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第61話 5年後
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「随分集まったな?」
大和王国の競技場。
そこには多くの者が観客席に集まっていた。
その中の1人が、隣に座る友人に満員の競技場を見渡しながら話しかける。
「そりゃそうだろ。女王陛下も来ているんだし」
問われた者は、競技場のある一角を指さしながら返答する。
ここに集まった者たちは、何も競技だけを見に来たのではない。
この国の女王となった江奈を、一目でも見られたらという思いから集まっているのだ。
「おっ! 始まるみたいだ」
「あぁ!」
閲覧室から江奈が姿を現す。
それにより、観客は自然と静かになっていった。
「皆さん! 無事新年を迎えられたこと喜ばしく思います」
江奈が話す言葉を、会場にいる誰もが静かに聞く。
女王となったエ名の言葉を、一言も聞き逃さないでいるかのようだ。
「帝国が去り、5年の月日が経ちました。少しずつではありますが、復興も進んでいること喜ばしく思っています。今後も協力してこの国を以前以上の国にしましょう」
帝国を追放し、祖国を奪還した女王として、江奈は国民に知られている。
本当は送故司という人間によるところが大きいのだが、そのことは軍に所属していた人間以外には知られてはいない。
江奈の人気を上げるために、軍の上層部は送故司のことも発表しようとしたのだが、江奈がそれを止めた。
仮面を被っていて本当かどうかわからなかったが、送故司は自身を大和国民だと言っていた。
それがもし本当だとしたら、本来英雄となるべき人間を追い出したということになる。
そのため、江奈は彼を悪者にするのがと咎められ、存在自体を公にする事を控えたのだ。
「それでは、大会の開会を宣言します!」
「「「「「おぉーーー!!」」」」」
「女王陛下万歳!!」
江奈がこの場に姿を現したのは、大会の開会宣言をするためのものだ。
帝国の侵略に会う前、この国では新年早々に武闘大会が開催されていた。
国の奪還を果たして復興が進むなか、5年経った今年から新年の行事として復活することになったのだ。
新年の挨拶と共に開会宣言がされ、観客は大歓声を上げて江奈のことを称えた。
「素晴らしいスピーチでした。この後は試合をお楽しみください」
「ありがとう」
公爵家の執事としてずっと付いてきた白川は、そのまま江奈の側役として付くことになった。
そんな白川が、一仕事終えた江奈に労いの言葉をかける。
その目は薄っすら潤んでいるように思え、江奈は少し恥ずかしそうに返答した。
女王の即位式の時には、嬉しさのあまり大粒の涙を流していた。
それから5年も経っているというのに、今でも公の前で堂々としている江奈に込み上げてくる者があるのかもしれない。
「なぁ、知ってるか?」
「何がだ?」
女王の開会宣言後、観客は試合開始まで各々雑談を交わしている。
そんななかの1人が、隣に座る友人に話しかける。
「この大会の勝者には女王陛下の直轄部遺体の隊員になれるって言う特権が与えられるって話だが、実はそれだけじゃないらしいぞ」
「えっ? じゃあ、他に何があるんだ?」
実は、開会開催と共に、民の間ではある噂が広がっていた。
それが彼が言う特権以外の部分だ。
「何でも、女王陛下の王配探しも兼ねているそうだぞ」
「マジか!?」
「あくまでも噂だがな……」
現在王族は江奈のみ。
これからの国のことを考えると、世継ぎのことが気になる。
国を奪還して5年経ち、江奈は21歳になった。
そろそろ、王配に関することも考えなければならない。
復興により僅かに余裕ができたためか、国民の間にはそんな事が考えが浮かび始めていた。
そんななか、若者たちを集めて復活開催される武闘大会。
噂が生まれても仕方がないことだろう。
「俺も参加すればよかったかな?」
