祖国奪還

ポリ 外丸

文字の大きさ
上 下
52 / 63

第51話 逃走

しおりを挟む
「に、逃げる……のですか?」

「そうだ」

 部下の兵は、先程のベニアミーノの言葉を確認するように聞き返す。
 それに対しベニアミーノは平然と返答する。

「奥の手だった複合魔法の装置が兵と共に吹き飛んだんだ。これ以上あのアンデッド使いと戦っても、勝てるとは思えない。ならば、逃げて再起を図るしかないだろう?」

「そ、そうですが……」

 司を倒すためには、複合魔法による一撃しかなかった打開策はなかった。
 その複合魔法を放つための装置が吹き飛んでしまっては、もう成す術がない。
 しかも、その装置の暴発によって大量の兵が塵と化した。
 残っている兵で、司の堅牢な魔力壁を突破できるとは思えない。
 突破できなければ、全員殺されるのがオチ。
 そんなことになるくらいなら、今のうちに逃げた方が生き残ることができるはずだ。
 生き残れば再起も可能。
 対策を練って戦えば、司のことも攻略できるはずだ。
 そういった思いからベニアミーノは熱弁するが、部下の兵は返答しにくい。

「あの、まだカルメーロ様が戦っておられますが……?」

「だからだ!」

「……えっ?」

 上官の命令なので、断る訳にはいかない。
 しかし、もう1人の上官であるカルメーロが戦っている状況で、自分たちだけ逃げてしまうというのは躊躇われる。
 逃げるにしても、カルメーロをどうするつもりなのか兵は問いかけた。
 兵の質問に対し、ベニアミーノは悩むことなく返答する。
 その返答の意味がよく分からず、兵たちは首を傾げるしかなかった。

「今なら、カルメーロが敵を抑えてくれる。我々はその間に逃げるのだ」

 ただ逃走するだけの場合、送故司の生み出したスケルトンによって邪魔をされるかもしれない。
 しかし、司は今、カルメーロと兵たちの相手をしている。
 このまま逃げても、追いかけて来ることはできないはずだ。

「それはつまり、カルメーロ様を囮にする……ということでしょうか?」

「その通りだ」

「………………」

 今回の戦いで、自分たちは送故司とか言う敵の強さの一端を知ることができた。
 死体さえあれば無限のようにスケルトンを生み出してくるその能力は、はっきり言ってかなりの脅威だ。
 複合魔法の装置がなくなった今、このまま戦ったとしても勝てる見込みがないのは分かる。
 しかし、だからと言ってこのまま逃げだすのは、おいて行かれるカルメーロたちは完全に裏切られたも同然だ。
 同じ帝国国民だというのに、ベニアミーノには仲間意識がないのだろうか。
 いや、恐らくないのだろう。
 質問に対して、当然と言うかのように返答してきたのだから。
 自分の上官がそのような人間だと知り、兵たちはそれ以上何も言えなかった。

「行くぞ!!」

「「「「「は、はいっ!!」」」」」

 仲間を残して逃げるのは気が引けるが、自分たちも命が惜しい。
 上官の命令という免罪符もあることだし、兵たちはベニアミーノと共に逃げ出すことにした。





「っ!! あいつら……」

 探知の魔法によってかなり離れた位置でも探知できるため、司はベニアミーノたちの逃走にすぐ気が付いた。
 将軍の地位にいるベニアミーノが、こうもあっさりと逃げ出さしたことに、思いもしなかった司は舌打ちをする

「暴発させたのは失敗だったか……」

 複合魔法の装置の暴発。
 それを引き起こしたのは、司によるものだった。
 探知の魔法の応用で離れた位置から装置に魔力を送り込み、意図的に装置を暴発させたのだ。
 あれだけ多くの人間の魔力を集めたのだから、大爆発を起こすのも当然だ。
 しかし、爆発が強すぎて、周囲にいた人間と建物を粉々になるまで吹き飛ばしてしまった。
 一気に勝利を引き寄せたのは良いが、死体がないのではスケルトンが生み出せないため、逃げるベニアミーノたちを止めることができない。

