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第7話
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「不正奴隷売買?」
「えぇ、最近増えているそうです」
いつものように離れの自室で本を読んでいたジルベルト。
そこに紅茶を持って来たピエーロが入ってくる。
自室に籠り時折町中を散策する生活を続けているため、何もない日々には飽きてくる。
そんななか、世間話の1つとしてピエーロが不正奴隷売買のことを話してきた。
この国では、奴隷制度が存在する。
しかし、それは重犯罪者に対する処罰としてのもので、許可なく奴隷を売買することは禁止されている。
もし不正に奴隷を生み出し、売買をおこなったと分かれば、その者も奴隷へと直行することになるだろう。
それがこの領地で密かにおこなわれているという話だ。
「しかも、その奴隷が子供なのだそうです」
「マジか……」
ピエーロの発言に、ジルベルトは信じられないという思いで呟く。
奴隷は少なくないが、子供の奴隷などはそうそうあり得ない。
子供の場合、指示されたり操られたりと、本人の主導でない犯罪が多い。
無罪放免とはならないが、管理下に置かれるなどの処置で済まされることが多い。
つまり、子どもの奴隷を売買しているなんて、不正売買の可能性が極めて高い。
「赤字だからって、それは何とかしないと駄目だろ……」
領地が赤字で治安が悪くなっているからといって、放置できる問題ではない。
早期に不正売買をおこなっている者を捕まえないと、治安の悪化は進むのみだ。
「セラフィーナには頑張ってもらいたいね……」
「そうですね」
不正奴隷売買の取り締まりは、領主がおこなう案件だ。
他にも多くの問題が存在しているのだろうが、奴隷にされて買われた子供がどのような末路になるのかを考えると、1人でも多く助けるべきだ。
領主であるセラフィーナに、早期解決を期待するように呟いたジルベルトだった。
「よく来てくれた。コルヴォ」
「どうも……」
冒険者ギルドのギルマスであるアルヴァ―ロ。
シーハ村の件が片付き、しばらくは魔物による大きな被害を受けることはなくなった。
そのシーハ村の魔物を1人で倒したS級冒険者コルヴォがギルドに姿を現したため、ギルマス室へと招き入れた。
「本当に魔物の売却額はローゲン家へ渡して良いのだな?」
「あぁ、金は充分持っている。気にせず渡してくれ」
「分かった」
コルヴォによってシーハ村の魔物は倒された。
しかし、コルヴォは倒した魔物から取れる素材の売却金を、そのままギルドとローゲン家へ渡すように言ってきた。
ギルドとしては、シーハ村の魔物退治に参加した冒険者へ参加費用を支払うことができたので、ありがたく受け取ったが、その額を引いてもまだかなりの金額が残っている。
冒険者は、生活費以外に武器や防具の購入費や修理費がかかる。
S級ともなると、それらに結構な額を必要とするかもしれない。
そのため、アルヴァ―ロは念のためコルヴォに確認をしたかったのだ。
アルヴァ―ロが確認してみると、コルヴォは変わらず売却額をローゲン家へ渡すように言ってきた。
確認が取れたので、アルヴァ―ロはこの話はこれで終わりにすることにした。
「それで? 今回はどんな依頼を受けてくれるんだ?」
依頼の貼られた掲示板を見ていたところを捕まえてこの部屋へと通したのだから、何か依頼を受けるつもりで来たのだろう。
S級の冒険者なのだから、彼への援護を最大限する事がギルドの利益につながる。
そのため、アルヴァ―ロは彼へ受けたい依頼内容を尋ねた。
「不正奴隷売買について、ギルドが得ている情報を教えてくれ」
「不正奴隷売買……?」
先日のシーハ村の件もあり、コルヴォがS級の冒険者としてかなり強力な実力を有しているのは分かった。
冒険者の花形といえば、強い魔物を倒して大金を得ること。
今度は数ではなく強敵の魔物を討伐しに来てくれたのかと思っていたが、町中の依頼だということで、アルヴァ―ロとしては拍子抜けした感は否めない。
「以前の情報だと、シーハ村付近の魔物が倒されれば、ひとまず魔物による被害は落ち着けると聞いたが?」
「あぁ……、その通りだ」
