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第1章
第8話 重い女
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『この世に神はいた!! きっとこの人は神様なのだ!!』
醜く爛れていた全身の体が、まるで嘘のようにキレイに元に戻っている。
神のようなその所業に、94番の女性は驚き、限の前から動けないでいた。
魔法で作った光によって照らされているからか、まるでスポットライトを浴びている様にも見える。
それが更に女性の錯覚を深くした。
限のことを神様だと、完全に勘違いしているようだ。
「神様……」
「だから、神様じゃねえっての!」
否定したにもかかわらず、94番の女性は耳に入っていないらしく、治った体を起こした状態のままボ~っとした表情で限のことを見上げている。
その反応を見ていると、助けたのは失敗だったのではないかと限は思えてくる。
「言ったように、今ではこんなナリしちゃいるが、数年前は見るのも不快な容姿だった。だから神様なんかじゃない。分かったか?」
「はい……」
あまり聞いていないようなので、限はもう一度説明することにしたのだが、94番の女性は返事をするが、全然表情が変わらない所を見ると、理解しているのか疑わしい。
『何か色々と反応がおかしいな……』
折角久々に他人と話せることになったというのに、この女性の反応を見ていると何だか上がっていた気分も萎えてくる。
とは言っても、息のある生物がこの地下廃棄場に捨てられることは滅多にない。
わざわざ選んで助ける訳にもいかないので、生きる意思のある者だけ助けるようにしているのだが、この反応には困ったものだ。
「……お前名前は?」
「レラと申します」
よく考えたら、まだ女性の名前を聞いていなかったことを限は思いだした。
そのため、どう呼べばいいのか分からなかったので問いかけると、その女性は丁寧な口調で返答してきた。
「レラは戦闘の能力はもってるか?」
「いいえ。私は元々は聖女見習いでしたので……」
限の問いに対して、レラは暗い顔をして答える。
救って頂いたというのに、何の役にも立てないことが申し訳ないと思っているようだ。
「……いや、そんな暗くならなくてもいいから」
「申し訳ありません。ですが、回復魔法なら使うことはできます!」
レラは、自分でも聖女を目指して教会の仕事を誠実におこなってきたという自負がある。
教会の仕事の1つである怪我人の治療もよくやっていた。
それにより、回復魔法のレベルは見習いの中では上位の位置にいると思っている。
その自信からか、レラは限に向かって必死にアピールしてきた。
「ここから脱出するには、多くの警備員の相手をしなければ無理だ。お前にも回復魔法以外の魔法を使えるようになってもらいたい」
「かしこまりました!」
この死体処理場は、全方位が光も通さないほど分厚い壁に囲まれた空間。
この地下から出て研究所の外へと脱出するには、検体が逃げないように配置されている屈強な警備員を何人も相手にする覚悟と実力が無いと不可能。
たしかに回復魔法が使えるのはいいが、自分の身を守る程度でも戦う術がないのでは完全な足手まといでしかない。
回復魔法が使えるということは、魔力のコントロールをすることに長けているということになる。
ならば、訓練次第で戦いに仕える魔法を覚えることができるだろうと限は思った。
聖女は傷や病を治すことが仕事であるため、戦闘のための魔法を覚えるようなことは全くしない。
野蛮人扱いされ、聖女としての評価が下がると密かに言われているのもあり、レラもこれまで攻撃魔法は練習しないようにしてきた。
しかし、限を神と勘違いしているからか、レラは限の言葉をすぐさま了承した。
「っ!? 何か来ます!!」
減と話をしている所だったが、レラは何かが迫ってくるような音が聞こえてすぐさま立ち上がった。
そして、自分の肉体を盾にするように限の前に立ち、闇の中から迫り来る足音に警戒を全開にした。
「あぁ、俺の従魔だ」
「限様の?」
この闇の中で生きている者のことなど当然ながら理解している。
そのため、迫って来る足音と聞いて、限は何が来ているのかすぐに分かった。
地下処理場に廃棄されるものの中で、全部が完全に死んでいると確認されて捨てられている訳ではない。
限やレラのように、辛うじて息をしている者でも捨て去られる事がある。
それが人間だとは限らない。
「ハッ、ハッ、ハッ……」
「……白狼?」
その足音の主が、限が出した光の球の下に来たことで、レラはその姿を見ることができた。
真っ白な毛並みをした中型犬程度の大きさの狼が、姿を現したのだった。
大きさなどからいって、魔物としてはそれ程珍しくないルーポという種類の狼だが、真っ白い毛並みなのはとても珍しい。
「こいつも落ちてきた時はボロボロのガリガリで、俺が治してやったんだ」
「そうですか……」
白狼はレラを避けて限の側へやってくると、お座りをして尻尾を振る。
丁度いい位置にある白狼の頭を、限はワシワシと撫でてあげる。
すると、白狼は撫でられるのが嬉しいのか、尻尾を振る速度が更に速くなる。
「アルバって名付けた。仲良くしてやってくれ」
「ハイ。仰せのままに……」
限を神様と勘違いしているレラからすると、このアルバは神の使いとなる。
そのため、レラは膝をついてアルバに頭を下げた。
『……何かこいつ重いな』
完全にまだ勘違いしている様子のレラに、限は段々と引いてきた。
反応がいちいち重苦しいのだ。
“く~!”
