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第1章

第14話 捕獲

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「な、何の音でしょう!?」

 突如起きた轟音と振動に、レラは昼食を作る手を止めて外へと出てきた。
 そして、限と同様に遠くに上がる煙に目を向けて呟く。

「あっちは……」

「研究所があった方角だな……」

 煙の上がっているのは、限たちが昨日までいた研究所の方角だ。
 そのことに気付いた2人は、自分たちがいなくなってすぐに何かあったのかと思い始める。

「……確認に行って来る」

「分かりました。すぐに用意します!」

 研究所で何かあったのだとしたら、いなくなった研究員たちの行方についても何か分かるかもしれない。
 そのため、限はもう一度研究所の所へ行ってみることにした。
 限の呟きを聞いたレラも、一緒に行くための準備をしようと家の中に入ろうとする。

「いや、レラはアルバとゼータと一緒にいてくれ」

「えっ? 何故ですか?」

 付いていく気満々だったのにもかかわらず、置いて行かれることが信じられないのか、レラは驚いた表情で限に問いかけてきた。
 詰め寄る眼は瞳孔が開いているように見え、何だか怖い。

「何が起きたのか分からないし、ただ確認してくるだけだから俺一人の方が早くて済む」

「…………分かりました」

 レラとしては限にずっと付いていたいところなのだが、何が起きたかも分からない場所へ行くとなると、レラは邪魔になるかもしれない。
 そう思うと、我が儘を言って付いていく訳にもいかない。
 確認してくるというだけなのだから、ここに戻ってくるということなので、レラは引き下がることにした。

「アルバ! 2人を頼むぞ!」

「ワウッ!」

 従魔である白狼のアルバは、主人である限の指導によって戦闘力はかなりのものがある。
 そのため、限はレラとゼータを守るための護衛として置いて行くことにした。
 限に頼まれたアルバは、了解したと言うかのように一声吠えた。

「じゃあ、行って来る!」

「お気をつけて!」

 後のことはアルバに任せ、限はレラに見送られて1人研究所の方へと向かって行った。





◆◆◆◆◆

「よしっ! 今日はあそこの町で休息するぞ!」

「「「「「了解!!」」」」」

 半島ごと研究所を破壊した者たちは、北へ向けて移動をしていた。
 来た時同様村で休息を取って、また北へ向かう予定だ。
 研究所を破壊したてから休まず走り続けたというのに、息もたいして切らしていないというのはとんでもない持久力の持ち主たちだ。

「……英助はどうした?」

「……後方をついてきたはずですが?」

 隊を率いていた者が村に入る前に全員いるかを確認をした時、仲間が1人いなくなっていることに気付く。
 いなくなった者のことを聞いてみるが、誰もその者がどこへ行ったかは分からないようで、みんな首を振るばかりだ。

「魔物に殺られたわけではないよな?」

「……そうですね」

 ここの村まで森を一直線に走って来たのだが、魔物や動物などの獰猛な存在が出現しても彼らが連携して、苦もなく倒してきた。
 いなくなった者が魔物なんかに襲われたとしても、気付かれもせずにいなくなるなんてありえない。
 そのため、後方を走っていた者に確認を取るが、その彼たちも気付かないうちにいなくなってしまったようだ。

「どういうことだ……?」

 ここにいる手練れの集まりが、誰一人気付くことなくいなくなるなんて逆に難しい。
 いなくなった気配も感じないとなると、さらにもっと謎でしかない。
 集まった彼らは、キツネにつままれたような表情で少しの間固まることになった。





「ム~……!! ム~……!!」

 村に着いた仲間たちが、自分がいなくなったことに気付いて話し合っている頃、いなくなった張本人である英助は、両手足を縛られて猿轡をされた状態で、逆方向へ運ばれていた。
 英助本人もあっという間に気絶させられたため、目が覚めたらこの状態になっていることに慌てている。
 しかし、声を出そうにも猿轡で喋ることができず、呻く事しか出来ないでいる。

