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第24話
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「こいつも加えりゃ、言い逃れ出来ないだろ……」
襲撃を受けた翌日、捕まえた長と呼ばれていた男を宿で見張っていた領兵から受け取り、アルヴァ―ロが牢へと入れる。
ここまで護送してきた者たちが、もしも殺されてしまっていたらのことを考えて一応捕まえておいただけだが、証言を取れるものは少しでもいた方が良いため、長と呼ばれていた男も王都へ護送することにした。
これで裏でローゲン領にちょっかいを出していた人間は、更に言い逃れ出来なくなるだろう。
魔力封じの手錠と自殺防止の口輪をはめた長の男を牢へ入れ終わったアルヴァ―ロは、意気揚々とコルヴォへと話しかけてきた。
「あぁ……」
「どうした?」
「いや……」
自分の問いに対し、コルヴォの返事にはなんとなく力を感じない。
何かあるかのような雰囲気だ。
仮面で表情が隠れているため分からないため、アルヴァ―ロは少し不安になりつつ問いかけた。
しかし、コルヴォは何でもないと言うように首を横に振った。
『もしも本当に背後にいた貴族が父だとしたら……』
コルヴォの頭の中では、昨日長の男が呟いた言葉が浮かんでいた。
捕まえた長の男は、たしかにカスタールと呟いた。
父なのか、兄たちのどちらかなのか分からないが、このまま王都へ連れていけば実家は潰れる。
昔から父や兄たちは嫌いだが、前領主だった祖父のことを思うと、自分の手でつぶしてしまって良いのかと思ってしまう。
「コルヴォ……」
「どうしました? 領主殿」
頭の中でどうするべきか悩んでいたコルヴォに、セラフィーナが背後から話しかけてきた。
そのため、コルヴォは一旦考えるのをやめてセラフィーナへと振り返る。
「何から何までありがとうございました。ローゲン家領主として感謝申し上げます」
「っ!」
魔の森の魔物によるシーハ村の襲撃の阻止。
不正奴隷売買をおこなっていた犯人の逮捕。
アルガード鉱山の鉱石の横流し犯と、証拠隠滅を図っていた暗殺者の捕縛。
領都ヴィロッカに現れて1年もしないという短い期間でローゲン領内の問題を立て続けに解決してくれた上に、今回は自分を含めた護送に関わる者たちの命を救ってくれた。
領兵や冒険者に大怪我を負った者がいたが、死人が出なかったことはひとえにコルヴォのお陰と言ってもいい。
その感謝をどう伝えればいいか分からないため、セラフィーナは頭を下げることしかできなかった。
いきなり感謝の言葉と共に頭を下げられ、仮面の下でコルヴォは驚きの表情へ変わる。
「……S級冒険者と言っても、簡単に頭を下げるものではありませんよ」
この国も封建制であり、市民を導く立場の貴族が簡単に頭を下げるようなことはしない。
コルヴォは国にとって重要な戦力であるS級の冒険者だが、貴族であるか分からない。
もしかしたら平民かもしれないというのに躊躇なく頭を下げたセラフィーナに、コルヴォは注意するように言葉を告げた。
「いいえ。あなたには頭を下げるだけでは済まない程助けられました。本当に感謝します」
「……お気になさらず。そろそろ出発しましょう」
「はい!」
再度感謝と共に頭を下げるセラフィーナに、コルヴォはあっさりとした答えを返して話を変える。
さすがにまた襲撃が起こるという可能性は低い。
しかし、ここに居続けていると、僅かにその可能性も上がる気がするため、少し早いが出発するべきだ。
そのことを理解しているのか、コルヴォの言葉にセラフィーナは笑顔で頷いたのだった。
「…………」
予定より少し早めに出発し、馬車に揺られるコルヴォは1人思考していた。
このまま進めば実家は終わりだ。
犯人たちを始末すれば、カスタールの名が出ることはなくそれを防ぐことができるかもしれない。
背後にいた貴族が分からないという結果になってしまうが、セラフィーナとしては一応問題解決はするのだから渋々良しとすることができる。
自分がカスタール家のちょっかいに注意すれば、今後同じようなことは防げるはず。
