祖国奪還

ポリ 外丸

文字の大きさ
上 下
60 / 63

第59話 帝都戦

しおりを挟む
「な、何だあの数は……」

 目の前に広がる黒い壁に、ベニアミーノは驚きを隠せない。
 送故司と、何故かそれに同行するカルメーロを討伐するために北東の地にたどり着き、陣を築いて待ち受けていたのだが、彼らの登場と共に恐れおののくことになった。

「あ、あれ全部が、奴の配下だというのか……」

 黒い壁。
 そのように見えるのは、全てが魔物。
 しかも全部がアンデッドだ。

「ま、まさか、森の魔物を全て配下にして来たとでもいうのか?」

 司がアンデッドの魔物を使役する能力を有しているのは、1度戦った経験のあるベニアミーノは理解していた。
 いくら司がアンデッドを使役できるといっても、その数は限界があると思っていた。
 しかし、目の前に広がる魔物の数を見ると、その考えは甘かったかもしれない。
 ベニアミーノが率いる兵の何倍もの数の魔物が、こちらへ睨みを利かせている。
 前回の戦闘で、司の配下の魔物はほとんど倒したはずだ。
 たいした期間も経っていないというのにこれだけの魔物を手に入れるには、森の魔物を狩り尽くさないとできないことだ。

「ベニアミーノ様! ど、どうなさいますか!?」

「ど、どうするも何も、あの数を相手に戦えるか! 国中の兵を集めないと勝てるわけない!」

「で、では……?」

「撤退だ! すぐに皇帝陛下に報告しろ!」

「か、畏まりました!!」

 部下の男が話しかけてくる。
 それに対し、ベニアミーノは撤退を指示した。
 いくら何でも何倍もの数を相手に勝てる訳がない。
 あの数を相手に勝つには、帝国の全軍を持って相手するべきだ。
 そうするためにも、皇帝に許可をもらわなけらばならない。
 ベニアミーノは先んじて部下を帝都へ向かわせ、軍と共に撤退の準備を開始した。

「……どうやら撤退するようですね?」

「そりゃそうだろ」

 ファウストの言葉に、当たり前といわんばかりに答える司。
 これまでとは違い、今度は帝国の本土への襲撃になる。
 そのため、帝国へ入るまでに徹底して森の魔物を配下にして来た。
 増やし過ぎて、司自身もどれだけいるのか分からないほどだ。
 この数を相手にするには、ベニアミーノの軍では人数不足となるため、撤退を選択するのは当然だ。
 
「俺たちも進もう」

「畏まりました。カルメーロ! 案内しろ」

「ハッ!」

 撤退するというなら、こちらは目的の帝都へ向けて進軍するだけだ。
 他の町など気にすることなく、帝都へ向けて進むことにする。
 案内役は、元帝国将軍のカルメーロだ。
 奴隷となっているカルメーロは、ファウストに言われるまま、帝都までの道程を案内し始めた。





◆◆◆◆◆

「何ですって!? それ程の数の魔物が……?」

「あぁ、ベニアミーノからの報告が入った」

 呼び出された理由を受け、帝国将軍のグエルリーノは驚きの声を上げる。
 皇帝ミシェルは、イラ立ちの表情を見せつつも冷静にベニアミーノから届いた情報を説明した。
 特殊なスキルを有していると言っても、所詮はたった1人の大和王国人。
 これまでは上手くいったが、この帝国内では好きにさせるつもりはなかった。
 何か隠していると分かっていたが、それを見逃してベニアミーノに送故司とかいう大和国人の討伐を指示した。
 流石に失敗はないと思うが、念のため手厚い数の兵を付けた。
 それで問題ないと思っていたが、そのベニアミーノたちの何倍もの数の魔物なんて想定外だ。
 思い通りにいかないことに、ミシェルは腸が煮えくり返る思いをしていた。

「数が数だ。ここ帝都へ向けて進軍してきている送故司たちが着く前に、帝国内から兵を総動員することにした。その者たちと大和王国へ向ける予定だった軍、それとベニアミーノの軍を率いて、何としても送故司を始末しろ!」

「畏まりました!」

 ミシェルと同様に、グエルリーノもベニアミーノが何かを隠しているのは分かっていた。
 カルメーロが生きていたことが、何か不都合なのかもしれない。
 送故司の始末を言い出したのも、カルメーロを始末するのも目的だったのだろう。
 そんな不都合なカルメーロを放置してでも、撤退しなければならないような敵数。
 余程の数だということだろう。
 皇帝の命を受け、グエルリーノは了承すると共に頭を下げた。





「ただいま戻りました」

「ご苦労さん」

 上空から帝都内の様子を確認してきたファウストに、司は労いの言葉をかける。
 ベニアミーノの軍と一定の距離を開けた状態で付いてきた司たちは、帝都付近の丘へと辿り着いた。

「大量の兵が王都内外に配備されております」

「皇帝め、招集していやがったか」

 司の前で片膝をついたファウストは、上空から見て来たことを報告する。
 どうやら、帝国内から兵を集めて待ち構えているようだ。

「……本当にやるのですか?」

「もちろんだ。俺はこれのためにこの国に来たと言ってもいいんだからな」

「左様ですか」

 これから帝国相手に最後の戦いを挑むことになる。
 恐らく、勝っても負けても、司はただでは済まないことになる。
 そうなることを覚悟しているのかをファウストが尋ねると、司は迷うことなく返答した。

「では、私も最後までお付き合いいたします!」

「あぁ……」

 司がこれから何をするのかは、ファウストのみが知っていること。
 主である司が死を覚悟しておこなうというのだから、当然ファウストも最後まで付き合うことを覚悟した。
 司によって自分が作り出されたのは、この決戦の時を迎えるためだ。
 その命を最後まで使い切るために、ファウストは気合いを入れていた。

「行くぞ!!」

「はい!」

 危険地帯に近付いているというのに、司はこれまでと変わらない。
 いつもと同じようなトーンで、司は兵の集まる帝都へ向けて進軍を開始した。
 
「行ってまいります! 陛下」

「あぁ、頼むぞグエルリーノ」

「ハッ!」

 司の接近は、兵によってすぐに皇帝とグエルリーノに伝えられた。
 そんな司たちに対し、グエルリーノは迎撃開始の行動に移ることを皇帝に報告しに来た。
 20万近くの兵が待ち受ける帝都を相手に、よく攻め込んでくる気になるものだ。
 しかしそんな無茶なことをする人間の方が好ましいと思うグエルリーノは、どことなく嬉しそうにミシェルの前から立ち去った。

「グエルリーノ様! 送故司が、帝都上空に現れました!」

「何?」

 司の使役するアンデッドの魔物たちが近付いてきているのは分かっていたが、まさか敵のトップ自ら先陣を切ってくるとは思わなかった。
 予想外の行動を解てきた司に、グエルリーノも驚きを隠せないでいた。

「何を……?」

 ファウストに抱きかかえられるようにして上空に現れた司。
 何をするつもりなのだと思って見ていたら、司は突如何かを投げた。
 グエルリーノやベニアミーノが、その行動の意味も分からずにいると、突然空が暗闇に覆われたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...