「バカ言うなよ。一般人じゃ勝てやしねえよ」
国内8か所で開催された地方予選。
それをたまたま見る機会があったが、訓練を重ねた人間でない限り、運での勝利なんて絶対に不可能という内容の試合ばかりだった。
噂話が本当なら、自分も王配になる可能性があったという話だ。
参加しなかったことを後悔しているようだが、噂話のことを伝えた者としては記念参加でもごめんだ。
「おっ!」
「始まるぞ!」
噂話のことを話している間に、1回戦の選手が舞台に入場してきた。
それを見て、2人は話をやめて自然と舞台に集中していった。
【これより決勝戦をおこないます!】
拡声の魔法により、会場にアナウンスが響き渡る。
大会は順調に進み、とうとう決勝戦を迎えることになった。
「尚文のことは分かるけど、彼は?」
「佐藤というようですが、全くの無名選手ですね」
王族専用の観覧席から大会を見ていた江奈は、出場選手の簡単な情報が書かれた紙を見て話しかけるが、白川も分からないらしく首を傾げた。
地区大会を勝ち上がった選手は、ほとんどが奪還戦に参加していた兵の子息で、幼少期から訓練を重ねてきた者ばかりで、江奈の言う尚文も、護衛隊の隊長の子で有名だ。
中には、奪還戦に参加していた者までいるなか、1人全く見たことも聞いたこともない名前の選手が参加しており、その選手がまさかの決勝にまで勝ち上がってきたのだ。
「どうなるか見届けましょう」
「えぇ」
8人によるトーナメント制。
1、2回戦と、圧倒的な実力であっさりと勝利を収めてきた尚文と違い、佐藤という選手はギリギリのところで勝利を収めてきたように思える。
恐らくは尚文が勝つと思えるが、江奈はどのような結果になるか見守ることにした。
「「…………」」
盛り上がる観客とは違い、舞台上の選手たちは静かに睨み合う。
そして、無言のまま両者共開始線に着き、両者共武器となる木刀を構えあった。
「始め!!」
「「ハッ!!」」
審判の合図と共に互いに向けて走り出す両者。
そして、次の瞬間に勝負がついた。
「そ、それまで!」
あっという間の結末に、審判も慌てたように声を上げる。
そして、勝者を指差し、勝利者宣言をした。
「勝者! 佐藤!!」
「「「「「オォーーー!!」」」」」
開始と共に距離を詰めあった2人。
自分の間合いに入った相手に、両者が攻撃を仕掛けたのは同時のように見えた。
しかし、剣を振る速度が違い、先に佐藤の木刀が尚文の首に添えられたのだ。
無名でありながら優勝した佐藤に、観客は大歓声を上げた。
優勝者である佐藤に、翌日王城にて正式に入隊式が執り行われることが宣言され、新年の武闘大会は無事終了した。
「大会が無事終わったのは良かったけど、まさか無名の選手が優勝するなんてね」
「左様でございますね。意外な結果に軍の隊長たちも驚いていました」
大会後の夜。
江奈は王城で白川と話していた。
話の内容は、大会の優勝者のことだ。
江奈も尚文が勝利すると思っていただけに、意外な結果により大会が盛り上がったことが嬉しいようだ。
国民の盛り上がりから、大会復活をした甲斐があったというものだ。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさいませ」
話しているうちに寝室へたどり着き、江奈は白川に言葉をかけて部屋へと入っていった。
「……? 窓が……」
寝室の扉を閉めてベッドに入ろうとしたところ、江奈は窓が空いていることに気が付いた。
開けた覚えも、白川やメイドに開けるように言った覚えもないため、江奈は訝し気に窓の方へと近付いて行った。
「不用心ですよ」
「っっっ!!」
窓を閉めようとした江奈に、窓の外のバルコニーから話しかける者がいた。
女王の寝室のバルコニー。
そんな場所に侵入したとなれば、すぐさま処刑ものだ。
そのようなことをする人間は1人しか思い当たらず、江奈は驚きつつも声を上げずにバルコニーへと向かった。
「あなた……」
「お久しぶりですね。江奈様」
江奈の予想は的中する、