「……申し訳ありません」
アルバのことも紹介したので、早速レラには魔法の練習をしてもらおうとしたのだが、どうやらレラは空腹なようだ。
予期せずおなかが鳴ってしまい、レラは顔を赤くして謝罪の言葉を告げた。
「まぁ、まずは食事を用意しよう」
「ハイ」
「ワフッ?」
空腹では魔法の練習に身が入らないだろうと思い、限はレラを連れて地下の奥を指さした。
そちらは闇に包まれているので、レラには何があるか分からない。
しかし、限が案内してくれるということは何かるのだろう。
半信半疑ながら、レラは限に付いて行くことにした。
先程の限の食事という言葉に反応したのか、アルバも嬉しそうについてくる。
自分もご飯がもらえると思っているのだろうか。
「お前は食ったばかりだろ?」
「ワフッ……」
ゲンに注意され、アルバは残念そうに頭を下げる。
そもそも、アルバが遅れてここに来たのも餌を食べていたからだ。
従魔としてどうかとは思うが、限に脅威を与える者が来るとは思っていないらしく警戒心が低いようだ。
「食事をしたら俺のことを話そう」
レラの勘違いは、限にとっても居心地が悪い。
そのため、早々にその勘違いを正しておいた方が良いだろう。
そう思った限は、闇に向かいながらそうレラに呟いたのだった。
醜く爛れていた全身の体が、まるで嘘のようにキレイに元に戻っている。
神のようなその所業に、94番の女性は驚き、限の前から動けないでいた。
魔法で作った光によって照らされているからか、まるでスポットライトを浴びている様にも見える。
それが更に女性の錯覚を深くした。
限のことを神様だと、完全に勘違いしているようだ。
「神様……」
「だから、神様じゃねえっての!」
否定したにもかかわらず、94番の女性は耳に入っていないらしく、治った体を起こした状態のままボ~っとした表情で限のことを見上げている。
その反応を見ていると、助けたのは失敗だったのではないかと限は思えてくる。
「言ったように、今ではこんなナリしちゃいるが、数年前は見るのも不快な容姿だった。だから神様なんかじゃない。分かったか?」
「はい……」
あまり聞いていないようなので、限はもう一度説明することにしたのだが、94番の女性は返事をするが、全然表情が変わらない所を見ると、理解しているのか疑わしい。
『何か色々と反応がおかしいな……』
折角久々に他人と話せることになったというのに、この女性の反応を見ていると何だか上がっていた気分も萎えてくる。
とは言っても、息のある生物がこの地下廃棄場に捨てられることは滅多にない。
わざわざ選んで助ける訳にもいかないので、生きる意思のある者だけ助けるようにしているのだが、この反応には困ったものだ。
「……お前名前は?」
「レラと申します」
よく考えたら、まだ女性の名前を聞いていなかったことを限は思いだした。
そのため、どう呼べばいいのか分からなかったので問いかけると、その女性は丁寧な口調で返答してきた。
「レラは戦闘の能力はもってるか?」
「いいえ。私は元々は聖女見習いでしたので……」
限の問いに対して、レラは暗い顔をして答える。
救って頂いたというのに、何の役にも立てないことが申し訳ないと思っているようだ。
「……いや、そんな暗くならなくてもいいから」
「申し訳ありません。ですが、回復魔法なら使うことはできます!」
レラは、自分でも聖女を目指して教会の仕事を誠実におこなってきたという自負がある。
教会の仕事の1つである怪我人の治療もよくやっていた。
それにより、回復魔法のレベルは見習いの中では上位の位置にいると思っている。
その自信からか、レラは限に向かって必死にアピールしてきた。
「ここから脱出するには、多くの警備員の相手をしなければ無理だ。お前にも回復魔法以外の魔法を使えるようになってもらいたい」
「かしこまりました!」
この死体処理場は、全方位が光も通さないほど分厚い壁に囲まれた空間。