「だったら……」

 スケルトンが利用できないのなら、魔法でどうにかするしかない。
 遠距離の攻撃だと、威力を出すにはかなりの魔力を消費することになる。
 それでも、逃走を阻止するにはそれしか方法がないため、司は右手を遠く離れたベニアミーノたちへと向けた。

「撃て!! 撃て!!」

「チッ! 邪魔な!」

 ベニアミーノたちへ攻撃を放とうとするが、カルメーロの指示によって兵が放つ魔法が飛んできて気が散る。
 遠距離攻撃にはただでさえ集中力を必要とするというのに、これでは攻撃を外しかねない。

「こいつらを始末してから追いかけるしかないか……」

 カルメーロたちが邪魔をするというのなら、それを排除するしかない。
 元々、帝国の人間は皆殺しにするつもりでいたので、司はベニアミーノたちより先に彼らを殺すことにした。

「ぐあっ!!」「うがっ!!」

「くっ!! 奴らは何をしているんだ!?」

 司の魔法によって、兵の命が失われて行く。
 その兵の死体は、そのままにしておけばスケルトンと化して襲い掛かってくるため、それを阻止するために頭部を破壊しておかなければならない。
 先程の爆発によって、複合魔法の装置がどうなったのかが知りたい。
 もしも装置が壊れての爆発なら、司から逃げる方法を考えなければならない。
 調査に行ったベニアミーノたちの報告がなかなか来ないことに、カルメーロはやきもきした思いで待つしかなかった。

「カ、カルメーロ様!!」

「どうした!?」

 司への攻撃と、殺された兵の頭部の破壊を指示するカルメーロの所に、1人の兵が慌てたように駆け寄ってくる。

「ベ、ベニアミーノ様が……」

「奴が何だ!?」

 どうやらベニアミーノのことで何かあるようだ。
 ベニアミーノが戻ってきたのかと思いつつ、カルメーロは兵に問いかける。

「せ、戦場から離れていきます……」

「何っ!? どういうことだ!?」

「わ、分かりません……」

 調査に行ったはずだというのに、どうして戦場から離れていっているのか意味が分からない。
 報告を受けたカルメーロは、ベニアミーノの行動の意味を兵に問いかけた。
 しかし、報告した兵としても意味が分からないらしく、首を横に振るしかなかった。

「まさか……」

 戦場から離れる理由。
 カルメーロはすぐにその理由に思い至った。

「あの野郎!! 逃げやがったな!!」

「なっ!!」「そ、そんな!!」

 恐らく、複合魔法の装置が何かしらの理由で壊れ、先程の爆発を起こしたのかもしれない。
 複合魔法の装置がなければ勝ち目のないため、逃げることを選択したのだろう。
 逃げることには賛成だが、調査報告もせずに逃げるなんてふざけている。
 この場にいる自分たちを囮にすることで、逃走の時間を稼ぐつもりなのだろう。
 そのことに思い至ったカルメーロは怒り、兵たちは絶望の表情へと変わったのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

トップ冒険者の付与師、「もう不要」と言われ解雇。トップ2のパーティーに入り現実を知った。

ファンタジー
そこは、ダンジョンと呼ばれる地下迷宮を舞台にモンスターと人間が暮らす世界。 冒険者と呼ばれる、ダンジョン攻略とモンスター討伐を生業として者達がいる。 その中で、常にトップの成績を残している冒険者達がいた。 その内の一人である、付与師という少し特殊な職業を持つ、ライドという青年がいる。 ある日、ライドはその冒険者パーティーから、攻略が上手くいかない事を理由に、「もう不要」と言われ解雇された。 新しいパーティーを見つけるか、入るなりするため、冒険者ギルドに相談。 いつもお世話になっている受付嬢の助言によって、トップ2の冒険者パーティーに参加することになった。 これまでとの扱いの違いに戸惑うライド。 そして、この出来事を通して、本当の現実を知っていく。 そんな物語です。 多分それほど長くなる内容ではないと思うので、短編に設定しました。 内容としては、ざまぁ系になると思います。 気軽に読める内容だと思うので、ぜひ読んでやってください。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...