。今日は戻ろう」

「ハイ」

 普通の冒険者としてならば、レラはかなりの実力にまで成長している。
 しかし、これから自分に付いてくるというのであるならば、敷島の連中を相手にしなければならなくなる。
 そうなると、たしかにこのままでは危険でしかない。
 もしも敷島の人間に遭遇してもいいようにこのダンジョンで鍛えることにしたのだから、今はこの程度でも気にする必要はない。
 訓練をするためにも、長期で潜る準備を整える必要がある。
 そのため、今日の所は一旦地上へと戻ることにした。

「ところで……」

 地上に戻る前に、限には気になることがあった。
 それは、ダンジョンに入ってからずっと感じていた気配だった。

「そこのお前らは無いをしているんだ?」

「んだよ!」「気付いていやがったのかよ!」

 その気配のしている方へと問いかけると、冒険者たちがにやけた表情でぞろぞろと姿を現してきた。
 6人組のパーティーが4組で24人。
 よく見たら、限たちより先にダンジョンに入っていった冒険者パーティーたちだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

怖いからと婚約破棄されました。後悔してももう遅い!

秋鷺 照
ファンタジー
ローゼは第3王子フレッドの幼馴染で婚約者。しかし、「怖いから」という理由で婚約破棄されてしまう。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

勇者パーティを追放されそうになった俺は、泣いて縋って何とか残り『元のDQNに戻る事にした』どうせ俺が生きている間には滅びんだろう!

石のやっさん
ファンタジー
今度の主人公はマジで腐っている。基本悪党、だけど自分のルールあり! パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のリヒトは、とうとう勇者でありパーティリーダーのドルマンにクビを宣告されてしまう。幼馴染も全員ドルマンの物で、全員から下に見られているのが解った。 だが、意外にも主人公は馬鹿にされながらも残る道を選んだ。 『もう友達じゃ無いんだな』そう心に誓った彼は…勇者達を骨の髄までしゃぶり尽くす事を決意した。 此処迄するのか…そう思う『ざまぁ』を貴方に 前世のDQNに戻る事を決意した、暗黒面に落ちた外道魔法戦士…このざまぁは知らないうちに世界を壊す。

処理中です...