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第11話
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「お呼びでしょうか? 閣下」
ある貴族邸の一室。
そこに現れた黒づくめの男は、敬意を表すように片膝をついて執務用の椅子に座る男に問いかける。
「モレーノとマルチャーノの始末ご苦労だった」
「ありがたきお言葉」
椅子に座る貴族らしき男に労われ、黒づくめの男は首を垂れる。
この貴族のいった言葉通り、この黒づくめの男はローゲン領で不正奴隷売買の犯罪をおこない、Sランク冒険者であるコルヴォによって捕まり牢に入れられていた犯人2人を暗殺した男だ。
その指示を出したのがこの貴族ということになる。
「私との関係はギルドや領主には伝わっていないだろうな?」
「はい。調査が入る前に潰せました」
「そうか」
長年奴隷売買をおこなってきた2人。
その調査を追求するために、奴隷紋によって証言を聞き出そうとしていたところを始末した。
もしもその調査がおこなわれていたならば、2人の背後にいた自分の名前も出ていた可能性があった。
そのため、この貴族の男はこの部下に2人の始末を指示したのだ。
「それにしても、何故急にあいつらの犯行が気付かれたのだ?」
不正奴隷売買はあの2人が領内で始めていた犯罪で、それを他国へ向けておこなうようになったのは自分が関与するようになってからだ。
2人を利用して手広くやろうとしていたのが間違いだったのか、自分に火の粉が向きかねない状況になってしまった。
かと言って、これまで長い間気付かれなかった犯罪が、バレるようなミスを犯したように思えなかったのため、貴族の男は今回の急な犯罪発覚が不思議に思えた。
「どうやらSランク冒険者が関与したそうです」
「Sランク? それがローゲン領に現れたのか?」
「はい。コルヴォという冒険者です」
貴族の男の疑問に、黒づくめの男が返答する。
指示を受けた2人の暗殺のために調べた時、捕縛した人間のことも耳に入ってきた。
それをそのまま告げると、貴族の男は目を見開く。
ローゲン領にSランクの冒険者がいるという情報を受けたことがなかったためだ。
「アレラード領東南の町を拠点にしていた冒険者じゃなかったのか?」
「その通りです。その冒険者がローゲン領へ居を移したようです」
Sランク冒険者の名前に心当たりがあったらしく、貴族の男は黒づくめの男へ問いかける。
その問いに、黒づくめの男は同意と共に情報を付けした。
コルヴォという冒険者は、貴族の男の言うようにアレラード領南東の町を拠点にしている冒険者として周囲には知られていたが、それがいつの間にかローゲン領に移動していたのだ。
「チッ! アレラード領は何をしていたのだ。せっかくのSランクをみすみす手放したということか?」
「Sランク冒険者となると、貴族でもなかなか手出しができない相手でございます。止めることなどできなかったのでしょう」
この世界の冒険ギルドは、自国と他国のギルドに関わりがなく、それぞれの国が管理している機関だ。
魔物討伐の仕事がメインではあるが、様々な仕事紹介場というスタンスである。
高ランクとなれば、町や領、更には国に貢献している人物といえるため、待遇も良くなる。
そんな人間を利用しようとして下手に手を出せば、しっぺ返しをくらう可能性があるため、アレラード領の領主はローゲン領への移動を見逃したのかもしれない。
しかし、この貴族の男はそれが気に入らないようだ。
「やはり無断国外移動の禁止しかされていないのでは緩すぎる。冒険者など所詮は職業の一種にすぎぬのだから、もっと規制をかけるべきなのだ!」
高ランク冒険者は、魔物の討伐だけでなく、他国との戦争時にも傭兵として役に立つ。
そのため他国へ無闇に移動されては困る。
この国でSランクとは言っても、他国では何の関係もない。
これまでの待遇を捨て、移動したその国のギルドでまた0からやり直すことになる。
しかし、Sランクになれるだけの実力があるのだから、しばらくすればその国でも高ランクに上がることは難しくない。
つまり、他国へ移れるのならランクが下がった所で何の規制にもなっていない。
この貴族の男は、無許可の国外移動の禁止だけではなく、他領への移動も制限するべきだと常々考えていた。
今回もその規制があれば、2人が捕まることがなかったかもしれないと、思考がヒートアップした貴族の男は自分勝手な思いを吐き出した。
「Sランクが関与しているとなると、このままローゲン領への介入を続けるのは危険かと……」
「何っ!? せっかくあの領地を手に入れるために色々と動いてきたと言うのに、このまま手を引くことなどできん!」
黒づくめの男としては主人のために進言したのだろうが、タイミングが悪かった。
冷静さを失っていた貴族の男は、その進言に聞く耳を持たない。
このままローゲン領への介入をやめるつもりはないようだ。
「ローゲン領の後はアレラード領を手に入れる。そうすることによって、我ら一族がロタリア王国最大の領土を得られるというのに……」