「…………誰だ貴様!!」

 縛られたままの英助が連れて来られたのは、周りに何もない草原。
 そこへたどり着くと、地面に寝転がされて猿轡が外された。
 ようやく喋ることができるようになった英助は、自分をここまで運んだ人間に対して声を張り上げる。

「まさか出られて早々に一族の人間に会えるなんてな……」

 英助を連れ去ったのは限だ。
 爆発音がして確認に向かった限は、少し前まで人がいた僅かな痕跡を見つけ、その者が向かったであろう方角へ追いかけ始めた。
 そして、猛スピードで追いかけていくと、ある集団の姿を確認することができた。
 その集団の移動はとても静かで、その動きには見覚えがあった。
 まさか外に出られてすぐに一族の関係者に会うことができると思っていなかった限は、慌てて一族の捕縛術を使うことになった。
 自分たちが自分たちの技を受けると思っていなかったのか、限は上手いこと1人を捕まえて離れることに成功した。

「確か、山城家の英助だよな?」

「っ!! 何で……」

 先程の限の独り言が聞こえていなかったため、英助は自分を捕まえた者が同じ一族出身の物だと気付かない。
 そして、自分の名前を言われたことで、先程までの怒りよりも何故自分を捕まえた者が名を知っているのか脅威に感じた。

「いつか敷島の人間は皆殺しにするつもりだが、お前にはチャンスをやるよ」

「っ!?」

 自分の名前どころか、この者は敷島の人間だということも分かっているような口ぶりをしている。
 英助は更にこの者に警戒心を高めた。

「俺の質問に答えれば良いだけだ」

「何を言って……」

 何が目的なのか分からないが、どうやらこの男は危険だ。
 敷島の人間のためにも、この場でどうにかしなければならない。
 そう思い、英助は限と話しながら、密かに手足の紐をほどこうとする。

「研究所の破壊はお前たちがしたんだろ?」

「っ!?」

 研究所のことは、この国の人間にはあまり知られていない。
 それを知っているのは、国に管理されたごく一部の人間に限られる。
 その研究所で研究されていることが、この国において危険と判断され、研究員や関わっていた人間全てを抹殺するのが彼らの与えられた使命だ。
 研究所のことを知っている上に、その研究所の破壊工作をしたことまでバレているとなっては、英助は何としてでもこの者を殺さなければならなくなった。

「何で研究所を破壊したんだ?」

「…………」

 研究所を破壊した理由を聞こうと、限は転がしたままの英助に問いかけた。
 しかし、英助の方は答える訳にはいかないのか、だんまりを決め込んでいる。

“バキッ!!”

「ぐっ!!」

 黙ったままでは話が進まないので、限は少し痛めつけることにした。
 人差し指を掴むと、躊躇なくへし折る。
 いきなりの痛みに、英助は小さく呻く。

「素直に答えた方が良いぞ。一本ずつ折っていくからな……」

「……こんなことして何になる?」

 黙ったままでいると全部の指の骨を折ると、限は英助を脅しにかかる。
 すると、英助は話を長引かせようと話かけてくる。

「それは別にお前が気にする事じゃない。それに、同じ敷島の人間なら別に教えてもいいだろ?」

「俺は貴様のことなど知らん!!」

 たしかに、同じ敷島の人間なら研究所のことを知っている人間がほとんどだ。
 なので、話してしまってもいいが、英助には目の前の限のことが分かっていない。
 そのため、限の問いにも強い口調で突っぱねた。

「斎藤家の出来損ないと言えば分かるか?」

「っ!? 貴様!! 限か!?」

 年齢的には限の4歳上の英助。
 名門の斎藤家に出来損ないが生まれたということは島中に広まっていた。
 そのため、年も近い英助は限のことを覚えていたようだ。

「あぁ、覚えていてくれたか?」

「死んだはずじゃ……?」

 斎藤家は島の人間に、限は研究所の内偵に行かせて死んだと言っていた。
 なので、本人を目の前にしてもいまいち信用できない。

「話を聞かせてもらおうか?」

「……分かった」

 限だということがハッキリしたわけではないが、質問に答えれば解放されるチャンスがあるはず。
 そう思って英助は限の問いに答えることにしたのだった。

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