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第1章

第28話 カマキリ退治

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「もう少しで帰れるな……」

 いつものようにアルバの背に乗っている小人族のゼータは、故郷が近いために嬉しそうに呟いた。
 アデマス王国の南のミゲカリ王国。
 その南のフォノターナ王国を抜け、更に南のソーリオ王国を通ってきた限たち一行。
 南下の旅も、もう少しで目的のヴェールデ王国にたどり着ける。
 ゼータを送り届ける間に、報復対象である研究所の人間たちの行方を知れればと思っていたのだが、ギルドにはその情報が入って来ていないと言われるばかりで全く手掛かりがない。
 とりあえずゼータを送り届けてから考えるつもりだが、こうなったら東大陸全ての国を回ってみるしかないかもしれない。

「結構遠かったな……」

「でも、資金があったので、無駄な時間をかけずに済みましたね」

「あぁ……」

 この世界において最大の大陸である東大陸。
 馬車を使ったりしてなるべく最短距離を通ってきたつもりだが、3ヵ月くらい経っただろうか。
 そう考えると、相当な距離を通って来たものだ。
 レラの言うように、宿代を稼がなくて済んだ分無駄な時間をかけずに来れた。
 もしも資金稼ぎをしつつの旅だったら、もっと時間がかかっていたことだろう。

「でも、それ人から巻き上げたやつだろ?」

「正当な報酬だ!」

「まぁ、確かに……」

 限とレラの会話に、ゼータがツッコミを入れる。
 その資金というのも、A級冒険者パーティーと揉めた時に得たものだ。
 たいした苦労もせずに得た資金のため、ゼータとしては人の金という思いがあるようだ。
 しかし、限からしてみれば、巻き上げたというのは少々心外だ。
 お互いが了承したうえで戦って、勝利して得た資金なのだから後ろめたい思いは一切していない。
 かなり吹っ掛けた条件だったと思うが、限の言っていることも間違いではないので、ゼータとしては渋々受け入れるしかなかった。





「えっ? ヴェールデ方面に魔物の大群?」

 ヴェールデ王国との国境付近の町へと辿り着いた限たちが、いつものように研究員たちの情報を聞くためにギルドへ向かうと、現在ヴェールデへの移動は禁止されているとギルド職員に言われた。
 その理由を尋ねると、返ってきた答えがこれだった。

「えぇ、ですので、討伐に参加する冒険者を募集しております」

「いや、俺たちDランクですけど……」

 魔物の大群により禁止されているなら、討伐が済むのを待つしかない。
 そのための討伐隊も2日後に出発するということなので、限たちは観光でもしていようかと思っていたのだが、ギルド職員からはその討伐隊に参加してほしいという感じで説明された。
 しかし、限が言うように、まだDランクの人間を加えるのはどうかと思う。

「限さんは以前A級パーティーの人間に勝利したと情報を得ているのですが……」

 資金を得たこともあり、ギルドの仕事をたいしていないため、限たちはまだDランクのままだ。
 そんな人間に参戦を促してくることを疑問に思っていると、以前の決闘のことが知られていた。

「ギルド間で知れ渡っているのですか?」

「はい」

 ギルド間で情報がやり取りされているとはいっても、ちょっとした揉め事までやり取りされているとは思いもしなかった。
 ランクが上がって、指名依頼でも来たら面倒だからと依頼を受けずにいたというのもあったのだが、そんな情報が広がっているのなら、無駄なことだったようだ。

「もちろん、他の冒険者に言いふらすようなことをしてはいません。しかし、なかなか無いことなので広まったのだと思います」

 Dランクの冒険者が、Aランクパーティーの人間と決闘をすること自体珍しいことだ。
 しかもそれに勝利したとなったら、ギルド間で限たちの情報をやり取りするのは当然といったところだ。
 それでも本来は指名依頼をすることはないが、魔物の氾濫となるとそうも言っていられない。
 強い人間は、ランクに関わらず必要とするところだ。