アルヴァ―ロの反応で何が言いたいのかを理解したコルヴォは、この領内の魔物による危険性について尋ねた。
現状、ローゲン領は魔の森の開拓などをおこなう余裕がなく、まずは領内の平定に力を入れた方が良い。
まず問題だったシーハ村の件が片付いたため、確かに魔物による大きな被害を受けることはなくなったといっていい。
「ここに住むとなると、やはり治安などが気になった。そして、子供の不正奴隷売買がおこなわれているという話を聞き、解決してしまおうと考えたわけだ」
「確かに、放置しておくべき問題ではないな……」
シーハ村の魔物の方に気を取られており、ギルドはそちらの問題解決に手が出せないでいた。
その魔物もコルヴォによって倒されたため、問題解決へ動ける余裕ができた。
しかも、コルヴォが動くのだから、早期解決の期待値も高い。
「分かった。犯人を特定できる情報はないが、上がってきている情報を話そう」
ローゲン家から、ギルドでも不正奴隷売買に関する捜査をおこなって欲しいと、金額的にはかなり低いが依頼料も出されている。
その金額内で得た情報のため、犯人に繋がる詳細な情報なんてない。
そのことを告げたうえで、アルヴァ―ロはコルヴォに情報開示を開始した。
「……というのが不正奴隷売買に関する現状だ」
「分かった。後は自分で調査しよう」
書類と共に受けた説明に、コルヴォが納得したように頷く。
たしかに犯人特定に結びつくようなことはないが、容疑者らしき存在は存在した。
その容疑者の数は多いが、それらを潰して行けばたどり着くはずだ。
S級なら取られることはないだろうと、容疑者の書かれた資料を受け取り、コルヴォはギルドを後にした。
「さて、順番に当たって行くか……」
資料に書かれた容疑者を消していくことにしたコルヴォは、ギルドから出るとすぐさま行動を開始した。
「……まさか、こことはな……」
アルヴァ―ロから受け取った資料から犯人の捜索を続けていたコルヴォは、ある建物の側で呟く。
受け取った資料には書かれていない人物だが、資料に書かれている容疑者に関係している可能性が高いとコルヴォの中では考えている。
「仕方ないが調べてみるか……」
よりにもよってという思いをしながら、コルヴォはこの建物の調査を開始するのだった。
「えぇ、最近増えているそうです」
いつものように離れの自室で本を読んでいたジルベルト。
そこに紅茶を持って来たピエーロが入ってくる。
自室に籠り時折町中を散策する生活を続けているため、何もない日々には飽きてくる。
そんななか、世間話の1つとしてピエーロが不正奴隷売買のことを話してきた。
この国では、奴隷制度が存在する。
しかし、それは重犯罪者に対する処罰としてのもので、許可なく奴隷を売買することは禁止されている。
もし不正に奴隷を生み出し、売買をおこなったと分かれば、その者も奴隷へと直行することになるだろう。
それがこの領地で密かにおこなわれているという話だ。
「しかも、その奴隷が子供なのだそうです」
「マジか……」
ピエーロの発言に、ジルベルトは信じられないという思いで呟く。
奴隷は少なくないが、子供の奴隷などはそうそうあり得ない。
子供の場合、指示されたり操られたりと、本人の主導でない犯罪が多い。
無罪放免とはならないが、管理下に置かれるなどの処置で済まされることが多い。
つまり、子どもの奴隷を売買しているなんて、不正売買の可能性が極めて高い。
「赤字だからって、それは何とかしないと駄目だろ……」
領地が赤字で治安が悪くなっているからといって、放置できる問題ではない。
早期に不正売買をおこなっている者を捕まえないと、治安の悪化は進むのみだ。
「セラフィーナには頑張ってもらいたいね……」
「そうですね」
不正奴隷売買の取り締まりは、領主がおこなう案件だ。
他にも多くの問題が存在しているのだろうが、奴隷にされて買われた子供がどのような末路になるのかを考えると、1人でも多く助けるべきだ。
領主であるセラフィーナに、早期解決を期待するように呟いたジルベルトだった。
「よく来てくれた。コルヴォ」
「どうも……」
冒険者ギルドのギルマスであるアルヴァ―ロ。
シーハ村の件が片付き、しばらくは魔物による大きな被害を受けることはなくなった。