この地下から出て研究所の外へと脱出するには、検体が逃げないように配置されている屈強な警備員を何人も相手にする覚悟と実力が無いと不可能。
たしかに回復魔法が使えるのはいいが、自分の身を守る程度でも戦う術がないのでは完全な足手まといでしかない。
回復魔法が使えるということは、魔力のコントロールをすることに長けているということになる。
ならば、訓練次第で戦いに仕える魔法を覚えることができるだろうと限は思った。
聖女は傷や病を治すことが仕事であるため、戦闘のための魔法を覚えるようなことは全くしない。
野蛮人扱いされ、聖女としての評価が下がると密かに言われているのもあり、レラもこれまで攻撃魔法は練習しないようにしてきた。
しかし、限を神と勘違いしているからか、レラは限の言葉をすぐさま了承した。
「っ!? 何か来ます!!」
減と話をしている所だったが、レラは何かが迫ってくるような音が聞こえてすぐさま立ち上がった。
そして、自分の肉体を盾にするように限の前に立ち、闇の中から迫り来る足音に警戒を全開にした。
「あぁ、俺の従魔だ」
「限様の?」
この闇の中で生きている者のことなど当然ながら理解している。
そのため、迫って来る足音と聞いて、限は何が来ているのかすぐに分かった。
地下処理場に廃棄されるものの中で、全部が完全に死んでいると確認されて捨てられている訳ではない。
限やレラのように、辛うじて息をしている者でも捨て去られる事がある。
それが人間だとは限らない。
「ハッ、ハッ、ハッ……」
「……白狼?」
その足音の主が、限が出した光の球の下に来たことで、レラはその姿を見ることができた。
真っ白な毛並みをした中型犬程度の大きさの狼が、姿を現したのだった。
大きさなどからいって、魔物としてはそれ程珍しくないルーポという種類の狼だが、真っ白い毛並みなのはとても珍しい。
「こいつも落ちてきた時はボロボロのガリガリで、俺が治してやったんだ」
「そうですか……」
白狼はレラを避けて限の側へやってくると、お座りをして尻尾を振る。
丁度いい位置にある白狼の頭を、限はワシワシと撫でてあげる。
すると、白狼は撫でられるのが嬉しいのか、尻尾を振る速度が更に速くなる。
「アルバって名付けた。仲良くしてやってくれ」
「ハイ。仰せのままに……」
限を神様と勘違いしているレラからすると、このアルバは神の使いとなる。
そのため、レラは膝をついてアルバに頭を下げた。
『……何かこいつ重いな』
完全にまだ勘違いしている様子のレラに、限は段々と引いてきた。
反応がいちいち重苦しいのだ。
“く~!”
「……申し訳ありません」
アルバのことも紹介したので、早速レラには魔法の練習をしてもらおうとしたのだが、どうやらレラは空腹なようだ。
予期せずおなかが鳴ってしまい、レラは顔を赤くして謝罪の言葉を告げた。
「まぁ、まずは食事を用意しよう」
「ハイ」
「ワフッ?」
空腹では魔法の練習に身が入らないだろうと思い、限はレラを連れて地下の奥を指さした。
そちらは闇に包まれているので、レラには何があるか分からない。
しかし、限が案内してくれるということは何かるのだろう。
半信半疑ながら、レラは限に付いて行くことにした。
先程の限の食事という言葉に反応したのか、アルバも嬉しそうについてくる。
自分もご飯がもらえると思っているのだろうか。
「お前は食ったばかりだろ?」
「ワフッ……」
ゲンに注意され、アルバは残念そうに頭を下げる。
そもそも、アルバが遅れてここに来たのも餌を食べていたからだ。
従魔としてどうかとは思うが、限に脅威を与える者が来るとは思っていないらしく警戒心が低いようだ。
「食事をしたら俺のことを話そう」
レラの勘違いは、限にとっても居心地が悪い。
そのため、早々にその勘違いを正しておいた方が良いだろう。
そう思った限は、闇に向かいながらそうレラに呟いたのだった。
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