なんとなくだが、コルヴォの思考の中ではカスタール家の存続に傾きつつあった。
『……いや、こいつらの調査を任せよう』
実家のカスタール家か、それともローゲン家か。
カスタール家の存続の方に傾きかけていたが、先程のセラフィーナの表情を見て決意が変わった。
今回の護送まで確証はなかったが、行動を共にするうちにセラフィーナはコルヴォへ気持ちが動いているというのは本当のようだった。
昨日のこともあり寝不足でだっただろうが、先程の笑顔はとても可愛らしかった。
ジルベルトとして顔を合わせる時は、いつも眉間に皺を寄せたような表情をしていた。
それに引きかえ、この旅でセラフィーナはコルヴォである自分には何度も笑顔を見せてくれた。
その笑顔を見て、自分がどちらを守るべきかを考えた。
その結果、コルヴォとしてもジルベルトとしても、セラフィーナを守る方が正しいと決断したのだった。
◆◆◆◆◆
「何故だ!? 何故連絡がこない!?」
暗殺が終了次第、裏ギルドの者から連絡が入るはずだった。
しかし、その連絡が翌日になっても入って来ない。
何が起きたのか分からないカスタール家領主のネルチーゾは、イラ立ちから執務室の机を叩いた。
「もしかしてあいつらしくじったんじゃ!?」
「どうするんだ!? 父上!」
ネルチーゾが裏ギルドを動かしていることを知っていたため、コルネリオとエミディオもこの結果に慌てふためく。
セラフィーナたちの暗殺が失敗したとなると、カスタール家のこれまでの悪事が王家に晒されるということになる。
そうなれば、この家は終わってしまうため 慌てるのも仕方がない。
「どうするもないだろ! しくじったというなら他に手を考えるしかない」
今から新しく暗殺者を送ろうにも、もう間に合わない。
かと言って、このまま諦める訳にもいかない。
執務室を右往左往しながら、ネルチーゾは息子たちに当たり散らす。
「考えるって……」
「そう言われても……」
王都内に入られては、どう考えてもセラフィーナたちに手を出すことなんてできない。
完全に詰んだと言ってもいい。
しかし、ネルチーゾはこの期に及んでもどうにかして生き残る道を探りだそうとしている。
コルネリオとエミディオも考えるように言われ、懸命に知恵を振り絞ることになったのだった。
襲撃を受けた翌日、捕まえた長と呼ばれていた男を宿で見張っていた領兵から受け取り、アルヴァ―ロが牢へと入れる。
ここまで護送してきた者たちが、もしも殺されてしまっていたらのことを考えて一応捕まえておいただけだが、証言を取れるものは少しでもいた方が良いため、長と呼ばれていた男も王都へ護送することにした。
これで裏でローゲン領にちょっかいを出していた人間は、更に言い逃れ出来なくなるだろう。
魔力封じの手錠と自殺防止の口輪をはめた長の男を牢へ入れ終わったアルヴァ―ロは、意気揚々とコルヴォへと話しかけてきた。
「あぁ……」
「どうした?」
「いや……」
自分の問いに対し、コルヴォの返事にはなんとなく力を感じない。
何かあるかのような雰囲気だ。
仮面で表情が隠れているため分からないため、アルヴァ―ロは少し不安になりつつ問いかけた。
しかし、コルヴォは何でもないと言うように首を横に振った。
『もしも本当に背後にいた貴族が父だとしたら……』
コルヴォの頭の中では、昨日長の男が呟いた言葉が浮かんでいた。
捕まえた長の男は、たしかにカスタールと呟いた。
父なのか、兄たちのどちらかなのか分からないが、このまま王都へ連れていけば実家は潰れる。
昔から父や兄たちは嫌いだが、前領主だった祖父のことを思うと、自分の手でつぶしてしまって良いのかと思ってしまう。
「コルヴォ……」
「どうしました? 領主殿」
頭の中でどうするべきか悩んでいたコルヴォに、セラフィーナが背後から話しかけてきた。
そのため、コルヴォは一旦考えるのをやめてセラフィーナへと振り返る。
「何から何までありがとうございました。ローゲン家領主として感謝申し上げます」
「っ!」
魔の森の魔物によるシーハ村の襲撃の阻止。
不正奴隷売買をおこなっていた犯人の逮捕。
アルガード鉱山の鉱石の横流し犯と、証拠隠滅を図っていた暗殺者の捕縛。