「魔物の種類は何ですか?」

「ブル・マンティデです」

 とりあえず、魔物の大群を相手にするにしても、どんな魔物なのかが気になる。
 その魔物の種類を尋ねたレラへ、ギルド職員はすんなり答えた。
 相手にする魔物はブル・マンティデで、その名の通り青いカマキリだ。
 水系統の魔法を使うなかなか危険な魔物で有名だ。
 水辺に生息することが多いということだが、川で国境を分けているヴェールデとソーリオはなら出現するのも分からなくない。

「ヴェールデに行くのでしたら、参戦して魔物を倒すのが早いかと……」

「しょうがないか……」

 ギルド職員の言うように、魔物を回避するために遠回りして向かうよりも、魔物を退治して進んだ方が早い。
 急いでいる訳でもないが、もうすぐヴェールデへ入れるというのに遠回りしなければならないというのは面倒だ。
 乗り気ではないが、ブル・マンティデ程度の魔物を相手にするのならたいして苦でもない。
 そのため、限は討伐に参加することにした。





「おいっ! やたらと数が多くねえか?」

「あぁ、報告の倍はいるんじゃねえか?」

 2日後に国境となる川へ集められた討伐隊が向かうと、そこにはうじゃうじゃと青色のカマキリが溢れていた。
 人と同じ位の大きさのカマキリが大量にいるのを見ると、普通の冒険者たちは気分が悪くなった。
 それに、冒険者の誰かが言っている通り、聞いていたよりも数がいるように思える。
 全部倒すとなると、かなりの時間を要するのは分かり切っている。
 冒険者たちが慌てているのも仕方がない。

「いいから、さっさと始めてほしいな……」

「そうですね……」

 他の冒険者たちと違い、多くのカマキリを見ても限たちは驚きも慌てもしていない。
 数が増えてもブル・マンティデなんて危険でもなんでもないからだ。
 1人で先走って目立つのも嫌なので、限たちはイラ立ちつつもゴーサインが出るのを待つしかなかった。

「行けっ!!」

「ギギッ!?」

 指揮を執るギルマスもようやく腹を決めたのか、限たちが待っていたゴーサインを出した。
 その合図によって、大勢の冒険者たちがカマキリたちへ向かって攻めかかって行った。
 突然の人間の襲来に、カマキリたちは慌てたように鳴き声を上げた。

「セリャ!!」

「ギッ!!」

 一番乗りで攻め入った冒険者が、カマキリの頭を剣で斬り飛ばす。
 それによって、残ったカマキリの体からは青っぽい血液のようなものが噴き出した。

「なっ!?」

 頭を斬り飛ばした冒険者は、次の個体へ攻撃しようと目を向けた。
 しかし、頭が斬り飛ばされて残ったカマキリの体がいきなり攻撃をしてきたため、避けるためにバックステップをとることになった。

「頭を飛ばしても安心するな!! 虫型の魔物は動かなくなるまで確認しないと危険だぞ!!」

 丁度それを見たのか、指揮する立場のギルマスが冒険者たちへ声を出す。
 ギルマスの言うように、他の種類の魔物は頭さえ潰してしまえばたいてい動かなくなるものだ。
 しかし、虫型の魔物は頭を斬り飛ばしただけではすぐには死なず、油断していると攻撃を受けてしまうことになる。
 今回のブル・マンティデはカマキリなため、油断していたら鎌でバッサリと斬られるということになりかねない。 
 十分注意することが必要だ。

「……思ったよりも多かったが、何とかなりそうだな……」

 参加した以上、ランクは関係ない。
 集められた冒険者たちが倒していっているのを見て、限は安心した。
 これなら自分が目立つ様なことをしなくても大丈夫そうだ。
 そのため、レラと共に適当にカマキリを倒すことにした。
 結局、怪我人は多く出たが、死人は出ることなくカマキリ討伐は完了した。

「これでヴェールデへ行けるな……」

「はい!」

 適当に戦っていた限たちはみんな無傷で、一切汚れることすらなく終わりを迎えた。
 翌日、魔物討伐参加の報酬を受け取り、限たちはヴェールデへと向かうことにしたのだった。

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