バルコニーにいたのは、5年前にこの国から姿を消した送故司だった。
大和王国の競技場。
そこには多くの者が観客席に集まっていた。
その中の1人が、隣に座る友人に満員の競技場を見渡しながら話しかける。
「そりゃそうだろ。女王陛下も来ているんだし」
問われた者は、競技場のある一角を指さしながら返答する。
ここに集まった者たちは、何も競技だけを見に来たのではない。
この国の女王となった江奈を、一目でも見られたらという思いから集まっているのだ。
「おっ! 始まるみたいだ」
「あぁ!」
閲覧室から江奈が姿を現す。
それにより、観客は自然と静かになっていった。
「皆さん! 無事新年を迎えられたこと喜ばしく思います」
江奈が話す言葉を、会場にいる誰もが静かに聞く。
女王となったエ名の言葉を、一言も聞き逃さないでいるかのようだ。
「帝国が去り、5年の月日が経ちました。少しずつではありますが、復興も進んでいること喜ばしく思っています。今後も協力してこの国を以前以上の国にしましょう」
帝国を追放し、祖国を奪還した女王として、江奈は国民に知られている。
本当は送故司という人間によるところが大きいのだが、そのことは軍に所属していた人間以外には知られてはいない。
江奈の人気を上げるために、軍の上層部は送故司のことも発表しようとしたのだが、江奈がそれを止めた。
仮面を被っていて本当かどうかわからなかったが、送故司は自身を大和国民だと言っていた。
それがもし本当だとしたら、本来英雄となるべき人間を追い出したということになる。
そのため、江奈は彼を悪者にするのがと咎められ、存在自体を公にする事を控えたのだ。
「それでは、大会の開会を宣言します!」
「「「「「おぉーーー!!」」」」」
「女王陛下万歳!!」
江奈がこの場に姿を現したのは、大会の開会宣言をするためのものだ。
帝国の侵略に会う前、この国では新年早々に武闘大会が開催されていた。
国の奪還を果たして復興が進むなか、5年経った今年から新年の行事として復活することになったのだ。
新年の挨拶と共に開会宣言がされ、観客は大歓声を上げて江奈のことを称えた。
「素晴らしいスピーチでした。この後は試合をお楽しみください」
「ありがとう」
公爵家の執事としてずっと付いてきた白川は、そのまま江奈の側役として付くことになった。
そんな白川が、一仕事終えた江奈に労いの言葉をかける。
その目は薄っすら潤んでいるように思え、江奈は少し恥ずかしそうに返答した。
女王の即位式の時には、嬉しさのあまり大粒の涙を流していた。
それから5年も経っているというのに、今でも公の前で堂々としている江奈に込み上げてくる者があるのかもしれない。
「なぁ、知ってるか?」
「何がだ?」
女王の開会宣言後、観客は試合開始まで各々雑談を交わしている。
そんななかの1人が、隣に座る友人に話しかける。
「この大会の勝者には女王陛下の直轄部遺体の隊員になれるって言う特権が与えられるって話だが、実はそれだけじゃないらしいぞ」
「えっ? じゃあ、他に何があるんだ?」
実は、開会開催と共に、民の間ではある噂が広がっていた。
それが彼が言う特権以外の部分だ。
「何でも、女王陛下の王配探しも兼ねているそうだぞ」
「マジか!?」
「あくまでも噂だがな……」
現在王族は江奈のみ。
これからの国のことを考えると、世継ぎのことが気になる。
国を奪還して5年経ち、江奈は21歳になった。
そろそろ、王配に関することも考えなければならない。
復興により僅かに余裕ができたためか、国民の間にはそんな事が考えが浮かび始めていた。
そんななか、若者たちを集めて復活開催される武闘大会。
噂が生まれても仕方がないことだろう。
「俺も参加すればよかったかな?」
「バカ言うなよ。一般人じゃ勝てやしねえよ」
国内8か所で開催された地方予選。
それをたまたま見る機会があったが、訓練を重ねた人間でない限り、運での勝利なんて絶対に不可能という内容の試合ばかりだった。
