祖国奪還

ポリ 外丸

文字の大きさ
上 下
50 / 63

第49話 複合魔法

しおりを挟む
「ハハハハハ……!!」

「グッ!!」「ガッ!!」「うっ!!」

 様々な魔法が殺到するが、司はその全てを魔力壁によって防ぐ。
 司の魔力壁を突破することなどできず、帝国側が放つ魔法は無意味に終わる。
 そうなることが分かっているため、司は気にすることなく帝国兵たちに攻撃を放つ。
 司の両手から放たれる魔力の弾丸により、1人また1人と、帝国兵は体の一部に風穴を開け、確実にこの世から去っていった。

「カタカタカタ……」

「うわっ!!」

 風穴を開けて死んだ兵の遺体にすぐさま異変が起きる。
 肉と皮を脱ぐようにして中身の骨だけが動き始め、生前は味方であったはずの帝国兵へと襲い掛かった。
 不意に受けた攻撃により、帝国兵の1人がスケルトンの剣によって背中に深手を負った。

「くそっ!!」

 生きている時は仲間でも、死んでスケルトンになったら敵だ。
 元は仲間と思って躊躇していては自分がやられるため、兵はスケルトンを破壊した。

「殺された仲間の遺体に気を付けろ!」

「奴にスケルトンにされて襲ってくるぞ!」

 地面から湧いてきたスケルトンを倒しつつ、ベニアミーノとカルメーロは兵たちに指示を出す。
 ただでさえ、ファウストによって殺された大量の兵がスケルトン化して襲いかかってきている。
 その相手をするだけでも面倒だというのに、余計な手間が増えるのは勘弁願いたい。
 余計なスケルトンを増やさないためにも、兵たちに注意を促した。

「ハハハ……!!」

 指先から魔力弾を放つだけで、帝国兵はバタバタと死んでいく。
 司は、それをゲームとして楽しむ。

「くそっ!!」

「このままではジリ貧だ……」

 戦場に司の高笑いが響く。
 それを聞いているだけで、ベニアミーノとカルメーロは怒りが湧いてくる。

「カルメーロ! 何か策はないか?」

「魔力切れまで待つんじゃないのか?」

 ファウストの時と同様に、地道に司の魔力を減らせる。
 消極的ではあるが、それが数に勝る自分たちの作戦だった。
 そのため、ベニアミーノの問いに対し、カルメーロは問いで返すしかなかった。

「奴の魔力がいつ尽きるか分からない! だから、このままだとどれだけの兵が犠牲になるか分からないぞ! だから聞いているんだ!」

「……そうだな」

 司が魔力切れを起こすまで魔法攻撃で続けるつもりでいたが、いつまで時間がかかるか分からない。
 その間にどれほどの兵に犠牲が出るか分からないため、将軍2人は焦りを覚え始めていた。
 数が多いうちに司にダメージを与えたいと考え、ベニアミーノはカルメーロに問いかけたのだ。
 ベニアミーノの言葉を聞いて、カルメーロもその気持ちは分からないでもない。
 このまま戦っていれば、恐らく勝てるはずだ。
 しかし、勝利した時に兵が僅かしか残っていませんでしたでは話にならない。
 皇帝陛下に申し訳が立たないというものだ。

「今思いつく方法は1つある。複合魔法で一気に仕留めるしかない」

 帝国が強いのは、1人1人の実力が高いからだ。
 しかし、それだけでなく、数による力も要因の1つだ。
 ならば、その数の力を発揮する機会だ。

「……あの魔力壁を突破できるか?」

「いくら奴の魔力壁が強固でも、数による力には勝てはしないはずだ」

「そうだな……、その手で行こう!」

 司の魔力障壁は、大人数で魔法攻撃を放っても全く意味をなしていない。
 そんな強固な魔力壁を、1つに束ねた力で突破できるかベニアミーノとしては不安に感じる。
 もしも、突破できなければ、兵たちの魔力を回復させるまで時間がかかる。
 場合によっては、魔力切れした兵を殺され、形勢逆転もあり得る。
 そのため、ベニアミーノが問いかけるが、カルメーロは強気だ。
 大人数とは言っても、所詮は個の魔法攻撃。
 1人の魔力障壁が強固であろうと、所詮人間1人の力には限界があるはずだ。
 大人数の魔力を結集した魔法攻撃を受ければ、耐えられる人間なんて存在しない。
 そう考え、カルメーロはベニアミーノに複合魔法を提案したのだ。
 カルメーロの話を聞いて、ベニアミーノも決意が固まった。
 
「……んっ? 奴ら何を……」

 帝国兵を標的とする的当てゲームを楽しんでいた司。
 自分へ向けての魔法攻撃が僅かに止んだように感じ、司は首を傾げる。

「そうか。複合魔法で魔力壁の突破を試みるつもりか……」

 探知の魔法で探ってみると、どうやら帝国側はコソコソと兵たちを集めている。
 人数を集めて何をするのかを考えると、すぐに答えが思いついた。
 自分の魔力壁を突破しようと考えるなら、その方法しか思いつかないからだ。

「自分の魔力壁が何人分の魔力波を防げるか試してみるのもいいかもな……」

 魔物に追われて、司はたまたまダンジョンに閉じ込められた。
 そこで生き残るために実力をつけたのだが、ダンジョンを出てからはファウストに任せてばかりだった。
 今現在の自分の実力を知るためにも、複合魔法を相手にしてみるのもいいかもしれない。

「まぁ、そんなことする必要もないか……」

 たしかに大人数の魔力を集めた複合魔法の攻撃をくらえば、魔力壁で防ぎきれるか分からない。
 しかし、それも自分が気付いていない所で魔力を集めていた場合の話だ。
 何kmも離れた位置を探知できる人間がいると思っていないらしく、どこから複合魔法を放とうとしているのかバレバレだ。
 強力な魔法を放つためには相当な魔力を集めなくてはならず、魔力を集めるには時間がかかる。
 複合魔法を放とうとしていることに気付いている自分が、このまま何も手出しをしないと思っているのだろうか。

「その作戦を利用させてもらおう」

 司の探知の魔法に気付いていないのだから、恐らく司が気付いているとは思わないのだろう。
 ならば、手出しして来ないと思っているのも仕方がない。
 むしろ、司は帝国側の作戦を利用することにし、彼らが魔力を集めるのを放置した。

「よしっ!」

「あと少しだ!」

 司への攻撃とスケルトンへの対応をしている者たちを抜き、残っている兵を使って魔力をある兵器に注入する。、
 集めた魔力を放つには人間の体では耐えられないため、造りだされた複合魔法の発射装置だ。
 その装置の補充限度のまであと少しと言う所まで魔力が注ぎ込まれ、ベニアミーノとカルメーロは勝利まであと少しだと確信していた。
 2人だけではない。
 帝国兵は誰もが同じく勝利を確信していただろう。

「おっ! 溜まったようだな……」

 複合魔法の発射装置の魔力が溜まったことに司も気付く。

「じゃあ、終わりだ!」

 一言呟き、司は発射装置へ向けて手を向けた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

処理中です...