祖国奪還

ポリ 外丸

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第57話 決別

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「見ろ!! 送故司が逃げていくぞ!!」

 帝国軍を追って港へと辿り着いた司たち。
 しかし、それが空振りに終わってしまった。
 そこに江奈が率いる軍が到着する。
 得体の知れない送故司を排除すべしと、江奈の軍は司たちに襲い掛かった。
 それに対し、司はスケルトンを出して応戦するが、戦を終えたばかりの司には駒が不足していた。
 多勢に無勢の状態になり、司はファウストと奴隷にしたカルメーロたち帝国兵を連れて、船で海へと逃走を図った。
 それを見て、江奈の軍の兵は喜びを抑えきれないというような表情で大きな声を上げた。

「やったぞ!!」

「これでこの国は完全に我々のものだ!!」

 司の逃走を聞いた他の兵たちも、喜びと共に騒ぎ始める。
 中には嬉しさのあまり泣き出す者までいる。
 多くの国民が命を落とし、王族のみならず、4公爵家のうち3家までもが消え去った。
 しかし、今日の今をもって、この国に脅威を与えるもの全てが消え去ったことになる。
 この状況を夢見て戦ってきたのだから、喜びが溢れるのも無理はない。

「江奈様! 皆に一声いただけますか?」

「えぇ」

 司の乗る船が小さくなるにつれ、兵たちはようやく静まり始めた。
 それを見て、江奈はこれまでの奮闘を労うため、兵が整列する前へと移動した。

「皆の者! 何年にも及ぶ長い間よく戦い抜いた! これでこの国に脅威となる存在は全て消え去った! これからは、この国を昔のような平和で豊かな国に戻すよう尽力してほしい!」

「「「「「おおぉぉーー!!」」」」」

 江奈の話が終わると、兵たちは大歓声を上げた。
 この国にいた帝国兵を一掃できたのはいいが、強欲な皇帝がこのまま黙っているとは思えない。
 軍を立て直し、また攻めかかってくるかもしれない。
 しかし、この大和王国は島国であり、船による接近しか考えられないため、それに警戒していば侵攻を防ぐことも難しくないはず。
 それに、多くの将軍と兵を失った今では、昔のように大軍勢での侵攻するのは難しい。
 もしも皇帝が大軍勢を率いての侵攻をしようにも、相当な年月を必要とするはず。
 そうなったとしても、それまでにこの国を立て直しておけば良いだけのこと。
 そのため、江奈は兵たちに対し、これからは立て直しへ尽力することを求めた。

「これでよかったのよね……」

 兵たちが喜びの声を上げるなか、江奈は遠退く船を眺めながら誰にも聞かれないほどの小さい声でで呟いた。
 その言葉と共に司の姿を思いだしながら。





◆◆◆◆◆

「随分と歓声が上がっておりますね……」

「そりゃそうだろ。ようやく王国が解放されたのだから……」

 予定通りに、わざと江奈の軍に追い出されるようにして出港した司。
 陸地から結構離れたというのに、江奈の兵たちの完成のようなものがこの船にまで届いてくる。
 そのことをファウストが呟くと、司は当然と言うかのように言葉を返した。
 帝国による侵攻を受けて、長い間苦しんできた。
 ようやく帝国から解放されたのだから、喜ぶのも納得だ、

「司様……」

「何だ?」

 司としても、ようやく王国が復興に向けて動き出せるようになり喜ばしいことだと思っている。
 子供の時のように、平和で豊かな王国になるkとを望むばかりだ。
 そのなかに自分がいないのは少々複雑な気分ではあるが、これでよかったのだと司は感慨にふけっていた。
 そこへ、奴隷にしたカルメーロが話しかけてくる。
 陸につくまでは何もすることが無いため、司はカルメーロが何を言うのか聞いてみることにした、

「帝国と戦うつもりのようですが、勝機があるとお考えなのですか?」

「フッ! 奴隷になっても帝国のことが気になるか?」

「……えぇ、、まぁ……」

 今では司の奴隷に落ちているが、少し前までは帝国の将軍にまでなった男だ。
 司がこれから帝国へを相手に戦うことを聞いて、気になっていたのかもしれない。
 王国のために司が悪役を引き受けたのと同様、奴隷になってもカルメーロは祖国の今後が気になっているようだ。

「当然ある」

 今後、帝国と戦うことは奴隷にした帝国兵たちには告げてある。
 奴隷なので反抗することもできないため、彼らは素直に受け入れていた。
 しかし、司がどれだけの数の魔物を使えるのか分からないが、船に乗っている人数から考えると無謀以外の何物でもない。
 この人数で帝国と戦えば、いくら司とファウストが強いと言っても数に圧されて敗北は必定。
 そうなることは司も理解しているため、無策で攻め込むようなことをする訳がない。
 カルメーロの先程の質問に対し、司は力強く返事をした。

「……確実に勝てると?」

「戦いに確実なんてないが、かなりの確率で帝国を滅ぼせるだろうな」

「そ、そうですか……」

 いくら何でもそんな方法あるのだろうか。
 司の返答に対し、カルメーロは訝し気に問いかける。
 奴隷とは言え帝国人のカルメーロに教えるつもりはないが、司はたしかに帝国を滅ぼす方法を有している。
 というより、それがあるから帝国を相手にする事を決定したと言って良い。
 あまりにも自信満々の司に、カルメーロは複雑な思いと共に俯いた。

「そんな事より、この船が向かっている場所は、本当に帝国の襲撃を受けないのだろうな?」

「大丈夫です。あそこは帝国領の外。下手に攻め込むようなことはないはずです」

 質問はこれで終わりというかのように、ファウストはカルメーロに問いかける。
 その問いに、カルメーロは返答する。
 司たちの乗る船の向かう場所は帝国の北東の地で、他国の領土となっている。
 そこなら、帝国に手出しをされずに大陸に渡ることができるということだ。
 奴隷にされてるのだから、カルメーロが嘘を言う訳もない。
 なので、その提案通り司たちは北東へ向けて船を進ませていた。

「その代わり、かなりの魔物が蔓延る地なのですが大丈夫でしょうか?」

「あぁ、むしろ望むところだ」

 他国領だから帝国が攻め込まないというのもあるが、それと同時に魔物が多い森が広がっているというのも理由の一つだ。
 司からすると、むしろその方が望ましい。
 というのも、手駒となるアンデッドを増やしつつ攻め込めるからだ。

『さらば大和王国。恐らく俺が帰ることはもうないだろう』

 故郷である大和王国の奪還。
 それを成したことで一段落着いたが、帝国という国が存在し続ける限り脅威はなくならない。
 王国にとって邪魔な存在になる帝国と共に、自分も消えていくことを覚悟しつつ、司は遠ざかる大和王国に心の中で別れを告げた。

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