領都ヴィロッカに現れて1年もしないという短い期間でローゲン領内の問題を立て続けに解決してくれた上に、今回は自分を含めた護送に関わる者たちの命を救ってくれた。
領兵や冒険者に大怪我を負った者がいたが、死人が出なかったことはひとえにコルヴォのお陰と言ってもいい。
その感謝をどう伝えればいいか分からないため、セラフィーナは頭を下げることしかできなかった。
いきなり感謝の言葉と共に頭を下げられ、仮面の下でコルヴォは驚きの表情へ変わる。
「……S級冒険者と言っても、簡単に頭を下げるものではありませんよ」
この国も封建制であり、市民を導く立場の貴族が簡単に頭を下げるようなことはしない。
コルヴォは国にとって重要な戦力であるS級の冒険者だが、貴族であるか分からない。
もしかしたら平民かもしれないというのに躊躇なく頭を下げたセラフィーナに、コルヴォは注意するように言葉を告げた。
「いいえ。あなたには頭を下げるだけでは済まない程助けられました。本当に感謝します」
「……お気になさらず。そろそろ出発しましょう」
「はい!」
再度感謝と共に頭を下げるセラフィーナに、コルヴォはあっさりとした答えを返して話を変える。
さすがにまた襲撃が起こるという可能性は低い。
しかし、ここに居続けていると、僅かにその可能性も上がる気がするため、少し早いが出発するべきだ。
そのことを理解しているのか、コルヴォの言葉にセラフィーナは笑顔で頷いたのだった。
「…………」
予定より少し早めに出発し、馬車に揺られるコルヴォは1人思考していた。
このまま進めば実家は終わりだ。
犯人たちを始末すれば、カスタールの名が出ることはなくそれを防ぐことができるかもしれない。
背後にいた貴族が分からないという結果になってしまうが、セラフィーナとしては一応問題解決はするのだから渋々良しとすることができる。
自分がカスタール家のちょっかいに注意すれば、今後同じようなことは防げるはず。
なんとなくだが、コルヴォの思考の中ではカスタール家の存続に傾きつつあった。
『……いや、こいつらの調査を任せよう』
実家のカスタール家か、それともローゲン家か。
カスタール家の存続の方に傾きかけていたが、先程のセラフィーナの表情を見て決意が変わった。
今回の護送まで確証はなかったが、行動を共にするうちにセラフィーナはコルヴォへ気持ちが動いているというのは本当のようだった。
昨日のこともあり寝不足でだっただろうが、先程の笑顔はとても可愛らしかった。
ジルベルトとして顔を合わせる時は、いつも眉間に皺を寄せたような表情をしていた。
それに引きかえ、この旅でセラフィーナはコルヴォである自分には何度も笑顔を見せてくれた。
その笑顔を見て、自分がどちらを守るべきかを考えた。
その結果、コルヴォとしてもジルベルトとしても、セラフィーナを守る方が正しいと決断したのだった。
◆◆◆◆◆
「何故だ!? 何故連絡がこない!?」
暗殺が終了次第、裏ギルドの者から連絡が入るはずだった。
しかし、その連絡が翌日になっても入って来ない。
何が起きたのか分からないカスタール家領主のネルチーゾは、イラ立ちから執務室の机を叩いた。
「もしかしてあいつらしくじったんじゃ!?」
「どうするんだ!? 父上!」
ネルチーゾが裏ギルドを動かしていることを知っていたため、コルネリオとエミディオもこの結果に慌てふためく。
セラフィーナたちの暗殺が失敗したとなると、カスタール家のこれまでの悪事が王家に晒されるということになる。
そうなれば、この家は終わってしまうため 慌てるのも仕方がない。
「どうするもないだろ! しくじったというなら他に手を考えるしかない」
今から新しく暗殺者を送ろうにも、もう間に合わない。
かと言って、このまま諦める訳にもいかない。
執務室を右往左往しながら、ネルチーゾは息子たちに当たり散らす。
「考えるって……」
「そう言われても……」
王都内に入られては、どう考えてもセラフィーナたちに手を出すことなんてできない。
完全に詰んだと言ってもいい。
しかし、ネルチーゾはこの期に及んでもどうにかして生き残る道を探りだそうとしている。
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