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第19話
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「くっ!!」
天井を破って入ってきた男がすぐさまセラフィーナへと襲い掛かってきた。
190cm近い長身で鍛え上げられた筋肉をしており、口髭を生やしたスキンヘッドの男だ。
手には短く重そうな片刃の剣を持っており、その剣を利用してセラフィーナに斬りかかってきた。
160cm程度のセラフィーナでは、とてもではないが受け止めることなどできない。
受け止めた途端、武器が破壊されること間違いないため、セラフィーナは横に跳んで躱す。
「スチュアートを避難させて!」
「か、畏まりました」
そのまま出口へと移動したセラフィーナは、報告に来た領兵にスチュアートを逃がすよう指示する。
身の回りのことは何でもできるが、戦闘では役に立たないと分かっているため、スチュアートは指示に従い領兵と共に逃走を開始した。
「おっと! 逃がさねえぜ!」
「なっ!!」
裏口から逃げようとしていたスチュアートだったが、そちらもすでに敵が待ち受けていた。
十数人が、それぞれ武器片手に笑みを浮かべている。
「包囲されているってわけね……」
僅かに遅れて来たセラフィーナは、この状況に眉間に皺を寄せた。
襲撃を開始した時には、もう宿屋は完全に包囲された状態だったようだ。
“ドンッ!!”
「っ!? 壁を……」
「逃げ足速えじゃねえか!」
さっきの巨体の男は、廊下が狭かったために追いかけて来れないと思っていたのだが、天井同様壁を壊して外へと跳び出してきた。
周囲の者たちだけでも大変だというのに、こんな破壊力のある者を相手にしなければならないとなると、セラフィーナはどう戦うべきかに考えを巡らせ始めた。
「スチュアートは中に隠れていて……」
「しかし……」
「お願い……」
「……畏まりました」
セラフィーナが外に出たことで、宿内に敵は入ってきていないようだ。
それならと、セラフィーナはスチュアートには中に避難していてもらおうと指示をだした。
祖父や父から武術の訓練を受けていたことで、セラフィーナの剣の腕はなかなかのものだ。
さすが武門の家系といったところだろう。
しかし、この数を相手に戦うなんて、いくらセラフィーナでも無謀だ。
せめて自分を盾に逃げてもらおうかと思っていたスチュアートは、避難するように言われたことに躊躇する。
だが、セラフィーナのまだ諦めていないような表情を見て、スチュアートは渋々その指示を受け入れた。
『時間を稼げば何とかなるはず!』
セラフィーナも、周囲にいる者たちと巨体の相手に勝てるとは思っていない。
自分たちが生き残るためには、離れた所でテントを張っている冒険者たちの援軍に期待するしかない。
そう考えたセラフィーナは、内心で時間稼ぎをする事を決意した
「へ~……よく見りゃなかなかの上玉じゃねえか」
「何なら殺す前に楽しむか?」
「いいなそれ!」
剣を構えて周囲に目を向けるセラフィーナに、囲んでいる者たちから下卑た言葉が発せられる。
多少は容姿が整っていると自負しているため、セラフィーナに対して密かにこのような者たちと同じようなことをいう貴族がいた。
それに慣れているせいか、セラフィーナはその発言を聞き流すように無視する。
「おいっ! まだあっちの援護に行かなきゃなんねんだ。余計なこと言ってねえでさっさと殺れ!」
「っ!?」
周囲の者たちの中で、初老の男が指示を出す。
どうやら、この中でトップに立っているのがその男のようだ。
その指示に、セラフィーナは目を見開く。
これだけの人数のため、先に自分を狙ってきたのだと思っていた。
しかし、ここにいる人間だけでなく、同行してきた冒険者たちの方にまで襲撃をかけているかのような物言いだ。
時間を稼いでいれば冒険者たちの援軍が来ると思っていたが、それも期待が薄いということに思い至ったのだ。
「こんな小娘俺1人で充分だろ? ここまでする必要なんてねえんだよ!」
「主からの厳命だ。念には念を入れるのは当然だ」
「あぁ、そうかい」
他の男たちと同様に、セラフィーナに下卑た目を向けていた巨体の男が、初老の男に反論する。