そのシーハ村の魔物を1人で倒したS級冒険者コルヴォがギルドに姿を現したため、ギルマス室へと招き入れた。
「本当に魔物の売却額はローゲン家へ渡して良いのだな?」
「あぁ、金は充分持っている。気にせず渡してくれ」
「分かった」
コルヴォによってシーハ村の魔物は倒された。
しかし、コルヴォは倒した魔物から取れる素材の売却金を、そのままギルドとローゲン家へ渡すように言ってきた。
ギルドとしては、シーハ村の魔物退治に参加した冒険者へ参加費用を支払うことができたので、ありがたく受け取ったが、その額を引いてもまだかなりの金額が残っている。
冒険者は、生活費以外に武器や防具の購入費や修理費がかかる。
S級ともなると、それらに結構な額を必要とするかもしれない。
そのため、アルヴァ―ロは念のためコルヴォに確認をしたかったのだ。
アルヴァ―ロが確認してみると、コルヴォは変わらず売却額をローゲン家へ渡すように言ってきた。
確認が取れたので、アルヴァ―ロはこの話はこれで終わりにすることにした。
「それで? 今回はどんな依頼を受けてくれるんだ?」
依頼の貼られた掲示板を見ていたところを捕まえてこの部屋へと通したのだから、何か依頼を受けるつもりで来たのだろう。
S級の冒険者なのだから、彼への援護を最大限する事がギルドの利益につながる。
そのため、アルヴァ―ロは彼へ受けたい依頼内容を尋ねた。
「不正奴隷売買について、ギルドが得ている情報を教えてくれ」
「不正奴隷売買……?」
先日のシーハ村の件もあり、コルヴォがS級の冒険者としてかなり強力な実力を有しているのは分かった。
冒険者の花形といえば、強い魔物を倒して大金を得ること。
今度は数ではなく強敵の魔物を討伐しに来てくれたのかと思っていたが、町中の依頼だということで、アルヴァ―ロとしては拍子抜けした感は否めない。
「以前の情報だと、シーハ村付近の魔物が倒されれば、ひとまず魔物による被害は落ち着けると聞いたが?」
「あぁ……、その通りだ」
アルヴァ―ロの反応で何が言いたいのかを理解したコルヴォは、この領内の魔物による危険性について尋ねた。
現状、ローゲン領は魔の森の開拓などをおこなう余裕がなく、まずは領内の平定に力を入れた方が良い。
まず問題だったシーハ村の件が片付いたため、確かに魔物による大きな被害を受けることはなくなったといっていい。
「ここに住むとなると、やはり治安などが気になった。そして、子供の不正奴隷売買がおこなわれているという話を聞き、解決してしまおうと考えたわけだ」
「確かに、放置しておくべき問題ではないな……」
シーハ村の魔物の方に気を取られており、ギルドはそちらの問題解決に手が出せないでいた。
その魔物もコルヴォによって倒されたため、問題解決へ動ける余裕ができた。
しかも、コルヴォが動くのだから、早期解決の期待値も高い。
「分かった。犯人を特定できる情報はないが、上がってきている情報を話そう」
ローゲン家から、ギルドでも不正奴隷売買に関する捜査をおこなって欲しいと、金額的にはかなり低いが依頼料も出されている。
その金額内で得た情報のため、犯人に繋がる詳細な情報なんてない。
そのことを告げたうえで、アルヴァ―ロはコルヴォに情報開示を開始した。
「……というのが不正奴隷売買に関する現状だ」
「分かった。後は自分で調査しよう」
書類と共に受けた説明に、コルヴォが納得したように頷く。
たしかに犯人特定に結びつくようなことはないが、容疑者らしき存在は存在した。
その容疑者の数は多いが、それらを潰して行けばたどり着くはずだ。
S級なら取られることはないだろうと、容疑者の書かれた資料を受け取り、コルヴォはギルドを後にした。
「さて、順番に当たって行くか……」
資料に書かれた容疑者を消していくことにしたコルヴォは、ギルドから出るとすぐさま行動を開始した。
「……まさか、こことはな……」
アルヴァ―ロから受け取った資料から犯人の捜索を続けていたコルヴォは、ある建物の側で呟く。
受け取った資料には書かれていない人物だが、資料に書かれている容疑者に関係している可能性が高いとコルヴォの中では考えている。
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