自分の構想を邪魔されて怒りが収まらない貴族の男は、怒りで拳を強く握りしめる。
その野望には、国に忠誠を誓う貴族というより、国を乗っ取る簒奪者のような発言にも聞こえる。
「そのコルヴォですが、自分の得られる資金をそのまま領主に献上しているという噂を聞きました。もしかしたら、コルヴォはローゲン領の赤字解消に動いているのかもしれません」
「背後にいるのはセラフィーナの奴か!? おのれ! あの脳筋一族のバカ娘が!!」
Sランクが動いている理由が、ローゲン領の赤字解消。
それを聞いて、貴族の男はセラフィーナの姿を思い浮かべる。
どうやら、セラフィーナの存在を疎ましく思っているようだ。
武に長けた一族が故に、この貴族の中では脳筋としてとらえているようだ。
「シーハ村の魔物に殺されていればよかったものを……」
「あの時の魔物もコルヴォによって討伐されたようです」
「何だと!? おのれ……」
シーハ村付近の魔物の大量発生を、この貴族の男はいち早くつかんでいた。
それを利用した乗っ取りを企んでいたのだが、それが失敗に終わった。
しかもそれが今回同様セラフィーナの指示を受けたコルヴォという冒険者だと知り、貴族の男は怒りで顔を真っ赤にした。
「待て! 赤字解消となると……」
怒りによって思考が鈍っていたが、貴族の男は少し冷静さを取り戻して思案を始める。
「まさか!? アラガートの鉱山に向かえ!! やつらが一気に赤字解消を狙うなら、あそこを調べる可能性が高い!」
ローゲン領の赤字解消を狙っているということを聞いて、貴族の男はジルベルトと同じ考えに至ったようだ。
そのため、黒づくめの男に対しアラガート鉱山へ向かうことを指示する。
「何としても私との繋がりを知られないようにしろ!」
もしも自分が考えた通り、鉱山の調査をセラフィーナがコルヴォに頼んだとしたら、自分が鉱物を横流ししていることがバレる可能性がある。
そんなことになったら、不正奴隷売買の関与以上の処罰を国から出される可能性がある。
一族全てが処罰されるだろう。
そんなことになったら、他領の奪取などと言っている場合ではない。
そうならないためにも、鉱山に関する自分の証拠を消さざるを得ない。
「最悪、どんな手段をとっても構わん!」
「畏まりました。それでは行ってまいります……」
調査に来るであろうコルヴォの始末。
それが不可能なら、裏ルートによる鉱物の横流しを知る鉱山関係者の始末。
最悪というのは、鉱山自体を破壊しろという意味でもある。
それを理解した黒づくめの男は、頭を下げて了解を示した。
「カスタール閣下」
ある貴族邸の一室。
そこに現れた黒づくめの男は、敬意を表すように片膝をついて執務用の椅子に座る男に問いかける。
「モレーノとマルチャーノの始末ご苦労だった」
「ありがたきお言葉」
椅子に座る貴族らしき男に労われ、黒づくめの男は首を垂れる。
この貴族のいった言葉通り、この黒づくめの男はローゲン領で不正奴隷売買の犯罪をおこない、Sランク冒険者であるコルヴォによって捕まり牢に入れられていた犯人2人を暗殺した男だ。
その指示を出したのがこの貴族ということになる。
「私との関係はギルドや領主には伝わっていないだろうな?」
「はい。調査が入る前に潰せました」
「そうか」
長年奴隷売買をおこなってきた2人。
その調査を追求するために、奴隷紋によって証言を聞き出そうとしていたところを始末した。
もしもその調査がおこなわれていたならば、2人の背後にいた自分の名前も出ていた可能性があった。
そのため、この貴族の男はこの部下に2人の始末を指示したのだ。
「それにしても、何故急にあいつらの犯行が気付かれたのだ?」
不正奴隷売買はあの2人が領内で始めていた犯罪で、それを他国へ向けておこなうようになったのは自分が関与するようになってからだ。
2人を利用して手広くやろうとしていたのが間違いだったのか、自分に火の粉が向きかねない状況になってしまった。
かと言って、これまで長い間気付かれなかった犯罪が、バレるようなミスを犯したように思えなかったのため、貴族の男は今回の急な犯罪発覚が不思議に思えた。
「どうやらSランク冒険者が関与したそうです」
「Sランク? それがローゲン領に現れたのか?」
「はい。コルヴォという冒険者です」
貴族の男の疑問に、黒づくめの男が返答する。
指示を受けた2人の暗殺のために調べた時、捕縛した人間のことも耳に入ってきた。
それをそのまま告げると、貴族の男は目を見開く。
ローゲン領にSランクの冒険者がいるという情報を受けたことがなかったためだ。
「アレラード領東南の町を拠点にしていた冒険者じゃなかったのか?」
「その通りです。その冒険者がローゲン領へ居を移したようです」
Sランク冒険者の名前に心当たりがあったらしく、貴族の男は黒づくめの男へ問いかける。
その問いに、黒づくめの男は同意と共に情報を付けした。
コルヴォという冒険者は、貴族の男の言うようにアレラード領南東の町を拠点にしている冒険者として周囲には知られていたが、それがいつの間にかローゲン領に移動していたのだ。