たしかに、宿の天井や壁を壊したような威力を持っているのだから、この男だけでも良いような気がする。
しかし、もしもセラフィーナに逃げられてしまったら、裏ギルドの主人であるネルチーゾがローゲン領を得ることが先延ばしになってしまう。
そうなれば、自分たちも実入りが減る。
そうならないためにも、先にセラフィーナを確実に殺してから冒険者たちを相手にするべきだ。
初老の男こと裏ギルドの長は、そう考えてこちらを優先したのだ。
計画はいつも長が決めること。
そのため、巨体の男はとりあえずは納得したように頷き、セラフィーナへ向かって歩き始めた。
「無駄な抵抗なんてしなければ、一撃で済ませてやるが?」
「ローゲン家は武門の家。そういう訳にはいかない!」
ある程度近付いたところで、巨体の男はセラフィーナへ問いかける。
勝てないからといって無抵抗に殺されるよりも、生き残る道を最後までもがくのが騎士としての心構えだと教わった。
そのため、セラフィーナはその申し出を断った。
「はっ! そうかい!」
「っ!! 速っ……」
セラフィーナの言葉を受けて、巨体の男は笑みを浮かべて剣を振り上げる。
女とはいってもちゃんとした騎士道を持っているセラフィーナに、見上げたものだと思いつつも容赦なく叩き潰すつもりだ。
巨体であるがゆえに動きが鈍いだろうと思っていたが、その巨体が高速で移動した。
体内の魔力を纏って、身体強化の魔術を発動したのだ。
いくら身体強化したからといって、ここまでの速度で移動すると思わず反応が遅れたセラフィーナは、巨体の男に真横まで迫られてしまった。
「オラッ!!」
「ウッ!!」
距離を詰めた巨体の男は、振り上げていた剣をセラフィーナ目掛けて振り下ろす。
その攻撃を受けたら本当に1撃で殺されてしまうため、セラフィーナは懸命に躱そうと体を動かす。
「キャッ!!」
ギリギリ男の攻撃を躱すことはでき、男が振り下ろした剣はそのまま地面を撃ちつける。
しかし、男の攻撃はまだ終わっていなかった。
地面を撃ちつけたことにより、地面が爆発を起こしたのだ。
立っていた場所が破壊され、セラフィーナも吹き飛ばされてしまった。
「終わりだ!!」
「クッ!」
着地ができず、セラフィーナは尻餅をついたような形になってしまった。
そんな体制では次の攻撃に対応できる訳もなく、巨体の男に難なく目の前まで迫られてしまった。
立つ間も与えないかのように、巨体の男はセラフィーナに向けて剣を振りかぶった。
剣が振り下ろされて自分の命が尽きる。
そんな未来しかセラフィーナには予想できなかった。
「うがっ!!」
「っっっ!?」
死を待つしかない状況に、セラフィーナは悔しさに目に涙を浮かべていた。
そして、剣が振り下ろされるのを走馬灯のように見ていたら、黒い影が横切るように迫ると、目の前の男が吹き飛んだ。
「待たせたな領主殿!」
「コ、コルヴォ……」
何が起きたのかとセラフィーナが不思議に思っていると、目の前に一人の人間が立っていた。
仮面をつけたその男を見て、セラフィーナは思わず涙を流してしまった。
天井を破って入ってきた男がすぐさまセラフィーナへと襲い掛かってきた。
190cm近い長身で鍛え上げられた筋肉をしており、口髭を生やしたスキンヘッドの男だ。
手には短く重そうな片刃の剣を持っており、その剣を利用してセラフィーナに斬りかかってきた。
160cm程度のセラフィーナでは、とてもではないが受け止めることなどできない。
受け止めた途端、武器が破壊されること間違いないため、セラフィーナは横に跳んで躱す。
「スチュアートを避難させて!」
「か、畏まりました」
そのまま出口へと移動したセラフィーナは、報告に来た領兵にスチュアートを逃がすよう指示する。
身の回りのことは何でもできるが、戦闘では役に立たないと分かっているため、スチュアートは指示に従い領兵と共に逃走を開始した。
「おっと! 逃がさねえぜ!」
「なっ!!」
裏口から逃げようとしていたスチュアートだったが、そちらもすでに敵が待ち受けていた。
十数人が、それぞれ武器片手に笑みを浮かべている。
「包囲されているってわけね……」
僅かに遅れて来たセラフィーナは、この状況に眉間に皺を寄せた。
襲撃を開始した時には、もう宿屋は完全に包囲された状態だったようだ。
“ドンッ!!”