噂話が本当なら、自分も王配になる可能性があったという話だ。
参加しなかったことを後悔しているようだが、噂話のことを伝えた者としては記念参加でもごめんだ。
「おっ!」
「始まるぞ!」
噂話のことを話している間に、1回戦の選手が舞台に入場してきた。
それを見て、2人は話をやめて自然と舞台に集中していった。
【これより決勝戦をおこないます!】
拡声の魔法により、会場にアナウンスが響き渡る。
大会は順調に進み、とうとう決勝戦を迎えることになった。
「尚文のことは分かるけど、彼は?」
「佐藤というようですが、全くの無名選手ですね」
王族専用の観覧席から大会を見ていた江奈は、出場選手の簡単な情報が書かれた紙を見て話しかけるが、白川も分からないらしく首を傾げた。
地区大会を勝ち上がった選手は、ほとんどが奪還戦に参加していた兵の子息で、幼少期から訓練を重ねてきた者ばかりで、江奈の言う尚文も、護衛隊の隊長の子で有名だ。
中には、奪還戦に参加していた者までいるなか、1人全く見たことも聞いたこともない名前の選手が参加しており、その選手がまさかの決勝にまで勝ち上がってきたのだ。
「どうなるか見届けましょう」
「えぇ」
8人によるトーナメント制。
1、2回戦と、圧倒的な実力であっさりと勝利を収めてきた尚文と違い、佐藤という選手はギリギリのところで勝利を収めてきたように思える。
恐らくは尚文が勝つと思えるが、江奈はどのような結果になるか見守ることにした。
「「…………」」
盛り上がる観客とは違い、舞台上の選手たちは静かに睨み合う。
そして、無言のまま両者共開始線に着き、両者共武器となる木刀を構えあった。
「始め!!」
「「ハッ!!」」
審判の合図と共に互いに向けて走り出す両者。
そして、次の瞬間に勝負がついた。
「そ、それまで!」
あっという間の結末に、審判も慌てたように声を上げる。
そして、勝者を指差し、勝利者宣言をした。
「勝者! 佐藤!!」
「「「「「オォーーー!!」」」」」
開始と共に距離を詰めあった2人。
自分の間合いに入った相手に、両者が攻撃を仕掛けたのは同時のように見えた。
しかし、剣を振る速度が違い、先に佐藤の木刀が尚文の首に添えられたのだ。
無名でありながら優勝した佐藤に、観客は大歓声を上げた。
優勝者である佐藤に、翌日王城にて正式に入隊式が執り行われることが宣言され、新年の武闘大会は無事終了した。
「大会が無事終わったのは良かったけど、まさか無名の選手が優勝するなんてね」
「左様でございますね。意外な結果に軍の隊長たちも驚いていました」
大会後の夜。
江奈は王城で白川と話していた。
話の内容は、大会の優勝者のことだ。
江奈も尚文が勝利すると思っていただけに、意外な結果により大会が盛り上がったことが嬉しいようだ。
国民の盛り上がりから、大会復活をした甲斐があったというものだ。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさいませ」
話しているうちに寝室へたどり着き、江奈は白川に言葉をかけて部屋へと入っていった。
「……? 窓が……」
寝室の扉を閉めてベッドに入ろうとしたところ、江奈は窓が空いていることに気が付いた。
開けた覚えも、白川やメイドに開けるように言った覚えもないため、江奈は訝し気に窓の方へと近付いて行った。
「不用心ですよ」
「っっっ!!」
窓を閉めようとした江奈に、窓の外のバルコニーから話しかける者がいた。
女王の寝室のバルコニー。
そんな場所に侵入したとなれば、すぐさま処刑ものだ。
そのようなことをする人間は1人しか思い当たらず、江奈は驚きつつも声を上げずにバルコニーへと向かった。
「あなた……」
「お久しぶりですね。江奈様」
江奈の予想は的中する、
バルコニーにいたのは、5年前にこの国から姿を消した送故司だった。
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