「チッ! アレラード領は何をしていたのだ。せっかくのSランクをみすみす手放したということか?」
「Sランク冒険者となると、貴族でもなかなか手出しができない相手でございます。止めることなどできなかったのでしょう」
この世界の冒険ギルドは、自国と他国のギルドに関わりがなく、それぞれの国が管理している機関だ。
魔物討伐の仕事がメインではあるが、様々な仕事紹介場というスタンスである。
高ランクとなれば、町や領、更には国に貢献している人物といえるため、待遇も良くなる。
そんな人間を利用しようとして下手に手を出せば、しっぺ返しをくらう可能性があるため、アレラード領の領主はローゲン領への移動を見逃したのかもしれない。
しかし、この貴族の男はそれが気に入らないようだ。
「やはり無断国外移動の禁止しかされていないのでは緩すぎる。冒険者など所詮は職業の一種にすぎぬのだから、もっと規制をかけるべきなのだ!」
高ランク冒険者は、魔物の討伐だけでなく、他国との戦争時にも傭兵として役に立つ。
そのため他国へ無闇に移動されては困る。
この国でSランクとは言っても、他国では何の関係もない。
これまでの待遇を捨て、移動したその国のギルドでまた0からやり直すことになる。
しかし、Sランクになれるだけの実力があるのだから、しばらくすればその国でも高ランクに上がることは難しくない。
つまり、他国へ移れるのならランクが下がった所で何の規制にもなっていない。
この貴族の男は、無許可の国外移動の禁止だけではなく、他領への移動も制限するべきだと常々考えていた。
今回もその規制があれば、2人が捕まることがなかったかもしれないと、思考がヒートアップした貴族の男は自分勝手な思いを吐き出した。
「Sランクが関与しているとなると、このままローゲン領への介入を続けるのは危険かと……」
「何っ!? せっかくあの領地を手に入れるために色々と動いてきたと言うのに、このまま手を引くことなどできん!」
黒づくめの男としては主人のために進言したのだろうが、タイミングが悪かった。
冷静さを失っていた貴族の男は、その進言に聞く耳を持たない。
このままローゲン領への介入をやめるつもりはないようだ。
「ローゲン領の後はアレラード領を手に入れる。そうすることによって、我ら一族がロタリア王国最大の領土を得られるというのに……」
自分の構想を邪魔されて怒りが収まらない貴族の男は、怒りで拳を強く握りしめる。
その野望には、国に忠誠を誓う貴族というより、国を乗っ取る簒奪者のような発言にも聞こえる。
「そのコルヴォですが、自分の得られる資金をそのまま領主に献上しているという噂を聞きました。もしかしたら、コルヴォはローゲン領の赤字解消に動いているのかもしれません」
「背後にいるのはセラフィーナの奴か!? おのれ! あの脳筋一族のバカ娘が!!」
Sランクが動いている理由が、ローゲン領の赤字解消。
それを聞いて、貴族の男はセラフィーナの姿を思い浮かべる。
どうやら、セラフィーナの存在を疎ましく思っているようだ。
武に長けた一族が故に、この貴族の中では脳筋としてとらえているようだ。
「シーハ村の魔物に殺されていればよかったものを……」
「あの時の魔物もコルヴォによって討伐されたようです」
「何だと!? おのれ……」
シーハ村付近の魔物の大量発生を、この貴族の男はいち早くつかんでいた。
それを利用した乗っ取りを企んでいたのだが、それが失敗に終わった。
しかもそれが今回同様セラフィーナの指示を受けたコルヴォという冒険者だと知り、貴族の男は怒りで顔を真っ赤にした。
「待て! 赤字解消となると……」
怒りによって思考が鈍っていたが、貴族の男は少し冷静さを取り戻して思案を始める。
「まさか!? アラガートの鉱山に向かえ!! やつらが一気に赤字解消を狙うなら、あそこを調べる可能性が高い!」
ローゲン領の赤字解消を狙っているということを聞いて、貴族の男はジルベルトと同じ考えに至ったようだ。
そのため、黒づくめの男に対しアラガート鉱山へ向かうことを指示する。
「何としても私との繋がりを知られないようにしろ!」
もしも自分が考えた通り、鉱山の調査をセラフィーナがコルヴォに頼んだとしたら、自分が鉱物を横流ししていることがバレる可能性がある。
そんなことになったら、不正奴隷売買の関与以上の処罰を国から出される可能性がある。
一族全てが処罰されるだろう。
そんなことになったら、他領の奪取などと言っている場合ではない。
そうならないためにも、鉱山に関する自分の証拠を消さざるを得ない。
「最悪、どんな手段をとっても構わん!」
「畏まりました。それでは行ってまいります……」
調査に来るであろうコルヴォの始末。
それが不可能なら、裏ルートによる鉱物の横流しを知る鉱山関係者の始末。
最悪というのは、鉱山自体を破壊しろという意味でもある。
それを理解した黒づくめの男は、頭を下げて了解を示した。
「カスタール閣下」
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