「っ!? 壁を……」
「逃げ足速えじゃねえか!」
さっきの巨体の男は、廊下が狭かったために追いかけて来れないと思っていたのだが、天井同様壁を壊して外へと跳び出してきた。
周囲の者たちだけでも大変だというのに、こんな破壊力のある者を相手にしなければならないとなると、セラフィーナはどう戦うべきかに考えを巡らせ始めた。
「スチュアートは中に隠れていて……」
「しかし……」
「お願い……」
「……畏まりました」
セラフィーナが外に出たことで、宿内に敵は入ってきていないようだ。
それならと、セラフィーナはスチュアートには中に避難していてもらおうと指示をだした。
祖父や父から武術の訓練を受けていたことで、セラフィーナの剣の腕はなかなかのものだ。
さすが武門の家系といったところだろう。
しかし、この数を相手に戦うなんて、いくらセラフィーナでも無謀だ。
せめて自分を盾に逃げてもらおうかと思っていたスチュアートは、避難するように言われたことに躊躇する。
だが、セラフィーナのまだ諦めていないような表情を見て、スチュアートは渋々その指示を受け入れた。
『時間を稼げば何とかなるはず!』
セラフィーナも、周囲にいる者たちと巨体の相手に勝てるとは思っていない。
自分たちが生き残るためには、離れた所でテントを張っている冒険者たちの援軍に期待するしかない。
そう考えたセラフィーナは、内心で時間稼ぎをする事を決意した
「へ~……よく見りゃなかなかの上玉じゃねえか」
「何なら殺す前に楽しむか?」
「いいなそれ!」
剣を構えて周囲に目を向けるセラフィーナに、囲んでいる者たちから下卑た言葉が発せられる。
多少は容姿が整っていると自負しているため、セラフィーナに対して密かにこのような者たちと同じようなことをいう貴族がいた。
それに慣れているせいか、セラフィーナはその発言を聞き流すように無視する。
「おいっ! まだあっちの援護に行かなきゃなんねんだ。余計なこと言ってねえでさっさと殺れ!」
「っ!?」
周囲の者たちの中で、初老の男が指示を出す。
どうやら、この中でトップに立っているのがその男のようだ。
その指示に、セラフィーナは目を見開く。
これだけの人数のため、先に自分を狙ってきたのだと思っていた。
しかし、ここにいる人間だけでなく、同行してきた冒険者たちの方にまで襲撃をかけているかのような物言いだ。
時間を稼いでいれば冒険者たちの援軍が来ると思っていたが、それも期待が薄いということに思い至ったのだ。
「こんな小娘俺1人で充分だろ? ここまでする必要なんてねえんだよ!」
「主からの厳命だ。念には念を入れるのは当然だ」
「あぁ、そうかい」
他の男たちと同様に、セラフィーナに下卑た目を向けていた巨体の男が、初老の男に反論する。
たしかに、宿の天井や壁を壊したような威力を持っているのだから、この男だけでも良いような気がする。
しかし、もしもセラフィーナに逃げられてしまったら、裏ギルドの主人であるネルチーゾがローゲン領を得ることが先延ばしになってしまう。
そうなれば、自分たちも実入りが減る。
そうならないためにも、先にセラフィーナを確実に殺してから冒険者たちを相手にするべきだ。
初老の男こと裏ギルドの長は、そう考えてこちらを優先したのだ。
計画はいつも長が決めること。
そのため、巨体の男はとりあえずは納得したように頷き、セラフィーナへ向かって歩き始めた。
「無駄な抵抗なんてしなければ、一撃で済ませてやるが?」
「ローゲン家は武門の家。そういう訳にはいかない!」
ある程度近付いたところで、巨体の男はセラフィーナへ問いかける。
勝てないからといって無抵抗に殺されるよりも、生き残る道を最後までもがくのが騎士としての心構えだと教わった。
そのため、セラフィーナはその申し出を断った。
「はっ! そうかい!」
「っ!! 速っ……」
セラフィーナの言葉を受けて、巨体の男は笑みを浮かべて剣を振り上げる。
女とはいってもちゃんとした騎士道を持っているセラフィーナに、見上げたものだと思いつつも容赦なく叩き潰すつもりだ。
巨体であるがゆえに動きが鈍いだろうと思っていたが、その巨体が高速で移動した。
体内の魔力を纏って、身体強化の魔術を発動したのだ。
いくら身体強化したからといって、ここまでの速度で移動すると思わず反応が遅れたセラフィーナは、巨体の男に真横まで迫られてしまった。
「オラッ!!」
「ウッ!!」
距離を詰めた巨体の男は、振り上げていた剣をセラフィーナ目掛けて振り下ろす。
その攻撃を受けたら本当に1撃で殺されてしまうため、セラフィーナは懸命に躱そうと体を動かす。
「キャッ!!」
ギリギリ男の攻撃を躱すことはでき、男が振り下ろした剣はそのまま地面を撃ちつける。
しかし、男の攻撃はまだ終わっていなかった。
地面を撃ちつけたことにより、地面が爆発を起こしたのだ。
立っていた場所が破壊され、セラフィーナも吹き飛ばされてしまった。
「終わりだ!!」
「クッ!」
着地ができず、セラフィーナは尻餅をついたような形になってしまった。
そんな体制では次の攻撃に対応できる訳もなく、巨体の男に難なく目の前まで迫られてしまった。
立つ間も与えないかのように、巨体の男はセラフィーナに向けて剣を振りかぶった。
剣が振り下ろされて自分の命が尽きる。
そんな未来しかセラフィーナには予想できなかった。
「うがっ!!」
「っっっ!?」
死を待つしかない状況に、セラフィーナは悔しさに目に涙を浮かべていた。
そして、剣が振り下ろされるのを走馬灯のように見ていたら、黒い影が横切るように迫ると、目の前の男が吹き飛んだ。
「待たせたな領主殿!」
「コ、コルヴォ……」
何が起きたのかとセラフィーナが不思議に思っていると、目の前に一人の人間が立っていた。
仮面をつけたその男を見て、セラフィーナは思わず涙を流してしまった。
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