祖国奪還

ポリ 外丸

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第46話 交代

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「ぐっ!」

 帝国側の放つ光魔法。
 それが左腕に掠り、ファウストは小さく声を漏らす。

「撃て!!」

「奴を休ませるな!!」

 攻撃が掠り、僅かにファウストの動きが停滞する。
 その隙を逃すまいと、ベニアミーノとカルメーロがへ一致に指示を出す。
 その指示を受けた兵たちは、手を休めることなく光魔法を放った。

「フッ!」

 左腕の痛みを我慢し、ファウストは光魔法の回避に努める。
 帝国側の手数が増えたことで、戦闘開始の時とは違いファウストの方から攻撃することが無くなっていた。
 魔法を放つ兵をローテーションすることで、途切れることなく攻撃し続ける帝国軍とは違い、いくら強いと言ってもファウストには体力・魔力とも限界がある。
 攻撃をしないとなると、このままジリ貧になるのが目に見えている。

「奴は手が出せていない!」

「このまま続ければ勝てるぞ!」

「「「「「おぉ!!」」」」」

 ベニアミーノとカルメーロの言葉に、兵たちの士気が上がる。
 ヴァンパイアなどと言う物語に出てくるような魔物を相手に、完全に自分たちが押しているのが分かっているからだ。
 2人の将軍が言っているように、ファウストとか言う名のヴァンパイアはジワジワと怪我を負い、最初のうちはおこなっていた攻撃も出来なくなっている。
 このまま攻め続ければ勝てると、帝国兵たちの中には安堵する者たちもいた。

「ガッ!!」

 攻撃を躱し続けていたフェルナンドだが、躱しきれすに脇腹を掠る。
 その傷の痛みに、フェルナンドは顔を歪めて膝をついた。

「今だ!!」

「一斉攻撃を仕掛けろ!!」

 少しずつ傷を負わせてはいるが、動き回られてなかなか仕留めきれない。
 しかし、仕留める最大のチャンスが到来した。
 その隙を逃すまいと、ベニアミーノとカルメーロは兵たちに集中を指示した。

「くっ!!」

 これだけの光魔法が直撃しようものなら、跡形もなく死んでしまう。
 迫り来る帝国側の集中攻撃に対し、ファウストは痛みをこらえて必死の形相で回避しようとした。

“ドーーーン!!”

「……殺ったか?」

「……多分な」

 終息された光魔法が地面へと当たり、大きな爆発音と共に土煙を巻き上げた。
 あれほどの集中攻撃を躱しきれるはずがない。
 土煙でファウストの姿がどうなっているか見えないが、ベニアミーノとカルメーロは勝利を確信して笑みを浮かべた。

「ぐうぅ……」

 巻き上がった土煙が治まると、そこには大ダメージを負ったファウストの姿が浮かび上がってきた。
 左腕の肘から先、膝から下の右脚は消し飛び、ファウストはその場に蹲ることしかできない様子だ。

「見ろ!」

「虫の息だ!」

「「「「「おぉっ!!」」」」」

 大怪我を負って動けないでいるファウストを見て、ベニアミーノとカルメーロは大きな声で歓喜の声を上げる。
 動き回れなければ、今度こそ射止めることができる。
 2人の将軍の言葉に反応するように、兵たちも笑みを浮かべた。

「……ぐっ!」

 片手・片足を失い、痛みで顔を歪ませつつも、ファウストは立ち上がる。
 とてもではないが、もう戦える様子ではない。

「ハァ~……」

「「…………?」」

 立ち上がったファウストは、大きなため息を吐いた後笑みを浮かべる。
 絶体絶命の状態にもかかわらず、何がおかしいのか分からないため、ベニアミーノとカルメーロは揃って不思議そうな表情に変わる。

「くっ! 随分やられてしまいましたね……」

 手足を失った痛みに耐えながら、ファウストはボロボロになった自分の姿を確認する。
 ボロボロ過ぎて、逆に笑えてくる。

「しかし、こちらも準備ができました」

「「っっっ!!」」

 笑みを浮かべたファウストが呟くと、地面に魔法陣が浮かび上がる。
 その魔法陣を見て、ベニアミーノとカルメーロは凍り付いたような表情へと変わった。

「まずい……」

「止めを……」

「死になさい!!」

 浮かび上がった魔法陣は、どう見ても攻撃の魔法陣。
 その大きさからいって、とんでもなく強力な魔法を放ってくることが予想できる。
 そのことを悟ったベニアミーノとカルメーロは、兵に向かってファウストに止めを刺すことを指示しようとした。
 しかし、その指示を言い終わるよりも速く、ファウストの魔法陣の方が発動した。

“ベキベキベキッ!!”

「ぐっ!?」「なっ!?」「うわっ!!」

 魔法陣が発動すると、帝国側が集まっている建物の地面にヒビが入る。
 そして、地面が大きく割け、出来た裂け目に帝国兵が大量に落ちていく。
 底はかなり深く、落ちた者は地面に体を打ちつけ、もれなく命を落とした。

「くっ! 全滅まではいきませんでしたか……」

 込めた魔力が尽きたのか、ファウストが作った魔法陣が消滅する。
 消滅と同時に、割け続けていた地面も停止する。
 出来れば半分以上を減らしてしまいたかったところだが、そこまでの数に行かず、ファウストは悔しそうに呟いた。
 帝国兵が放つ光魔法を躱しながら、ファウストは帝国側に大打撃を与える準備をしていた。
 敵の攻撃が掠るようになっていたのは、足裏から地面に魔力を流し、この魔法陣を作成していたからだ。
 気付かれないように足裏から魔力を流す。
 それはファウストの魔力コントロールが優れているからできることだが、魔力コントロールを鍛えれば人間でも出来ないことではない。
 ただ、いくら魔力コントロールが上手いと言っても、魔力を溜めるのに僅かに間が必要となる。
 そのため、攻撃を完全に避けきれずにいたのだ。

「3分の1が消えただと……」

「おのれ! 死にぞこないが!!」

 突然割けた地面に、多くの兵が死ぬことになった。
 その結果を見て、ベニアミーノとカルメーロは怒りの表情へと変わる。
 攻撃を躱しながら、こんなとんでもない反撃を企んでいたとは思いもよらなかった。
 この攻撃を見るだけで、ヴァンパイアというのも自称ではなく本当なのかもしれないと思えてくる。
 しかし、強力な魔法を放ち端が、ファウストはもう虫の息。
 生き残った兵たちに体制を整えさせると、ベニアミーノとカルメーロは始末するための指示を送ろうとした。

「退け、ファウスト。それ以上は無理だろ?」

「つ、司様、しかし……」

 先程の魔法陣を作り上げるために、ファウストは痛手を負うことを覚悟していた。
 しかし、ここまでの痛手を受けるとは思わず、結果も思うほどでもなかった。
 この状態ではもう戦うことなどできないため、死を覚悟したファウストだった。
 そんな覚悟に気付いたのか、いつの間にか司がファウストの側に立ち退くことを命令する。

「死ぬなと言っただろ? お前にはまだ働いてもらわないとならない」

「……畏まりました」

 将軍2人だけでなく、帝国兵はまだかなりの数残っている。
 そんな数相手に、主人である司の手を煩わせることに、ファウストは若干の抵抗を覚える。
 しかし、主人の命令に背くわけにはいかないし、自分がまだ必要だと言ってくれている。
 そのため、ファウストは司の指示に従い、陰に収納していた剣を取り出し、それを杖代わりにしてその場から退くことにした。

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